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防げ災い 線も無く 

掲載日:2021/03/27

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 つぶらやはなにか、習慣づけしていることってあるかい?

 毎日、これをやらないと調子が上がらないとか、特に深い意味もないが、ついつい垂れ流してでもやっちまうものとか。

 俺は朝起きるときと、夜眠る前に好きな音楽を聞くようにしている。昔からの癖でな。BGMがないと乗る気も乗らないし、リラックスしたいときにも落ち着けない。

 ルーティンとまでいかなくても、俺たちは「いつも通り」存在していることに、ずいぶん助けられているかもしれない。たとえ、自分で用意したものでなくてもだ。

 俺のいとこが体験したことらしいんだが、聞いてみないか?



「なあなあ、あの防災無線。うるさいと思わねえ?」


 ある日の学校で、いとこはクラスメートのひとりに、そう声をかけられた。

 小さいころから遊んでいた、公園のひとつ。そこへ数年前に、防災無線のスピーカーが取り付けられたんだ。

 いざというときに、音が出ないと役に立たない。音が出ても、それが小さくて、届かない人が出てきては意味がない。それゆえに大音量の設定がなされているのだけど、平時においては耳障り以外の、何者でもなかった。

 いとこがおおむね同意すると、友達はある提案を持ち掛けてくる。


 防災無線妨害工作だ。

 とはいえ、無線をジャックするなどの、大掛かりな破壊活動はできない。いとこたちがやり出したのは、防災無線のスピーカーに向けて投石だった。

 10メートルはある、せいたかのっぽのスピーカーだ。直接、拡声する部分へあてることは、素人の技術ではまず無理だった。よって拡声をうながす、トランペットの口のような広がりを見せるダクト部分。あそこへ石を乗っけようと試みたのだとか。

 素の放送の音を聞くのはまっぴら。ならば石を積むことで、音を少しでも和らげることができやしないかと。ちょうど耳垢の逆パターンを狙っていたんだ。



 学校を出て家へ帰るまでの時間、いとこと友達は件のスピーカーの下へ。周りに人がいないのを確かめると、石を拾ってスピーカーへと投げ上げていったんだ。

 場所をちょろちょろ変えながら行うも、スピーカーへ届かないことなんて、ざらにある。ひどいときにはスピーカーからも、それを支えている柱部分からも外れ、石が飛んで行ってしまうこともあった。

 飛んで行った石は引き戻せない。犬を連れて散歩している人などが、通りかかったときは最悪で、落ちていく石がひたすら当たらないことを願うのみ。直撃は免れても、近くに落ちた石の音を聞きつけて、「なにごと?」とばかり振り返るしぐさには、心臓がバクバクする。


 ――もう、やめようぜ。


 いとこがそう提案するも、友達は毎度のアクシデントにビビりながらも、「絶対にやりとげてやる」とのたまって、はばからない。

 あきれたいとこは一抜けしたものの、それからも友達がスピーカーの下で、熱心に石を放り投げている姿を見かけたとか。



 それから一か月半くらいが過ぎ、友達の方からいとこに報告してきた。とうとう石投げがうまくいったのだと。

 あのラッパを思わせるダクト部分に、石を乗せられたということだろう。自分がその場にいなかったこともあって、話に聞いても「ふ〜ん」程度しか思えず、おざなりなねぎらいだけはかけてやった。

 けれども次の日曜日。ピンポンパンポンと、防災無線をする合図の音が聞こえてい、ついいとこは意識を向けてしまう。


「市役所より……市役所より……お知らせします……お知らせします……」


 エコーがかかっている。いつものことだし、どうせ「地域防災の日です」ときたもんだ。


「今日は……今日は……の日です……の日です……一度……一度……しましょう……しましょう……」


 ううん? と寝そべっていたいとこも、首をもたげる。

 いやに放送がとびとびだ。その割にノイズが混じることなく、さもこれが正しい、と言わんばかりに声を響かせ、放送は内容を繰り返す。やはり、要所要所が聞こえない。


 ――もしかして、本当にあいつのやったことが?


 ふと頭をよぎる考え。けれどそれは、耳元で起こった新たな音に邪魔された。

 仰向けに転がって読んでいた雑誌が、いきなり落ちてきたんだ。顔の真ん前に降ってきたそれを取り除けるも、いとこは不思議で仕方ない。

 自分は本を開きながらも、少しも力を緩めることなく紙面を握っていたはず。それがどうして?

 同じような姿勢を取りながらも、放送中にまた雑誌が落ちてきた。今度は手元に集中していたから、いとこにも見えていたんだ。

 ほんの一瞬だけ。自分の両手首が、ふっと消えたのさ。消えた後には、天井がのぞいていたんだ。

 色や光で隠れたわけじゃない。本当に、この場からなくなっていたんだよ。

 

 放送が終わってからも、同じように何度か手が消えることがあった。

 食事のとき、たびたび箸や茶碗、小皿を取り落として、最初は注意していた親が、本格的に心配しだす。手が消えていることには、気づかれてないようだった。

 風呂でもつかみかけた桶から手が外れて肩をぶつけるし、ドアノブを回しかけても、手が消えて開かないことも。

 不幸中の幸いは、手以外のものが透けないこと。もし体の別の部分が透けていたら、大惨事になっていただろう。

 

 

 もしや友達も……と翌日に学校へ行くと、彼は何やらにやけ顔。

 いとこが自分に起きたことを伝えると、「まあ、そうだろうな」と上から目線で、むっときた。食って掛かろうとすると、「まあ、待て。面白いものを見せてやるから」と放課後に体育館裏を指定してくる。

 いとこが言われたとおりに向かったところ、体育館の壁の端っこ。物陰になって見えづらいところに立っていた彼が、手招きしてきた。


「俺、必殺技に目覚めたんだ」


 にやつきながら告げてくる言葉に、いとこはいっぺんに嫌な予感がする。彼は先ほどからずっと、ポケットに両手を突っ込んだままだからだ。

 その手をさっと取りだすと、「パー」に開いて、10本の指を壁へ向けたのさ。



 それはほんのわずかの消失。爪から先の、わずかに皮膚のはみ出している部分が、ふっと消える。続いて、その指の先から無数の粒が飛び、体育館の壁にぶつかっていくのさ。

 BB弾よりも、さらに小さい。ゴマかフケのような白い塊が、いくつもいくつも壁に跳ね返され、パラパラ、カツンカツンと各々の存在を伝えながら、地面をすべっていく。

 ものの数秒くらいのことだったが、打ち出された玉の数は、数十発にも及んだ。彼もやはり、あの防災無線を聞いたときに、指の皮膚が消えるようになり、あの粒も打ち出せるようになったのだとか。

 まだ完全ではないものの、彼はある程度意識して消すことができるようになっているらしい。「これで、いたずらがはかどるぞ」と得意げに語る彼だったけど、いとこは一抹の不安を感じずにはいられなかった。



 それからも、調子の悪い防災無線が続いた。

 耳にするたび、いとこの体の消える時間は少しずつ長くなり、袖の長い服などを使ってごまかすのに躍起になった。

 彼はいうと、とうとう自由に粒を飛ばせるようになり、つまらない先生の授業などでは、こっそり背中へぶつけていたようだ。当の先生は消しゴム飛ばすな! とばかりに机間巡視するも、そんな輩は見つからずに、怒り損ってこともままあったとか。

 放送が直ったのは、怪現象が起こるようになって3か月余りが過ぎてからだ。久々に、途切れることない放送を耳にしたいとこは、今回は手が消えないことを確認。すぐにスピーカーの足元へ向かったところ、緑色に変色したこぶし大の石がひとつ、真っ二つになって転がっていたらしいんだ。

 彼はというと、その日を境にけがを頻発するようになった。原因はいずれも骨折。あまりに多いから調べてもらったところ、骨粗しょう症を患っていることが発覚した。食生活や運動に不足がないにも関わらず、だ。



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