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27.だからあれほど言ったんだオッサン

「おいガキィ、テメェも飲めって、オラ!」


「い、いや……俺は酒苦手っていうか……臭いが無理っていうか」


「あぁ? 一杯くらい付き合いやがれや! オラ、注いでやる! グラス出せ!」


 これ完全に駄目なパターンじゃねぇか……。

 完全に酔っぱらってやがる。

 つーか、前回のこと本当に欠片も覚えてねぇよなこれ。

 俺に酒飲ませ酷い目に遭ったの忘れたのか?

 脳のどっかが覚えてて、本能的に忌避しそうなもんだが。 


「ほどほどにしてくださいニャ、エドガーさん。店長さん結構怒ってたので、次は出禁になるかもしれませんニャ」


 料理を運んできたシーニャが、溜め息を吐きながらジト目で俺を睨んでくる。

 そいつを抑えとけよ、ということだろう。

 取って付けたような笑顔が怖い。


「おいおいシーニャちゃん、なんだよ次はって! 俺様が前にも何かやったみてぇじゃねぇか! かっはっはっはぁっ!」


 シーニャは料理を机の上に置き、改めて愛想笑いを浮かべる。


「えっと、アルマさんでしたかニャ? 苦労すると思いますが、頑張ってくださいニャ」


 丁寧な言い方ではあるが、絶対アンタは酒飲むんじゃねぇぞ、キッチリそいつの面倒見とけよ、と目が語っていた。


「あ……はっはっはっはっ……」


 笑い返すと、シーニャはにこりと頷き、空いた皿を下げて店奥へと戻っていく。


 しっかし、結構飲んでんなエドガー。

 これ、俺がなんかやらかさなくても二日酔いになるんじゃねぇのか。


「ったく、なんだよ、シーニャちゃんも俺様のこと馬鹿にしやがってよう……」


「別に馬鹿にしてるわけじゃねぇとは思うけど……」


 うわ、顔真っ赤じゃん。

 言ってることもなんか妙に卑屈臭くなってきたし、そろそろこれ、酒飲むの止めた方がいいな。

 武力行使も辞さない方向で。


「テメェも! 最近俺様のことからかってやがんだろ! わかってんだぞぉっ!」


「それは割と会った日からだから安心してくれ。ほら、親近感の表れというか」


「そうか、だったらいいが……」


 そこで納得すんのか。

 やっぱり相当酔ってんぞ。

 自分が何言って何言われたか、把握しきれてねぇんじゃないのか。


「そろそろ酒やめといた方が……」


「あぁ? 何言ってやがんだ。ほら、テメェも飲むんだよ」


 別に俺はいいけど、それで沈むのはアンタだぞ。


「あ、そういやさ、あのゲイルとベルって奴と何があったんだ?」


 エドガーが喧嘩別れした、男女の冒険者コンビ。

 元はトリオだったんだろうな。

 なんとか話をこっちに逸らし、酒から遠ざけさせる作戦で行こう。


「あぁ? ゲイルとベルだぁ?」


 エドガーは手にしているグラスの底を机に叩き付ける。

 中に入っていた酒が零れ、エドガーの手に掛かる。


 やべ、失敗したか?

 あんまし好感触じゃねぇ感じだぞ。


「よく聞いてくれたじゃねぇかぁっ! あん馬鹿二人がどれだけ卑劣なクソヤローか、きっちり教えてやるぜアルマァツ!」


 良かったノリノリだった。

 エドガーは立ち上がり、俺の背をベシベシと叩く。

 酒で濡れた手で触るんじゃねぇっ!

 まぁ俺のローブ、馬車の中に半ば捨てられてた奴だからな。

 旧魔王城で得たアイテムが上手く裁けて金に余裕ができたら、なんかカッチョイイ奴買ってもらうか。


「奴らと組んだのは、もう何年も前んことよ。あん頃は、全員D級だったかぁ? 確かゲイルの馬鹿が、機会が巡って来なくて評価されねぇってボヤいてやがってな。俺様は別にランクにゃ拘ってなかったが、俺様は顔が利くから多少無理な要件も通せるし、機会作るだけなら簡単だって言ってやったんだよ。

 冗談のつもりだったんだが、不思議と意気投合してなぁ。たまたまその場にいたベルを巻き込んで、三人で組むようになったんだぁ」


「ロクな集まりじゃねぇ……」


 エドガーがランクにゃ拘ってなかったって、絶対嘘だろ……。


「朝から晩までギルドに張り込んで割のいい仕事探したり、他ん奴が引き受けた依頼を頭下げて金で買い取ったり、討伐部位を高値で譲ってもらったり、知人に発注させた依頼を自分で受けて実績水増ししたり、数十人で結託してポーション買い占めたり……。ああ、懐かしい……なんやかんやいって、あの頃が一番楽しかったかもしれねぇなぁ……。毎回肝心なところでポカしてギルドに目つけるわ大損するわで散々だったが……」


「それはそれで気になるが、話逸れてんぞ」


「そうだ! あの時もゲイルが裏切りやがったんだ! まだ買い占めするっつってたのに、数人で組んで先に捌きやがって! あれのせいで値が崩れたんだぁ! 思い出しただけで腸煮えくり返りそうになるわ! 飲まなきゃやってらんねぇなぁっ!」


 言いながらエドガーはボトルを掴み、ラッパ飲みする。

 グラス使えグラス! そんなんだから二日酔いになるんだ!


「おいっ! もう酒はやめろっ! マジで! シーニャ怒ってたぞ!」


「飲まずにいられるかよ! あのときも余ったポーション安値で売るのアホらしかったから、俺が買い占めた分を一ヵ月かけて全部飲み干してやったんだ! すぐ戻ったが、一時期8キロ太ったわ! あん頃に比べたら、酒瓶の一本や二本、どうってことねぇわぁッ!」


「…………」


 ああ、駄目だ。止まらねぇわコレ。

 薄めずどんどん飲んでいきやがる。なんだ、俺が悪いのか。


 視線を感じて振り返ると、シーニャがジッと俺のことを見ていた。

 ああ、駄目だ。これ、出禁になるかもしんねぇな。


 俺は気付かなかった振りをして、前を向き直す。

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