1.生贄にされた日
「貴様に“生贄”としての称号を与え、栄えある帝国の糧となり続ける栄誉を与える!」
「……はい?」
目の前で目に痛い装飾をじゃらじゃらと付けたこの帝国の王が、大袈裟な動きとともにその肥満気味な身体を揺らして、そう宣言した。
……何を言っているのか分からない。
今日は帝国の国民全員の義務として定められている特別な日だった。
魔法が生きとし生けるものたちの命と生活を支える存在となっているこの世界で、普通では考えられないような異能を持つ人材を見つけ出すための『審判の日』
だからこの俺、アルド=バルティアもこの国の国民の定めに従って、王の招集により審判を受けた。
そして、俺には異能があった。
『死に戻り』という異能が。
そこからだ。謁見の間に描かれた魔法陣の中に入り、審判を受け、死に戻りという異能を持つと側近の魔術師が驚愕と共に呟いた時。
俺には全く、どんな異能かも分からない時。
王が卑下た笑みを浮かべて俺を見下ろしたと思ったら、“生贄”という物騒な称号を与えられてしまった。
「ま、待って下さい!生贄とはどういうことですか!?」
「貴様は『死に戻り』という、異能の中でも更に特殊な力を宿しているのだ。それは、死んで尚生き返るという呪いにも近い異能だ!」
「生き、返る……?」
「しかし言うてしまえばそれだけ。ただ死に続けるだけの屍に過ぎん……だが我らが帝国はそんな屑でも有効に使ってやることが出来る。それが、未来永劫尽きることのない“生贄”としての栄誉だ」
信じられなかった。理解することを頭が否定している感覚がはっきりと伝わってくる。
つまり俺はこれからこの帝国の生贄として、何かしらの魔術の道具として扱われるということなのか。
殺しても死なない、生物からは逸脱した存在として、いつまでも。
「そんな……」
「喜ぶがいい!帝国の繁栄の糧となれるのだぞ!さあ皆の者よ、栄誉ある犠牲者に惜しみない拍手と歓迎を送ろうではないか!この道具により、帝国はより強大かつ豊かな国となるだろう!!」
瞬間、割れるような拍手喝采が巻き上がる。
今日は年に一度の審判の日。周囲には同じく心配を受けに来た多くの若者や、国の儀式を見ようとほとんどの国民が詰めかけていた。
誰もが王の命令に逆らうことなく。
そして、自分ではなくて良かったと言わんばかりに見下した顔だらけで。
味方などありはしない。
……この国は、こんなにも腐っていたのだろうか。
そうして俺は、生贄として捧げられ続けることとなる。
それが魔術の禁忌に触れ、この国を大災害が襲うことになるなど、俺を含めて誰も予言出来なかった。