猛獣に遭遇する。
結論から言おう。
ユラちゃん、調教済みでした……(驚)。
「SかMか」という定番(?)の質問であり、俺の性癖にも直結する質問を投げたところ、出るわ出るわ、過去のご主人様方とのあれやこれ。
「山田君ならどんな風にワタシを責めてくれるの」
っておい。
童貞(もう偽らない)には少々難易度がハードに過ぎる女だった。
薄っぺらい知識を総動員してS男を演じてみたが、アレはご主人様の経験が無い事は見抜かれてるな。
あのバカにしたような目。
ちょっとゾクゾクするが……。
童貞には荷が勝ちすぎてるって。
という理由で、席替えタイムを利用してとなりのセイナさんにターゲット変更――。
セイナさん。
雰囲気的に、さん付けしてしまう。
某有名企業の受付嬢をしているらしい。
ロングのストレート黒髪が美しい。
うっわ、指細い! 長い! 肌がきめ細かい! まつ毛なっがい!
セイナさんとの話題の糸口を探していたのだが、俺はとうとう猛獣の目に留まってしまったようだ。
「お前、山田っていうんだろ? 童貞なんだって?」
「ば、ち、ちげーし」
「岸本っち情報によると彼女居たこと無いって聞いたけど?」
「おい、岸本ー! 何、俺の個人情報を勝手に話してくれてるわけ!?」
「山さん、すみません。ツカミのネタとして良い仕事でした」
元ヤン(?)はプププと笑いながら、
「おい山田、こっち隣に座れよ。詳しく話をひたすら聞かせろ。ちょっとセイナ、こいつの話聞きたいから席移ってくれる?」
セイナさんは元俺の席(男側中央)へ、元ヤンは元セイナさんの席(女側中央)へ、俺は元元ヤンの席(女側右側)へと移動する事になった。
俺はガックリと肩を落としながら、元ヤンの隣に席を移した。
厄介そうなヤツに目を付けられてしまったぜ――。
「――そんなビビんなって。アタシ超優しいキャラだから」
そして、冒頭のシーンに戻る理由だ。
ちなみに、自分で「超優しい」という人間が優しかった試しなんて無いのは日本の常識である。
「で、山田っちの下の名前は?」
くっ……下の名前まで教えないといけないのかっ……。
「い、一升……」
「いっしょう! へー、意外とカッコいいじゃん。どんな漢字?」
「す、数字の一に、米とかの量をはかる升――」
「あぁ! お酒の『一升瓶』の一升か! オメー意外に意外と超男らしい名前じゃん!」
お、オメー呼びかよ。
あと、誤魔化して説明しているのに、すかさず『一升瓶』に気付くとは。
勉強苦手そうなのに……。
「ま、まあ、そうだけど。『一升』めちゃくちゃカッコ悪い名前だよね。正直、酒呑みの父親を恨んでいるよ」
「へー。親父さんお酒好きなのか。てか、何言ってんだよ。超カッコいいじゃん。『生きて一升、死んで一升』って言うじゃん。カッコいい生き方の名言だよな!」
それを言うなら『起きて半畳、寝て一畳』だろう――いや、酒呑み連中の格言か迷言なんかだろうか。
――それこそ亡き父親が本気で言いそうでイヤなんだが。