21.とりあえず落ち着けって!
「放せぇっ! 森では見逃してやったがァ! 次あのクソ共を見つけたら、ぶっ殺してやるって決めてたんだ! そもそもォ! アイツらに旧魔王城の情報を流してやったのは俺様なんだぞぉ! なのに俺様切り捨てた後、平然とここに足を運びやがるあの舐め腐った根性が許せねぇっ! 俺様は冒険者だ! 気に喰わないクソヤローと狩り場が被ったら、ぶっ潰すしかねぇだろぉがっ! それにあんな奴ら、いない方が世の中のためだっ! そこらの魔獣よりよっぽど悪質極まりねぇ!」
ゲイルとベルが来ていることを知ったエドガーの荒れ様は凄まじかった。
やっぱり黙っとくべきだった!
エドガーは外見年齢より実年齢の方が幼くて、更に精神年齢はそれより数段下がることを忘れていた!
負けず嫌いでプライド高いんだったこの人!
「オッケー落ち着け、100秒数えろ。ちっとは冷静になるから!」
「ガキあやすみたいなことほざいてんじゃねぇっ! 俺様があの二人にどれだけ屈辱を受けたかぁ! どれだけ手酷く裏切られたかぁっ! それを知らねぇからんなことが言えんだよぉっ! 俺様はなぁ、テメェみたいに、よくわかんないけど喚いてるから止めとこうみたいな、そういう奴が大っ嫌いなんだよぉっ!」
「話ならいくらでも聞いてやるから! な?」
「ガキがナマ言ってんじゃねぇぞぉ! 止めるっつうなら、テメェだろうがぶっ殺すぞアルマァッ!」
エドガーの身体を押さえ付けるのにそこまで労力は使わねぇけど、今この状態で魔物に襲われたらマジ無防備だぞ。
スケルトンはどうやら気配を消して相手に近づくのが基本戦法みたいだし、急にあんなん出てきたら今対処できねぇぞ。
「追いかけたって何もいいことねぇって! ほら、あれだ、復讐は何も生まねぇぞ!」
「やっぱりテメェも馬鹿にしてんだろうがぁっ! 放しやがれぇっ!」
ぜんっぜん聞く耳持たないでやんの。
どうにか落ち着かせる方法ねぇかな。
「あ、なんか聞こえてきたぞ! 前のグループ、例の魔獣使いとかち合ったみたいだ! はは、ザマァねぇな! よし、そういうことで俺達は離れようぜ! 巻き添え喰らうのもゴメンだしな!」
「そんな大嘘に騙されると思ってんのかぁっ!」
駄目だこれ。
説得は無理だな。
俺はエドガーを押さえていた手を外す。
「ようやくわかったかクソガ……」
「チェイサァッ!」
言い終える前に、自由になった自分の腕でエドガーの後頭部にチョップをかます。
ドムッと鈍い音がし、エドガーの身体が床の上に崩れ落ちる。
「……目ェ覚めたら、ちっとは落ち着くだろ」
俺はエドガーを背負い、今まで歩いてきた道を戻る。
入り口近くまで戻って、あの冒険者達と合流しない通路を選ぼう。せっかく広いとこなんだから。
戻る途中、特に魔物と遭遇することもなく、無事に入り口までたどり着いた。
「さて……こっからどうすっかな」
反対側に行ってみっか?
魔物とかしょっぱいスケルトンしか見つからねぇし、もうちっと危なそうなとこ行ってもいいんじゃなかろうか。
多分、ごっつい魔獣連れてきた冒険者のせいで、魔物がほとんど奥まで逃げちまったんだろうな。
そう考えて周囲を見渡したとき、地下へ続く階段が目に入った。
ふと、城に入ったときのエドガーとの会話を思い出す。
『城の地下はかなりヤバイらしいな。あんなとこ入るのは、A級の中でも人間やめてる部類の馬鹿くらいだろうよ。ここの危険度がB級に下げられてねぇのも地下の存在がデカいらしいからな』
『面白そうじゃん。ちっとくらい覗いてみようぜ』
『馬鹿か、俺様は絶対ごめんだぞ。死にに行くようなもんだからな』
エドガーは嫌がっていたが地下行ったらさっきの冒険者集団とぶつかることはないだろうし……それに、この辺探索してても仕方ないと思うんだよな。
魔物も魔王の宝も全然見つからねぇでやんの。
散々他の冒険者に漁られた後の可能性が高い。
そもそも穴場だのなんだの言ってたけど、エドガー程度の冒険者の耳に入るんだから、とっくに周知の事実だと思うんよね。
いや、エドガーには悪いけど、世の中そういうもんだろ。
新鮮で信憑性のある情報なんてそう簡単に転がっているはずがない。
大抵出遅れるか大嘘かのどっちかなもんだ。
ルーファが付き添った冒険者ですら俺達が三人目だって言ってたし。
だから多分……地下も結構、冒険者に漁られた後なのではなかろうか。
それなりに魔物が減っていて、宝も取りこぼしがある……みたいな、そういう理想的な感じになっていちゃったりしないとも限らない。
リスクは高いが、上階を探索していても仕方がない。
金だって余裕がないはずだ。
往復四日のところまで来て、馬車と操縦者と、馬車の護衛まで雇ってるんだ。
大赤字を出せば俺の食生活にも関わる。
ちょっとくらい地下入っちゃってもいいだろう。
ヤバかったらすぐ引き返せばいいし、目が覚めたら地下でしたって知ったときのエドガーの顔が面白そうだし。