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6.世界への歩み



「結局お前らは何者なんだ?」

「悪魔じゃが?」

「そうじゃなくて……どうして生贄の俺を探していた?それに召喚者のゴブディア王やその兵士を殺して回った理由と、魔族や俺を襲わなかったのは何故だ?」


 あれだけ王城と帝国内に跋扈していた悪魔のような獣たちは、ひとしきり暴れたことで務めを果たしたかのように煙となって消えていった。

 同時に帝国内上空を覆っていたどす黒い黒雲も晴れて、念願だった青空が広がっている。


 しかしこの幼女悪魔……アピトゥタは何故か残っていたため、まずは疑問を投げつけた。


「ふむ……それはお主が一番分かっているはずじゃが」

「だからどういう意味だ……」

「我ら悪魔は生贄が捧げられて初めて顕現できるが……それは厳密には召喚者の意思ではなく、生贄にされた者の意思や感情に作用するのじゃ」


 いわば、悪魔と言う名の……生贄にされた者たちの怨念なのだと彼女は語った。


 だから俺を触媒として召喚された彼女らは、俺が持つ帝国の兵士や魔術師、王族に対する負の感情に沿って動き、亜人には何の感情も抱いていなかったから放置したのだという。

 また、帝国内の国民も逃げ惑っていただけで、ほとんどの者には手を出していないそうだ。まあ確かにそんな人たちは頭にも浮かんでなかったけど……


「故に禁忌の魔術とされるのじゃ。生贄にされる者など、大抵は喜んでなるものではないからの~……」

「アピトゥタたちのことは分かったが……じゃあどうして俺を探していたんだ?生贄って普通はもう既に死体だろ?」

「生贄が全て同じ人間だったのだから、気にするなという方が無理じゃろ……」


 なるほど、それは確かに異常だと思うな……


「ついに人間共が生物複製の域にまで至ったのかと思ったが……はあ、また死に戻りの異能者か……」

「あ、あの……アルドさん……?」

「え?ああ、すまん。ずっと放置してたな……」

「おお……アルド様……我らを魔族の救世主様……!」

「……はい?」

「助けて頂き、感謝の言葉も御座いません……どうか我々魔族を導いて下され……!」


 ……これは一体どういう状況なんだ?


 たたでさえ帝国が滅茶苦茶になって悪魔という新しい存在が介入し、ようやく現状が理解出来てきたと思ったら、今度は魔族たちが俺の前で跪いていた。

 ミアのお爺さんを筆頭に、まるで神に祈りを捧げるかのように、その眼を希望に満たして……


 ……いやいや、どうして。

 俺がアピトゥタと話していた数分の間に何があったんだ。


「ミア、どうしてこうなった……?」

「そ、その、私はアルドさんに助けて頂いた経緯を話していたんですけど……そこにアルドさんが悪魔たちを使役して私たちを守って下さったことが重なり……」


 そして好感度がひれ伏すまでに上がったと……?


 いや、俺が使役したというより、この国の魔術師たちとゴブディア王が悪魔たちを召喚して自滅しただけで……


「しかし結果的にお主が犠牲になったことで彼らが奴隷の身分から解放されたのは変わるまい?助けた手前、導いてやったらどうじゃ?」

「いや導くも何も、俺は百年間地下牢に詰められていたんだぞ?今の世界のことなんて知らないし、亜人とかの存在もつい最近知った。何が出来るって言うんだ」


 とても何か出来るとは思えない。

 それに俺が百年の間に望んでいたことだが……俺は外の世界を回って、旅をしたいんだ。もう薄暗い地下牢ではなく、自由な世界を謳歌したい。


 百年前に憧れていた冒険者も制度が残っているならなってみたいし……とにかく、俺には無理だ。


「お願い致します……このままでは我ら魔族に救いの目などなく……!」

「と言われてもなぁ……」

「あ、あの……アルドさん、いえアルド様!私からも、どうか……っ!」

「ミアまで……」

「ご迷惑なのは承知の上です……しかし今のままでは世界の魔族どころか、私たちがこの帝国から抜け出すことも叶いません……!」

  

 ミアが震える声で語りだしたのは、今の世界における魔族の立場。そして帝国の影響力。


 奴隷化されている程に魔族の立場は弱くなっており、日々虐げられるのが常だという。そして帝国はこの百年で世界に対しても非常に強い国力と権力を蓄えていて、今日王城一つを破壊しても他の貴族や王族が集まれば再興する可能性は十分にあるらしい。まじかよ……


 つまり、魔族の彼女たちだけでは到底逃げ切れず、今まで以上に残虐な扱いを受けることは避けられないのだと。


「……分かりました。とりあえず、あなた方に危険が及ばない場所まではご一緒しましょう」

「ほ、本当ですか……!?」

「しかし繰り返しますが、私は今の世界のことを全く知りません。どこが安全かも見当がつかないので、基本はあなた方の指示に従います。それでいいなら……」

「わ、我らがアルド様を従えるなど恐れ多いっ……ありがとうございます……!」


 そうして彼らは額を地面につけるほど深く頭を下げる。

 ミアまでそれに倣ってしまってるし……うう、やりづらいな……まさか百年間兵士以外の誰とも関わらなかったコミュニケーションの弊害がここにきて……


「うむ、そうと決まったのなら早々にこの国を出るべきじゃろうな。何よりこの人数は目立つ上、帝国領土から応援が来るのも時間の問題じゃろう」

「……アピトゥタも一緒に来るのか?」

「何じゃ、不満か?」


 どこかノリノリな彼女が、きょとんとした表情で聞いてくる。

 この子がさっきゴブディア王を消化したというのが未だに信じられないな……


「いや……他の悪魔たちは消えたのに、何故残っているのか純粋に疑問で」

「お主が消費した死亡回数(デッド・カウント)分は現界出来るからの。それに我はお主の持つ死に戻りのスキルについてちょいと詳しい……力になれると思うぞ?」

「そうか……いや、この状況で人手はありがたい。よろしく頼むよ」

「……我を人として見るか。つくづく面白い奴じゃな……」


 百年の地下牢暮らしから解放されて初日。

 まさかこうも帝国で暴れ回り、悪魔を呼び、終いには魔族の先導者にまでなってしまうとは……俺の考えていた自由生活とはかけ離れそうな気もするが……


 なってしまったものは仕方がない、

 とにかく彼ら亜人を安全な土地まで送り届けることに集中するとしよう……


「ああ、それとアルド。残りの死亡回数(デッド・カウント)を確認しておくことを勧めるぞ」

「え、何で……はぁ!?」




   ―死亡回数(デッド・カウント):700037

 

 


「いやいや、百万はあったはず……!」

「あれだけの悪魔を呼び出したからの。それにまだまだ死に戻りスキルの熟練度が足りていないのじゃろう。訓練あるのみじゃ」

「訓練ってどうやって……」

「もちろんスキルを行使すること……まあ、つまり」



 ――お主にはより多く死んでもらわねばならんということだ。



 ……これは楽しい旅が始まりそうだな……。

 


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