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26.今日は飲みすぎんなよオッサン

「五、六回は死を覚悟したぞ! 次勝手なことしやがったら、マジでぶっ殺すからな!」


「悪かった悪かった。ほら、俺も初ダンジョンで浮かれてたんだって。結果良ければオッケーっしょ。俺が持ち帰った奴、結構売れるもんも混じってると思うんよ」


 ゴブリンキングとの乱戦からのイミティタイガー襲撃のせいで色々荷物を落としてしまったため小さな麻袋ひとつ分しか持ち帰れなかったのだが、指輪やら何やらもあったので、それなりの金にはなるはずだ。


「テメェの場合、結果良ければで許したら再発するだろうがぁっ! 危ねぇ奴にまで目ェ付けられるしよぉッ!」


 何とか地上階層まで逃げきり、旧魔王城地下から無事に脱出を果たした俺とエドガーは、再び酒場『またたび』に来ていた。

 前回と同じく、店奥のテーブル席。

 別に二人なんだからカウンターでもいいと思うんだけどな。

 店員のシーニャ目当ての節が大きいエドガー的には、そっちのが都合よさそうだし。


 あれか、ひょっとしてもっと人数多いパーティー組んでたときの癖が抜けねぇ、みたいな。

 うわ、切ねぇ。エドガーそういう女々しいとこありそう。


「……今、すげぇ失礼なこと考えてなかったか?」


「強く生きろよオッサン」


「本当に何考えてやがったテメェ!?」


 まぁまぁ、と適当に俺はあやす。

 それで誤魔化されてくれるわけもなく、エドガーは俺を睨む。

 チッと舌打ちを挟み、グラスに入っていた酒を一気飲みし、ボトルからまた注ぐ。


「そういやあのカマ術師の時といい、帰りの馬車ん時といい、もうちょい気丈に振る舞ってくれよ」


「ああ? 何が言いてぇ?」


「あんなオロオロされてたら誤魔化しが通らねぇじゃん」


 ルーファの待つ馬車に戻ったとき、エドガーは満身創痍でフラフラで、俺だけピンピンしているという状態だったため、彼女に妙に勘ぐられる結果となった。

 俺とエドガーが無傷で戻ってきたこと自体、ルーファからしてみれば意外なようだった。


「オ、オロオロなんかしてねぇよ! 喉乾いててちっと体調悪かっただけだァッ! テメェが勝手に地下入り込んで、魔物の襲撃で食糧と水を紛失しやがったからなぁ!」


「それはマジで悪かったって」


「テメェには反省の色がまったくねぇんだよ! こんな調子でいってたらいつかこっちが死ぬわ!」


 お、説教モード入ったか。

 俺は拾った昔の金貨やら宝石、指輪を詰めた麻袋を揺らす。


「ほらほら、落ち着けって。これさえ換金できたら余裕で御釣りが来るっしょ」


「ぐ……そ、そういう問題じゃあねぇだろうがよ!」


 言いながらも、エドガーの目は麻袋に釘付けになる。

 右、左と揺らすとエドガーの黒目がついてくる。ほれほれ、ほれほれ。

 俺が笑っていることに気がつくと、エドガーは舌打ちを挟んでからまたグラスに手を伸ばす。

 すっかり怒る勢いとタイミングを削がれ、白けてしまったらしい。


「……そういや旧魔王城と言えば、アイツらどうなったんだろうな」


 俺がふと話題に出すと、エドガーがニヤリと笑う。


「ハッ! 半泣きで歩いて帰ってくることだろうよォッ! 奴らの唖然とした顔が見れねぇのは残念だ!」



 アイツら、とはB級冒険者五人の寄せ集めパーティーのことである。

 エドガーが喧嘩別れした冒険者、ゲイルとベルもそれに加わっている。


 旧魔王城から帰る前、エドガーは彼らが乗ってきた馬車へと近づき、ある交渉を持ちかけたのだ。


『テメェら、いくらでアイツらに雇われた? その三倍の金を出すから、今すぐ帰ってくれねぇか?』


 俺は止めた。

 もう、ものっそい勢いで止めた。

 これこそ余計な恨み買うだけだし、馬車と護衛を数日動かす金の三倍っていうと、結構えげつない出費になる。

 嫌がらせにどんなけ命懸けてんだよ。


 幸いと言っていいのか不幸にもと言うべきか、馬車の持ち主も、馬車番として雇われた冒険者も、相場よりも遥かに安い金で半ば脅されて連れてこられていたらしい。

 その上、寄せ集めのゴロツキ冒険者共は誰がいくら払うかで揉め始め、重ねて値切られそうな雰囲気だったので、恨みを買うことを覚悟して帰るかどうか二人して頭を悩ませているところだった。


 因みに冒険者の方はC級で、この辺りでの番を一人で任せられるランクでは本来ないのだとか。

 最初は馬車番係は二人だったが、直前に悪条件に堪えかねて一人が逃げ出し、そのまま欠員が埋められることもなく強行されたらしい。

 さすがエドガーの知り合い、ロクな奴がいねぇ。


 そんな背景もあり、無謀に思えた交渉もトントン拍子で話が進み、むしろ感謝までされる始末。

 持ち歩いている金が少ないのでギルド経由で振り込んでおくと約束し、固く手を握り締めあっていた。

 去って行く馬車に手を振りながら、『アイツらに何か言われたら、俺様の名前出して脅されたとでも言っとけ』とまで口にしていた。

 多分彼らの安否を心配したのではなく、『俺様がやってやった』ということを相手に知らしめてやりたがったためなのだろうが。



「カッハッハッハッハ! ボロボロで帰ってきて馬車がなくなってんのを見つけたときの奴らの表情を想像するだけで酒が進むわ! まさか感謝されるとは思わんかった! 奴ら、どんなけ嫌われてんだっつーの! おい、シーニャちゃん、これと同じ奴もう一本! 水と、つまみも適当な奴頼むわ!」


 エドガーが手にしたボトルを指差しながら、カウンター奥にいるエプロン姿の猫耳娘、シーニャに言う。


「……オッサン、前二日酔いになったとき、禁酒するとか、一生酒飲まないとか、酒飲む奴の気が知れないとか、酒生みだした菌を恨むとか、むしろ酒滅べとか言ってなかったか?」


「あぁ? 俺様がそんなこと言うわけねぇだろ。こんな理不尽な世の中、コイツなしでやってけっかよ」


 空になったボトルを揺らしながら、エドガーは言う。


「いや……うん、俺の気のせいだったらいいんだけどさ……」


 喉元過ぎれば熱さ忘れる。

 死にたい死にたいと喚きながらゲーゲーしていた記憶は、忘却の彼方に飛んでいったらしい。

 まぁ前飲み過ぎたのは俺のせいらしいし、今回は大丈夫だとは思うけどよ。

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