12.現在10
翌日起こされると昼だった。
水分補給、軽食摂取後、入浴。
渡されたワンピースに着替える。
着てきた服やローブや荷物は「若様から返される」そうです。
これも努力?
身支度が終わった頃を見計らってアレクがやってきた。
「城の中を案内しようと思って。」
「私の荷物…」
「何かすぐに必要な物、あった?」
「すぐにっていうか…あの、じゃあその前にちょっと話し合いをし」
「じゃあ行こう。結構急いで回らないと。歩ける?抱き上げる?」
本気の目で言われて諦める。
「……歩ける。」
荷物も諦めた。
アレクの部屋から始まり、中には入らなかったがお父さんや弟さんの部屋などの家族スペース、応接間やホール、サロンなど表向きの場所から、厨房や洗濯場、屋上から地下室(地下牢はあったけど、使われてないって!)などの裏の裏まで案内された。
最後に外に出て城の庭から回り込んで裏側に行くと、畑があった。
「これって…」
入って行って植えられている物一株一株を確認する。
「どう?」
「すごく状態がいいわ。」
その畑は、まるで魔女の庵にある薬草畑そのものだった。他の土地だと色が薄くなったり、小ぶりになったりしてしまうものも、遜色なく育っている。
アレクは今でこそ庵の薬草畑に関しての手伝いなんかもしてくれていたが、最初は薬草と雑草の区別もつかないくらいだった。
専門家を頼ったとしても、この畑をこの状態にするのには大変な努力が必要だったに違いない。
一体この畑を作るのに、何年かかったのだろう?
「じゃあこっちも。」
そう言って手を引かれて連れて行かれたのは小さな小屋。側に井戸がある。
中はがらんとしているが、カマドと最低限といった感じで大きな作業台と小さなテーブルセットがあった。
「薬を作る鍋は『一目惚れしたヤツじゃないと薬の出来が良くない』って言ってたし、明日にでも一緒に必要な物を買いに行こう。
他には何か森に帰らないといけない理由はある?」
居住空間のない分庵よりも小さいが、作業スペースとしてはむしろ広くなっている。
ゆっくりと見てみると庵では手狭だなぁと思っていたカマドの上の収納がたっぷりと造り付けられていたり、カマド自体も大中小の鍋をかけやすいようになっていたり、彼に愚痴ってしまったアレコレが改善されている。
陛下のお薬は渡したばっかりだし、仕事開始はゆっくり道具を揃えても間に合いそうだ。
他には理由は…他には……。
「……家の整理、とか?」
「アナイス!」
ぐっと唐突にアレクに抱きしめられる。
苦しい!
「うれしい!ありがとうアナイス!!」
私は苦しい!
必死の思いで抜け出そうとするも、全然抵抗にもならず、苦しさと疲れでグッタリする。
頭に頰を擦り付けていたアレクは満足そうに腕の力を緩めると、笑顔で蕩けそうな目でひたと私を見つめて言った。
「あの庵を出て城に住んでくれるんだね!」
え?いや、食料とか畑とかそのままで来ちゃったから、片付けとか世話とかしに帰り……
すぐにまた苦しいほどに抱きしめられて、言葉にならなかった。
確信犯だ。やられた。
否定の言葉を言わせない気だ。
というか……まぁ。これくらいで諦めるのは、ね。
そういうことだよ、もー。私チョロいな。
でも、だって、私だって好きだよ。
好きな人を拒否する理由なんて、そんないつまでも真剣に探せない。
✳︎✳︎✳︎
思えば私はずっと諦めていたのだと思う。
淡い希望としていつか叶うことを心の中で祈っていたけれど、ずっと。
彼の気持ちに気付いても、愛していると直接言われても、身体を重ねても、結婚を申し込まれてさえも、幸福感を感じながらどこかでずっと。
諦めていたのはきっと、魔女である私。
人と同じようでいて、ただびとではない。
そんな存在である『魔女』の恋は報われないと、そう諦めていた。
でも彼は、アレクは私を魔女であることから切り離したのではなく、魔女の私ごと受け入れてくれた。
それを感じられたとき、やっと心から幸せだと思えた。
そう、だからこれは、想いを叶えて幸福な『魔女の恋』の物語。
これでほぼ終わりです。
あとはエピローグと小ネタが少し。
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