たからもの
僕にはお気に入りの玩具がある。
なんだと思う?
人形?違うね。
テレビゲーム?それも違う。
僕んちで飼ってる犬?いいや、それは玩具じゃない。
正解はね、スーパーカーのラジコンだよ。
ちょうど先月、僕のお誕生日に買って貰ったんだ。
それから放課後はかかさず家の庭で遊んでる。
友達に自慢したら貸してって言われたよ。
でもこれは僕の大切なものだからダメ。
今僕にあるたった一つの宝物だから。
でも今日ね、そのラジコンが壊れちゃったんだ。
犬小屋の近くで遊んでいたら、犬が踏んづけてしまった。
とても悲しかった。
膝をついて俯き、手で顔を覆って、涙を流した。
しばらくそのままでいると、ラジコンからな
んだか不思議なオーラを感じたんだ。
だから僕は顔から手を外し、ラジコンを見てみたよ。
そしたら、なんとね。
ラジコンが淡い光を発しながら、人間に変わって
いったんだ。
えっと、意味がわからないよね。
でも、本当にそうなんだ。
段々輪郭が人のようになって、色が変わり、顔が生まれ、凹凸ができ、髪の毛が生え、遂にはラジコンの要素が跡形もなく消えてしまった。
よくみるとその人は、あぐらをかき、ボロ汚い服を纏った男だった。
驚きで釘付けになっていると、その人はゆっくりと吸い込まれるように空に昇っていった。
僕は状況が理解できていなかったけど、咄嗟に、あなたは誰?って聞いたんだ。
そしたらその人、
「私は釈迦です」
って。
ものが壊れたとき、『お釈迦になった』と言うけれど、まさか本当になるとは思わなかったよ。