元ヤンに合コンで絡まれる。
俺の名前は山田一升。
一升瓶の一升と書いて、そのまんま「いっしょう」と読む。
酒呑みだった親父(既に他界)を恨みたくなる名前だぜ。
そんな不幸な生まれの(と言うほどの大した不幸ではない。一般家庭生まれの)俺だが、今日は人生初の合コンに来ている。
「山田は今何歳? お仕事なにしてんの?」
ヤバい女に目をつけられてしまった……。
俺の苦手なヤンキー女。
俺は今、恐怖に震えている……。
美人は美人だが、恐らく元ヤン。切れ長気味&つり目気味のS系キャラ。金? ピンクゴールド? っぽい茶髪。上下を黒のオサレジャージでキメている。
"――俺は現在28歳のピチピチアラサー男子。
仕事は今時のウェブ系。"
と、心の中では、元ヤンの質問に答えてしまっているが、こいつに下手に情報を与えてはいけないと、俺の生存本能が警鐘を激しく鳴らしている。
俺の夢は白色ゆるふわ系で寂しいと死んじゃう系ウサギ女子を俺好みのM系彼女に仕上げて行く事なのであり、断じてこのような黒色元ヤンS女ではないのだ。
「か、会社のセキュリティ上、個人情報保護の観点から言えな……」
「おい山田?」
が、眼光女子。
この女の胸ぐらを掴み捻り上げるまでの動作がなんと自然で美しい事よ。
数多の修羅場を潜り抜けてきた百戦錬磨のつわものに違いない!
生存本能は俺の意思に逆らい、すぐさま真実を白状してしまっていた。
「そっかー、ウェブ系かー。パソコン? とか使えるの? 今度ウチのPCの調子見てくれる? 最近調子悪いんだー」
「ち、超ヨユー」
だめだ、吃りが止まらん。
俺はこの女にビビってしまってるというのか。
この女にそれと気づかれないようにしないとせんといかん。
「山田っち、アタシにビビってんの? 大丈夫だよ、アタシ恐くないよ? 仏のマヤちゃんとはアタシの事デスよ?」
バレてーら。
ケラケラと笑う、自称「仏のマヤ」。
本当に仏の心をもつ人物には、仏のニックネームは付かないことを俺は知っている。((( ;゜Д゜)))
一体どうしてこうなった――。