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18.旧魔王城(ひい爺ちゃんの家)行ってくる

 準備を整え、馬車と馬車を守る護衛を雇い、俺達は旧魔王城を目指した。

 エドガーの話によれば、旧魔王城はクラリネッタの街から二日ほどで着く距離にあるらしい。


「最近、少なくないね。兄ちゃんらみたいに、旧魔王城で一山当てようって冒険者。アタシも、探索間に馬車を守ってくれって依頼を受けたのは、これが三度目だったりするんさ」


 少し訛りを感じさせる口調の、軽めの鎧を身に纏った赤髪の少女。

 吊り目がちな目は、彼女の気丈な性格を表しているようだった。


 少女の名前はルーファ。

 年齢は俺とどっこいどっこいといったところだろうがB級冒険者であり、エドガーよりも実績が多い。

 俺とエドガーが探索をしている間、外で待機している馬車を魔物から護衛するのが彼女の役割だ。 


「へぇ、で、その前例さんはどんな感じなんだ?」


「二組とも、危険度引き下げを耳に挟んで浮かれてたB級冒険者の寄せ集めだったからね。どっちもボロボロになって、大して価値のないもんを大層に抱えてたっけ。冒険者としてやってけなくなるほど大怪我負った奴だって見た。ギルドでも忠告してやったけど、酒場の噂で言われてる程、簡単なとこじゃないね。成功者の多くは、大したことなかったって言いたがるもんさ。噂の元の奴が、その口だったってだけの話」


 ルーファはそう言ってから、エドガーへと目をやる。


「とはいえ、B級とF級の二人ぽっちで行くなんてのたまう奴は、さすがに初めて見たね。好奇心でついてきたアタシもアタシだけどさ」


「はっ! さては俺様を知らねぇなぁ? いいか、俺様は、ギルドで突っかかってきたA級冒険者を捻じ伏せてやったんだぜ? ロザリオっていういけ好かないヤローさ。ちっと潜ってきて宝掠めて戻ってくることくらい、なんてこたぁねぇなぁ」


 エドガーがこの話をするのは何度目のことだろうか。

 行くとこ行くとこであれこれ着色しながら、ロザリオとの決闘の話を語る。

 プライドの高いロザリオからしてみれば、溜まったもんじゃねぇだろうな。

 余計な恨みを重ねそうだから控えた方がいいと思うんだが……。


「……知ってるさ。兄ちゃんは、色々と有名人だかんね」


 含みのある言い方。

 それは暗に、ロザリオとの一件以外のエドガーに関する話を知っていることを物語っていた。


 基本的に悪名が蔓延していることはエドガーも自覚があるらしく、エドガーは顔を顰める。

 ルーファの言葉を皮肉と受け取ったようだった。


「でも、ま、兄ちゃんのこと、アタシはそこまで嫌いじゃないよ。嫌だったら、もともと依頼受けてないからさ。せいぜい現実を知って、そんで戻ってくるといい。慰めるくらいはしてやるさ。金は負けないけどね」


「ハッ! 俺様らが失敗すると思いながら見送りに率先するたぁ、いい性格してんじゃねぇか」


「止めても聞かないのなら、どうせなら見届けてやろうってものさ。お二人さんが生きて帰ってくるのを待ってるよ。前金だけ渡して全滅するなんて真似だけはやめてもらいたいね」


 ルーファはそう言って、それからまた俺を見る。


「にしても……アンタはいったい、どういう経緯で? ただのF級冒険者が、旧魔王城に行こうとするなんてさ」


「え? ああ、俺はオッサンの荷物持ちだよ」


 外では基本的に力を誇示しない。

 これはエドガーから言われていたことだった。

 下手に暴れて注目を浴びたら、ダークエルフであることが露呈しかねない。

 ……とはいえオッサンの様子を見るに、それだけじゃない気がしなくもないけど。


「荷物……持ち?」


 ルーファは目を丸くし、俺とエドガーを見比べる。


「色んなもん持ち帰る予定なんだから、そりゃそうだろ。両手いっぱいに宝もん持ってたら、いくら最強のオッサンでもまともに戦えねぇだろ。そこで俺よ! 横ついて歩くだけだし、魔物はオッサンが倒すから危険もないしな」


 俺は両手の手を大きく伸ばし、物を持っているジェスチャーをする。


「それじゃあ、実質ひとりで旧魔王城に入ろうって? はぁ……止めても聞かないんだろうけど、駄目だと思ったら、とっとと戻ってくることをお勧めするね。先に言っとくけど、依頼されたのは馬車を守ることなんだから、中には付き添わないよ」


「わーってるわーってる」


「……盲信してるみたいだけど、そっちの兄ちゃんが無理してると思ったらさっさと逃げて出てきな」


「おう! いざとなったらオッサンほっぽりだして逃げる約束になってっから」


「えらく迷いなく答えるね……」


 ルーファは少し呆れたふうに言う。


「にしても、さ。五人前後で旧魔王城に挑むって言ってた集団がいたから、どうせならあっちに着いてったら良かったのに。どうせB級の、それも兄ちゃんたちみたいに堅実って言葉を嫌うような連中だろうさ」


「オッサン、嫌われてるからなぁ。すでに五人もいるんなら、多分誰か一人は嫌がると思うぞ」


「おいガキィ! 黙ってたら好き勝手言ってんじゃねぇぞ! そもそも、テメェがいるから集団では動けねぇって……」


 怒鳴るエドガーに顔を向け、俺は必死に口の前に人差し指を立て、エドガーを宥める。

 集団で動かなかった理由は、俺がダークエルフだということを露呈させないためだ。

 そのことはわかっているがルーファに聞かせることではない。今ここでそれを口にすれば、すべて台無しになる。


「……人数増えたら、俺様の取り分が減るからな」


 エドガーは激情を抑え、声を小さくした。

 ルーファはエドガーの様子を見て眉を寄せ、顎に手を添える。

 俺達の様子に不審なものを感じているようだが、しかし突っ込んでは来なかった。


「まぁ、何があったってアタシは馬車を見張っとくだけさ。三日戻ってこなかったら全滅したと判断して先に帰らせてもらうから、そのつもりで。たったの二人で何ができるのか、報告を楽しみにさせてもらうよ」


「二人だけじゃねぇーよ、ムー子もいるから」


「ムー!」


 俺の頭上にいるムー子が、自己主張するように鳴いた。


「しかし……ダンジョン潜るのにムーバートを連れてく奴なんて、初めて見たね。その子は、戦えるのかい?」


「戦闘用じゃねぇって。ムー子がいないと、俺が落ち着かないからな。不安で朝も寝れやしねぇ」


「……朝はさっさと起きろ」


 俺はエドガーの切実な突っ込みを流しつつ、頭上に手を伸ばしてムー子の羽毛を撫でる。

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