偽りの生け贄
「それで、お前はレナを見てないんだな?」
「はい.......ご主人様」
「それじゃあ、薄紫の目に三つ編みの赤い髪の女の子もか?」
「はい」
「あいつはこの辺りじゃ見かけない服を着ていたから、気付くとは思うんだが」
「いえ、分かりません」
レナはカントリー風の衣装を着ており、住人のほとんどがドレスに身を包んでいるセレティアは目立つだろうと思っていたが、ノエルの反応をうけ、少し不安になる
「早いうちに見つけないとな」
「手分けをして探すのはどうでしょうか、ご主人様」
「お前も迷子になりそうで任せられない」
「そんな!見た目で判断しないで下さいよ」
「現にセレティアの出口に向かって一直線に案内してくれてるお前に言われても」
「え?.......あ。あはははは」
ミスを指摘されたノエルは、諦めておとなしく俺についてくる
「セレティアで人気の観光スポットは何かあるか?」
「それなら中心地区の噴水広場ですよ。ご主人様」
「ふうん。ならそこに行けばレナも見つかるかも知れないな」
再び住宅地に入り、噴水広場を目指す
「あの、ご主人様。何か質問はありませんか?」
「質問?。例えばどんな」
「セレティアのこととか、ファルロドス様のこととか、よければ私についてでも」
「さっき言ってた生け贄の風習についてだが、一体どういうことだ」
「やっぱり私の心配じゃないのか......うう」
「ん?何か言ったか」
「い、いえ!何でもありませんご主人様。生け贄の風習についてですね」
「ああ、わかってる事だけでも構わない」
「はい」
ノエルは間接的に生け贄の事実を突きつけられたことで、苦しそうな表情をしたが、すぐに風習について語り始める
「始まりは戦争後のことなんです。5年ほど日照りが続いて運河が干上がってしまい、交易が出来ず困り果てていた皆の前に、ある人間が現れたそうなんです」
「人間?。戦争の直後にか?」
「はい。今もセレティアで暮らす商人達の先祖なんですけど。その人達が、神獣の怒りを買った。このままではセレティアが滅びると言って」
「それで生け贄をな。よくある話だ」
「でも、生け贄の効果があってかそれ以来日照りの被害が止んだんです」
「ふむ」
「今の生け贄の風習はそれが続いているものだと。それをお婆様から聞いただけです」
「なるほど.....それで今年の生け贄がお前だったと」
ノエルは無言で頷く
「なあサミル、何かおかしくないか。ファルロドスはそんな神獣じゃないはずだろ」
[はい。ファルロドス様は温厚で慈悲深いお方。戦の後もセレティア復興のために尽力されたと聞いています。そんな方が自らの愛する街の民を生け贄にするなどありえません]
「.......別の何かが関わっている」
[でしょうね]
俺は拳を握りしめる。神の名を語り悪事をはたらく何者かへの怒りを抱いた。
「ノエル。生け贄は神獣へのものなんかじゃない。それとは全く別の目的がある」
「どういうことですか?ご主人様」
「生け贄の風習はセレティアに必要ない。何者かが勝手に作り出した偽物の風習なんだ」
「でも」
「大丈夫。お前を生け贄なんてさせたりしない。こんな間違った目的のためにこれ以上犠牲を出させたりしない」
「ご主人様。そんなことをしたら、またセレティアが。私は......私なら大丈夫ですから」
ノエルは泣きそうになりながら俺に訴えてくる。
大丈夫なはずがない。それはノエルの表情から簡単に分かる。あんなに怖がっていたのに。セレティアのためだと自分を誤魔化している。
「心配するな、ノエル。こんな偽り俺が終わらせる。これから誰も傷つくことも、苦しむこともないように」
「.......ご主人.....様」
「大丈夫だ。お前にも辛い思いはさせない。きっと守る」




