ライバルキャラなので頑張ります!
月初の私は忙しい。
それは私がある役割をこなしているから。
第1週目の月曜日。
放課後、図書室の入り口付近で私はある人物を待っている。
誰を?って。
それはね…って、ちょうどターゲットが2人揃ってきた。
生真面目そうに本を数冊抱えて、少し早足で歩くメガネ男子と、その人を追うように小走りになりながらも横に並ぼうと必死についていく、清楚な雰囲気の可愛らしい女の子。
この2人の登場を私は待っていた。
先程まで寄りかかっていた壁から身体を離して、近付いてくるメガネ男子のそばまでゆっくりと歩く。
彼の視界に自分が入った事を確認すると、片手を振ってニッコリと笑う。
「颯太先輩、こんにちわ。」
─会えて良かった。
と、小声で独り言のように。
でも、確実に彼の耳に届くような声で呟く。
彼の好みの女の子らしくて健気な雰囲気を演出してみる。
彼の顔がさっと朱色に染まるのを気付かないふりをしながら、彼の目の前に本を出す。
どうやら、先程の演出はお気に召したらしい。と内心ほくそ笑みながら。
「颯太先輩からオススメされた、この本。すごく面白かったです!先輩のお時間がある時に、これの感想と次のオススメがあれば教えていただきたいなと、思ったのですが。」
一気に喋りながらも、チラリと先程から隣にいた清楚な雰囲気の女の子の方を伺って、目を伏せた。
「…今日はお邪魔みたいですね。私、これで失礼しますね。」
そのまま踵を返して、その場から去ろうとする。
─ここからの颯太先輩の行動で今の彼の気持ちがわかる
颯太先輩が、私の後を追う→好感度足りない
私を見送りそのままと図書館デート→この時点での好感度OK
うん、もうわかったかな?
ここは乙女ゲームの世界で。
あの女の子は、ヒロインちゃんで。
そのメガネ男子は、攻略対象の1人で。
私はヒロインちゃんのライバルキャラなのです。
悪役令嬢じゃないよ。
ライバルキャラだよ。
ここ、ここ大事。
常にヒロインの一歩先を行って。
彼が欲しければ私を倒すが良いって感じかな?
月の頭に一回こうやって、落としたい彼とのパラメーターチェックが入り、ライバルキャラの私はその役割を担っているの。
この世界に転生して。
ここが前世で大好きだったゲームの世界だと気付いて。
自分がライバルキャラだとわかって。
落ち込んだり、前世の事を思い出して寂しくなったりしたけど。
大好きなゲームのヒロインちゃんが幸せになる姿を見守りたいって。
そう思ったから。
でも、どうせなら最強のライバルになろうって。
自分磨きを頑張った。
勉強に運動。
美容に健康。
話術に社交術。
全ジャンル満遍なく頑張った。
そして私はこうして、今日もヒロインちゃんの前に立ちはだかるの。
ヒロインちゃん、頑張って。
─そう祈りながら。
っと、説明している間に、攻略対象の颯太先輩が、私の腕を掴んで引き止めた。
あれ?ヒロインちゃん。
好感度足りないみたいだよ?
颯太先輩は、読書しまくれば簡単にあがるのに。
んーヒロインちゃんが狙っているのは颯太先輩じゃないのかな?
結構な頻度で一緒にいるのを見るけど違うのかも??
残念そうな顔は見せないように。
引きとめてくれた颯太先輩にニッコリと微笑みながら。
私はヒロインちゃんの後ろ姿を見届けた。
この日は結構遅い時間まで、颯太先輩とゆっくりと本の話題で盛り上がったまでは、良かった。
その後だ。問題が起きたのは。
颯太先輩には何度も断ったのだが、自宅付近まで送ってくれた。
帰り道、何故か人がいない公園に寄ろうと誘われた。
身の危険をヒシヒシと感じたのは、気のせいではないと思う。
見た目はインテリ系草食男子なのに、意外と肉食だったなんて、そんなギャップはいらない。
ヒロインちゃんが狙っていないなら私も早めに引きたいけど、そこはライバルキャラだし。
もしもの時のために冷たく出来ない。
…ヒロインちゃん、早く誰のルートが教えて欲しいな。
火曜日。
私はランチボックスを抱えて、保健室に突入する。
攻略対象2人目は保健の先生。
白衣とタバコが似合う大人の男性。
「セーンセ!ここでご飯食べていい?っと、痛ーい!」
私は勢いよく保健室のドアを開けて、中に入ると態とらしくイスにつまづき、先に来ていたヒロインちゃんにぶつかって転ぶ。
ライバルキャラは身体を張る時もあるのよ。
今の勢いだと、ヒロインちゃんも痛かっただろう。
ごめんね。でも、これもパラメーターチェックなんだよ。
ここで先にどちらを起こすか。
それによって好感度がわかる。
先生が私たちに近付いてきた。
颯太先輩はダメだったけど、先生は大丈夫だよね?
祈るように一緒に転がってしまったランチボックスをギュッと抱え直す。
と、先生は先にヒロインちゃんに手を差し伸べた。
お?!やったね、ヒロインちゃん!!
狙いは先生だったのね?
では、これより先はお邪魔になるライバルは、これにて失礼するね。
弾みそうになる心を抑えて、1人で立ち上がり、そのまま保健室を出ようとした時。
私は先生に呼び止められ、キチンと整えられているベッドに座って待っているように指示された。
頭の中はクエスチョンでいっぱいだ。
???何故?選ばれたのはヒロインちゃんのはず?
そう思いながらも、言われたとおりベッドの上にポスンと座って待つ。
ヒロインちゃんは先生に促されて、私とぶつかった時に手の甲を少し擦りむいたみたいで、それを消毒して貰っていた。
先生に手を取られ、治療をして貰っている時のヒロインちゃんは、ほんのりと頬を染めてとても可愛らしかった。
うん、これは先生ルートで間違いないかな。
良かった、ヒロインちゃん幸せそうで。
そう、心の中で拍手を送っていたら。
治療を終えた先生はそのまま、ヒロインちゃんを保健室から送り出してしまった。
え?
これから、ヒロインちゃんと先生は幸せランチタイムじゃないの?
また頭の中にいっぱいのクエスチョンマークを思い浮かべていたら。
「さて、次は君の手当てだね。」
そう言いながら先生は、私の足元に跪いた。
先生の視線の先には、先程転んだ時に出来た青アザのついた私の膝があった。
あー、これのせいでヒロインちゃんを帰しちゃったのか…。
ごめんね、ヒロインちゃん。
勢いよく転がり過ぎたね。
心の中でヒロインちゃんに懺悔をし、でも先にヒロインちゃんの手を取ってるから先生はちゃんとヒロインちゃんルートだよと、フォローを入れていたら。
先生に膝をペロリと舐められた。
「…☆◯?!◽︎×?!!」
何が起きたのかわからなくて。
叫んだつもりが声にならなくて。
ただ、ただ口をパクパクさせた。
え?えええ?!!!
今、何が起きた?!何された?!
「せ、先生?!な、何??」
傷口だけじゃなくて、そのままスカートで隠れている太ももの方に先生の視線が移動したのに気付き、慌てて手でスカートを抑えた。
あ、良かった、今度は声が出た。
「ん?何って、手当てだよ?君には特別に先生がちゃんと舐めて消毒してあげるから。他にも傷口あるか確認しないとね。」
そう言いながら、大人の色気全開にして、流し目を送り、ツツッと妖しく私が必死に抑えているスカートの中に手を忍ばせようとしてきた。
う、身の危険を全開に感じるけど。
でも、このゲームR18じゃ無かったはず…。
全年齢対象の健全なゲーム。
今私はベッドの上という危ない場所だけど。
ここは学校、今はランチタイム。
だから、大丈夫…だよね?
「もう、先生ったら。膝以外怪我なんてしてないから大丈夫だよー。それよりご飯食べようよー。お腹空いちゃった。」
先生の視界を遮るように、ランチボックスを振りながらアピールする。
努めて明るく。
何事も無かったように。
先生好みの可愛く無邪気なキャラで。
内心のドキドキは全力で隠して。
そんな私の姿を見て、先生は1つため息をつきながら立ち上がって。
いつものように、お茶を入れてくれた。
その姿をみて、ホッとして。
私はお弁当を食べ始める。
いつものように、オカズを先生に分けてあげた時に。
「お弁当も良いですけど、今度はちゃんと君を食べさせてくださいね。」
セリフもそうだけど。
次は逃がさないって目で言ってるのがわかった。
でも、全力でスルーした。
この時、私は気づいていなかった。
この後の水曜日、木曜日、金曜日の攻略対象者も大体全員同じ感じだったなんて。
その原因は私で。
自分磨きを頑張り過ぎていて。
全パラメーターをカンストしていたとか。
最初から全攻略対象者の好感度を私がマックスにしていたとか。
いくらヒロインちゃんが頑張っても。
攻略は最初から無理だったなんて。
最終的にヒロインちゃんと友情エンドを迎えてから、ヒロインちゃんに指摘されるまで。
気が付いていなかった。
ほどほどって大事なんだよと、未だに攻略対象者から逃げる私を匿いながらヒロインちゃんが呟いた。
残りの3人は爽やか君、チャラ男、一匹狼君です。