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9.もうひとりのエルフ

「おら急げ急げぇっ! この昼前のタイミングなら、人はまだ少ねぇはずだぁっ」


「すげぇっ! なぁ、なぁ、あそこの紫の林檎みたいな奴喰いたいんだけど! 見るからに毒っぽいけど、逆に好奇心そそられるっつうかさぁっ!」


「欠片でも反省してんなら大人しく俺様の言うこと聞けやぁっ!」


 エドガーは先を先をと焦っていたが、俺は露店の見たことのない商品や怪しさ満点の店主に心を惹かれていた。


 なんだあの店、カラフルな蛇みたいな奴を瓶に詰めて売ってんぞ。

 あれ喰えんのか? それともペット系なのか?

 ひょっとしてあれに戦闘の手助けさせたりするのか?

 笛吹いて操ったりすんの? 何それカッコイイ。


「オッサン! あの蛇買ってくれよ! 大人しくするから!」


「子供かテメェは!」


「俺の元々の故郷じゃ16はまだまだ子供だぜ!」


「知るかぁんなこと! 俺様のこと舐め腐ってんだろテメェ!」


 右へ左へと、俺は大通りを行ったり来たりする。

 仕方ない。面白そうな店がいっぱいあるんだから。

 田舎もんには目に毒なんよマジで。


 魔力を帯びていて変形する積木みたいなのもあったし、これだけ色々あるのならひょっとすると諦めていたテレビゲーム、パソコンに近いものもあるかもしれない。

 一日中パソコンをして暮らす異世界ニート生活が始まりかねない。

 そのときはエドガーに養ってもらおう。


「テメ、待てやゴラァッ! 今とんでもないこと考えてなかったか!?」


 エドガーが鬼の形相で遠ざかる俺の背を追ってくる。


「もうちっとくらい街を歩かせてくれても……あ?」


 後方に、一台の馬車が見えた。

 屋根のあるタイプで、黒と金に彩られたなかなかに派手な馬車だった。

 窓はあるが、カーテンに遮られており中は見えない。


 それに見惚れていると、エドガーに追いつかれた。


「いい加減にしろやオラァッ! 次なんか余計なことしやがったら、そのムーバードを喰っちまうぞぉっ!」


 がっしり後ろから腕を掴まれる。


「……なあ、オッサン、あの馬車ってなんだ?」


「あ? 国のマークが入ってっし、王族でも乗ってる……にしちゃ、ちっと不用心か? って、んなことどうでもいいんだよ! とっとと行くぞぉっ!」


 エドガーが俺の腕を引っ張ったとき、馬車が動きを止めた。


『少し顔を出さなければ、判断しかねるわ。私も、魔力が鈍っているもの』

『……仕方ない。わかっていると思うが、余計な気を起こすんじゃないぞ!』


 聞き耳を立てると、馬車の奥から男と少女の会話が聞こえてきた。

 ダークエルフの聴力マジ便利。盗み聞きし放題。

 男の声が騒がしいせいか、少女の落ちつきのある声が妙に大人びて聞こえた。


 馬車の窓が開き、カーテンが引かれる。

 そしてそこから、黒に金の模様が入ったローブを被った人間がすっと首を出した。

 俺と同じくらいローブを深く被っており、そのせいで顔はほとんど見えない。


 体型を見るに俺よりも一回り小さく、若そうであった。

 けれどしかし、気品あるローブから覗く桜色の唇は、なんとも妖艶であった。

 その口許がわずかに歪み、上品な笑い声を小さく漏らす。


 一瞬、見られていた。

 彼女の目こそ見えなかったが、殺気の乗った視線を確かに感じた。


 それからすぐに窓は閉じ、内部もカーテンが隠してしまう。


『どうだったんだ? 答えろ!』

『気のせいだったみたいね。この分だと、昨日感じたのも勘違いなのかしら。無駄足だったわね』

『貴様! ふざけたことを……』

『この私を狭い小部屋に軟禁しおいてよく言うわ。重ねて言うけれど、私も大分弱ってるの』


 聞き耳を立てると、何やら不穏な会話が聞こえてくる。

 しかし俺は、そんなことよりも驚いていることがあった。


 俺と対照を成すよう、神々しいまでに白い肌。

 僅かに覗き見えた尖った耳。

 幼少期、ダークエルフの森で散々聞かされた白エルフの特徴と酷似している。


 白エルフは『天に最も近い国アールヴヘイム』に住んでおり、地上に住む者達を軽蔑、また嫌悪しているため、まず人の地に降りてくる者はいないと教えられていた。

 いや、ダークエルフの連中も云百年単位で森に引き籠ってたから、ひょっとしたらその間に白エルフが外交的になったのかもしれないけど。

 とはいえ、会話を聞いてる感じそういう雰囲気でもないよなぁ……。


「なんだぁ、ガキ、ぼうっとした顔しやがって。とっとと行くっつってんだろうが! テメェのせいでどれだけ予定より遅れてると思ってやがる!」


「あ、ああ……」


 馬車は先へと遠ざかっていく。


 後を追おうかと思ったけれど、それをすればエドガーの予定が破綻することは明らかである。


 それにさっきの少女の様子、何かを捜させられているようであった。

 ひょっとして、ダークエルフである俺を捜しているのか?

 いや……さっき、確かに見られたはずだ。ダークエルフを捜しているのなら、あれで見つかっていたはずだ。

 しかし、どうにも危険な予感がする。


 結局俺は馬車を追わず、エドガーの言う通り大人しく冒険者ギルドへと向かうことにした。

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