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星辰病  作者: Failed supernova
2/7

第二笑 Dear Dream Days


「買い出し買い出しー♪」


「歩くの早いよ」


三日後。

食料が尽きた。


うだるような夏の暑さを背に受けて、年下にバッグを背負わせる朝日のセンスのなさにびっくりだ。


話すのも面倒になる。


「中高一貫元・陸上部!数多のしごきを越え鍛え抜かれ研ぎ澄まされしこの美脚を見よ!」


Xb染色体を持つこと以外は至って普通の女の子。人生の運全てを染色体の細胞異常に振ったのか頭は空っぽで夢いっぱいそうで辟易する。


「暑い…………」


それにしても暑い。ぬっめり暑い。なまら暑い。電気が通らなくなったのがここまで不都合だとは思いもしなかった。


「おーい、見ろー、モロだしだぞ、モローーー」


「ツイてない……もっと食糧を貯蓄しておくべきだった」


「あのー流石に存在無視は悲しいんでやめてもらえますか」


「ああ、朝日いたの」


「おまんの目はどこについているでおじゃるか」


「左右耳の前」


「朝に出ちゃいけない化け物来ちゃった」


両頬に手を当てて眉を八の字にしつつあんぐりと口を開けてこっちを見やる顔の方が化け物らしい。


なんて顔するんだ朝日ひまわり。それでも女性か。

6枚目のムンクの叫び誕生しちゃったよ。


「周辺視野が広がってシマウマ並の広範囲を見渡せるよ」


「じゃーこっち見えてんじゃん!無視すんな!遊べオラー!」


「はははは」


色を付けることの無い信号、処理されることの無い蜘蛛の巣。手入れなく朽ちていく標識。夕日の光が差し込むだけで色の変わらない冬を待ち焦がれるイルミネーション機材。


錆びたコンクリートの合間に生える小さな名も知らぬ花。


まるで滅びた後の、まだほんの少ししか時が経っていない時空。終末世界のプロローグだと思ったんだ。


「そもそも君が運転免許を持ってないってわかったから歩いてるんだからね。そこんとこ理解してる?」


「わたしゃーべつにかっ飛ばしても良かったが!?」


「死なれてぐちゃぐちゃになった姿を見たら寝覚め悪いでしょうが」


「私を誰だと心得ている!?」


「無免許運転常習者だよ!!!」


温度をあげるべきじゃない。


クールに行こう。クールに。


・・・・・・・・・・・・・・


シャッターが半壊したショッピングモールに着いた頃には、もう昼を過ぎて少し経ってしまっていた。


まずい。少し早足で目的のものを探す。腐った匂いを辿って食料品売り場を徘徊する。


「缶詰と、お菓子と…………」


生活必需品をありったけ、一月は遠出しないでいいくらいの食料を詰め込む。

絆創膏、電池、紙、鉛筆。ボールペン×2。シャンプーに……リンス。


同居人の追加により、いつもの2倍の量を探すことになったが、単純労働力も2倍以上になるという計算で根性論を押し通せば3人分くらいの荷物は運べるのではないかという計算だ。いよっ策士。今世のシャーロック・ホームズ。


「ねーまことくんおなかすいた!なんか食べていい?」


人事生産性0の計算外がいたわ。


「家に帰るまで待ちなさいよ。ったく少年が汗水垂らして働いてると言うのにこのエンゲル係数爆上げ嬢は」


「働いてるって言っても商品盗んでるだけじゃん」


「うぐっ」


痛いとこだけ突く適格槍術おやめなさい。


「ねーいいでしょーもう待ちきれないー我慢できないのー」


「霞でも食っとけ!!!」


「びえーん!死ぬー!お菓子タベナイトCN病にかかってしぬー!!!一定期間ごとにお菓子を体内に取り入れないと体調が優れず機嫌が悪くなり果てには死に至る」


新種の病気を生み出すなこのご時世に!!!



勝手だ。

先のことなんて微塵も考えてない気ままで雲を突き抜ける風にもよく似ている。


「ねー見てこれお宝!」


「なんだこれ」


「しゃちょー室みたいなとこに置いてあった年代物のお酒!」


「おお。昨日テンアゲでほとんどストック無くなっちゃったからよかった。あれ?中身は?」


「飲んできたー!」


・・・


「ぽいーーーー!!!!!」


バリィン!


人生でこれだけのボトルネックを放り投げた男はいないんじゃないだろうか。


窓ガラスを突き抜ける勢いで投げた腕が泣いていた。



・・・・・・・・・・・・・



あらかた必要な物資は揃ったか。帰り支度をしてパンパンに膨らんだバッグをどっこいしょ。


……朝日はどこに行った?



「くぅ……くぅ…………」


「……………………」


寝息?


「すゆぁ……………………………………」


「嘘だろ…………」


ぐっすり幸せそうに眠る朝日を起こして嫌な顔されるのも面倒だ。セカンドっこいしょ。


暑さがマシになった夕暮れ時に、気合を入れて家路に着いた。




電気が止まった島の中では、夜の野外はアマゾンに素っ裸で放り出されるに等しい恐怖を孕んでいる。動物が凶暴だとか、自衛が出来ないとかそういうベクトルの『恐怖』ではなくーーー単純に家に帰れないのだ。


生活リズムが狂ってるのは夜行性なスタイルからも見え透いていたものの、まさか外出先で我慢できないとは思わないわな。ワナ。罠だった。


「重い………………」

「起きない……………………」

「あとやっぱ暑い…………」



こんな無防備かつ無計画な女を危険に思っていた自分が恥ずかしくて赤面してしまう。


「どんな顔……してんだろ。実は目をひん剥かせて口裂け女ばりに笑ってたりしてね、ホラーだ。……なんか、懐かしいな……こういうの」


みんな家から出なくなって、自分が感染するのも友達が感染するのも嫌だったから、おんぶをするなんてもっての外だったから、誰かを背負って坂を下るなんてのもご無沙汰だ。


人肌に触れる温かさは、こんなにも心地よかったのか。


この温度を消す星辰病を、僕は看過できない。熱量を冷たさを奪い去って世界と融合させてしまうなんて越権を超えて横暴だ。生きとし生けるものとして反駁したくなる頃合いだ。

とは言ったものの。

実際に何とかする手立てもないし、自分の余命に関しては半分諦めてしまっている節がある。接触感染飛沫感染。経口感染から空気感染母子感染までなんでもござれのアルティメット感染症に太刀打ち出来るのは数十年後になるんじゃないかと絶望してしまう。


ーーーなんとか、ならないのかな。


呟いた小さな願望は、ひぐらしの声にかき消された。






・・・・・・・・・・・・・・・・






また次の日。


『ーーー今回の試験を経て、星辰病対策委員会は、ついに免疫細胞の完全コーティングを目指す方向で一致、天津 歩さんの研究に全力を注ぐ方針を定めました。』


ラジオから流れた言葉に、一喜一憂。


「天津 歩さん!また進歩したのか!やったやった!」


この日の僕はちょっとウキウキしちゃってたんだ。


なんたって天津 歩さんの非臨床試験の進捗があがったのだ。

天津 歩さん。

星辰病に対する特効薬の研究を続けている日本一の宇宙科学者であり星辰病対策委員会の長。ウイルスが細胞を取り込み細胞を利用して活性化するメカニズムを解明し淘汰した偉人だ。マクロファージの貪食効果を最大限発揮させる事で正常な細胞を破壊しようとする癌、身体を自壊へと導くサイトカインストーム反応を萎縮状態に移行した。その実績は偉大の一言だ。

すなわち凄い人なんだ。すごく。

星辰病を未曾有の大災害と認定した世界は彼の知能に莫大な予算を注ぎ込み研究は進歩も進歩、数多の病気は彼の功績によってみるみる駆逐された。



この辺で星辰病の来歴を話しておこう。



感染が判明したのは2061年の初夏だった。サウジアラビアの砂漠近くの病院に立ち寄った青年たちを待っていたのは、少し前まで人間が生活していたような不気味な施設だった。しーんとして、人だけが忽然と消えてしまった神隠しの世界に迷い込んだかのように思えたその場所こそが、『星辰病』発祥の地だった。


まるで全員が同じタイミングで消えたかのように生活痕を残していたため、最初は神隠しの様相を思い浮かべたりテレビのネタにされる事も多かったらしい。服や装飾品は全て揃っていたためだ。


広がっていくにつれ人間の悪意が爆発感染した。


過酷な環境で生き残り、感染した者を以前の親睦など無視して忌避し遠ざけ憎悪する。それは確かに自らを、そして家族を守るために間違いなく正しい行動だ。


でも。


それは僕にとって、大きな不正解だった。


『僕がみんなの感染を確認します!他の人には検査薬の作り方も、医療器具にだって触らせません。僕が……僕が!』


ボクガミンナヲスクウカラ。


救えなかった時の事なんて考えてすらいなかった。


死のう死のうと思ったことも1度や2度じゃないのに、


『行き先の見えない不安を取り除く手助けなんて、普通に終わりを迎えるよりずぅっとずうっと幸せな事だよ。恨み言が君を包んで握り潰そうとしても砕けないーーー君に感謝して、消えていった人の心を……誰かにとっての救いになれたその気持ちを、蔑ろにしないであげなさいな』……か。


「せこいな。浮かれ遊女の世迷言だ。」



朝日に出会ってから、自刃の暇も無い。



『我らの希望の星、天津 歩研究所長……今日は、その足跡を追ってみましょう』


そのうえ、尊敬する人の成果が右肩上がりとのお話だ。


無聊を託つのは罪かもしれないし、最期の方になってちょっと後悔する未来も見えるし、やり残したことをするのもまんざらじゃないけど……


天津 歩さんは、僕にとってのヒーローだったから、日曜の朝にヒーロー番組を見るような気分でじっと動かずにご飯に手をつけることもなく聴き続ける選択をしてしまったんだ。


もしかしたら、治るかもしれないから。


そうして部屋にこもりきって、ラジオを聴きっぱなしにしてしまったからーーー



・・・・・・・・・・・・・・・


「…………寝れなかった」


次の日は朝からせっせと忙しかった。溜まってるゴミを処理する日を先延ばしにしていたのがバチが当たった。


2階の自分の部屋から階段を降り、あくびをかまして庭の草花に水をやる準備をしようとして、びっくり。



「待ったーーーーーー?」


「おはよう」


ハグをそよ風のごとくスルーしていく。


「デート先が部屋を出て10秒圏内でお決まりをやらかす気は無いけど待ってないよ。今起きたとこ」


「もう昼じゃん!」


って、ちょっと待って。


「ごはん…………………………なんでこうなるかなぁ…………」


昨日の今日でおかずが無くなってた。綺麗にゴミ袋に包まれて。主食の小麦と米は大量に余っているものの生鮮食品の代わりになる缶詰が一口分開けては捨てられていた。


「味見しようとしたらどうにも全部合わなくて、調合して三ツ星レストランを開業しようとしてたの」


「だったらそのレストランは閉店だ。素材が悪すぎる。予算の提供をした覚えもないけどさ!!!」


ああもう、今日も買い出しか。

今度は床下の収納にでも隠しとこう……



・・・・・・・・・・・・・・


買い出しを終えて、とっととゴミ処理にとりかかる。

まだ全体の半分も出し切れてない小分けにされた袋を見てげんなりする。……げんなり、する。


「おわ、どしたのーこれ、もう暗くなるよ?」


朝日が1つ袋をつまみ上げて、青空に透かしている。


「焼却場に出るんだ。燃やすものは大体決めてきたから、後これだけ」


「何入ってるの?」


「星辰病で消えた人の所有物」


「宝物あるかも」


「ゴミだよ」


「いやーなにもそんなお高そうなものまで、ほら指輪とか見えてるよこれ」


「ゴミだよ」


「…………んむぅ」


不満そうな顔をしても残しておく意味が無いんだ。


焼却場の煙を吸って死んだところで、身体の腐敗が早まるだけだ。腐って消えるか、腐らずに消えるかの違いでしかない。


みっともなさを加味すれば星辰病の方が後腐れはなくていいかもね。


「いやーこんなのご近所さんが見たら卒倒するだろうねーまーた真昼間から燃やしてるよあのうちはーって、なははははー」


「もう怒る人もいないし問題ナッシングでしょ。地球環境問題なんてこれから人類の数が少なくなれば比例して無くなっていくし、今ここで有害物質を出したところで対して変わりはしないよ」


「違いないねー」


みんなの破片を拾い集めて、燃やす。


その繰り返しは生きてきた時間を無に帰すようで胸が痛かったけど、見る度に涙を滲ませるよりずっと楽だった。


僕の胸の内だけにしまった、僕だけの欠片達。


そう思えるから。


「よし、キャンプフォイエーだ!!!」


「家に帰ってからね」


・・・・・・・・・・・・・



真っ暗な闇夜。一条の光すら見飽きてしまう時間の流れがあった。一体どれだけの時間が過ぎれば僕は悲しさを忘れてしまえるのだろうか。


無感動に点在する星々に吸い込まれて消えていく紙屑たち。


さそり座の赤々しい輝きに誘われて、燃え尽きて行った。


小さい日を篝火のように燃やしながら火を挟んで対極に位置する朝日をちらと見る。


「…………なんだー?泣きそうな顔して。おー?」


うわぁ、馬鹿そうな顔…………………………


インスタントな電池式ランプを周りに置いて擬似的にではあるもののキャンプを再現している。周りは明るいけど星はしっかりと瞬いていた。


「よしよし。お姉さんが慰めてやろう」


「……なんだよ」


「これ何?」


どこからかいつの間にか取り出したひも装丁の小汚い本を手に、隣にすり寄ってきた。


「なんで持ってんだよ」


「燃やすのもったいないからちょっとかっぱらって来た」


……後ろにある袋の束はなんだろう。気付かないふりを続けてた方がいいのかな。道理で今日の分が少ないと思っていたんだよ。


まあ彼女が寝てるうちにでも燃やすか…………


「大事な宝物だもん」


こう、さあ。

眩しい笑顔に弱いんだよ。ふざけやがって。塵だって言ってるじゃんか。思い出したくないのに。


苦痛を思い出すのが嫌なんじゃない。


光り輝く時を忘れられないのが嫌なんだ。


また、大きく希望を持ってしまいそうになるから、嫌なんだ。頑張ろうって意思を脳裏に仕掛けてしまいそうになるから、未来に残す意味がないように燃やして消し去ろうとしてたのに。


天津さんはもうすぐ臨床試験に入りそうじゃん?

朝日は説得力のない自分勝手な笑顔をところ構わず向けてくるじゃん?


……………………ちぇっ。

畑にでも埋めとくか。


売れたリンゴのように赤い頬が、熱さにやられて燃えているのがわかる。


僕も、きっとそんなーーーかつての顔をしてるんだ。


「ああ、うちの先生が書いてた恋愛小説だよ」


「お!読んで読んで」


「はいはい…………」


やれやれという風に嘆息しながら、目を瞑って読み聞かせを始め……


「むかーしむかし、あるところに」


「はじめに 神は 天と地を創造され」


「それ絶対違うやつ!!!」


いつの間にか悲しみが愉快な時間に置き変わっていた。


「『善い人と悪霊』」


「わくわくどきどき」


「むかしむかし、あるところに。未来が明るい善人がいました………彼には結婚を誓った相手がおり、仕事も順風満帆………しかし不運な事故から亡くなってしまい、心残りのある魂だけが現世に留まってしまったのです」


たんたんと語りを続ける。


「霊が滞在していられる時間は少なく、それに月日を置いてしか大好きな彼女の姿を見ることは出来ませんでした。悪霊となった彼は現世に影響を及ぼす力を得た。だが一人の悪霊が未練を解消しようとした時、同時に消えていったのを見た彼は悪霊の原則を知る。生者に干渉すれば消滅ーーー」


「年月を重ねる毎に、違う男に惹かれていく彼女を見る目は濁り、魂の色は鉛色に変質していき…………」


「そんで霊になった男は言うのです。あいつと結婚するのは俺だったはずだ。俺の家で同じ食器を使って同じテレビを見て、用意したあの指輪を付けてるはずだったんだ……」


「男はつい禁忌を破って彼女を抱き締めてしまうが、すり抜けてしまい触れられたのはその髪の毛一筋だけ」


「悲しみに暮れながらも、現世に影響を与えてしまった霊は成仏してしまうというカラクリの中、ただ自分を忘れて幸福な笑顔を浮かべる愛しい人を眺め続けるのでした」


「おしまいおしまい」


「つまんない!」


身も蓋もねーわこいつ。


「私なら最期はこうするね」


「お嫁さんになるハズだったガールは実は一月に一日だけお墓参りを欠かしていなくて、その日だけは在りし日の記憶で、苗字も前のまんまで冥福を祈るんだよ。髪型を変えて、綺麗な夏を綺麗なままに、悲嘆に暮れつつ喜びの時間を思い出しつつ。もちろん指輪を外してーーーそれが死んだ彼にとっての幸福だって信じて祈るの。はっぴーはぴはぴでしょ」


『朝日ひまわり』らしいエンディングだと思った。


「けっ、バッドエンドで喜ぶ人もいるんだよ。悲しみは暮れることなく、ビターな苦味を仄めかして情緒を心に残すんだ」


「やだねー君がどれだけ悲劇を読み聞かせようと私は何度でも書き換えてやるー」


「もう読まん」


「はーちぇーくそー」


互いの目を見てくだらない話を吐き出して、時間を無為に消費していくのが心地よかった。生き急いでいたのが嘘みたいだ。


「ネコに小姑」


「ほろ夏日向日和」


「かさ増し地蔵」


数多のバッドエンドが彼女によってハッピーエンドに変えられていく。知識量が豊富で語彙力もある彼女は別人のようで、でもどこまでいっても彼女は彼女。朝日ひまわりだと思わせる物語構成力を魅せてくれた。


「ありがとう。まこと君っ」


一日一日がただ過ぎていく。雲の流れが早くなる。空が明暗を繰り返して、青と白を交互に映して僕が睨む天上も僅かに高くなったように見える。


2、3時間も経ったか。バカみたいにくだらない話を続けているとどうも時間の流れが読めなくなる。


「でさー、改札潜ろうとしていた時にさー、一杯いかがですか?って声かけられたんよ」


「ふむ、それで?」


「私そんなに可愛かったですかー?って聞いたの!」


「うん」


「そしたら今まで見てきた誰よりも!って言われたの」


「ひまわりさん返答は!?」


「さいですかって答えてそのまま電車に乗ってゲラゲラ笑いながら帰った」


「自己満足だけ満たされたおっさんの無意識下で半開きになった口臭が酷い」


「だはー!!!」


「ははははははっ」


油断していた。


ピー、ガガ、ガ、ザザーーーー


ポケットに入れっぱなしにしていたラジオが数少ない番組の時間になったようで、盛り上がって焚き付けられた火柱に水を差されるのは遺憾だったので電源を切ろうと取り出した……………………



『速報です。星辰病対策の第一線をけん引していた所長の天津 歩さんがお亡くなりになりました』



ドクン。


時間も心臓も止まり、酸素が無くなったように口を開けたままぼんやりと耳を傾ける。


聞き間違いか?


アンテナをめいっぱい立てて、食い入る朝日に目もくれずラジオの音に耳を澄ます。


『彼は星辰病を秘匿しながら研究に没頭しており、検査の結果准教授や研究員の9割の感染が確認されました』


『今回の訃報におきましてはチームの解散を余儀なくされ……』


違った。


『星辰病対策研究会は、事実上の永久凍結となりました』


最後の希望は、予感もなく崩れ去っていた。



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