船着き場の出会い
船着き場のそばまで来ると、小さなものではあるが、少女の声が聞こえる。
しゃくりあげるような泣き声。様子を見て立ち去ろうと思ったが、彼女が心配になり船着き場に降りる。
「えーと、大丈夫か?」
俺が声をかけると、少女の体がビクリと跳ねる。
「......もう......ですか?」
「もう?。何がだ?そもそも何でこんなところに?街は収穫祭で盛り上がってるのに」
「出来ませんよ.......そんなこと」
「出来ない?」
「生け贄なんですから」
「は?生け贄だって。何を言ってるんだ」
「収穫祭の終わる時。獣の巫女に選ばれた者はファルロドス様の傷を癒す生け贄になるって」
少女は立ち上がり、俺に向き直る。
その頬には涙の伝った跡が残り、アクアマリンのような蒼い瞳は潤んでいる。
彼女が着ている紺のワンピースの裾は水に濡れ、エプロンと薄紫の長い髪は土で汚れてしまっている
「おかしいな。セレティアにそんな風習はないはずだが」
「これまでにも何人も生け贄にされた人がいます」
「.......詳しく聞かせてもらえるか」
「はい。かまいませーーー」
きゅるる
可愛いらしい音が聞こえる。少女は顔を真っ赤にして目を逸らす。
「あー、まあそうだよな。腹が減っては話も進まない。これ、食べるか?」
少女は一瞬だけこちらを見て、目を輝かせる。
俺の持っているサンドイッチを見つけたのだろう。
「はい!ありがとうごさいーーー」
そこまで言いかけて、彼女ははっとして手を引っ込める。
「い、いえ!。私は主人への奉仕が務めです。お気持ちは嬉しいですがそちらを受けとるわけには」
ぐうぅ
「ーーっ」
「我慢はよくないぞ?。それに俺はお前の主人じゃない。気にしないで食べていい」
「しかしそれは」
「俺の分か?ここに来るときに食べたんだ。これは仲間の分なんだが、そいつが迷子になってるんだ。このまま放っておいて冷めるのももったいないだろ?だから、ほら」
「本当に良いのですか?」
「ああ。気にするな」
少女はおそるおそる俺の手からサンドイッチを受けとり、そっと口をつける。
一口目を飲み込むと、それまでの遠慮が嘘のように慌ててサンドイッチを完食する。
サンドイッチを食べ終え、我に帰った彼女は恥ずかしそうに指を絡ませる。
「す、すみません」
「気にするな。元気そうで安心した」
俺が優しく微笑むと、彼女は余計恥ずかしそうにして顔を隠す。
「ところでさっきの話だが、生け贄ってどう言うことなんだ」
「それは.......」
「あ、話しにくいなら無理はしなくてもいいんだ。いやなら他を探すし、話してくれるなら落ち着くまで待つから」
「でもあなたは人を探してるんじゃ」
「そうだが.....ファルロドスについて何か聞けるならそれからでも大丈夫なはずだ」
レナのことも心配ではあったが、神獣について知れる好機を逃したくはなかった。
「それではあなたに迷惑をかけてしまいます。ですから、その」
「ん?」
「あなたが迷惑でなければ、私にもそのお手伝いをさせてください!。これでも先日までメイドとして働いていたんです。きっと役に立って見せますから!」
「そう固くならなくていい。手伝いなら大歓迎だ。えーと」
「はっ。失礼しました。私ノエル・ルフェリアと言います!よろしくお願いいたします。ご主人様」
「あ、ああ。俺はアルト・エールデンだ。よろしくな、ノエル」
「は、はい!」
ノエルの表情は、さっきまで泣いていたと思えないほどの笑顔だった。




