元ヤンとの戦い。
この女、酒強えー!
ガバガバ飲みやがる。
喋りは舌も絡まらず、滑らか。
そして、笑い方がカラカラという表現が相応しいくらい、気持ちの良い笑い方をする。
……くっ、俺はこれくらいで惚れたりなんかしないんだからねっ!
対する俺はというと、父親の遺伝子のお陰なのか、美人を目の前にして緊張しているのか、元ヤンへの恐怖なのか、いくら飲んでもぜんっぜん酔わない。
「へーっ、一升、本当に酒強えーな。『鯛は名前で釣れる』ってのは本当だな」
それを言うなら『名は体を表す』だから。
「酒強いってのはアレも強そうで良いよな」
「あ、アレって――」
「アレは、アレだよ。夜のエッチの方だよ」
「え、えええ?」
「あははっ。童貞の一升クンには刺激が強かったか」
おれは顔を赤らめる。
くそっ、逆だっ。
俺はS男を目指す漢。
ここはマウントを取り返すっ……!
「そ、そういうマイさんもお酒強いという事は――」
「マ、ヤ」
「あいててててふが――っ!?」
元ヤンの名前を間違えたらしい俺は、左手のアイアンクローに右手の鼻フックを同時に喰らって悲鳴を上げた。
「アタシの名前は、マ、ヤ。さっき自己紹介しただろ? ヒトの名前間違えるなんて失礼ダロ?」
「は、はい、すみませんでした……」
巻き舌で凄む元ヤン。
俺はこめかみと鼻を擦りながら謝る。
元ヤンと認識し過ぎて本当の名前を聞き間違えて? 覚え違いをして? いた様だ。
マヤ、だったか。
「マヤ、さんの名前はどんな漢字書くの?」
「魔法の魔、に弓矢の矢、だよ」
「へ、へぇ。……もしかしてキューピッドから来ているのかな」
「ゥヤバい! アタリなんだけど! 一升、お前もしかして頭ヨシ夫君だな!?」
俺はそのまま元ヤンに頭をヨシヨシされてしまった。
しまった、名前の由来を当ててしまった事で元ヤンの好感度を上げてしまったようだ。
思わぬところに地雷が……。
「あの魔矢さん――」
「待って。魔、矢。アタシの方が年下なんだから、呼び捨てでイイよ」
おっと。
ここで年上扱いされるとは。
しかし、そう、俺はこの女より5つも年上だった。
ここで強く出なくては――。
「えっ? 俺の方が歳上だから尊敬語使えって? なんだ、アタシが下手に出たからって調子乗り始めたのか?」
おい、だから、胸ぐらを掴み捻り上げる動作が自然で美しいのは分かったって。
ていうか、顔が近い近い!
「おい、一升。お前少し喜んでないか? 何かキモいゾ」
「う、な、何を。そんな事は断じて無いっ」
「いーやっ、今、嬉しそうだったぞ。まあ、こんな美女なアタシとお話できれば、普通は嬉しいよな。なぁ?」
おい、だから胸ぐらを(略)。
「そ、そうですね。魔矢さんはお美しい女性でいらっしゃるのでお話できて嬉しいです(棒)」
「おいーっ、だから、魔、矢。ていうか、一升、お前何かカワイイな」
か、カワイイぃい!?
またマウント取りに来やがって!
結局、そのまま最後までカワイイ扱いされたまま、屈辱の合コン一次会が終わった――。