表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/33

32.教会の噂

「……五年前、クラリネッタの街に魔獣の大群が入り込んで来たの。行動がおかしいっていうか偏ってたっていうか……それで衛兵が対処しきれなくて。負傷者は多かったけど幸い死人は少なかったから、被害は最小限に抑えられて良かった―って。

 でもその魔獣の群れが、病魔に冒されてたの。人同士じゃほとんど感染しないらしいんだけど魔獣から人へは簡単に感染するみたいで、ちょっとでも引っ掻かれた人は勿論、追いかけられただけのはずの人もバタバタ倒れちゃって……」


 上っ面をバッサリ剥がされる形になったカナリアは、弱々しく言う。


 単純な流行り病ではなく、魔獣に持ち込まれたものらしい。


「発症したら酷い頭痛が起きて暴力的になって、一週間ほどで意識をなくすって……。本来は冒険者がかかる病で、ここまで大規模感染することはまずなかったの。

 特効薬を作るには満月草っていう薬草が必要なんだけど、それが生えているのは迷いの森っていう、A級ダンジョンに認定されてるところにしかないの。元は滅多に必要になるものじゃないし150G程度で取引されてたんだけど、流通量も多くなかったから一気にどんどん値上がっちゃって……最後には30万Gくらいだったっけな。それが売り切れたら、市場には一切出回らなくなっちゃった。カナリアも家のもの叩き売ってお金集めてたんだけど……10万Gも貯まらなくて……」


「30万Gか……」


 だいたい10円=1Gと考えると、300万円だ。

 元より金に余裕のなかったカナリアにはポンと用意できる額ではなかっただろう。

 元値の2000倍か。たまたま幾らか持ってただけで大儲けできるな。


「その時、たまたま事前に満月草を買い占めてたのが……あの、教会だったっていうか……」


「たまたま?」


「元々何かの儀式で必要だったらしくって。あの頃は小さい教会だったんだけど、満月草から特効薬を作るにも腕の立つ錬金術師と病魔の進行を遅らせるための白魔導士、病人を寝かせておくためのスペースが必要だってことで寄付を募ってどんどん拡大していって……気がついたら今の規模になってたって感じで……」


「でも、迷いの森に行ったらいっぱい生えてるんだろ? その、満月草って」


「はずだったんだけど、あれ以来迷いの森に入った冒険者は、誰も帰ってこなくなっちゃって……」


 つまり病魔に冒された魔獣の群れが街に入ってきて、偶然教会がその特効薬の材料を大量に抱えてて、偶然その材料が手に入る森に入った冒険者が帰ってこなくなったということか。


「いや、それ絶対おかしいだろ……」


「最初に言ったけど……その、カナリアの一方的な見方だし、ちょっとおかしいかなって思ってても、頼る以外に手がなかったから。文句言って教会の治療室から身内を追い出された人もいるし、非難続けてて急に行方不明になった人もいるし……」


 カナリアの話によれば薬代を払えず、身内の延命治療費を毎月毎月徴収されている者が100人以上いるらしい。

 金づる兼人質になっているのが現状のようだ。


「……予想以上にトンデモねぇな」


「えっと、本当に何も知らなかったの? 最初から敵愾心剥き出しだったから、ちょっとくらいは知ってるんだと……」


「恩人の前で、そんな情けない顔する奴なんかいねぇだろ。アンタとアイツの顔見てりゃ、事情知らなくったって大体わかるって。ミニックで確認も取ったしな」


 言ってから屈伸し、俺は立ち上がる。

 そんな俺をカナリアが見上げる。


「これでわかったと思うけど、教会には誰も逆らえないから、今日みたいなことはおにーさんもやめた方がいいよ。その……都合がいいのはわかってるけど、騙した分はおにーさんに返すし、欲しいのがあるなら持ってっていいから……できればこれでカナリアのことは見逃してくれたら……。教会にかなり未納額抱えて……このままだと母さんも治療所を出されちゃうから……」


「オッケーわかった、その満月草って奴を束にして採ってきて街中にばら撒いてやればいいんだな。任せとけよ」


「え?」


「そこ日帰りで行けんのか? 夜までに帰んなきゃオッサンがホームレスになるから、それなら金作るまで待って欲しいんだけど」


「だから、今日中とかじゃなくてそもそも入ったら戻ってこれた人がいないんだって! そうじゃなきゃカナリアだって……」


「今のままじゃ金、全然足りないんだろ?」


「そう……だけど、でも……」


 危険度A級なら旧魔王城と大差ない。

 正直あそこでもゴブリンキングくらいしか危なくなかったし、あれも足しか使えないからだったし、そこまで突破できる自信がある。


「カナリア、あそこに入るって行って帰って来なくなった人を何人も知ってるから! おにーさん、なんでそんな根拠のない自信が……」


 俺は石を拾い上げ、腕に魔力を走らせてを握り潰す。

 指の隙間から、サラサラと砂が落ちる。


「安心しろよ、力には自信あっからさ」

『転生したらドラゴンの卵だった〜最強以外目指さねぇ〜』

http://ncode.syosetu.com/n4698cv/


新作投稿しました。

こちらもぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ