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魔女恋  作者: 葛葉
5/14

04.現在02

本日2話目の更新です。

よろしくお願いします。

 


「えっと…俺は、どうしてここに?」



 最初、その言葉はドアの外に出ていたところで記憶が途切れているからだと思った。


「転んで頭打って気を失ったのよ!それでここまで引きずってきたの。」


 もう、まったく!心配したんだから!と安堵が腹立ちに変わったままに荒い息に乗せて言葉を吐き出す。



「頭を…?」


 どこかボーっとしているアレク。

 私に視線は固定されているが、どこか落ち着かない瞳。

 もしや、と思う。


「覚えてないの?


 ……ですか?」



 アレクはためらいながらも頷く。

 私は早鐘を打つ心臓を胸の上から手で抑え、必死に震える声を吐き出す。

あの甘やかな視線と言葉はいつまで?と思ったけど、こういう終わり方は想像もしていなかったな。

予想外の出来事だからか、案外ショックを受けたりしないな、なんてどこか冷静に考えながら呼吸と一緒に気安い口調を整える。



「ここは黒の魔女の庵。私は黒の魔女でございます。

 あなたはアレクサンドル・ヌヴェール様。陛下の密命を受けてこちらに魔女の秘薬を受け取りに来られました。」



 目が大きく見開かれる。


「アレク、サンドル…」



 呟く自分の名前。

 まるで口の中で馴染みがあるか確かめているように繰り返す。

 どうやら名前も覚えていないらしい。


「ヌヴェール様は侯爵家のご嫡男で、現在は領地の騎士団の副団長をなさっています。また先程申しました通り、陛下の密命を受けてこちらにお薬を受け取りに来る係をされていらっしゃいます。」


 やや呆然としているが、一旦言葉を切ると目を合わせて続きを促される。

 咀嚼するもそこそこに、とりあえず目の前の人物から得られるだけの情報を集めることにしたらしい。


「普段は日の暮れぬ内に帰途につかれますが、昨夜は何分酷い嵐が来て…このあばら家にお泊め致しました。

 今朝ご出立するご予定でしたが、洗濯用のタライを外に運び出すことを買って出て頂いて、こう…運んでいるときに…転ばれて…その……頭にタライを落とされて……」


 最後は中々上手い言葉が見つからなかったが、アレクは項垂れて片手でこちらの話をもういいと言うように遮った。


「そして頭を打って記憶をなくした、と……」


「はい、おそらくそのせいかと…」



 気まずい沈黙が落ちる。


 数十秒か数分後、アレクは大きく息を吐き出し、心の整理をつけたようだ。

 タライで…タライが……と聞こえた気がしたが、気のせいだったのだ。うん。



「あー魔女殿?泊めていただいた上に、そんな情け無い理由でご迷惑をおかけして誠に申し訳ない。

 記憶…はないため詳細は把握しかねるが、陛下の密命を受けていたとあらば急ぎ帰還せねばならないだろう。この礼は後日とさせて頂いても良いだろうか?」


 心を立て直したアレクはとりあえず次の行動を決めた。


「礼など不要です。どこか体調に不具合はありませんか?頭部の打撲には薬を付けておきましたが…」


「いや、大丈夫だ。そういえば痛みもない。何から何まで申し訳ない。」


 大きなコブを触り、触ってから今気付いたと驚いている。


「でしたら出立の準備ができましたら森の外までお送りします。」


「いや!そこまでしていただくわけには…!」


 私はふるふると横に首を振る。


「この森は黒の魔女の森。

 記憶をなくした今、安全な道もお忘れでしょう?

 それでは森の外には生きては辿り着けません。」



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