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23.裏冒険者、禁魔獣のアトラ

 三方向から襲いくるゴブリンを、右から順に勢いよく天井へと蹴飛ばす。

 四方向から攻撃されるのが割と嫌だったので、背後から襲ってくるゴブリンを一番強めに蹴っ飛ばしておくようしておいたのだ。

 向こうも後ろから襲ったら酷い目に遭うと学んだらしく、前方からしか掛かってこなくなっていた。


 そこまでビビるのなら、大人しく逃げてくれって思うけどね本当に。

 あれか。

 四方向どこから襲ってもいいのなら、どうせなら後ろは避けよう。

 俺が行かなくても誰か行くじゃんっていう、集団心理が作用したね。



「おいデブ大将! 言い残すことはあるか?」


 山のようにいたゴブリンも、今やそのほとんどが屍の山と化している。

 生き残っているのはゴブリンキングの護衛をしているのが三体、完全に戦意喪失しているゴブリンが30体ほどだ。

 ゴブリンキングは目を白黒させながら口を開け、間抜けな表情で俺を見ていた。

 余っている頬の肉を持ち上げ、ニタニタと笑っていた頃の面影はすでにない。


 結局タイミングを逃し、ずっと背負ったままだったエドガーを俺は床に降ろす。

 エドガーは床に足を乗せた瞬間よろめき、その場に蹲る。

 六時間体勢を固定したまま、飲まず食わずで恐怖に晒され続けてたんだからそりゃまぁそうなるか。

 ヤダな……俺のせいだし、飯抜かれんのかな。


「ゲェゲェッ!」


 ゴブリンキングは逃げようとし、躓いてひっくり返る。

 頭から王冠が転げ落ちたが、それを拾おうともしない。そのまま地を這いながら俺から少しでも距離を取ろうとしていた。


 俺は歩いてゴブリンキングを追う。

 ゴブリンが途中で立ち憚ったが、睨んだら逃げて行った。

 太ったボスよりずっと逃げ足が速い。


「ゲヒェッゲヒェエェッッ!」


 置いて行かれたゴブリンキングが、世にも哀れな声を出しながらよったよったと逃げて行く。

 俺はゴブリンキングを無視し、奴の落とした冠を拾い上げる。


「これ、超カッコよくね?」


「ムーッ!」


 ムー子も気に入ったらしく、頭上でパタパタと羽を動かす。

 ムー子に被らせておくことにした。


「んなもんどうでもいいからアイツにトドメを刺せ! ああ見えてB級上位の危険度を持つ魔物だぞ! アイツがいるだけで、ゴブリンの群れの繁殖力が十倍以上になるとも言われてんだ!」


 エドガーに言われ、俺はゴブリンキングへと視界を移す。

 自らの贅肉に身体のバランスを奪われつんのめりながらも、必死に逃げようとしている。


「……なんかあの様見てたらやる気削がれるっつうか。もういいだろ、増える頃には俺いないし」


「わかんねぇだろうがぁっ! ひょっとしたらコイツが城から出てきてテメェに復讐しに来るかもしれねぇぞ! あり得なくはねぇぞ、普通のゴブリンより知能がかなり高いんだよ!」


 俺は一歩前に出て、足音でゴブリンキングを振り返らせる。

 それからすっと人差し指を前に突き出す。


「いい勝負だったぜ。次会ったときは、俺を超えてみせろ」


 好きな漫画の敵の台詞だった。

 一回言ってみたかったんだよなコレ。


「俺様馬鹿にするためにわざと渋ってねぇか!? もういいっ! テメェがやらないんなら俺様がやるぞっ!」


 黒刃のナイフを取り出し、エドガーはゴブリンキングへと向かう。

 ゴブリンキングが警戒態勢に入り、ぐっと拳を固める。


「え……おっ、おい。やめとけって!」


「あんなデブに俺様が負けるわけねぇだろうが!」


 エドガーが地を蹴り、ゴブリンキングとの間合いを詰める。

 急なことで反応できず、制止が間に合わなかった。


 エドガーが、ゴブリンキングの首へと斬りかかる。

 ゴブリンキングが腕を振るうよりも早く、黒刃のナイフが太い首に当たる。

 エドガーは勝利を確信し笑うが、ナイフは首を斬りきれず、途中で止まった。


「あ”ぁっ?」


 やっぱりか。

 遠目から見ていてかなり硬そうな肉だと思ってたから、何となくこうなるような気がしたんだよ。


 全然斬れていないわけではないが、致命傷とは言い難い。

 振りかぶっていたパンチが、エドガーの腹部に撃ち込まれる。


「おぶぅっ!?」


 宙を飛んだエドガーをなんとかキャッチする。

 ゴブリンキングは動きは遅いが、体格相応の力は持っているようだ。

 普段のエドガーならまだ対処できていたかもしれないが、今はかなり弱ってたからな。

 意表突かれたってのもあっただろうし。


「あ……が、クソ……あのデブがぁ……」


 エドガーは息を荒くしながらも悪態を吐く。

 ゴブリンキングはエドガーの軽口など気にも溜めず、先へ先へと逃げて行く。


 ……逃げる奴追って殺すのってあんまし気分良くねぇんだよなぁ。

 あそこまで表情豊かだと尚の更。


「まぁ、いいじゃん。俺のいた世界でも、知能高い動物殺すのって結構禁忌扱いされてたっていうか」


「……ダークエルフがそんな甘ちゃん揃いだったのは知らなかったぞ」


 なんか今もの凄い齟齬が生まれた気がするぞ。


「ってことであんなの放っといても……ん?」


 二体の獣の足音が聞こえてきた。

 かなり早い。肉体強化に集中していたし、雑音が多いからさっぱり気付かなかった。

 


「どうしたクソガキ?」


「なんかがものっそいスピードでこっちに来てるっぽい。これ、逃げた方が……」


 ゴブリンキングが向かっている先の通路から、青い虎が現れた。

 先を歩いていたゴブリンを踏み潰しながら突進し、ゴブリンキングを一瞬で喰らう。

 噛み千切られた紫の片腕が、青い虎の足許にゴロリと転がる。 


「イミティタイガーだっ!」


 エドガーが悲鳴のような声で叫ぶのと同時に、続いて更に大きい青の虎が現れた。

 その背には、虎と同じよう青と黒混在した髪を持つ少女が乗っていた。

 目は大きく、鼻は小さく、幼いながらに美人の風格のある顔立ちをしている。

 だがしかし、口から覗く八重歯がどこか凶暴性を表しているようだった。


「チョコちゃん、メッ! そんなの食べちゃ、お腹壊しちゃうよ? アトラ、チョコちゃんそんな風に育てた覚えないもんっ!」


 まだら髪の少女は、ゴブリンキングを食した青い虎を叱りつける。

 怒られている虎は素直なもので、首を項垂れさせて反省している。


 それから俺達の方へと目を移す。


「あれ、人間?」

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