蜘蛛の守り輪
○瑠璃子
蜘蛛の世界は結構大変。
私も網を張って獲物を待ち伏せする。
でも なかなか獲物捕まらない。
おなか空くのよねー。
だから男の子と仲良くなった後、隙を見て男の子を食べちゃう女蜘蛛も多い。おなか空いてるし、本能だからしかたないけど。
蜘蛛に生まれたのは運命。
これは別にいいの。
でも・・私、恋をしたいな。
他の生き物のように男の子と一緒に仲良く過ごしたいなー。
仲良くなれるなら相手は蜘蛛じゃなくてもいいんだー。
随分前に桜と人間が恋に落ちたと聞いた。
噂では桜の彼女を守るため、人間が「桜の国」に行った。
彼女を守るため、人間の世界を捨てた・・そうな。
そうなんだー。
桜の彼女・・うらやましい。
いいなー。
私も恋したい。
そして気がついた。
桜と人間でも・・恋は問題ないんだ。
蜘蛛の私だって誰かと恋は可能・・・たぶん。
私も違う生き物と恋できる・・・たぶん。
そっかー。
桜と人間。
桜・・・・。
そうだ。
桜の太守様なら私の相談に乗ってくれるかも。
私たちは節脚族と呼ばれている。節脚族は共通の言葉もあり、また木族や草本族とも話すことが出来る。
普段は取り立てて争いは無い。みんなで平和に暮らしている。でも、いざこざが発生することもある。そこで、縄張り争いや、仲裁が必要なときや、本当に困ったことがあったら、みんな桜の太守様に相談に行く。昆虫やら蜘蛛やらムカデやら団子虫やら、節脚族を分け隔て無く相談に乗ってくれる。
私は相談に行ったことはないんだけどね。
恋の相談。
でも、これは切羽詰まった困り事ではない。相談に乗ってくれるかな?
うーん 当たって砕けろか。
あっと 自己紹介するね。
私の名は 瑠璃子。
節脚族語の名前を人間の言葉で現すと一番近いのがこの名前。
お母さんが付けてくれた。
兄弟姉妹が多いから名付けも大変だと思う。
でも、私ぐらい迄大きくなる子は少ないんだけどね。
蜘蛛は一人で生きるものなのに・・。
恋に憧れている蜘蛛。
ちょっと おかしいかもね。
八角形の網の巣の真ん中でじっと考えた。
どんな子なら私の彼氏になってくれるか?
相手は同じ蜘蛛がいいけれど、やはり幸せの儀式の後、仲良くなった相手の男の子を私は食べてしまう、と思う。
実は仲良くなった蜘蛛の男の子は、まだ 一人もいないんだ。
でも他の節脚族の男は私を恐れて、決して巣に近づいてこない。
う〜ん。
私は男の子と仲良く過ごしたい。
他の生き物の恋人が必要と思う。
似合う相手が見つかるか?
私を恐れない相手が見つかるか?
私が食欲をそそられない相手が見つかるか?
とゆうことで桜の太守様に相談にいくことにした。
○ 桜の太守様
私は葉を折って作った小物入れから大事な物を取り出した。
前から用意しておいた。
蜘蛛の糸で何重にも編んだ「蜘蛛の守輪」。
人間の言葉ならブレスレット。
太守様は貢ぎ物を望まれるそうな。
蜘蛛の守輪は非常に珍しく、普通は蜘蛛以外の生き物は持つことはない。巣以外に多くの糸を使うのは結構な体力がいる。蜘蛛が一生に一度作るのが精一杯。別名「蜘蛛の魂」と呼ばれている。
太守様は桜の国では人間の姿で過ごすと聞いたので、それにあわせて大きく作った。時間もかかった。ふんわり軽いけど私の身体よりも大きい。
蜘蛛が作る通常サイズよりもかなり大きい
私も作り上げた直後はフラフラになってしまった。細い糸だけど強靱で銀色に輝いている。
付けた者にはそれぞれ特有の力をもたらしてくれると言われている。でも私は必要無いと思い、今まで作ったことはなかった。足に着けると効果が現れると聞いている。
桜の太守様は人間が「城」と呼んでいる庭の中にいらっしゃる。城までは少し離れている。飛ぶのが一番早い。
守輪を2本の脚で担ぐ。自分の巣の網から、のそのそ出て行くと、木の枝の先に向かった。
途中で、私の住処であるイチョウの雌木が声をかけてくれた。
「瑠璃子〜 お出かけ?」
私は恋人探しに出かけると伝えた。
「いいな〜。この辺り、いい雄木いないのよね〜。私もついて行ってもいい? 行きたいな〜」
イチョウの木全体が揺れ出した。
大変。
彼女本気かな?
彼女が付いて来てくれたら私も心強い。
すごく、しっかり者だから。
でも、彼女の木に住んでいる他の節脚族はびっくりして、大騒ぎになるかもしれない。
みんなのイチョウだからね。
「あのね、一緒に行くのは、また今度にしない?」
私は慌てて伝えた。
「うふふ、冗談よ〜。じゃ瑠璃子がんばってね〜。」
ちょっと安心した。
彼女に挨拶をしてから枝先に向かって進んだ。
木のてっぺん付近、枝の先に到着。
飛ぶための準備を始める。
風はいい感じに吹いている。
私の秘密の部分から長い糸を出した。
糸を風に乗せる。
風の方向はよいかな。
いくぞー。
そりゃっ。
空中に飛び出し風に乗る。
糸が風を掴み、私を運んでくれる。
ブレスレットを大事に担ぎ、糸をたなびかせ風の中を進んでゆく。
私の得意技。
風に乗って移動するのは久しぶり。
バランスをとるコツを思い出しながら飛んでゆく。
景色が下の方に小さく見える。
気持ちいい。
今のところ順調。
鳥族に見つからなきゃいいけどね。
八つの眼で周囲を警戒する。
私は飛ぶのが好き。
でも、男蜘蛛でも飛ぶのは後込みする子もいるらしい。
なかなか男の子と仲良くなれないのは、これが原因かも。
そもそも、こんなお転婆娘、誰か相手が見つかるかな?
前方下に楡の木が見えてきた。
あそこに一度降りて方向を調整しよう。
私はバランスをとりながら楡の木に向かう。
途中で糸を切り、後は自然落下。
よいしょっ。
うまく楡の木の頂上にしがみついた。
「おや 見慣れない蜘蛛だね。どこかに行くのかな。」
楡の木が話しかけてきた。
大抵の木は節脚族に好意的だ。
木の葉を餌にしている者も、木に恩返しをする。ちゃんと役割がある。
この世に無駄な行為はないのだ。
「楡の木様。少しお邪魔します。桜の太守様に会いに行くの。まだ遠いかな。」
私は守輪をおろしながら返事した。
「もう少し先だよ。何か困ったことの相談かい?」
私は蜘蛛以外の恋の相手を見つけるにはどうすればよいか相談に行くと伝えた。好きになった相手の男の子と仲良く過ごしたいと・・・。
楡の木は答えてくれた。
「そうかい。そりゃー切実な思いだなー。いい答えを貰えるといいね。」
楡の木に励まされ気分が良くなった。
「ところで・・・・。違う種類の恋の相手が見つかったとして、相手の彼との間の子供はどうなるんだい?」
う〜ん、どうなるんだろう・・・・そこまで考えてなかった。
大事な問題だ。
これも相談しよう。
楡の木に休ませて貰ったお礼を告げると、私は再び風に乗って桜の太守様を目指した。
途中でメタセコイアの木と、ポプラの木で休ませて貰った。
「城」が見える。もう少しだ。人間は糸を出して網の巣を作ることはことは出来ないけれど、色々な材料を使って大きな物をつくる。少し尊敬している。
順調に飛んでいる。
桜の太守様が見えてきた。
古い桜の木。太守様は何でもご存じ。
でも私の願いも叶えてくれるかな?
蜘蛛が恋?
なかなか難しいかも。
糸を切り、自由落下しながら方向を定める。
よいしょっ。
ぶーやれやれ。無事に到着。
桜の葉にとまった。
そろそろと移動し、幹に到着した。
この辺りでいいだろう。
「桜の太守様。願わくば、我願いを聞き入れたまえ。貢ぎ物を捧げん。」
太守様にお願いするときの口上だ。
この間、モンシロ蝶を捕まえたときに教えて貰った。彼は相談にいったことがあり、悩みは解決したらしい。その代わり逃がして上げたけどね。
「うん?客人かな。どちらに、おられのかな。おお、そこの蜘蛛殿か。」
桜の太守様は答えてくれた。
落ち着いた声だった。
女性かな?
「瑠璃子と申します。あのー。私の願いを聞いて頂けますか。太守様だけが頼りなんです。これは、私からの贈り物です。」持ってきた蜘蛛の守輪を差し出した。
「ほー。蜘蛛の守輪であるな。これは珍しい。私も昔一度だけ見たことがある。これを付けた者は非常な『力』を得ることが出来る。
ところで願いは何かな?このような物を用意するとは、よほどの困り事か?他の節脚族との もめ事か? 縄張り争いか? はたまた 跡目争いか?」
私は自分の願い事が少し恥ずかしくなってきたけど、ここまできたので正直に話した。
「私、恋がしたいんです。男の子と出会ってずっと仲良くしたいんです。その・・、相手の子を食べてしまうことが無いような恋がしたいんです。どうしたらいいでしょうか?」
暫く太守様から返事はなかった。
やはり相談がふさわしい内容では無かったか?
「あのー・・。」
もう一度聞いてみようとしたとき。
「おお。すまぬ。いや、初めての相談事だったので、少し考えてしまっての。」
少しほっとした。
脈があるのかな?
「そうだな。うん。そうだな。」
桜の太守様は暫く考えている様子ようだった。
すると、突然 提案してくれた。
「そなた、桜の国に来ぬか? 私の使いをしてくれぬか?ある者に持って行って欲しい物がある、ちょっとした旅になると思う。
そなたの、飛ぶ技があれば、旅の距離も苦にはならぬと思う。
そなたの願いは非常に難しい。私もそなたに明確な答えを与えることが出来ぬ。だが環境を変えれば旅の中で願いのヒントが見つかるかもしれぬ。どうかな?。」
突然の提案に少し驚いた。
桜の国、どうしよう。
「桜の国はどんなところでしょうか?行ってしまうと、もうこちらの世界には戻ってこれぬと聞いていますが、本当でしょうか?」
太守様は優しく答えてくれた。
「その通りだが、今回は私の用事も頼む故、桜の国に行った後、一度だけこちらの世界に戻ることが出来るように取り計らう。
桜の国には色々な生き物がおるのでこちらの世界と似ているところもあるし違うところもある。只人間は少ない。
もともとは桜の一族が移り住んだところから桜の国と呼ばれるようになった。しかし、どうやってその世界が出来たのかも、誰も知らぬのじゃ。
いろいろな世界と繋がっておるので、様々な生き物が入ってきて住むようになった。
そなたの望みを叶えるには、今の世界では難しい気がしてな。桜の国に来たからとて、望みが叶うかは分からないが、様々な生き物が集う環境なら、何かきっかけが見つかるかもしれぬと思ってな。」
どうしよう。
桜の国・・・・・。
よーし。恋のためだ。
「私・・・行きます。」
「そうであるか。わかった。」
よしがんばろう。何か準備は必要かな?
「あのー太守様。私、桜の国に行っても言葉は通じますか?他に何か気を付けることはありますか。」
「大丈夫。まず、節脚族とは、今までと同じように話せる。あと、草本族、木本族も大丈夫。まあ、少し変わった種族もおるがな、概ね平和的な種族ばかりだから大丈夫と思う。うーん、それから、何かあったような気がするが、思いだせん。なんであったか。」
言葉は安心した。
太守様が思い出せない位のことだから、小さなことだろう。
ただ、『概ね平和的な種族』が少し気になる。
「太守様。有り難うございます。いつでも大丈夫です。」
「それと実はな、私に贈り物は無くても良いのじゃ。贈り物無しだと、相談の客人が多過ぎてな。本当に困っている者の相談に乗れぬ事があってな。この守輪は持って行きなさい。桜の国で役立つやもしれぬのでな。
それと、このことは他の者は内密にな。相談者が多くなっても困るのでな。
特に用意する事はない。さあ出発だ。」
太守様はそういってくれたので
桜の枝に架けたブレスレットを担ぎ直した。
そうかー。太守様も大変なんだ。
よく考えれば、みんなの相談にのって下さる、お優しい太守様が、贈り物を求めるのも不思議な話だ。
「では。そこの木のウロを通って桜の国に来るがよい。向こうで私も待っておる。着いたら屋敷を訪ねなさい。桜の屋敷と呼ばれている。よいかな。」
私は太守様の言葉を聞きながら、木のウロの中に入って行った。
暗い通路が続いている。
少し進んでゆくと吸い込まれてゆく。
一度行くことを決めると、もう元の場所には戻れないようだった。
「そうそう、蜘蛛の瑠璃子殿。思い出した。こちらの世界から行った者は、桜の世界では、ごく希だが他の生き物に変化する場合があるのでな。それだけ、心づもりしてくれ。」
他の生き物に?。ええっー。太守様ー。早く言ってよー。
私、何になるの?
かまきり?団子虫?・・それとも?
少し不安な中、暗い通路に私は吸い込まれていった
○桜の国
気がつくと、私は真っ暗な林の中に立っていた。
道がまっすぐ続いている。道の先は明るい場所が広がっていることが分かる。かなり遠いい感じがする
取りあえず、明るい方にゆっくり歩いてゆくことにした。
周りを警戒しながら。
でもなんだかいつもと違う。
脚がもつれてしまう
暗いので自分の姿も朧気だ。
それに何かフワフワしたもので全身を包まれている。
蜘蛛は普通、なにも身に付けない。
なんだろう?
明るい場所の近くまでたどり着く。
ようやく自分の姿が分かってきたけど・・・・脚が・・4本しかない。
それにいつもに比べ目線が高い。
前の脚は、先で五つに分かれている。
分かれた部分は、とても滑らかに動く。
もしや・・これは・・・。
明かるい場所にでた。
周りは田圃が広がっている。
近くに泉があったので、しゃがんで恐る恐る覗いてみた。
水面に人間が写っている。
前足を振ってみた。
水に写った女の子も振っている。
私・・・・人間に・・・なっている。
えーっ。
呆然としている私。
【桜の世界では、他の生き物に変化する場合があるのでな。】
太守様の言葉通りになった。
どうしよう。私、大丈夫かな?
泉の淵に、蛙がいた。
私と目が合う。
私に向かって話しかけてきた。
「よー。人間のねーちゃん。ここで何してるんだい。」
「ねー蛙さん。私の姿、どうなってる?」
「どうって、人間だよ。それにしても、あんた、背が高いねー。それにべっぴんさんだねー。あまり見ない顔だけど、どこから来たの? ここで何してるの?なにか捜し物かい」
う〜ん。
やはり。人間。
ま、悩んでもしょうがない。
そうだ、太守様が待っているかもしれない。
「蛙さん。この辺りで、桜の御屋敷を探しているの。場所分かりますか?」太守様との待ち合わせの場所を探さなくてはいけない。
「この道をもう少し歩けば、桜の御屋敷があるよ。そこにはね、ちょうどあんたぐらいの若いねーちゃんがいるよ。とても綺麗でね。でも旦那と子供がいる。おれも人間なら、相手はあんな子がいいよ。とても優しい子でね、おいらが屋敷の中の小さな池で泳いでいると、ふわふわした不思議な食べ物をくれるんだ。」
そうか、屋敷はそんなに遠くないんだ。
「わかった。蛙さん、有り難う。」
「じゃ、あんたも気を付けてな。そうそう、あんたの着ている着物、とてもよく似合ってるね。」
彼はそう言い残すと、泉に飛び込んだ。
暫く泉の側にいて考えた。
今、蛙と話をした。節脚族、草本族、木本族以外とは、話をしたことがなかった。そもそも言葉が通じない、筈だ。
何故だろう?
それに、全身を覆っている薄い布。
蛙さんが言ってくれた「着物」だろうか。
黒灰色に、瑠璃色の模様が入っている。
4本足を、覆っている。
蜘蛛の時の私と同じ色だ。
これも不思議だ。
考えても答えは出てこない。道を進むことにした。
少しづつ進んでゆく。
前の方に大きな御屋敷が見えてきた。
相変わらず、二本脚は歩き難い。
屋敷前に人間が立っている。女性二人だ。
一人は、そうだ、太守様に違いない。
雰囲気で何となく分かる。
もう一人の若い女性は誰だろう?
ぎくしゃく歩きながら二人に近づくと話しかけてくれた。
「瑠璃子殿、ようこそ桜の国に。私が桜の太守じゃ。」
隣の若い女の子が頭を下げ挨拶してくれた。
「瑠璃子様、お話は太守様から伺っております。美桜と申します。」
先程、蛙さんに教えて貰った子だろうか?
「瑠璃子と申します。えーと。今は人間ですが・・。」
太守様が遮った
「まま・・挨拶はそれぐらいで。少し話をしようかの。」
そう言って、私に目配せをした。
美桜と自己紹介してくれた彼女は、お茶を用意しますと言い残し、足早に先に屋敷に入っていった。
屋敷から少し離れた場所に桜がある。
太守様が「あちらに」と手で示してくれた。
桜の木に向かって太守様は歩き出したので、私も並んで歩き出した。
私は太守様より頭一つ背が高い。
今の私は人間の女性としては背が高い事が分かった。
太守様は一緒にあるきながら、小さな声でそっと話してくれた
「瑠璃子殿。すまぬ。この桜の国では、以前の世界の姿を告白するのは、慎重に頼みます。相手がどのような感情を持つか分からぬのでな。
桜の国は色々な世界と繋がっておる。そなたとは違う国から来た者もおるのでな、自分のことを話すときは慎重にな。
私も、そなたがまさか人間に変化すると思ってみなかった。多くの場合は元の世界の姿のままで、こちらに来るのでな。予期せぬこととはいえ、すまなかった。」
太守様に謝って貰うと恐縮するばかりだ。
「いえ、桜の国に来たいと言ったのは私ですから。」
「そうか。」
太守様はそう言って、口をつぐんでしまった。
考え事をされているようだ。
もしかして、まだ私の知らないことが有るのかな?
まあ、そのうち分かるかもしれないか。
そうだ、私の仕事のこと聞かなきゃ。
歩きながら尋ねてみた。
「ところで太守様。」
「なにかな。」
太守様も顔を上げ、微笑んで答えてくれた。
「私は、えー どうすればよろしいのでしょうか?確か何かを届けるとのことでしたが・・・。」
「実はな、私の年の離れた妹が遠くにいる。正確には居たのだがな。亡くなってしまったと聞いた。やむを得ぬ事。
ただ、妹の連れ合いがおってな、風の噂では、その者はまだ生きておると聞いておる。その者にお悔やみの手紙を届けて欲しい。
私もその者に会ったことはない。どの様な者か詳しいことは知らぬのじゃ。しかし妹の連れ合いなので、一度手紙を送ろうと思ってな。
妹は連れ合いを私には紹介してくれなかった。
なにかよほど事情があったのだと思う。
まあ過ぎたことだ。
本来は自分で行けばよいのだが、大変遠いので、私が行くのはもう無理と思う。年なのでな。でも蜘蛛の瑠璃子殿なら風に乗って、容易く遠くまで行けると思うた。しかし、今は人間じゃ。どうすればよいかと思ってな」
そーか。太守様も妹様がお亡くなりになりお寂しいのかもしれない。それに連れ合いの方を思う気持ちも分かる。
よし、何とかなるだろう。
「分かりました。場所を教えていただければ手紙をお持ちいたします。
何とかたどり着くようにいたします。」
「そうか。すまぬ。よろしく頼む。
それと実はな、人間の瑠璃子殿は私の妹によく似ておる。これも何かの縁かもしれない。
妹は昔、この屋敷に住んでいたのだが、今は妹のことを知っておる者は、この辺りにはもう少ない。だが間違える者もおるかもしれぬので、察してほしい。」
太守様は嬉しそうだった。
歩いていると桜の木に到着した。
「この桜はな、妹の髪から育ったのじゃ。妹の分身なのだ。」
太守様はじっと桜の木を眺めていた。そして落ちた葉を三枚拾うと、手のひらを併せて、しばらく葉を包んでいた。
「妹様のお名前は、なんと言うお名前ですか?」
「彼女の名は、明州。どこかでこの名前を聞く事があるかもしれぬ。それと、この葉をお持ちなさい。もし旅の途中で困ったことが有れば、この葉を出しなさい。桜の太守と桜の明州の使いの者と分かれば助けてくれる者がおるかもしれん。」そう言って、先程の葉を渡してくれた。
「他に何か気をつけることは有りますか。」
「うむ、そなたは人間に成り立てで動きもままならぬと思う。この屋敷で少し身体を馴らしてから旅に出ると良い。先程、美桜と名乗った者には話をしてある。気だての良い子じゃ、何でも相談すると良い。」
○美桜
その日から、人間の生活が始まった。
2本脚の動きも、徐々に慣れていった。
前足、じゃなかった、腕も指も起用に動く。やれやれです。
とはいえ、屋敷では居候の身。
何かお手伝いと思うけれど、まだ出来ることは限られている。
特に「火」は苦手だ。
そこで私の仕事は子供達の相手。
美桜殿は忙しそうだ。
屋敷の主はよく日に焼けた男で、いつも多くの人に囲まれている。
この辺りの農作業を取り仕切っているみたいだ。
皆からは、主様と呼ばれている。
朝になると屋敷には大勢の働き手が集まり、食事をしている。
美桜殿は、年若いおなご衆の頭になり、食事の用意に忙しい。
私も配膳したり、お茶を入れたりすることは出来るようになった。
子供たちはまだ小さい。男の子と女の子の双子。
5歳と聞いた(人間の時間の数え方にも慣れてきた)
蜘蛛なら生まれてからは、一人で食事も探さなければ行けないけど、人間の子は発育に時間が必要でもう少し親の面倒が必要。
親にかまってもらい、少しづつ体力も付いていくようだ。
でも美桜殿はそこまで手が回らない。特に今の時期は忙しいようだ。
美桜殿の代わりに子供達の遊び相手になるのが私の仕事。
「美桜殿。子供たちと出かけてきます。」
早くも子供は私の周りにまとわりついている。
瑠璃殿、瑠璃殿 と呼んでくれる。
「ああ、瑠璃子殿、申し訳有りません。助かります。
周、桜。美桜殿のお話をよく聞くのですよ。」
優しく二人の子供に話しかけていた。
私も、母のことを思いだしていた。
名前を付けてくれたときに、一度会っただけ。
優しそうな女蜘蛛とかすかに記憶している。
美桜殿を後にして3人は手を繋いで出発した。
近くの田圃や、小川が遊び場だ。
外は少し暑いけど、日陰は涼しい。
まだ本格的な夏にはなっていない。
子供たちは元気いっぱいで走り回っている。
山がずっと連なっている。
遠くには高い山が。あの山の向こうが太守様の妹の連れ合いが居るところらしい。そろそろ、出掛けるときが来た。私も人間の身体に慣れてきた。
私と桜が田圃の土手沿いに座っていると、周が枝を持ってきた。よく見ると枝の先に何かが動いている。
「瑠璃殿。この生き物、何でございましょう?」
私の掌と同じぐらいの大きな蜘蛛が枝の先で、少しあわてている。
「周殿。それは『蜘蛛』と呼ばれる生き物です。」
この世界で蜘蛛を見るのは初めてだ。
蜘蛛の数は少なそうだった。
私は蜘蛛と目があった、こちらを見ている。
と、蜘蛛が私の心に話しかけてきた。
(助けて下さい。僕は行くところがあるのです。『望みの泉』に。)
心に話しかけてきた。元の世界でも無いことだ。
そう言えば、桜の世界に来たときも蛙と話をした。
何故だろう?
(わかったわ。)
自分でも知らず知らずに返事をしていた。
どうして心で話が出来るのだろう?
はっと我に返った。
今は自分のことよりも、子供たちに答えるのが先だ
「蜘蛛を逃がして上げて下さい。どこか行くところがあるのかもしれません。小さな生き物も大切に。周殿。どんな生き物もね。わかりましたか。」
「はい。瑠璃殿」彼は枝と共に蜘蛛をそっと、地面に降ろしてやった。蜘蛛は急いで去っていった。
横に座っていた桜が、私の顔を見上げ聞いてくれた。
「瑠璃殿はどこか遠くに行ってしまわれるのですか?」
小さい子に聞かれると答えに困る。恋人探し、なんてね。
「ええ、もうすぐ、出発します。桜の太守様の手紙を届けに参ります。」
「そうですか。」
桜は少し俯いて、私の着物の裾をぎゅっと握りしめた。
「瑠璃子が居なくなっても、どうか母上様、父上様を大切にして下さい。お願いします。」桜の手をそっと握りしめた。
桜はこちらを向くと「はい」と答え、にっこり笑ってくれた。
○ミナミ
数日後の夜。その夜は桜の太守様も屋敷におられた。私は太守様、美桜殿と主様に、明日の朝に出発しますと告げた。前からそろそろですと伝えていた。
「そうですか。寂しくなりますね。子供たちの相手をしていただき有り難うございました。無事に仕事が終わったら、是非また屋敷によって下さい。」主様は子供たちの面倒を見てくれていることをいつも感謝してくれる。
「これは瑠璃子殿の旅に役立てばと思い用意しました。」
美桜殿が小さな肩掛け袋と麦わら帽子を渡してくれた。
中を見ると干した乾燥食料や怪我の塗り薬等、旅に役立つ道具が入っていた。
親切が有り難かった。
蜘蛛も人間にいじめられることもある。
人間とは残酷な面と親切な面ともつ不思議な生き物だ。
さらに主様の言葉は続いた。
「これから瑠璃子殿が向かわれる山の方には私も行ったことがありません。ただ噂では、様々な種族が住んでいると聞いております。乱暴な者は少ないとは聞いておりますが、用心をお願いします。」
どんな種族だろう?
まあ、今から心配しても仕方ないか
「有り難うございます。」
食料と旅の注意は有り難かった。
桜の太守様も教えてくださった。
「少し変わった生き物もいますが平和で友好的だし、場合によっては姿を見せないこともあります。外観に偏見を持たず、自然に接すれば良い。」
こうして屋敷での生活も最後の夜となった。
その夜、私は屋敷の中の自分の小さな部屋に一人でいた。
菜種油の火がぼんやりと部屋を照らしている
ただ、やはり火は苦手なので、少し離れている。
桜の太守様からいただいた地図をみる。
薄い紙に、草の絞り汁で描いた緑色の絵。
ここからまずは東側に進むといいらしい。
途中で湖らしい場所が書いてある。
湖の向こうに山の絵がある。
山の絵は少し縦長で不思議な形をしているが、目立つように描いて下さったのだろう。
太守様が若い頃に行った記憶で書いて下さった。
だから詳細は分からない部分も多い。
ま、なんとかなるか。
縁側から外の庭を見る。
月が綺麗だ
庭の小さな池に月が写っている
ふと思いついたことがあった。
夜着を全て脱ぐと、小さな鏡の前に立った。
これまで自分の身体がどうなっているのか、じっくり見たことはない。
蜘蛛のあたしが人間に。
正直なところ、自分を見るのが怖かった。
でも、旅立つ前に自分の姿を確認しなくちゃ。
鏡の中に裸の私がいる。
上から下に指をはわせ、目で眺めていった。
胸の膨らみ。
くびれた腰。
そして、ふくよかな脚。
とても不思議に感じた。
これが今の私。
蜘蛛とは違う身体。
「君、綺麗な身体してるね。」
どこからともなく小さな声が聞こえた。
声の主は上の方に居るように聞こえた。
天井の片隅に、何かいる。
そこには、蜘蛛が。
声に聞き覚えがある。
確か周殿が何日か前に捕まえた・・。
私は夜着を羽織ると、その部屋の片隅に近づき、蜘蛛を見上げた。
「人間の女の子が裸でいるところを、こっそり見るのが趣味なの?」
別に裸でも恥ずかしくないけど、今は人間の女の子なので一応抗議をした。
「ああ、ごめんなさい。失礼しました。謝ります。」
素直に謝られると、こちらも受けなくてはならない。
「そなたを許します。謝罪を受け入れ、以後は友達となります。」
節脚族は相手と争いがあっても、謝られると受け入れなければいけない。
それ以降は相手の事を労り、仲良くすることが義務だ。平和に暮らすことが一番良いことと皆知っている。
それで受け入れの常套句がついつい口から出てしまった。
「今の言葉。君、蜘蛛の友達が居るの?蜘蛛の気持ちが分かるの?」
「いや、別にそうじゃないんだけどね。」
自分が本当は蜘蛛であること知られないようにするの難しい。
彼の不思議そうな気持ちが伝わってきた。
話題を変えないと。
「ところで、私の部屋にどうしているの?何か用事?」
蜘蛛の彼は、ゆっくり答えてくれた。
「どうしても君に尋ねたいことがあってね。後を着いてきて、君が一人になるの待っていたんだ。
あの時、君と心で話した。何故、人間の君に僕の心の声が届いたんだい。」
「私も分からないわ。」そう伝えながら、腕の守輪に手を当てた。返事に困ったことが有ると自然に手が守り輪を触ってしまう。
「それ、どうしたの?蜘蛛の守輪。人間が手に入れるのは、ほとんど無理な筈なのに。それにてとも大きい。」
彼は不思議そうに尋ねてきた。
と、同時に彼は自分の前足に付けた小さな守輪を見せたくれた。
自分で作った守輪だけど、他人には自分の本当の姿を明らかにするのは慎重にとの桜の太守様の言葉を思い出した。
「これはある人から貰ったの。もちろん人間よ。実はね私、別の世界から来たの。その時に貰ったの。」
「そうかー。その人は幸運を君に分けてくれたんだ。
この世界ではね、その守り輪を付けた者は相手がどんな生き物でも話が出来る。誰とでもね。それに守り輪を持った者同士は、心の声で話をすることが出来るんだよ。君の雰囲気が他の人間と少し変わっているのは君が別の世界から来た為なんだね。」
良かった。とにかく、人間と信じてくれたようだ。
「あ、ところで君の名前教えてくれたら嬉しいんだけど。」
彼が聞いてくれた。悪い蜘蛛ではなさそうだ。
「私は瑠璃子。あなたは?」
節足族語の字も書いて教えた
「僕の名はミナミ。よろしくね。」
彼は糸を使い、すーっと降りてくると私の顔の前にぶら下がった。
もし私が今も蜘蛛なら、こんな素直な彼が良いな。
「ね、瑠璃子。君は旅の支度をしているみたいだけど、どこかに行くの?」主様と美桜殿が用意してくれた小さな肩掛け袋が側にあった。
「ええ、桜の太守様のお使いで、届け物を運ぶの。東に遠く見える高い山の更に向こうにある山を目指してゆく予定なの。」
「そうなんだ。君の目指す山の名前は分かるかい?」
私は地図を出して、目的地の縦長に描かれた山を指さし、彼に説明した。
「名前は分からないけど、ここよ。」
「僕も行ったことはないけど、その形の山は一つしかないはず。その山は『あやかしの東山』と呼ばれていて、色々な言い伝えがあると言われているんだ。」
ふーん、そうなんだ。その山にも興味がわいてきた
「実はね、僕も願い事があって『望みの泉』に行きたいと思ってるんだ。泉の詳しい場所は知らないけど『あやかしの東山』の近くだと聞いている。でも蜘蛛の僕じゃ、何日もかかる。いや何十日かもしれない。」
確かに歩いてゆくと時間がかかりそうだ。
風に乗って飛べば早く行けると思うけど、何故飛んでいかないかと聞けば、ミナミに怪しまれそうだった。
「よかったら、僕も瑠璃子の旅に連れて行ってくれないかな。君の旅の助けになるかも知れない。君の知らないことを、教えることが出来るかもしれないよ。どうかな?」
確かに、身体は慣れたけど、分からないことも多いと思う。
彼がいれば、不要な危険を避けることが出来るかもしれない。
一緒にお願いと返事をしようとしたら、別の声が聞こえた。
「おいらも連れて行ってくれよー。」
庭の方から聞こえた。
誰だろう。
「ここだよー。」
池の側に蛙がいる。
部屋から庭に差す明かりで、小さな姿が見えた。
思い出した、この声は、この世界に来たときに会った蛙さんだ。
「『あやかしの東山』に行くに途中で『霧の沼』の傍を通るはずだよ。沼で旅の情報を得ることが出来ると思う。おいらがいれば、沼の水族から色色な情報を貰うことが出来る。旅もスムーズに運ぶと思うよ。」
霧の沼。そうか。まだまだ知らない場所があるんだ
でも、この蛙さんは何故一緒に行きたいんだろう。
「蛙さん。どこか行きたい所があるの?」
「『霧の沼』は、おいらのばあちゃんの生まれ故郷と聞いている。そこに一度行ってみたいと思ってね。おいらの遠い親戚がいると思う。親戚にも会ってみたいよ。おいらも連れて行ってくれたら嬉しいんだけど。」
なるほど。まあ、仲間が多い方が心強い。
「じゃあ、蛙さん。一緒にお願いします。私の旅を助けて下さい。
もちろんミナミもね。3人で。いいよね?一緒に。」
「いいんだけど、一つだけお願いが有るんだ。」
ミナミからのお願いがあった。
何だろう?
「蛙さんは、その・・・僕を食べないよね。」
そうだった、蛙さんは蜘蛛でも、昆虫でも食べちゃう。
私もずっと人間なので忘れていた。
「大丈夫。おいら、旅仲間を食べることはないよ。約束する。あのー、自己紹介遅れたけど、おいらは楽太と呼んでくれ。そっちはミナミと呼んでいいのかな?お姉ちゃんは瑠璃ちゃんでいいのかな?」
ミナミはホッとしたようだった。
とりあえず自己紹介も終わった。
「さ、みんな、明日は早いから。そろそろ寝ようか。」
私も人間になって夜は早く眠るようになった。
ポチャン。
蛙の楽太は池に飛び込んだ
ミナミも天井の巣に戻ろうとしていた。
戻る途中で、私にそっと教えてくれた。
「蜘蛛の糸の守り輪を身に付けた者は、言葉以外に、もう一つ能力が備わると言われている。瑠璃子は、何か変わったこと無いかな?」
うーん、何だろう。変わったところ
「分からないな〜。ミナミは何かある?」
「僕は自分の糸がとても強くなった。でも実用上は、特にこれ以上強い必要はないんだけどね。最初は気がつかなかったけど、自分の巣が壊れに難くくなったので気がついたんだ。理由をいろいろ考えたけど分からなかった。他に理由が見つからないから、守輪の影響と思う。」
なるほど。もう少し自分をよく観察した方が良さそうだ。
「有り難う。よく自分を確認してみる。」
ミナミは静かに巣に戻って行った。
○ 夢
夜着を直し、床に入った。
菜種油の火も火消し蓋で消した。
楽太は「霧の沼」に行きたいことが分かった。
ミナミは、たしか「望みの泉」。何か願い事があると言ってたけど。どんなことだろう?
それと、さっきのミナミの言葉が気になる。
もう一つの力。何だろう?
ま、そのうちに分かるかもしれない。
さ、寝ますか。
人間になってから、面白いのは様々な夢を見ることだ。
蜘蛛も夢を見るけど、獲物を逃したこととか、天気がいいこととか単純な夢が多かった。
人間の夢は複雑だ。
過去の出来事や、有りもしないことが夢に出てくる。
明日から3人、いや3匹だ。
自分が本当は蜘蛛であることもミナミと楽太に話す必要があるかもしれないな。いつかは。そんなこと考えているうちに、うとうとしてきた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
夢をみているようだ。
木の上にいる。今は蜘蛛に戻っている。
私は葉の陰で休んでいた。
葉を通じて脚に振動を感じた。
近くに何かいる。敵か?
それは葉の向こうから姿を現した。
大きな女蜘蛛だ。
胴に傷を負っている。
脚も一部無い。
かなりの勇士だ。
油断できない。
私は身構えた。
蜘蛛同士が会うことは少ない。
私が彼女の縄張りに入ってしまったのか?
その蜘蛛はゆっくり私に近づいてきた。
すると、思いも寄らない言葉が・・・。
「瑠璃子、元気かい?」
(えっ。)
「大きくなったね。私のことは覚えてないかもしれない。小さいときに一度会ったきりだからね。」
(誰なの?)
「いいえ、覚えてなくていいのよ。今日はあなたにお話ししたくてね。
あなたがつくった「蜘蛛の守輪」。大きくて良くできている。
守輪はね、普通は二つの力を与えてくれるの。
でも、あなたの守輪は大きい。
過去にも大きい守輪が、三つの力を与えてくれた言い伝えがあるの。
あなたの守輪はね、一つ目は『言葉の力』、二つ目は『小さくなる力』を与えてくれるの。
でも、三つ目の力は私も分からない。言い伝えでは、三つ目の力は、危険なときや、友達を助けたいときだけ働くと言われているの。」
「あの、どうして二つ目は『小さくなる力』と分かるんでしょうか?」
私は素直に聞いてみた。
「それは、私の経験からよ。同じ血族は同じ力を守輪から与えられるのよ。」
(同じ血族?)
「私の言いたいことはそれだけ。じゃ、元気でね。」
そういって、女蜘蛛は、立ち去ろうとした。
「お母さん・・・なの?」
私は恐る恐る尋ねてみた。
彼女は立ち止まり、優しい声で答えてくれた。
「蜘蛛はね一人で生きてゆくものなの。
親兄弟でも敵になることも有る。
恋人が欲しいあなたは、少し変わっている。けど、それも良いと思う。
蜘蛛には友達が出来ることは少ない。それだけに友達は大切にするんだよ。たとえ友達が蜘蛛でなくてもね。」
最後の言葉を言い終わると、葉の向こうに女蜘蛛は去っていった。
(有り難う。お母さん。)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
○ 出発
屋敷に朝が来た。
私は手早く用意をする。
美桜殿にお願いして、使っていない小さな鉢を貰った。楽太の移動用水槽だ。
用意して貰った肩掛け袋には、携帯食料、地図、明州様の葉 など必要な者を積めた。
いよいよ出発だ。
主様と美桜殿、それに周と桜が屋敷の前で見送ってくれた。
「では瑠璃子殿。無事の旅を。是非、帰りに寄ってください。」主様から有り難い言葉を頂いた。
私はこんな場面は苦手。
蜘蛛は一人で生きるもの。親しくなった者との別れは初めて。
「お世話になりました。」
私は深々と会釈すると、足早に去った。
ずっと私に良くしてくれた人間たち。
涙が出てきた。
こんな姿、他の蜘蛛には誰にも見せられない。
今は人間だけど、やはり私は蜘蛛。
蜘蛛は獰猛な生き物。
涙は似合わない。
少し歩くと振り返った。
4人が手を振ってくれている。
「ありがと〜」
私は大声で叫びながら、手を振った。
○ 仲間
屋敷から離れ少し歩くと、私は小さな箱を取り出し、ふたを開けた。
中からミナミが現れた。
「やれやれ。やっと広いところに出た。」
私はミナミを手に乗せ、自分の肩に置いた。
「人間の女性は蜘蛛が苦手な筈なのに、瑠璃子は平気なの?」
「うん。まあね。大丈夫。」
あまり細かいことは言わなかった。
ミナミは鋭い。私とは大違い。
そのうち私の正体を話さなければいけないと思う。
そろそろ楽太との約束の場所だ。
道の右手に小さな川が流れている。
美桜殿に頂いた陶器の鉢を出し、川の水を入れた。
「おいら、ここだよ〜」川縁の岩に楽太がいる。
こちらを見ている。
私は鉢の中にそっと楽太を入れた。
さあ、いよいよ 3人で出発だ。
地図の道に沿って歩く。
小川沿いの道も、平坦で歩きやすい。
水を入れても楽太の鉢はそんなに重くない。
両手で抱えて、なるべく揺れないようにした。
まずまずのスタートかもしれない。
天気は良い。
途中で3回休憩し、楽太を鉢から出し石の上で休ませた。
窮屈なところは少し苦手らしい。でも文句も言わずに耐えている。それほどまでして楽太の行きたい「霧の沼」はどんなところだろう?
その日は川沿いの道をひたすら歩いた。
遠くに山が見える。まずは真っ直ぐ歩いてゆく。
夕方になり野宿の場所を決めた
大きな桜の木があった。
夕方になり携帯食をかじり食事は終了。
ミナミは食事に出掛けた。
楽太は川の真ん中にある石の上で鳴いている。
私は横になって薄い毛布にくるまり、空をみる。
星が綺麗だ。
この旅が無事に済んだらいいなー。
そして 素敵な相手に巡り会えたら・・・
でも、やはり蜘蛛には難しい相談かも・・。
少し弱気。
いや大丈夫。
一人になってちょっと不安なだけ。
いや3匹一緒だ。
がんばろう。
いつの間にか傍にミナミが。帰ってきたようだ。
「ねえ、瑠璃子。君のこと聞いても良いかな。」
何だろ。ミナミの質問はドキッとする。
「君は桜の太守様の手紙を明州様に持って行くのがこの旅の使命だね。」私はそうだよと答えた。
「別の世界から来たと君は言ってたけど、手紙を持ってゆく以前に何か目的があって来たの?」困った質問だ。ミナミには隠し事は難しい。でも正直に答えても良いかな、と思った。
「私ね、恋人を探しにこの世界に来たの。正確にはそのきっかけ作り。ちょっと私に個人的な事情があってね、元の世界では難しそうだったのでこちらの世界に来たの。来たのは桜の太守様から頂いた御提案なの。」
本来の世界では蜘蛛だったことを除いて、正直に話した。
「そうなんだ。でも瑠璃子はとても素敵な人だと思う。それに綺麗だしね。蜘蛛の僕から見ても。すぐに良い人が見つかると思う。」
綺麗と誉められて少し嬉しかった。
「瑠璃子はどんな相手が良いんだい?」
そうだなー。
少し考えた。
「私ね、お世話になった、主様と美桜殿が理想と思う。お二人はいつも仲が良くて、それに楽しそう。」
そう、あんなカップルが良いなー。
「瑠璃子は、あの二人がどうやって結ばれたか知ってる?」
何か事情があるのかな。
私は知らないと答えると、ミナミが話してくれた。
「昔、ある男が桜の木をとても大切にしていた。花が咲くと桜に綺麗に咲いたと誉めていたんだ。その桜は自分を大切にしてくれる男に恋をしたが、桜と人間。桜には無理な話。
ところが、ある人間の女性がその桜の木の傍で事故で亡くなったんだ。死んで幽霊になった彼女は事故の原因を作った犯人に恨みを晴らすべく、自分の死体を桜に与えた。桜を人間の姿に換え、恨みはらしの手伝いを頼んだんだ。
桜は人間になり、恋しい男の側に行った。
しかし、恨み晴らしの手伝いを終えた桜は、「桜の国」に帰らなければ行けない。でも、帰った桜は恋しい男に会えなくなり、寂しさのあまり枯れる運命だった。
男は迷った後に、自分の世界を捨て、桜と一緒に「桜の国」に行くことにしたんだ。そうすれば彼女は寂しさのあまり、枯れることはない。
あの二人の馴れ初めだよ。」
ふーん、知らなかった。
あの二人が噂で聞いた桜と人間だったんだ。
そんな過去が。
「瑠璃子も良いひと見つかるといいね。」
ミナミはそう言って、自分の巣の寝床に帰って行った。
私もしばらく美桜殿と主様のことを考えていた。
あの二人のように相手を思いやることは難しいことだと思う。
でも、私は相手のことを労ることが出来るかな。
今まで一人で生きてきたからね・・・。
そのうち眠ってしまった。
○湖
良い天気が続いた。
美桜殿に貰った、小さな麦わら帽子が役に立った。
雨が降らないのは助かる。
陽気でおしゃべりの楽太と、いつも慎重なミナミ、そして今は人間の私。
3匹で歩いていると、ずっと昔から友達のような気がした。
旅する人間に出会うことはなかった。
一本道なので道は正しいと思うけど、確かめることが出来ないのは少し不安だった。
道沿いに川があるので水には困らない
楽太は時々、道沿いの川で水浴びする必要はあったが、旅は順調に続いていた。ミナミは肩掛け鞄にへばりついている。日陰になるように場所を変えながら。
山が迫ってきたが、川の流れはずっと続いていた。
谷沿いの道を歩く。
楽太が川で泳いでいる間に私も浅い川に川に足をつけた。ひんやりして気持ちいい。魚が寄ってきて私の足をつついたので聞いてみた。
「あやかしの東山に行くんだけど、この道で正しい?」
魚はびっくりしたようだ。
「お姉さん、水族の言葉が分かるの?すごいね。えーと、この向こうは大きな湖があって、近くに霧の沼があるけどその先は行ったことがないなー。霧の沼には色々な水族が住んでるから聞いてみると良いよ。詳しく教えてくれると思うよ。」
そうか、霧の沼で聞いてみようか。
5日目の夕方に湖に到着した。
山が少し開け、大きな湖が広がっている。
おばあ様から楽太が聞いた話だと湖の向こうが「霧の沼」らしい。
この辺りは湖沼地帯とのこと。
楽太は早速、湖で泳ぎだした。
「やっぱり広い所は気持ちがいい。
ミナミー。瑠璃ちゃーん。一緒に泳ごうー。」
えーっ。
泳いだことなんかないよ。
「私、泳げないよー。」
「大丈夫。おいらが教えるから」
地面に降りているミナミの方を向くと
「何事も経験だと思う。」
いつも慎重なミナミらしからぬ積極的な答えが返ってきた。
ミナミは落ち葉を持ってくると湖岸に浮かべた。葉の上に乗り足で水を掻くと、ゆっくりと進んでいった。楽太が泳ぎながら葉をそっと押してやると、気持ちよさそうに葉の船は進んでゆく。ミナミはバランスをとって葉の船が傾かないようにしている。彼にこんな器用な面があるとは。
ま、行きますか。
私は服を全部脱ぐと湖に入っていった。
水が冷たく気持ちいい。
「瑠璃ちゃん、腕と足を おいら と同じように動かして。」
楽太が教えてくれた。
なるほど、ゆっくりだけど進んでゆく。
楽太は葉の船を優しく押しながら進み、3匹は夕方の湖を楽しんだ。
と、その時、何か気配を感じた。
ぽちゃん。
近くで水の跳ねる小さな音が。
3人はそちらを見るけど、何もいない。
目で合図した3人は進む方向を変える。
荷物も心配だし岸に戻る事にした。
湖から湖岸に上がる。
私は体を拭いて、素早く服を着た。
周りを見回す。
それは、いつの間にかすぐ傍にいた。
「あっ。」
楽太が最初に見つけた。
でも何も言わず、じっと湖岸を見ている。
ミナミもじっと見ている。
私も見つめてしまった。
すぐそこの湖岸に不思議な生き物が立っていた。
○明都
最初は小柄な人間の女の子、と思った。
顔も女の子だし、手も足も・・ある。
でも肌は淡い緑色と薄焦げ茶色が綺麗に混じりあっている。
ゆったりした着物、裾は少し短い。
裾から出た足は人間の足のように見える。
小さな鰭が着いている。
濡れた鳶色の髪。
かわいい感じ。
着物の裾から尾鰭が出ていた。
手には小さな水掻きが。
彼女を表現すれば
そう、おたまじゃくし。
可愛いおたまじゃくし・・・の女の子。
ほかになんと表現すればよいか。
「あなたがたは、どちらから来られたのですか?
私の言葉は分かりますか?」
彼女から話しかけてくれた。
美しい声だ。
ミナミが答えてくれた。
「僕は蜘蛛のミナミ。そちらは蛙の楽太と人間の瑠璃子。言葉は分かります。僕たちは川下の方から歩いて、この湖にたどり着きました。今から『霧の沼』に行く途中です。」
彼女はゆっくり話してくれた。
「私の名は明都。『霧の沼』の住人です。そちらの蜘蛛の方は言葉が分かるのですね。ああ・・やはり、蜘蛛の守輪ですね。」彼女はミナミの脚の先の小さな守輪を見つけたようだ。
明都は少し不思議そうな顔をして
「ところで、どうして『霧の沼』に行かれるのですか?そちらの蛙様は別として、あとの方は水族ではないと思われますが。」
「蛙の楽太のお婆さまが『霧の沼』生まれとのことで、楽太は親戚に会いたくて来たのです。僕たちは彼の付き添いで来ました。瑠璃子と僕は、もう少し旅を続けるので、楽太とももうすぐお別れです。」
ミナミの返答は正しい、楽太ともお別れだね。忘れていたけど、その通り。
「そうですか。親戚の方も歓迎されると思います。
お婆さまのお名前を教えていただけますか?」
「おいらのばあちゃんは、芽都って名前だよ。」
彼女の問に楽太が答えると、明都はとても驚いた様子だ。
楽太の言葉は分かったようだった
「そうですか、芽都様のお孫様ですか。」
明都は顔を上げ、どこか遠いところを見ている。
私たちの方に顔を向けなおすと話しかけてきた。
何かを決意したような表情だった
「皆様とお話していたいのですが、私はそろそろ沼に帰らなければいけません。では。もし沼で会えましたら。」そう言い残し湖に入ると深く潜り、瞬く間に姿が見えなくなった。
○霧の沼
楽太は湖の方を見てぼんやりしている。
「ねえ楽太、さっきの彼女。楽太のお婆さまを知ってるみたいだったけど。楽太は彼女のこと何か知ってる?」
私はボーッとしている楽太に質問してみた。
楽太は我に返ると説明してくれた。
「ばあちゃんから聞いている。半人半蛙の一族だ。実はおいらのばあちゃんもその一族。大きくなる時に半人半蛙のまま過ごすか、蛙になるか選択できるんだ。ただ、ばあちゃんは『霧の沼』から出て出て行く必要があった。霧の沼を離れる者は、蛙を選ぶ必要があるそうだ。
実はおいらも話を聞いても信じられなかった。この目で確かめたかった。今まで黙っていてごめんよ。」
なるほど、確かに不思議な一族だ。私も話を聞いただけでは信じないと思う。
「でも、おばあ様はどうして『霧の沼』を去り、蛙を選んだの?」
「おいらも詳しくは分からない。ただ、ばあちゃんは皆が平和になるためだって言ってたけど。おいらも小さかったしね。それ以上は聞かなかった。」
「楽太はこのまま『霧の沼』に行くのかい?」
ミナミが楽太に聞いてくれた。
私も行くのを止めた方がいいんじゃないかと思った。何か予感がする。明都が楽太のおばあ様の名前を聞いたときの驚いた表情が気になる。
楽太はちょっと考えてから答えてくれた。
「おいらは、ばあちゃんのこと、そして自分が生まれる前のことを知りたい。ちょっと心配だけど、行ってみるよ。」
そうか楽太が決心しているなら。
「ねえ楽太。私も一緒に霧の沼行こうか?何か力になれるかも。」
私がそう伝えると、ミナミも同じ気持ちだったようだ。
「僕も一緒にいくよ。霧の沼でお別れと思っていたけど。霧の沼で何もなければいいんだけどね。楽太を助けたいと思って。」
「ミナミ、瑠璃ちゃん有り難う。おいらも嬉しいよ。」
こうして3匹で、霧の沼に向かうことになった。
その夜は湖畔の桜の木の下で休むことになり、ミナミは木に巣を張った。
楽太は湖岸の石の上で寝ている。
○水族兵
「瑠璃子、起きて。」
ミナミの声だ。
う〜ん。もう朝かな。目を開けた。うん?まだ暗いよ。
「ミナミ、どうしたの?」
「しっ。暗くてよく分からないけど、取り囲まれているみたいだ。」
えっ。
何者だろう?
楽太は大丈夫かな、と聞こうとしたときだった。
「助けてくれー、ミナミ。」
楽太の声だ。
バシャバシャと激しい水の音がする。
誰かを追いかけているような。
楽太が追いかけられているのか?
暗くてよく分からない。
「離せー。助けてー。瑠璃ちゃん。おいら捕まっちまったー。あーっ。」
楽太の声がしなくなった。
暗いけど相手はこちらがよく見えているみたいだ。
私は立ち上がり、大声で怒鳴った。
「ちょっとー。私の友達をどうするの?あんたたち一体誰?。」
少し目が慣れてきた。
10匹? ぐらいか。
楽太を助けなきゃ。
相手の方に近づこうとしたとき、ブーンと音がした。
蜂の羽音?夜に蜂?
腕にチクッと痛みを感じた。
すると突然眠気が私に被い被さり、地面に倒れてしまった。
「瑠璃子。瑠璃子・・。」
ミナミの声がする・・。
気が遠のいてゆく・・・。
(瑠璃子。だいじょうぶかい?)
うん?
この声は、お母さん?
(相手の話すことを良く聞くんだよ。)
お母さん。相手って、誰のこと?
目が覚めた。
はっと起きあがる。
夢か。
私は藁の寝床に寝かされていた。
そうだ、楽太は?ミナミは?
私一人みたいだ。
自分の身の回りを見る。
肩掛け袋はある。
守輪も手首に付けている
周りをキョロキョロ見る。
窓から光が射している。
朝かな?
水の流れる音がする。
ここは岩をくり抜いたような部屋で、壁はゴツゴツしている。
寝床以外には特に何も無い。
窓には木の扉がついているが、半分開いている。
窓に近づき外を覗いてみる。
向こうの下の方に湖が見える。
私達が泳いだ湖かな。
窓から頭を出して外を眺める。
この部屋は断崖の途中にあるようだ。
かなり高い。
右側の遠くの方には滝が見える。水の音は滝の音だった。
この窓から逃げるのは人間の私には無理だ。
振り返り部屋を眺める。
引き戸があった。
開こうとしたが戸は全く動かない。
戸の小さな格子窓から外を見ると誰か立っている。
後ろ姿だけど緑と茶色の混じった肌。
明都と同じ半人半蛙族か。
私を見張っているようだ。
私は藁の寝床に座り考えた。
どうして彼らは楽太を捕らえたのだろう?
それに、これからどうすれば良いか?
(瑠璃子)
心の声が聞こえた。ミナミだ。でもどこだろう?
(天井を見て。でも聞こえない振りして。彼らは蜘蛛の守輪のことを良く知っている。)
真上の天井見ると、岩の陰に彼がいた。
ミナミは無事。それに彼の守輪も無事のようだ。
(楽太はどこか分かる?)
今の一番心配事だ。
(もう少し向こうの別の部屋にいた。水もある。ひどい扱いは受けていない。)
そうか、よかった。
(ミナミは捕まえられなかったの。)
(僕は砂を掘って中に隠れていた。しばらく僕を捜していたけどすぐに諦めた。彼らはひどく急いでいた。すぐに倒れた瑠璃子を担いで移動し始めた。僕は急いで瑠璃子の脚に捕まり、一緒に運ばれて来た。)
成る程。巣を張る蜘蛛が砂に潜るなんて、彼らも思わなかっただろう。
ミナミはどこでそれを覚えたんだろう。
(ミナミ、これからどうしたらいい?)
(うん、まずは周りの状況を良く把握することが先だと思う。幸い今のところ危害を加えられることはなさそうだ。まずは、楽太が捕まえられた理由が分かればいいんだけど。)
ミナミの言うとおりだ。
ここから抜け出すにはどうすれば良いかをかをミナミに聞こうとしたとき
戸の外で話す声が聞こえた。
「捕らえられた者はこちらですね、中の者と話がしたいのです。」
「摂政様からは誰も入れてはならぬと。」
「お願いします。戸を開けてください。」
「あなた様のお言葉ですが、こればかりは。」
「なんとかお願いします。この通りです。」
「明都様、頭を下げられては困ります。」
「お願いします。あなたが開けたとは摂政様にも口外しませぬ。」
暫く会話が静かになった。
「では・・・短い時間でお願いします。」
外の騒ぎが収まった。
しばらくすると戸が開き、半人半蛙族が入ってきた。
明都様 と呼ばれていた。
皆に尊敬されているとすれば、態度にも気をつけよう。
「ああ、申し訳ありません。あなたがたをこのような場所に閉じこめてしまって。私が母に芽都様のお孫様が帰ってきたと伝えたことが、、このような騒ぎになりました。摂政様が水族兵を派遣して、あなた方を捕らえたのです。」
彼女は申し訳なさそうに話してくれた。
芽都様のお孫様?楽太のことだ。
楽太がここに来たことが、騒ぎになっているの?
私たちが捕まった理由も彼女ならたぶん知っているはず。
「明都様。何故、楽太を探していたか教えてください。それと私たちはどうなるのでしょう?」まずはこの2つを聞きたい
「少し昔からの事情を説明しますね。」
明都様は少しづつ話してくれた。
○昔の争い
「半人半蛙の一族は、昔から『霧の沼』の統治者の一員であり、他の水族からも尊敬されています。
昔、霧の沼一帯で水族と節脚族の間で領地争いが有りました。沼から広がる湿地地帯の住処について長く紛争が続いたのです。さすがに無駄な争いと気づき、遠く離れた桜の太守様に仲裁を求めたそうです。太守様の取りなしで何とか平和になり、両者は領地の協定を結びました。
ただ、両者の決意を現すためそれぞれの高貴な方が選ばれ、仲間から遠いところに行くことになりました。楽太様のおばあ様、すなわち芽都様は半人半蛙の頭領の一人娘でしたが、『霧の沼』から離れることになりました。水族にしろ節脚族にしろ、仲間から離れて暮らすことは大変つらいことなのです。
我々は大きくなる際に半人半蛙のままでいるか、蛙になることを自由な意志で選択できます。よほどの理由がないと半人半蛙で一生を過ごします。
でも『霧の沼』から遠く離れてしまう者は蛙を選択するしかありません。
半人半蛙族の食べ物が育つ綺麗な環境は『霧の沼』と周辺にしかありません。食べ物を外の地域に持ち出す際は、頭領か摂政の許可が必要なのです。それほど貴重なのです。
こうして、芽都様は蛙を選択し遠くに行くことになりました。」
そうか、昔にそんなことがあったのか。
明都様の話は続いた。
「芽都様がいなくなり、頭領の跡を継ぐ者がいなくなりました。
頭領が亡くなった際に、代行の形で頭領の遠縁にあたる、私の家系の者が継ぐことになりました。
私の家系が継ぐことに反対の声も有りました。平和のために自分の故郷を捨てて遠くに行った芽都様に申し訳ないとの意見もありました。芽都様を捜して戻って貰おうとの案も出ました。暫くは混乱が続いたそうです。
しかし、芽都様の真意に報いる事ではないと皆が気づきました。
最近はようやくその声も収まり、今は私の弟が継いでいます。ただ、弟はまだ幼いので摂政様が付いています。摂政家は昔から幼い頭領を支え、信頼の置ける者達です。」
なるほど、複雑な事情があったんだ。
「明都様、でも今の話と楽太の件はどう関係するのですか?」
「私は楽太様に会った後に、母と摂政様に芽都様のお孫様が帰ってきたと伝えました。二人は今の話は暫く秘密にしておくようにと私に言いました。その後、あなた方を捕らえるべく頭領の守護兵を派遣したのです。母に捕らえた理由を聞くと、本当に芽都様のお孫様か分からないし、例えそうであっても、また跡目争いで皆が割れ、混乱が生じる。平和が脅かされ。今は我々一族の者と隔離するしかない、と。」
混乱を避けて、平和を維持したいのか。
それも分かるけど。
でも、楽太は親戚に会いたいだけの話だし、それ以上のことは望んでないと思う。会えば自分の住処にすぐ帰ると思う。
それに、ミナミは「望みの湖」に行きたいし、私も手紙を届ける約束がある。恋人探しもあるけど。
ここで拘束されるのは、みんな不本意だ
「明都様、そろそろ」
見張り番から声がかかった。
彼女は頭を下げて礼をすると、天井をちらっと見て私の前から去っていった。
足下に小さな布切れを落として。
○脱出
その夜、与えられた食事食べながら、一人になった私は天井に隠れているミナミと心で会話した。
(瑠璃子、布にはなんと書いてあったの?)
(うん、この文字はちょっと分からない。)
すーっと、ミナミが糸を出して天井から降りてきた。
布の文字を読んでくれた。
(『油の火が消える頃、参ります。私が皆様を自由にします。』水族の文字だね。彼女が逃がしてくれるのかな?瑠璃子は彼女のことを信じるのかい?)
(うーん、そうだね。・・・これは罠の可能性もあるね。わざと逃がして、私たちに危害を加えるつもりかもしれない。何せ私たちは半人半蛙族の平和を乱すかもしれない者達だからね。怪しい者を捕まえ、逃げたので始末したなら、少なくとも説明は付く。ミナミはどう思う?)
(瑠璃子、ここから逃げる機会は少ないと思う。もし計略でも、それに乗っかれば逃げだすチャンスはあると思う。)
(そうだね。じゃ準備しとかないとね。・・・・・ところでね、ミナミは水族の文字をどこで覚えたの?)
(水蜘蛛の友達がいてね、彼は水族の言葉も分かるので教えて貰ったんだ。言葉を知ることは、とてつもない力だと思う。)
そう言うと、ミナミは天井に戻っていった。
彼はすごい勉強家だし、いつも冷静だ。
一緒に旅が出来て、本当に助かる。
ミナミとは話さなかったけど明都様は騙すような事は無いと思った。蜘蛛の感だけど、そう思う。
それから数時間がたった。
私は寝床に横になり、少し眠ろうとした。
今夜は長くなりそうだから、少しでも寝る方がよい。
これから始まることを考えると少し心配。
もし、捕まってしまったら・・・。
ま、考えてもしょうがないか。
少しウトウトした。
目が覚めると油の火は消えていた。
辺りは真っ暗だ。
遠くの滝の音が聞こえる。
戸の外で何かが倒れるような音がしたので私は起き上がり、戸の格子窓から覗いた。
廊下は明かりが何カ所かあるので、十分な明るさがある。歩くのは困らない。見張り番が倒れているのが見えた。すぐ傍に誰かいる。
その者は、見張り番の腰に付いた棒のような物を取り出した。
棒を指し込むと戸が開き、入ってきた。
「少し遅くなりました。」
明都様が囁いた。
私は荷物を担ぎ直し、用意は出来ていますと伝えた。
肩の辺りに動きを感じた。
いつの間にかミナミが肩に乗っていた。
「ミナミ様もご無事ですね。よかった。」
ミナミがここにいることも彼女は気づいていたようだ。
外にでると、見張り番が倒れていた。
スースー寝息をかいている。寝ているようだった。
明都様が先頭に立ち、石の通路を進んでゆく。
道は真っ直ぐだったり、少し曲がったりして続いている。
彼女に先導して貰わないと、私一人では脱出は無理だ。
ある角にさしかかったとき、彼女が手で私を制した。
廊下を曲がった少し先に、やはり見張り番が立った部屋がある。
「あそこに楽太様が。」
明都様が小さな声で教えてくれた。
彼女は小さな箱を取り出した。
蓋を開けると、不思議な言葉を囁きかける。
「サミダ ノウチ ワハラ・・」古い節脚族語のようだ。
私には分からない。
すると、小さな蜂が飛びだし見張り番の方に向かった。
暫くすると 見張り番は小さく呻くと倒れてしまった。
蜂は箱に戻り、明都様は箱を服の隙間に収め、その部屋に向かった。
おそらく私が湖で眠ってしまったのも、この蜂の刺されたためだと思う。
私が蜂の行動をじっと見ていたので、彼女が歩きながら教えてくれた。
「この蜂は半人半蛙族の頭領一族と、その守護兵のみに与えられます。蜂との協定で、仕事の回数は制約があります。本来はよほどのことがない限り半人半蛙族には使ってはいけません。私はおそらく罰を受け、もう霧の沼には・・・・。」
そのとき私が居た部屋の方から、叫ぶ声がかすかに聞こえた。
明都様と私は楽太の部屋に急いだ。
戸を開けると部屋は明るく、一見して居心地良さそうだった。
中央に大きな箱があり、箱の中には小さな庭があった。庭には森と池があり、蛙には良さそうだった。楽太は池の石の上に座ってた。
「瑠璃ちゃん。ミナミ。心配したよ〜。無事だったんだね。それに、確か湖であった、明都さんだね。」。石から池に飛びこむと、箱の淵までが嬉しそうに泳いできた。
部屋が明るかったので助かった。
暗いと楽太がどこにいるか分からなかったと思う。
「楽太は丁寧にされているんだね。良かった。」
「部屋を明るくしておけばミナミと瑠璃ちゃんが気づいてくれるかもしれないと思って、おいらの世話をしてくれる半人半蛙族の方に明るい方が良いと伝えたんだ。みんな、おいらに親切にしてくれる。」
そうか、良かった。
「楽太様は芽都様のお孫様かもしれないとみんなが知っています。だから特別の扱いになるのです。半人半蛙族ならば芽都様のことを尊敬しない者はおりません。」明都様が話してくれた。楽太のおばあ様は、本当にいい方なんだ。
「さあ、そろそろ行こうか。」
ミナミが声をかけてくれた。
4匹(4人?)は戸から急いで廊下に出た。
○逃飛行
複雑な廊下を明都の案内で小走りに進んでゆく。
楽太は水で濡らした布に包まれ、明都様の着物の隙間でじっとしている。
ミナミは私の肩に掴まっている。
途中で小さな部屋に入った。
部屋の奥に向かって進む。
特に何もない部屋。
奥は行き止まりだ。
彼女は再び箱を取り出し、小さな声で呟いた。
「マツ イデン ケタ・・」
蜂が飛び出すと行き止まりの壁に向かって飛んでゆく。
壁の小さな穴に入っていった。
暫くすると、壁の一部が反転し、壁の向こう側に通路が現れた。
外の風景が通路の向こうに見える。
夜が開けかかっているようだ。
蜂は開いた扉から戻ってきた。
「この通路を知る者が、他にいなければ良いのですが。」
彼女は先頭に立ち、通路を進んでゆく。
通路を通って外にでると、道は崖の中腹沿いに延びている隘路である事が分かった。幅は狭く、一人が何とか歩ける状態だ。
右側は切り立った岩、左側は崖っぷちで遙か下に湖が見えている。
少しづつ進んで行く。
道は登り道となり、崖の頂上に向かっている。
登りはきついけどもう少しだ。
前を歩く明都は軽々と上ってゆく。
やれやれ頂上に到着した。
すっかり夜が明けた。
崖の頂上は森になっており、私たちは森の端っこにいる。
崖は急な斜面で、遠くに湖が見渡せる。
森の奥、遠くから声が聞こえる。
【明都さまー。出てきて下さい。】
彼女と私たちを捜している。
明都様は崖を見渡すと、困った表情をしていた。
「大変です。ここから湖に降りる崖沿いの道があったのですが、くずれてしまっています。昨日見に来たときは、ちゃんとあったのですが。」
そうか、逃げる道は崩れてしまったのか。
ここにいれば、いずれ見つかってしまう。
【明都様の姿が見えたぞー】
森の奥から聞こえてきた。
見つかったか。
ここは藪にも囲まれているので、追っ手も遠回りしなければいけないが、たどり着くのは時間の問題だ。
聞いたことのある小さな音が聞こえてきた。
これは・・・。
もしかして、あの蜂。
周りを見渡すが見つからない。でも音はする。
今、眠らされたら、もう終わり。
どこだろう。
周囲を探してみるけど、見つからない。
その時、何かの白い固まりが飛び出すと、空中で何かを捕らえ落ちていった。落ちた物を見ると、糸に絡まった蜂がもがいている。
続けて白い固まりが飛び出し、同じように蜂を捕まえた。
「瑠璃子、気をつけて。2匹捕らえたけど、まだいるかもしれない。」
肩に止まったミナミが、蜘蛛の糸を丸くして振り回し、投げる準備をしている。彼は本当に器用だ。
もう蜂はいないみたいだ。
でも状況に大きな変化は無い。
うーん、どうしよう。
困った。
「ミナミ、どうしたらいいかな?」
「縄でもあれば崖沿いを下におりる事ができるけど・・でも。」
冷静なミナミも良い案が浮かばないようだ。
うーん、時間がない、焦ってしまう。
瑠璃子、落ち着いて考えろ。
空に逃げることが出来れば。
私が蜘蛛なら、飛んで逃げるのに・・・。
お母さんどうすればいい?
お母さん・・・蜘蛛・・・。
ふと、自分の手首に付けた守輪が目に入った。
(お母さんの夢のお告げは守輪の能力・・同じ血族は・・。)
出来るかな?
やってみよう。
「明都様、こっちに来て。」
崖からの他の逃げ道を探していた彼女はすぐに来てくれた。
「みんな、聞いて。
ミナミ、肩から地面に降りて。そう、その場所でいい。
胴に自分の糸を何周か巻いて。
明都様、楽太を出して、ミナミの側に置いて。
あなたは楽太の傍にいて。
そして、二人ともこの輪に指を通して。」
「瑠璃子殿。いったい。」明都様が聞いてくれた。
「お願い。時間がないの。言う通りにして。一か八かやってみる。」
私がミナミの傍に守輪を付けた左腕を出しすと、明都様の指と楽太の小さな指が守輪に入ってきた。
(守輪殿。お願いです。3人を小さくして。ミナミに乗れるぐらいに。)
心中で呟いた。
願いの言葉がこれで良いのか分からなかった。
しかし、すぐに心の返事が返ってきた。
【3人同時なら、この力は一度きりになる。時間は短いが良いか?】
【はい結構です。早く。】
わずかの間があり、3人の収縮が始まった。
あっという間に小さくなり、風景が変わった。
巨大な木。
巨大な石。
地面に落ちていた石ころや木の枝だ。
巨大なミナミが傍らにいる。
よし、うまくいったみたいだ。
「ミナミ〜、聞こえる?今から背中に乗るよ〜」
私の10倍ぐらいのミナミに声をかけ、明都様に手招きしてミナミによじ乗った。すでに彼女は楽太を抱えている。ミナミは自分の糸を胴に巻いているので、糸に掴まり体を固定する。この糸なら強そうだ。
私たちがミナミの胴に上るとミナミが聞いてくれた。
「瑠璃子、これからどうすれば良いのか、教えて。」
「ミナミ、あそこの崖から突き出た枯れた木に上って。」
彼は急いで木に近づくと、ゆっくり上り、先まで進んでいった。私たちを気遣って、出来るだけ揺れないように動いてくれた。
殆ど葉はないので隠れることは出来ない。
木の下の方で守護兵の声が聞こえる。
【蜘蛛かいるぞー。】
ミナミが見えるなんて、かなり目がいいみたい。
でも上に乗った私たちには気付いていないと思う。
もう下には戻れない。
枝の先まで進む。
「ミナミ、糸を出して。長く。風に糸を乗せて。」
彼は糸を出した。糸は良い具合に風を捕まえている。
彼の太い糸は、強い風にも切れそうにない。
「ミナミ、いい? 風に乗って飛んで。」
「瑠璃子、僕は飛んだことはない。飛び方が分からないよ。」
「大丈夫、私の言うとおりにして。まず出来るだけ脚を広げて。」
「瑠璃子、君はいったい。」
「早く。」
糸を出して、脚を広げ、風をつかむ準備が出来た。
私は風を見極めた。
「ミナミ、私が良しと言ったら、飛び出して。」
「分かった、瑠璃子」
風よ、お願い・・・、来て。
【あそこだー。捕まえろー】
下から大きな声が聞こえる。
網のようなものを持っている。
風が来た。
「ミナミ、いいよ。飛んで。」
ミナミは私たちを乗せ枝から飛び出した。
飛び出すと上昇気流だ。
一気に高い空に向かって進んでゆく。
「ひゃー。」「きゃー。」
全員が声を上げる。
私もこんな上昇気流に乗るのは初めて。
暫くは強い風に流されるだけだった。
空中で枯れ葉が舞う様子を見て、湖の方向への風を見つけた。
「ミナミ、体を左に傾けて。体重を前に。あの枯れ葉に向かって」
ミナミは体の向きを上手に変えた。
湖の方向への風を捕らえた。
よし、いいぞ。
うまく風に乗ってる。
初めてと思えない程、いい感じで進んでゆく。
彼は覚えるのが早い。
「ミナミ、いいよ〜。その調子。右側に少し傾いて。そうそう。」
滝が見える。
大きな川があるんだと分かった。
その少し向こうに霧で囲まれた場所がある。
あれが「霧の沼」かな?
今度は下への風を捕まえた。
湖の方に向かう。
いいぞ、その調子。
風の方向もいい。
時々は風の強さも変わり、体が大きく揺れることもある。
横では楽太が騒がしい。
「瑠璃ちゃん、怖いよ〜。」
明都様の着物のすそから顔を出し、外を見ている。
「明都様、大丈夫?」
彼女も、ミナミが体に巻いた糸に必死でしがみついている。
同時に、長い尾鰭の先を別の糸に巻き付け体を固定している
「大丈夫です。空を飛ぶのは初めてですが、なかなか楽しいですね。」
少し微笑んでくれた。
彼女のきれいな髪が空中に舞っている。
風が強いので目を細めている。
こんなときに何だけど、風を受ける彼女は可愛い。
でも容姿とは違い明都様は肝が据わっている。
楽太にも見習って欲しい。
彼女は楽太を落とさないように、彼を着物の奥に押し込めた。
体のバランスをうまく取り、ミナミはなんとか順調だ。
とはいえ、初めての飛行に加えて、風の方向、強さが変わるのでフラフラしながら進んで行く。
湖に近づいてきた。
もう少しだ。
その時、何か大きな物が横を飛び過ぎた。
「うわーっ。」「きゃーっ。」
私達は思わず声を上げた。
ミナミがバランスを崩したので、振り落とされそうになった。
必死でミナミの糸と体にしがみつく。
幸い、すぐにミナミは立て直した。
「鳥だ。」
ミナミが叫ぶ。
フラフラした飛行のおかげで、私達の行方がつかみにくく鳥からの補食はなんとか免れた。少なくとも1回目は。
再び鳥はこちらに向かってくる。
何とかやり過ごす方法はないものか。
後もう少しで湖に着くのに。
何か良い方法は・・・・・。
明都様が箱を取り出した。
箱を開けると蜂が飛びだした。
「サミダ コヤマ ワハラ・・」
小さな声をかけている。
彼女の言葉が終わると蜂は真っ直ぐ進んで行く。
鳥に近づいているみたいだけど、小さいのでよく分からない。
真っ直ぐ飛んできた鳥の動きが急に変わった。
ゆっくりしか飛べないみたいだ。
動きが緩慢。
まるで、少し寝ぼけているような。
そのうち、フラフラしながら別の方向に飛び去った。
蜂は風に揉まれながらも、何とか彼女の手元に戻ってきた。
「蜂に緩い眠り薬でお願いしました。強力な眠り薬では鳥が落ちて怪我をしますから。逃げることが出来ればよいので。」
彼女も冷静だ。仲間で良かった。敵に回すと手強いタイプ。
湖の上まで来た。まもなく湖岸だ。
ん?
体が少しづつが大きくなってゆく。
大変、効果がまもなく終わるみたい。
「ミナミ、糸を切って。落下してあそこの木の枝に掴まって。明都様、私たちは飛び降りるよ。」
岸が近づいてきた
彼は糸を切って、落ちてゆく。
彼女に目で合図した。
彼女も頷いてくれた。
「さあ、いくよ。」
えいやっ。
明都様と私は、砂浜に飛び降りた。
砂浜に転げ落ち、倒れ込んでしまった。
体が砂にめり込んでいる。
二人はいつの間にか元の大きさに戻っている。
息が荒い。
危ないところだった。
立ち上がって周囲を見渡す。
誰もいないようだ。
助かった。
○摂政
偶然だけど、ここは明都様と初めてあった場所だ。
彼女もすでに立っている。
少し表情が硬い。
どうしたんだろう。
「明都様、大丈夫?」
「私は、ここでお別れです。あなた方に迷惑をかけてしまい、助けようとしました。しかし、眠り蜂を罪のない同胞に使いました。私は霧の沼を追放されると思います。まずは裁きを受けなければ行けません。もうあなた方だけで逃げることは可能です。さあ。行ってください。」
「おいら達と一緒に行こうよ。どっちにしろ霧の沼を追放されるなら、このまま行こう。」楽太がそう言ってくれた。
ミナミもいつの間にか木から降りて傍にいた。
「幸い、誰も傷つけていない。蜂を使った罪はあるけど、小さな事だと思う。このまま僕たちと行こう。」
明都様は驚くと同時に迷っているみたいだ
「でも、私は・・・。」
私は彼女が好きになってしまった。
自分が正しいと信じたことしたけれど、一族の掟を破り平和を乱そうとしたことも認め、罪を償おうとしている。
単純だけど、なかなか出来る事じゃない。
私も思わず声をかけた。
「明都様、一緒に行こう。」
彼女は手で顔を覆い、少し涙声だった。
「私を許して下さる心優しい皆さんと、私も一緒に行きたい・・でも。」
木陰から誰か現れた。
全員そちらを向く。
「摂政様、どうしてここに。」
明都様は驚いた様子だった。
現れたのはかなりの年輩の半人半蛙だった。
険しい顔をしている
「明都殿、そなたの行動は誉められるものではない。我々の平和を脅かすかもしれない、旅人を助けるなど。もってのほかだ。苦役を受けた後に霧の沼から追放だ。」
彼女を捕らえるのだろうか。
平和を乱す・・・か。
無理もないかな。
仕方がない、明都様を担いで逃げるか。
小柄な彼女なら私一人で担げる。
「明都様は、渡さないよ。」
彼女の前に立ち、私も宣言した。
ん?摂政様の顔が急に和らいだ。どうしたのだろう。
「と、申したいところだが、正直私も迷っていた。芽都様のお孫様なら、当然の頭領継承権がある。本来ならそうなるべきだが、年月がたってしまってる。
明都殿、そなたの一族は頭領代行として、よくやってくれたので、支持する者も多い。また芽都様のお孫様、楽太様と申したか、もまた支持する者も多いと思う。
これでは、二つの派閥が出来て長年の平和がまた崩れてしまう。
少々荒っぽいところもあったが、このもの達を逃がしてくれたのは今はまし(・・)な案と思う。旅人の一行が逃げてしまい、実は芽都様とは関係は分からなかったと、皆に伝えるのが混乱を防ぐ行動と思う。
争いは何も生まない。それを節脚族とのかつての領地争いで我等は身にしみて覚えた。」
そうか、そういうことか。
摂政の立場も難しいようだ。
「それに彼は親戚に会いたいだけとのことと聞いた。自分の素性を知っていればそんな気楽な気持ちでは霧の沼には来れなかったと思う。おそらく楽太殿が話していることは正しいと思う。
ただ、なんと言っても正当な後継者なのだ。いつの日か彼の助けが必要な時がくると思う。だが、その時まで明都殿が彼を守ってくれぬか。霧の沼からは離れることになるが。皆には、彼女は崖から落ちて行方不明と私から伝える。摂政の言葉であるから、これで丸く収まると思う。明都殿、どうかな?」
良かった。
明都様は、少し安心した様子だ。
「摂政様、有り難うございます。私の職務を全うします。楽太様をお守りします。」
彼女は摂政の前でひざまづき頭を垂れていた。
「ではこれを持ってゆきなさい。」
乾燥した葉の束だった。
「半人半蛙族の『葉』だ。食べ方は分かるな? 食べ物には少し苦労もあると思うが『霧の沼』から出るのも良い勉強にになると思う。」
彼女は深々と礼をして、葉の束を受け取った。
何か貴重な物なのかな。
「摂政様、これを。」
彼女はそう言って、小さな箱を差し出した。
「そうだな、蜂は巣に返してやらんとな。明都殿は一族一番の『蜂使い』だからな。皆にもっと蜂のことを教えてやって欲しかったのだが。」
摂政様は私の方を向き
「瑠璃子殿、と申すか。明都殿は良い友を得た。すまぬが、もし明都殿に困ったことがあったら助けてやってくれぬか。彼女はこの辺り以外の場所をよく知らぬ。楽太殿は半人半蛙族の大事な方なのだ。明都殿の使命は我々にとっても大事なことになる。今回の無礼については、誤解のあったこととして、許していただけぬか。私からもこの通りじゃ。」
私に頭を下げて頼んでいた。
ここまで頼まれると私も断れない。
少し怖い目にも会ったけど、済んだことだし。
私も返礼をした後、気になる事を尋ねてみた。
「摂政様。承知しました。ところで私達は、『あやかしの東山』と、『望みの泉』と呼ばれるところに行きたいのですが、ご存じでしょうか?。
詳しい道が分かっていません。教えていただけると助かるのですが。」
摂政様は懐から木で出来た薄い板のようなものと、細い筒のような物を出し、筒を板になぞらせて、絵を描いてくれた。なかなか面白い道具だ。
「いまはこの場所に居る。」絵を示しながら説明してくれる。
「この道を進み谷を通れば『あやかしの東山』にたどり着くはずだ。『望みの泉』は山のどこかにあると聞いておるが、詳しくは私も分からない。」
その薄い板を私にくれた。
なるほど、もう少しで到着しそうだ。
「実は我々の中でも『あやかしの東山』に行った者は、長い間おらぬ。昔は節脚族が大勢住んでいたのだが今はおらぬ。少し寂しい場所だ。瑠璃子殿は何故そちらに向かうのか、よければ教えて頂けぬか。」
私は、桜の太守様の妹である明洲様が亡くなったこと、太守の依頼で明洲様の連れ合いの方に手紙を持ってゆくことを彼に伝えた。
その連れ合いが『あやかしの東山』に住んでいるので、そちらに行きたいと摂政様に伝え、明洲様の「葉」を出した。
これで分かってくれるだろうか。
彼は葉をじっと見て、その後すこし笑ってくれた。
「桜の太守殿の使いであるのか。昔、我らが節脚族と争ったときに仲裁頂いた。まだ私が子供の頃の話でな。これで平和になると喜んだことを覚えておる。
我らは皆、大変感謝しておる。風の便りでは太守殿はお元気にされているとき聞いておるのだが。」
お元気にされていますと返事すると、摂政様も嬉しそうだった。
「そうであったか。良かった。そうそう、その時は妹君の明洲様もご一緒に仲裁頂いた。お二人で水族と節脚族の平和に尽くしてくれた。
」
摂政殿はとても懐かしそうに話してくれた
「私のかすかな記憶だが、瑠璃子殿、そなたは明洲様に似ておる。どなたかに似ておるとは思ったのだが、なかなか思い出せなかった。実は、ここにいる明都殿も明洲様の名前を一部頂いたのだ。」
明都様は頷くと、
「明洲様は聡明で、力強く、誰にも大変お優しい方であっと聞いております。ちょうど瑠璃子殿の様に。」そう言って、私の方を見てくれた。
いやー、それは誤解だよ。
明洲様はさぞ立派な方だったのだろう。
私は、手紙を届ける仕事があるだけだし・・それに、恋人探しに来ただけの蜘蛛だし・・・でも・・それは・・・言いにくいな。
摂政様の話は続く。
遠くを見て過去をゆっくり振り返っている。
「先ほど話したように『あやかしの東山』には、かつて節脚賊が住んでいた。我等と和解したとき、領地争いを避けるべく、彼等は遠くに引っ越しすることを承諾してくれたと記録に残っている。我等は生きる上でどうしても『霧の沼』が必要だったので、ここに残る事を希望し、彼等は快く受け入れてくれた。その代わり、水族に伝わる怪我の治療術や、薬水草の育て方を伝えた。彼等もその礼にと『蜂』の一族を我等に授けてくれた。
蜂は侵入者を出来る限り傷つけることなく最低限の力で撃退してくれる。それで外部からの侵略を防ぐことが出来、平和を維持できてた。
かつての争いの相手ではあったが、今では彼等が居なければ今の我々はなかったであろうと思う。感謝しておる。」
摂政様の言葉に皆、静かに聞き入るばかりだった。
「その様なわけで、『あやかしの東山』は、ひっそりしていると思う。何も危険はないと思うが、気をつけて旅を続けられよ。」
○谷の道
摂政様と別れ、いよいよ『あやかしの東山』に向かう。
明都から提案があった。
「瑠璃子殿は、優しくて勇気がありこの旅の一団の頭です。私はあなたに従います。明都とお呼び下さい。」
彼女から、きっぱりした言葉を貰った。
一応、頭領の娘なので私も失礼の無いようにしたいとだけは伝えた。
でも彼女と知り合えたことはとても嬉しいことだった。
楽太の鉢は明都が持って歩いている。
それに、ミナミも彼女の肩に止まり、色々話をしている。
確かに彼女は、笑顔も可愛いし、礼儀正しく、素敵な女性だ。
それに会話も上手だ。
私とは大違い。
彼女は恋人居たのかな?
こんな素敵な彼女をほっとくわけないよね。
いいなー。
あー、だめだめ。
今はそんなこと考えている場合じゃない。
早く手紙を届けないと。
ミナミは空を飛んで以来、何となくよそよそしい。
私のこと、何か変だと気づいたんだよね。
もっと早く蜘蛛だと告白すれば良かった。
ミナミと明都が仲良く話していると、気になってしまう。
なんだろう、この変な気持ち?
心が落ち着かない。
あー、また余計なこと考えている。
さ、前進、前進。
谷間の道は歩きやすいが、少し上がり坂になっている。
途中で見つけた泉で一休み。
明都は楽太の鉢の水を新しく入れ替えている。
その間、楽太は泉で泳いでいた。
彼女は布を水に浸し顔を濡らしていた。
少し元気がないようにも見える。
「明都。大丈夫かな?」
「ああ、気を使わせてしまい、ごめんなさい。時々こうやって水で体を濡らせば大丈夫です。」
気のせいか、さっきよりも元気になった。
そうだね、半人半蛙族だもんね。
水が無いのはつらいと思う。
私は肩掛け鞄をおろすと、中を探した。
えーと、あった。
美桜殿が用意してくれた水入れ袋。
木の皮のような薄い生地で出来ている。
ここまでは川が近くにあったので使うことはなかった。
袋に水を入れ、蓋を回して閉め鞄の中に。
明都が不思議そうに見ていた。
「それは水を入れる袋ですか?便利なものですね。私達は水がいつも傍にあります。遠くに行くときも川の有る場所しか行きません。そのような道具は、初めて見ました。」
「水が必要なときは遠慮なく言ってね。明都を守るのも私の役目だから。」私がそう言うと、彼女も喜んでくれた。
「有り難うございます。瑠璃子殿。」
日が暮れかかってきたので、本日の行程はこれで終了。
ミナミと楽太は食事に出かけた。
私は明都と簡単な食事。
彼女は周辺で食べることの出来る草を慎重に選んで集め、石の包丁で細かく刻んで食べていた。
一緒に食事をしながら、気になっていることを聞いてみた。
「半人半蛙族の代表として楽太のおばあ様、つまり芽都様が「霧の沼」から遠くに行ったことは分かったけど、節脚族の方も誰かが遠くに行ったのかな。」
明都は古いことを思い出すようにして教えてくれた。
「節脚族の王様の御子息殿が、一族から離れたと聞いています。ただ、彼等は山から遠くに移住してしまったこともあり、今は詳しいことはそれぐらいしか分かっていません。」
そうか。古いことだしね。
もう一つ気になっていることを聞いてみた。
「それとね、蜂を使って扉を開けたよね。あれはどんな仕組みになっているの?」
「あれは私達も知らない通路で、私は偶然知りました。
以前、あの部屋で蜂と一緒に蜂使いの修練していたときに、私が指示言葉、すなわち『修練の言葉』で蜂に話しかけたとき、間違えて『扉を開けて』という意味の言葉を話しました。すると蜂があの穴に入り扉の鍵を開けてくれたのです。蜂がどのように鍵を開けているかは分からないのです。
あの住処は遠い過去に水族が他族に依頼して造ったものと伝えられています。あまりに古いことなので詳しいことは分かりません。ただ、不思議なことに蜂族は通路の事に詳しい事は事実です。もしかしたら、あの場所を造った時に節脚族が関係したために、蜂族に扉のことが伝えられていたのかもしれません。」
なるほど。節脚族が関係しているのかもしれないのか。
「瑠璃子殿、私も一つ聞いてもよろしいですか。」
うん、なんだろう。
「なに・・・かな?」
「瑠璃子殿は、桜の明洲様の連れ合いの方に手紙を届ける役目があるとお聞きしたのですが、その様なお仕事をされているのですか?
あるいは、・・・なにか経緯がおありなのですか?」
いつかは聞かれると思っていた。
そりゃ気になるよね。
「私はね、実は別の世界から、この桜の国に来たの。
私ね、連れ合いが欲しくて、私の世界で桜の太守様に相談したの。そうしたら桜の国でなら見つかるチャンスが有るかもしれないと太守様に返事を貰った。手紙を届ける旅に出ることで、きっかけが出来るかもしれないと太守様にお話し頂いたの。」
やはり、元々は蜘蛛であることは隠した。
太守様から以前の姿を伝える際は慎重にとの言葉を守った。
なにも無いとは思うのだけど。
そろそろ、告白した方が良いのかな、自分は蜘蛛だって。
仲間の皆を騙しているわけではないけど、心が痛い。
「瑠璃子殿は、別の世界から来られたのですか?・・・そうですか。」
明都は少し驚いた様子だった。
でも、驚く仕草も可愛かった。
「ところで良い殿方は見つかりましたか?」
明都が興味深そうに聞いてくれた。
なかなか、ミナミや楽太とはこんな話は出来ない。
やはり女同士は、いいな〜。
「そうね、今のところは、見つかっていないね。
旅の途中で知り合ったのは、仲間の皆さんだけだし。
それに、私、見ての通り、こんなだからね。
ね、明都は私から見ても、素敵な女の子に見える。
誰か、いい人いたの?」
聞いてから、しまったと思った。
彼女は霧の沼から離れてしまった。
もしかしたら、もう会えない恋人が居たかもしれないのに。
明都、ごめんね。
「いいえ、私達は 自由に連れ合いを見つけることは出来ません。」
ん?どうゆうことだろう?
「私達一族には、『霧の沼』とその周辺地帯が必要なのです。それも美しい環境で。それ故、周辺を汚したり、破壊する行為は、有ってはならないのです。大きな争いの最初は小さな集団の争いから始まることも多いそうです。自分を統制できる、理性有ることが求められます。また、十分に自己が管理ができ、相手を慈しむことができると頭領様に認められ無い限りは、婚姻は出来ません。認められると同じような相手を紹介され、子孫を残すことが出来ます。」
そうかー、大変なんだ。
明都の話は続いた。
「もちろん、他の種族は私達と異なることも、知っております。ただ、瑠璃子殿に、自由に相手を捜すことは、どんな感じなのか、お聞きしたいと思いまして。」
「自分で探すのも結構大変かな。相手の有ることだしね。
もしかしたら、初対面の相手と仲良くなる努力をすることも、楽しいかもしれないね。
その、紹介された相手と必ず仲良く出来るのかな?」
私も明都の世界に興味を持ち、聞いてみた。
「有る意味、互いの努力が必要です。まずは相手を尊敬して、相手が喜ぶことはどんな事だろうと考えることから始まります。」
そうだね、結局自分で探しても、相手を労ることが大切なのは変わらないかもしれない。
「私は『霧の沼』から離れ、楽太様を守る使命が有ります。一族にとって楽太様の安全は、とても大切なことです。お守りする使命があるので、もしかしたら、連れ合いを探すことは、難しいかもしれません。でも、瑠璃子殿と知り合えて、外の世界を経験できること、とても嬉しく思っております。」
○あやかしの東山
一夜開け、切り立った崖に両側が囲まれた谷間の道を進んでゆく。
更に進んで行くと徐々に視界が開け、草原が広がっている。
山が見えてきた。
不思議な形だ。
摂政様の地図によると、私達の正面に見えているのが目的地の「あやかしの東山」。
山と名が付いているので、なだからな状態を想像していたけど。
太い棒のような形だった。
もちろん木が生い茂り、全体は植物で被われているので生き物は住めないことはないと思う。
遠くから見ると緑の太い棒が草原に突っ立っているようだった。
「あれが、『あやかしの東山』です。私も幼い頃に、過去の歴史を知るべく、大人たちに連れられて麓まで一度来ただけです。さあ行きましょう。」
明都が呆気にとられている私に声をかけてくれた。
太い緑の棒に向かって、草原の中を道が続いている。
山の麓に到着したのは夕方だった。
遠くから見ると棒のようだったが、近くにくると、木や草で被われた壁がずっと続いるように見える。山の太さはかなりの大きさと思う。
いったいどれくらいの太さだろう。
よく見ると、山の上に登る道が崖沿いに続いている。
道は何カ所か見える。
「明都さん。道は分かるかな?」
明都の肩に止まった、ミナミが質問した。
「私も、よく分からないのです。以前に来たときも、少し登った所で道が行き止まりなっていて、引き返した記憶があります。今日は遅いので、ここで野営して、明日の朝から登るのがよいと思います。」




