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星辰病  作者: Failed supernova
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第五証 平和な解答 前編




彼女がやってくるまで、僕の家はただ生きるための場所だった。暗くなるまでぼーっとして、お腹が減ったらご飯を食べて、排泄して、身体が臭ってきたら茹でた風呂で綺麗にして、また横になってぼーっとする。

でも変わった。目的が出来た。

ひまわりの為にせっせと物資を集めて雑草を狩って、文句を言うひまわりを置き去りにして部屋を掃除して、二人でゲームしたり、明日勝つために今日は徹夜で作戦考えたり、笑顔のひまわりを見たくて生きようとした。

ただの子供で、大した知恵も知識も、面白い話さえ出来ない僕と同じ目線でいてくれた。

遥か遠い大地で暮らしていたのに、懐かしい笑顔を感じていた。

彼女が僕の居場所になった。生活空間そのものだったのに。



2078年 8月28日。


朝日がいなくなった。

どうして

何故このタイミングで

なんの断りもなく


なんて。


もうとっくに答えは出ているんだ。彼女はひとつだけ『嘘』をついていた。その嘘が今回の消失の原因に相違ない。

言葉の節々からその兆候はあったし、その覚悟で昨日の夜を過ごした。

目を背けていても僕の残り時間は進んでいく。だから、めいっぱいただ歩き続ける。その先に理想郷が無くとも歩みを止めることは無いだろう。

一人分の荷物を持って、船乗り場まで歩く。



どうせ消えてなくなるなら、今足を踏み出さない理由はない。


消えたみんなが、僕から離れることで残してくれた時間を無為にするなんて、朝日に怒られちゃうから。信じろ。僕のひらめきを。信じろ。皆が信じてくれたーーー朝日が信じてくれた僕自身を。


喪に服して泣くのはもう終わりだ。


かくして、僕の星辰病を治すための旅は始まった。




・・・・・・・・・・・・・・・・




朝日ひまわり。御堂玖々莉。


君がいなくなった場所は静かで人が居なくて、生きた心地がしない。まるでもう死んでいて天国にいる気さえする。


けど胸の鼓動は途切れることなく生を刻み続けてくれる。世話焼きでウザったいったらありゃしない。


月の光が海の中を照らさないように、太陽の光はまだ僕を救ってはくれない。


絵的には快復の兆しに差し掛かって来そうなタッチでカメラがあれば大賞を取れると思う。つづく、なんて煽り文が筆文字でどデカく塗られそうな。


この日の光は僕を照らさない。僕の太陽は、終にたった一人だったから。


正直、この物語はバッドエンドで終わる気しかしない。


だのに見様見真似で出港してしまった。余命的にもう戻れないだろう。生まれてこの方住み着いた故郷に別れを告げるのに、躊躇いは全く無かった。


僕には時間が残されていない。

無駄かもしれない。最期の時間を朝日との思い出に浸るのが最善手だ。目の前に広がる光もない暗く深い闇に漕ぎ出すなんて正気の沙汰じゃない。星辰病を治せる根拠も自信もない。馬鹿みたいだ。賢しらぶってたのが嘘みたいで情けない。


だとしても。


結局僕も、夢や希望を諦めきれないんだ。

形なんてなくたって、どうせどこに飛んで行くかわからないんだ。

肉塊に魂なんて宿らない。首に魂なんて宿らない。


確かにあるのは、朝日に貰った信じる心だ。

迷子にならないように、諦めないようにその重さを実感する。タイムリミットまで、あと少し。


ステップ・バイ・ステップ。朝日ならそう言う。


「やってやるよ」


もう揺らがない。止まらない。迷わない。真実に臆病になったりしない。抗えない運命なら超えてみせる。

彼女の信じた僕自身を信じて。


「さぁ、行こう」


星辰病を倒してみせるんだ。




2078年9月25日明朝。


明かりの無い海を漕いだ。島に残った船を使って、暗く何も見えない海を渡った。素人の航海は無謀だと以前船乗りのおっちゃんが言ってたけどその通りだった。マニュアル通りの舵を切っているつもりなのに船は上手く前を向かないし難破を免れない故障も起こった。海に投げ出された後死を覚悟する荒波にもみくちゃにされて意識を失って、目が覚めたらそこは……驚く事に日本の最南端だった。

人のいなくなった日本にも少なからず兵隊さんは残ってて、風を読みながら監視の目を掻い潜り……この一ヶ月間、泥水を啜り、飢えと渇きをどうにか凌ぎ、理不尽な目にもあった。元々常世庭の世界とは常識からして何もかも違っていたから驚いた。未来の世界として描いていた空想の日本とはかけ離れていて、トウキョー以外に華やかさなんてものはなく、明かりもなく、ただ外に出る事を怖がる人でいっぱいだった。星辰病で消滅したであろう人々の服、下着、装飾品がそこかしこに散らばっている惨状はこの世の地獄を露呈していた。


情報を集め、親切な同じ『感染者』の人達とも協力して、天津さんの研究室の場所を突き止めて、繰り返される悲劇の幕を引く使命を受け継いだ。


日本が2061年から流し続けている国営放送にもヒントはあった。ラジオとテレビは同じ内容だったらしい。聞き慣れすぎた音も、僕らからしたら未来の世界であるこの地の高音質機器を通して聴けば別物だった。


重い責任を背負ってる。でもそれと同時に、世界の終焉を防げるのも僕しかいないと思うようになっていた。暗闇を照らし、いつかの未来と信じた場所へただ歩を進めていく。たゆまぬ歩みで…………


ついに僕は、最後の一歩まで近付いたんだ。


「ここが、天津旧研究室……」


天津歩を偲ぶため、そして次なる研究者の育成のため、彼の研究室は閉鎖されなかった。だが感染拡大を防ぐために一時的に侵入禁止になっていたそこは、月のない夜もあいまって不気味な霧に覆われていた。

雪が身体に打ち付け、仄かに燃える意志を奪おうとする。が……

僕に可能性を遺してくれた遺志を無碍には出来ない。


そそくさと目的の地点まで道を辿る。


換気通気口を通り、目的の場所ーーー星辰病対策エントランス、天津歩さんの研究室まで来た。


体をねじ込みながら、暗闇の中を這いずり出た。出口がさほど高くない位置にあってよかった。


「わぁ……なんだこれ」


煌々と電気的な輝きを放つ部屋に入った。

部屋にある物ほとんどが科学ロジックで構成された部屋だ。見たことも使ったこともない機械が緻密に張り巡らされていて、迂闊に動けないよう仕組まれている。


「デタラメだな……日本はっ、と、こほっ、けほっ」


ホコリが舞い上がったのか、喉に引っかかって息がしづらい。


…………ん?


天津さんが消えたのは最近だよな?どうしてホコリが舞っているんだ?


まあいいや。何か手がかりを探さないと……

手探りでそこかしこにあるものをまさぐっていると、『歩・天津 2063 8.7』と題された分厚いノートを発見した。

随分古いノートに見えた。これだけ発展し科学が発達した国において、直筆で残すのは天津さんの嗜好だったのかと彼の一部が見えたような気がして嬉しくなる。


と、時間が無かったんだった。




日記回想を開始する。


人類史において最悪の病魔が現れた。

私はこの未曾有のウイルスに直面し、生ぬるい対策を考えた評議会の連中の意向を無視し、ここに非人道的治療実験を行う事を決めた。これはその記録である。


とある病棟に、人体実験に自ら志願した研究者と、奔放快活な家出少女がいた。


それから私は枯れかけた井戸のような男性研究者と、家出少女の生活を監視する日々が始まった。


私はこんなあどけない少女に世界の命運を握らせていると思うと、罪悪感で押し潰されそうな心持ちになっていた。そんな心情を抱くことさえ罪だと知りながら、まだ自分にも人間の心が残っていたことに勝手ながら安堵していた。


毎日彼等は朝起きてパンをくわえ、共にソファに寝転びながらテレビを見る習慣をつけていた。それがおかしくて私も聞き入ってしまっていた。盗み聞きとそしられても文句は言えまい。規律を守りたい研究員。外に出たい娘。互いの主張は食い合いながらも、深まる仲は心温まる物語のようだった。


私は毎日決まった時間に注射の時間を設けていた。星辰病の「検査薬」だ。


一般的にありふれた血液検査だ。罹患していれば皮膚が柔らかくなり少し丸みを帯び、ホメオスタシスがウイルスを逃がさぬよう体に捕らえ込む。


菌が体内に吸着すると、吸着状態を維持しようと身体の血液成分に含まれる白血球内部の好塩基球の働きを妨害し、代わりとして「悪塩基球」とも呼べる代替物質を分泌させる。




これはまだ、正式な認可を得ていない私独自の製法で編み出した試験薬の基準にも満たないインフォーマルな薬品だ。




日記回顧を一時中断する。




「……なん、だって?」


『検査薬』…………それも、僕が勝手に生み出したものと全く同じ精製の仕方を、手順通りに作って投与したなんて、普通に考えて有り得ない。


「……続きを読もう」




日記回顧を再開する。




つみきや紙芝居、ネイルからファッションまで、彼女は一介の医者が知らないことを多く披露してくれた。


二人の生活が色を帯びていくにつれて、監視の目を緩める申請も視野に入れていた。二人の時間は二人だけのものであれ。籠の中の鳥や実験モルモットにだって幾ばくかの自由が許されているのだから少しの予断は与えてやっていい。


そう思い、私は久方ぶりの長い眠りについた。


4日後。


やはりだ。


やはり二人とも星辰病に罹患した。外界の空気とは隔絶した世界でかつ、感染する因果などどこにも存在していなかった状況下にありながら、それでも感染を止められなかった。現実の凶悪さに私は無力を感じた。原因などもう調べている場合ではない。二人を救う方法をこれから背水の陣で不惜身命を尽くす所存だーーー


あらゆる方法は、二人の体を蝕み、ついに男の被検体は音を上げた。そう、彼女の為に自ら私達に救いを希ったのだ。


それから毎日の拡声器を通した定期検診は、消化試合のようだった。


『誰かに急かされるイメージが浮かぶんです。内容はよく覚えていないんですけど、星を壊したのはお前か、とか……』


『俺も同じく。3日前だったけか……ワリ、内容忘れちったけんど……なンか質問された気がするわ』


月日は流れ、期限の2ヶ月を迎えた。


彼は悲嘆しながらコールドスリープを選んだ。少女の体を凍結し、星辰病の侵攻を食い止めるためーーー少女を裏切り、睡眠薬で眠りにつかせたのだ。


結果、少女は眠りから覚めることなく消滅した。時を同じくして彼も。

二人の死を無駄には出来ない。たとえ一つのヒントさえ手に入らなかったとしても、最後に勝てば彼らの死は……無駄にはならない。

私は契ろう。

この世の果てにどんな真実が待っていようとも、幾多もの天歩艱難に阻まれようとも。


星辰病を治してみせるとここに誓おう。


私は、『Xb染色体』を持ちて生まれし科学者。

『天下無限大』に届かないとしても、必ずや無念を晴らしてみせる。




日記回顧を一時中断する。




「ん……?」


ページが数枚破かれている。


最後のページだけは厚紙だったおかげでかろうじて残っていたーーー


「えっ!?」


驚いた。強く筆圧の濃い殴り書きだ。ひどく恐ろしい程の圧を感じる。こう書かれていた。




日記回顧を再開する。




取り返しのつかないことをしてしまった。

星シン病ノ莫daiな感染リョくの真相ハ、、、


私は間違ェた。


特効ゥ薬ハ・・・





日記回顧、読了。




「……………………うん」



真相に近づいている。そんな予感がした。


だけど時間がなかった。とても。


天津さんの日記は、あくまで一般人が読んで理解可能なレベルまで落とし込まれている。おそらく後世に残る僕らに遺すために。この謎が散りばめられた真相の奥深くに迷い込めば、見たくない真実に打ちのめされてしまうかもしれない。


だけどそれでも。


「考えろーーー僕の役目は、なんだ」


それはもう、自分も彼女も消えてしまう今、やるべき事なのか?

寝ても醒めても太陽のない世界で、自ら目を背けるべき現実に会いに行くのか?

逃げてしまえばいい。小さな命が消えようとしている中、またいつものように手を振って別れを告げればいい。手のひらに伝った雫が霧散したあの日のように。僕が殺したみんなが待ってる場所に、半笑いしながら行けばいいーーー


「弱いなァ…………!僕は…………!」


マイナスの思考を声の刃で断ち切る。


誰もいない。

誰もいない世界は、静かだった。

誰もかも消え去った世界は、星が綺麗だった。

星が綺麗だった事を、分かち合う人がいない世界は、愚かしく寂しかった…………!!!


僕がこのまま、何も成せず消えたとして、天国や地獄に行ったとして、みんなに顔向けできない。僕を信じてくれた玖々莉が、安らかにいけない。


「…………朝日なら」


考えるより行動。織り込まれた理由のない元気が、僕の足を一歩前に進ませた。


「朝日なら、止まらない。その時その場で感じた心に従って、間違ったらその時考える」


煎じて僕も止まれない。今も隣には彼女の残り香が残っているから。小さな勇気が産んだ火は仄かだけれど、簡単には消えない確かな火種なんだからーーー点と点を繋ぎ合わせ、星座のように線にすれば、行き着く先は、きっと彼女に繋がると信じるから。


一人じゃない。


だから戦おう。一緒に。


「じゃあ、真の解答編を始めようか」


心を落ち着かせ、世界とひとつになる。悪辣も娼嫉も自分の価値も要らなくなった今、過去を脱ぎ捨てた刹那自由意志の発現と共にこれまでにない一体感が脳裏を駆け巡った。


ワードが鎖状に繋がる。正解を手繰り寄せるように空中に浮いた言葉達を拾い集め、心意を空想する。


『 』


目を瞑れば、そこに彼女はいた。塩湖のように青空に反射した空想世界に二人、言葉を発さなくても、確かに僕の心に彼女はいる。光を浴びて歌い踊っている。


だから、もう大丈夫。


問はたった一つ。


『星辰病の解明』だ!!!


ここからは、一つ一つ浮き上がったヒントを整理していこう。その先に点となる答えが収束するように。


思考空間に浮かんだ僕は、脳のメモリーにあるキーワードを現界させた。空の青さに溶けてしまわないように、透明な泡を作ってそこに言葉達を放り込んでいく。


現状を確認しよう。




星辰病とは何か。


感染確認後、2ヶ月後に身体が微塵と成り果て消滅する奇病。


特徴はほんのり丸みを帯びた皮膚、何度か見る夢。出なくなる声。


夢で何度も見る、この星で生きていきたいか、の問いかけ。




「まずは……」


『天津歩のノート』


そう書かれた泡を掴む。シャボン玉のようなそれを抱きながら思考の海へぽちゃり。浸かる。


「コールドスリープは不可能だった。ということは、細胞の動きを止めたところで無意味だという事。崩壊は確実に始まる。2ヶ月という期間も曖昧だ。なぜ星辰病は時間を設けたのか……」


次のヒントへ。新たな泡を掴み、引き寄せる。


『星辰病の症状』


「常識的に考えればおかしい話だ。皮膚の外側から横凪ぎに粒子化して消えていくにもかかわらず、初めは内の方の侵食から始まる。そう、呼吸器の疾患だーーーもしかして『星辰病』は、二段階あるのか。……そう思っていた。素直にそのまま受け取っていたんだ」


……違う違う。一般の考え方を広げていった結果が今の現状を生んでいるんだ。この程度の仮定は歩さんだって踏破してきた道だ。もっと何か、違う思考方法で穿った見方が必要だ。


そう、たとえばーーー声が出なくなる原因とか。


「内臓ーーーいや、呼吸器周辺に疾患が生じる病状が先ず星辰病末期の症状と解離している。喉周りの疾患は粒子消滅とは一見して関係がないように見える。何か見落としてないか……何か……」


根治療には至らなくとも、今まで進行を止められるかも知れない抗生物質はいくつも強く反応を示してきた。だが表皮から消滅していくメカニズムは分からずじまいで解決策もない。


最後の瞬間が訪れる少し前に発症する声帯付近の崩壊こそが、ミスリードを誘うブラフーー囮だとするのならば。結核と同じ症状か、だが結核を治す放線菌から作られたストレプトマイシンも期待を裏切り無効に終わった記事を読んだ。薬品で止まる病原菌とは一線を画している。


感染方法についても手詰まりだ。空気感染が最も近しい原因ではあるけど、どこの資料を閲覧してもバラバラで不均一な発症で、だからこそ未知の病であることは反証になる。


『Xb染色体』


あくまで噂の域を出ない生物学上の希望。そしてそれは人類が敗北しない証左であったともいえる。数千万人に一人の割合で存在する、国に2人、3人しか生まれない希少な染色体の持ち主であり、彼等は星辰病に罹らない特性を持つと言われている。菌を排除するどころか既になんらかの病に侵されており、異物を認識すれば受け入れようとしない機能が出来上がっているのではないかと天津さんの論文に記述があった。


これは砂漠でたった一つの砂粒を探すような過酷さだ。そのたった一つの砂粒は僕の太陽だったけど、もういない。

だが、天津歩さんは『Xb染色体』だったんじゃないのか……?60兆個の細胞は、まだ解明されていない点が多い。やはり確実に感染を回避出来る魔法の遺伝子テクノロジーは存在しないと考えていい。


「……くそっ、他に、手がかりは無いのか」


幾つも可能性を浮かべては、形にならず溶けていく。何十通りも試しても、ふわり、ふわり飛んでいく。


ーーーだめだ。詰まった。僕の知識量じゃ、ひとまずこのあたりが限界だ。

でも、諦める訳にはいかない。ほころんだ糸だって、もう一度縫い直してみせる。朝日ならそうした。

叶うならもう一度あの時間を。それはまるで夢のような日々を取り戻すためにまだ出来ることはある筈だから。


「…………夢?」


あの日の記憶が、青空色に染め上げられて呼び覚まされる。

目の前の朝日が踊る。朝日の歌が、止まらない。古い時から聞き慣れた音楽に合わせ、彼女の声に乗せて染み渡っていく。


『まだ』


『羽ばたいてーーー踏み出してゆく』


『貴方がくれた空と景色の向こうへと』


『消えない跡-痕を抱いて』


『もう一度』


『羽ばたいてーーー飛び出してゆく』


『髪をかき分けくしゃくしゃにして明日へと』


『消えない、-夢-を抱いて』


夢。


『天津歩のノート』


『誰かに急かされるイメージが浮かぶんです。内容はよく覚えていないんですけど、星を壊したのはお前か、とか……』


「この星で、生きていきたい?……あれか」


もしも星辰病の病原が空気中の毒素と仮定して、インフルエンザと同じく気道感染症にあたる感染経路を辿るのだとして。

呼吸器疾患を起こす理由が、解答をさせない為の半強制的前兆であるとして。


星辰病は寄生型感染症ーーー。


2ヶ月が人間の限界なのではなく、


2ヶ月後が前提条件だとしたら?


2ヶ月後に消えなければならないとしたらどうだろう?


呼吸器官がやられるのは、声帯を消滅させ、回答させないためのファーストインパクトである可能性が高い。一種の自己暗示に近いもの。身体全体の受容体細胞が崩壊を許可する信号を送るためのステップだ。


だが、それすらもブラフである可能性が高い。声が出なくなった後、僕らは夢の認識で「発声不可」の現状を認識するから、声が出せなくなるのか。


そりゃ声が出なくなったら、脳波は乱れるし細胞もビックリしちゃうかーーー


…………


一見繋がりがないように見える疾患。声が出なくなるのに、何か大きな意味があるとするならば。


「そーーーそうか!!!」


声が出せず、答えが告げられないその異常こそが星辰病の起こした悪塩基球の活動原理。異常をトリガーにして『星辰病』はセカンドインパクトを行う。他のどこでもない身体の恒常機能『健常化』で。人間である限り避けようのない現象が『睡眠』。眠りの中にその答えがある。


ウイルスが身体を壊すんじゃない。まるっきり逆だったんだ。薬が効かなくて、抑制も出来なくて、免疫力で購えない不治の病原菌は、僕らのーーー


「星辰病の、正体は人間のーーー」


1.精神病

2.自律神経作用

3.進化過程

4.錯覚

5.自己暗示

6.自壊衝動

7.自然治癒力




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