木花聖女は今日も三色団子を食べます。
聖女っぽくない聖女です。そう言い張ります。
和風聖女です。そう言い切ります。
彼女は清純高潔、神聖な女性です、これでも。
僕の見える世界は赤がない。
白い花びらが舞う中、茶色い鳥居をくぐって、茶色の社の前で手を合わせる。心の中で言葉を吐き出して振り返ると、少女が石灯籠の一段目の台座に座っていた。
「この時期に食べる団子は格別だわ〜!」
串団子を頬張る少女の姿は派手な装飾をつけた巫女姿。僕に気づくと、最後の団子を口に押し込んだ。
「今日もご苦労様」
「え、あぁ、はい」
彼女の横を通り過ぎた時、
「三色団子の意味、知ってる?」
突然話しかけられ振り返ると、彼女の足元に沢山の串が落ちており内心驚く。
「いや」
「一番上のピンクは春の太陽、真ん中の白は名残雪、下の緑は雪の下の新芽、らしいわよ?」
「はぁ」
「待ち焦がれていた春が来て嬉しいという気持ちを表してるんですって。君は春が来て嬉しい?」
「別に」
「えー? 勿体無い! もっと春を楽しまなくちゃ! 折角満開の桜が咲いて、美味しい団子があるんだから。一緒に食べましょ!」
「結構です」
僕は拒否するが、彼女は強引に服を掴んで手繰り寄せ、隣に座らせた。
「まあまあ。もうお願い事も済んだし、やることないでしょ?」
僕は俯いて、口を固く閉ざす。
「学校、行きたくないの? 見たところ若いし、こんな昼間っから歩いてるなんてサボり?」
「別に好きで休んだわけじゃ……」
彼女は新たな団子を目の前に出した。
「さあ、問題です。一番上の団子の色は何色?」
突然言われて顔をしかめるが、僕は迷わず答えた。
「ピンク」
「ぶっぶー! ハズレー!」
「さっき一番上がピンクだって」
「正解は白でした! 君が下を見ている間に入れ替えたの。色がよくわからないのね」
そう言いながら、彼女はその団子をあっという間に食べた。
「色の少ない世界は、少々窮屈よね」
串を天に掲げ、跳ぶ様に立ち上がる。
「串という意味を考えたことがある?」
僕は首を横に振る。
「その状態に長く置かれる事で、違和感がなくなる事。でも——」
彼女は串を折った。
「今は春。私自身も区切り時ね」
串を放り投げ、満面の笑顔で僕を見つめた。
「奇跡は願わなければ絶対に叶わない」
風が僕たちの間を駆ける。白い花びらが吹雪くように舞い、思わず目を瞑った。
「君に最期の奇跡を贈ろう」
風が弱くなり目を開けると、心が洗われるほど艶やかな世界。桜色の花弁が紅の鳥居に色を添えていた。
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補足です。
彼女が食べていた三色団子の串。
一本で一つの春を表します。落ちていた分だけそこにいました。
そして、串とは、何度も繰り返す(=少女は春を繰り返し、少年は赤のない世界を毎日繰り返す)、長く置かれることで違和感がなくなる(=少年の病気)という意味になります。
その串を彼女が折ったということは、それらを終わらせたのです。
彼女は命を断ち、代わりに少年に赤を与えました。
次の春には、もう神社の桜は咲きません。
ですが、少年は鮮やかな世界をずっと見られます。
ちなみに、木花とは桜のことです。