プロローグ
「異世界に行きたい。」
年頃の男たちなら誰でも妄想するだろう。
ある者は、現実世界で全然うまくいかなかったのに、異世界に飛ばされてチート能力を手に入れたり…
また、ある者は現代での技術を持ち込み、異世界で文化的な革命を起こしたり…
あとはまぁ、美的センスの違う異世界に行ってモテモテになったりとそんな具合だろう。
伊勢 蛍…14歳…。僕だ…。この辺がなんか異世界モノの小説っぽい気がする。
僕はとにかく退屈な日常に飽き飽きしていた。
家と学校との往復を繰り返す日々。
目立った恋愛イベントが起きそうにないクラスの女子。
平均的な学力、絶妙に悪くないクラス内のカースト…。
顔だってパッとしない。目は別段特徴があるわけでもなく、鼻も低すぎず高すぎず、身長も…まぁ、おおよそ平均的なモブ中学生を想像してくれ。それが僕だ。
僕は現実に飽きていた。
どこか遠くの世界へ飛んで行きたい。そう思いながら、青春の1ページが如く空を眺めていた。
「えーっ…秋山ー。…愛川。…井上。…伊勢。」
「……」
「伊勢。どうしたー?」
「あっ!はい!」
ああ、ダメだ。どれだけ想像したところで今この場がホームルームである事は変わらない…。それに…
「伊勢、なんかあったか?お腹痛いか?」
「ああ、ええ大丈夫です。」
「そうか。…えーっと、遠藤。大川……」
この、なんだろう。違うんだよなぁ。もっとホラ…
「何ぼけっとしてるんだ!」とか「最近どうした?様子が変だぞ?」とかあるだろう先生!
クラスのみんなもさぁ!「クスクス…」とか「ワハハハー!」みたいなのがあってもいいじゃん!!
本当に、本当に退屈な日常。
チャイムが鳴った。
授業開始だと思ったそこの諸君、残念。
授業終了のチャイムである。
そう、授業を全て終了するまで特にエピソードになる事は何もない。幼なじみの可愛い女の子だっていやしない。そんな毎日…。
だが、授業を全て終えた放課後。僕にはやらねばならぬ事がある。
「美化委員長!トイレットペーパー、洗剤などのチェック全て終了しました!」
「はい、ありがとうございます。」
「伊勢先輩、チェックシート僕が出しときましょうか?」
「あ、大丈夫。僕が行っとくから。」
そう、僕はこの学校において「美化委員長」という立ち位置なのである。
「美化委員長」に何かドラマを感じたそこの君。残念だ。
美化委員長にドラマなどない。毎週水曜に一年から三年の美化委員を率いてトイレのチェックを行うだけの委員会だ。もちろん、僕に大義名分はない。
「世界中のトイレを真っ白にするみたいに皆んなを笑顔にしたい」といった夢があれば別だろうが…。
…っていうかむしろ、トイレを舞台にした大スペクタクル冒険活劇なんて誰が見たいと思うだろうか。
「ただいまー。」
夕食はいつも家族4人集まって。
父、母、妹。
気まずい関係でもなく、逆にキャピキャピベタベタしてるわけでもなく、ツンツンデレデレするわけでもなく、
ましてや、謎のジャガーハサミ怪人に襲われて僕が復讐の改造人間に目覚めるわけでもなく。
つまらない…何も始まりそうにない。
ああ、父よ、母よ、妹よ…。何か『変化』をもたらしてくれ。
「あ、かーさん。」
「何?すず?」
「給食費。」
「ああ、壁掛けポケットに入れてあるけど?」
「あ!そうだったの?ごめーん!」
「すずはそそっかしいなぁ。」
「あ!お父さんの爪切り壁掛けポケットに入ってたわよ。」
「え!そうだったの!なんか見つからなくて。」
「おとーさんはそそっかしいなぁ。」
「じゃあ、すずはお父さんに似たんだな。」
ワハハハハハー!
……。
じゃねぇよ!!
なんだよ、なんで俺抜きでこんな楽しく会話進んでるんだよ。平和か!?平和過ぎるのか!?この世界は!!
本当に、本当に退屈な日常。
自室に行き、一人オカ板の記事を眺める。
僕はやるんだ…。絶対に異世界に行ってやる…!
「10階以上あるエレベーターで4階、2階、6階、2階、10階と移動する…紙に六芒星を書き、中心に『飽きた』と書いて枕の下に入れる…地下鉄○○駅のホームに異世界への鬼門…」
コンコン…
「入るぞー。」
父よ…何故、このタイミングで父が…