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22.正直調子乗ってたわ

「つつ……おい、クソガキィッ! よくも俺様をぶっ叩きやがったなぁっ!」


 俺の背で、エドガーが目を覚ました。


「あ、オッサン! 目、覚めたか。手伝ってくれ。結構カツカツなんだ。普通にヤバい」


「はぁ? ヤバいって何が……」


 エドガーが言い終える前に、周囲右左前後ろ四方向から緑の子鬼、ゴブリンが飛び掛かってきた。


「ゲハッゲバッ!」「ゲッゲッゲ!」

「ガァハッガァッ!」「ゲェッゲッゲッゲッ!」


 俺は軽く跳ね、回し蹴りを放って対処する。

 足先がゴブリンの鼻頭に綺麗にヒットし、手にしていた棍棒を落としてぶっ飛んでいく。


「「グァァァァッ!」」


 だが、これで終わりではない。

 倒れるゴブリンを避けながら、その後ろからまた新たなゴブリンが突進してくる。

 広間にいるのは軽く100を越えるであろう数のゴブリン。

 うわっ! またなんか奥の方から出てきたよ!


「ちょっと待てやコラァァァッ! 俺様が倒れてる間に何があったんだよ!」


「はっはっはっ……悪い、ちょい調子乗って地下に入っちまった」


「テメェ馬鹿だろ!? 出会った初日から思ってたが、テメェやっぱり馬鹿だろ! あんだけっテメッ! 俺様、あんだけ入んなって言ったのに、テメッ! この、大馬鹿野郎! どうすんだこれぇっ! 無理じゃねぇかぁっ! こんなん絶対無理じゃねぇかぁっ!」


 あんまし耳元で叫ばないでほしい……ああ、もう!

 今、耳に唾かかったぞ!


「冒険者歴の長いエドガー先生に訊きたいんだけど、どうにかする方法ねぇかな?」


「こんな数っ! そうだ、テメェ範囲広い魔法持ってただろ? あれでどうにかできねぇのか!」


「別に俺はそれでもいいんだけど、この数相手に隙見せずって考えると、どうしたってオッサンも巻き添えになるぞ」


「テ、テメェ! いざとなったら俺様を見捨てる気じゃねぇだろうな! おいっ!」


「短い付き合いだったな。色々あったけど、案外、嫌いじゃなかったぜ」


「アルマァァアッ!? 冗談だよなぁ? おいっ! 返事しやがれコラァッ!」


「ジョ、ジョークジョーク! 背中ガンガン蹴んのはやめて! 痛くねぇけど、バランス崩れるから!」


 ぶっちゃけた話、魔力で肉体強化さえしていればゴブリンの攻撃なんぞ怖くない。

 まともにぶん殴られても堪える自信がある。

 このまま大群を突っ切って歩いての脱出も不可能ではなかったりする。

 ただエドガーはその限りではない。

 今必死に迎撃しているのも、エドガーを守るためだ。

 とはいえ肉体強化は連続で使うものではなく瞬発的に使うものなので、大群相手に何時間もやってると切れる可能性がないとも限らない。


「逃げるのと全部倒すのって、どっちのがマシ?」


「どっちも現実的じゃねぇよ! 相手が何体いると思ってやがる!」


 喚きながらエドガーはゴブリンの山を見て、「あ……」と声を漏らす。


「なんか見つけたのか?」


「広間の奥の方に、紫の、王冠被った奴がいんだろ! ゴブリンキングだ! アイツがリーダーだ! アイツさえぶちのめせば、この大群も止まるはずだぁっ!」


 エドガーが指差す方を見れば、紫の体表を持つブクブクに肥えたゴブリンがいた。


「ゲッゲッゲ……」


 そいつは気味の悪い笑い声を上げながら、面白半分といった調子で俺達を観察していた。


「あれぶっ飛ばせばいいんだな! 任しとけ! 火魔法、『火炎の弓矢ファイアショット』」


 俺は近寄るゴブリンを蹴飛ばしながら手の上に真っ赤な炎の矢を浮かべ、ゴブリンキングへと投げつける。

 が、途中で他のゴブリンが飛び上がり身を呈して守ったため、不発に終わった。

 仲間が燃えても動揺する様子がなく、ゴブリンは淡々と俺達に襲いかかってくる。


 ゴブリンキングがまた笑う。

 自分は安全圏にいると、そう信じ切っている顔だ。

 崖の上から石を投げつけられているような、そんな嫌な気分になる。


「ダメじゃねぇかぁっ! どうすんだぁっ!」


「オッサン、なんかできることねぇの? 攻撃は無理でも、なんか逃げるのに特化してる感じの!」


「あったらやってるわぁっ!」


 ちらりと見えた横顔。

 目に少し涙が浮かんでいた。


「だよな! そんな気はしてたっ!」



 特にこれといって打開案が浮かぶこともなく、そのままゴブリンを蹴飛ばし続け、六時間が経過した。

 築かれるゴブリンの山。

 最初は仲間が蹴り破られても気に留めてすらいなかったゴブリンも、ボロ雑巾のように横たわっている仲間の山を見て、明らかに士気を下げ始めていた。

 なんかもう『え、これ無理じゃね?』みたいな顔をしてる。


 減っても減っても奥から無尽蔵に奥から湧いてきていたゴブリンも、数が減ってきている。

 最初は余裕面で笑っていたゴブリンキングも、段々と真顔になってきている。

 目の前の光景が理解できないといった様子で、時折自らの頬を抓ったりしていた。


「なんだ、案外なんとかなるもんだな」


「よ……よし、その調子だ、ガキ……」


「なんでアンタが疲れてんだ?」


「むしろなんでテメェは、六時間水も飲まずに暴れ続けられるんだよ……」


 俺を目前にしつつ、不安気に後ろを振り返るゴブリン。

 ゴブリンキングに撤退命令を求めているらしい。

 ゴブリンキングは興奮気味に息を流しながら、目線で早く戦うことを促す。


 俺はそのゴブリンの顔面を、思いっ切り蹴っ飛ばした。


 ゴブリンの身体が真っ直ぐ飛び、ゴブリンキングの身体にぶち当たる。


「オガァッ!」


 倒れたゴブリンキングを、近くにいたゴブリンが三体掛かりで起こす。

 そろそろ、ゴブリンとの闘いも終わりそうだ。

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