第2話 旅立ちの日
「・・はぁ、朝が来たか。この城とも、もうしばらくお別れだな」
青年が旅立つ日の朝。いつも通りの時間に起きたが、やることがない事に気づき、自然と今日から取り組むことを思い出し、憂鬱な気持ちになる。
「エリゼは、泣かずに送り出してくれるかな?さすがに王と王妃は大丈夫だと思うけど・・エリゼ、僕に懐いていたしなぁ」
憂鬱さからか、独り言が多くなっていた。
そんな自分に気づき、密かに自分をあざ笑った。
「僕は、こんなにもここを離れるのが名残惜しかったのか。これが、失って初めて気づく、というやつか。こういうのには慣れていたはずだったんだけどなぁ・・」
ふぅ、と一息吐くと、気持ちを切り替え、支度を始めた。
彼が旅立つ訳は、後ほど分かるだろう。
支度をする、と言ってもそれほど荷物はない。
彼はとあるグループに所属することになるのだが、王の前で正式に命令され旅立つときに、旅で使う道具やらを一式もらうのだ。
強いて挙げるとすれば、着替えやら個人で使うものだけだ。
青年の王城での立場は、使用人。それも、【従者】の銘を付けられた使用人だ。
銘とは、人類に稀に現れる役職のようなもの。
生まれてからずっと、というほど強制力はないが、その時が来れば全うしなければならないものだ。
ただ、稀にと言っても世界に数人しかいない、というものではない。
銘のついていない人間のほうが圧倒的に多いが、世界の4分の1ほどは銘のついている人間なのだ。
この青年の【従者】は、銘の中でも比較的現れやすいものである。
この国では、【従者】の銘がついたものは王城へと集められる決まりとなっていたため、本人らにとってもそれほど珍しいものでもないように思っていた。
青年が憂鬱になっていた理由の一つが、この銘の『その時』であった。
【従者】の『その時』とは、『勇者パーティーが旅立つとき』なのであった。
【従者】は、勇者の従者となり、勇者パーティーの一員として動かなければならないのであった。
それを避けるために今までは王らが頑張っていたのだが、ついに指名がかかり、旅立たなければならなくなったのだ。
勇者が立候補し、仲間と冒険し、ある程度の功績を得ることができると、王から認められ、正式な勇者パーティーとなる。
ここレイブン王国では、その勇者パーティーに、王城に集められた【従者】の中から一人を加えたメンバーで魔王を倒す旅にでるのである。
勇者が1人ではないのは、簡単なこと。
「誰がたった1人にこの世界の運命を決めさせるか!そんなもん勝率低いだろーが!勇者じゃねーと魔王が倒せないってんなら勇者を増やせばいいんだよ!」
ということである。
今からさかのぼるとはるか昔なのだが、初代の勇者が誕生した。
その勇者は神からの啓示で勇者となったのだが、たった1人で旅に出ることは危険である。それゆえに仲間を集めたが、仲間のほうが勇者についていけなくなってしまった。
勇者は、元々強い冒険者であったが、加護の力で莫大な力を手に入れたゆえに人離れしてしまったのだ。
それに気づいた勇者パーティーは、どうにかこの差を埋めることができないか、と試行錯誤した。
そこから導き出された答えは、『加護を複製する』という方法である。