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16.せっかく買ってきたんだから是非食ってくれ

「オッサン、水を持って来たぞ! あと……効くかわかんねぇけど、薬っぽいのも」


 俺はカナリアの露店跡から回収してきた酒のボトルに入れられていた水を箱から取り出し、辺りに並べる。


「あ、ああ……すまねぇ……ってそれ、酒瓶じゃねぇか! 俺様を殺す気かぁ! 近づけるなぁ! 俺様はもう、禁酒すると決めたんだぁっ! やめろ、マジでやめろぉっ!」


 どうにも飲み過ぎのせいで、酒がトラウマと化しているらしい。

 俺が飲ませたせいだと思うと罪悪感パネェけど、こっちも覚えてねぇからなぁ……。


「安心してくれ。中身はただの水だ」


「いったいなんでそんなもん……」


「説明するとちっと長くなる」


 それに話すと、金を詐欺られたことも流れで教える破目になる。

 滅茶苦茶怒られそうなので黙っておこう。

 そっと返したら多分気付かれねぇだろ。

 今のフラフラな様子を見るに、昨日いくら払ったかなんか絶対把握できてねぇだろうし。


「あぁ……マジで水だな。ちっと酒臭いのが、今の俺様にはキツイが……」


 エドガー、一生酒飲めなくなりそうだな……。

 いや、すまん。本当にすまんエドガー。俺も覚えてねぇけど。


「それくらい我慢しろって。ほら、どんどん飲んでけ。ああ、そうだ」


 俺は懐から、カエルのミイラも取り出す。

 本当に薬かどうか怪しいが、結構金取られたみたいだし、使っちまおう。

 多分、死ぬことはないだろう。


「お、おいガキ……なんだその、気色の悪い死骸は。なんでんなもん拾って来たんだ、捨てちまえ」


「これ、二日酔いに効く薬なんだってよ」


「いやいや、聞いたことねぇよ! ただのカエルの死骸じゃねぇか! んな汚いもん、こっち近づけんじゃねぇ!」


「コーラングレの街、知らねぇのか。えっと、なんかほら、あの辺の薬草食って育ったカエルなんだってよ」


「ねぇよ! そんな街、絶対ねぇよ! やめろ……マジでやめろ! おい、クソガキィッ!」


 酔いで弱っているせいか、エドガーの抵抗はさして強くない。

 俺は片手でエドガーの身体を押さえ、カエルのミイラをエドガーの顔に近づける。


「俺も胡散臭いとは思ってるけどよ、結構いい値段したし、このまま捨てんのも勿体ないだろ」


「ひょっとしてそれに金払ったのか!? そんなカエルの死骸に、俺様の金を!?」


「大丈夫だって、カエル喰ったくらいで死なねぇよ」


「いくらだったんだ! そのゴミにいくら払ったんだぁぁぁあっ!」



 30分ほど経ってから、エドガーの二日酔いはかなりマシになった。

 辛うじて動ける程度まで回復たので、もう酒臭いエドガーを背負わなくても済む。


「なんだ。やっぱあのカエル、効いたんじゃねぇのか」


「……水がぶ飲みしたからに決まってんだろうが! よくもテメェ、俺様にカエルの死骸なんぞを喰わせやがったな」


「あ、あと……やっぱ黙っとくの悪いと思ったから言うけどよ、残りの金全部持ってかれたわ。そのカエルのミイラで」


「ハァッ!? テ、テメェ……」


「でも、ま、まぁ、効いたからセーフだろセーフ!」


「このクソガキがぁっ!」


 エドガーが拳を振るおうとするが、途中で止める。

 俺を殴っても無駄なことを思い出したのだろう。


「まぁ……いいか。金策面がキツくなったら、前の決闘のときに借りパクしたナイフ売り飛ばすか」


「ああ、あれか。あれ、金になんの?」


 ロザリオとの決闘のとき、武器がなかったエドガーが観衆から借りた黒刃の刃物のことだろう。

 確か万が一勝てたらそのままくれるって、そういう約束だったか。


「そういや、あのナイフが手に入ったのもある意味俺のお蔭じゃん! じゃあ、プラマイゼロってことで、な? な?」


「いや、仮にそう考えてもカエル喰わされた分マイナスだからな!?」


 不服そうに俺を睨むエドガー。

 だって金払っちまったし……勿体ないというか……。

 いや、俺が喰うのは絶対ごめんだが。


「まぁいい……テメェには、これからたっぷり稼いでもらうからなぁ! そんためにわざわざ、森から拾ってきて面倒臭い登録まで済ませてやったんだ! 恩返ししてもらうぜぇ!」


 エドガーはかっはっはと笑い、それから口を押さえて咳き込み始めた。


「大丈夫か? 吐いた方がいいんじゃねぇの?」


「……うるせぇ、散々吐いてもう腹の中は水しかねぇわ」



 エドガーは今日からダンジョン探索の準備をしたいといっていたのだが、まだ二日酔いのダメージが抜け切っていないらしく、結局ギルドで預けていた金を引き出し宿で一日ゆっくり休憩することとなった。


 ベッドの上で毛布に包まりながらも、「明日こそは……明日こそは……」と呻くエドガーには執念すら感じる。

 手段を選ばずB級までのし上がったことといい、いったい何が彼を駆り立てているのか。

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