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0.最強のヘタレ降臨

「皆のもの、準備はいいな! これより、闇王の儀を行うぞ!」


 老いた男が叫ぶと、ローブを身に纏った10人の集団がその場に跪いた。


 集団は、切り株の上に乗せられた裸の子供を取り囲むようにして並んでいた。

 切り株とその周囲の地面には、大量の魔法陣が描かれていた。


「我らは300年前の大戦で惜しくも敗北し、この辺境の森へと追いやられた! しかし、今こそ雪辱を果たすときである! 闇王の儀により、我らの希望であるアルマ様に強大な魔力を付加し、彼を新たなる魔王とする!」



 彼らはダークエルフの一族であった。

 500年前、ダークエルフの長は魔王を自称し、一族を率いて世界に戦争を挑んだ。


 膨大な魔力を用いて魔物を隷属させて数の差を埋めたつもりではあったものの、長引けば長引くほどダークエルフの疲弊が大きく、善戦したのは結局ほとんど不意打ちであった序盤だけであった。

 魔王の首が取られたのをきっかけに全面降伏、迫害を恐れ自ら森の奥地へと逃げ込んだ。


 そして復讐のため、長年大樹に魔力を込め続け、その切り株の上に子供を乗せて儀式を行い魂を強化し、新たな魔王にしようとしているのだ。


 老いた男が両手を掲げると、皆一様に天へと手を伸ばす。

 描かれていた魔法陣が動き出し、渦を描きながら縮小していき、子供の腹部へと移動した。


 褐色肌の子供の腹に、白い魔法陣が移った。


「成功だ!」「成功したぞ!」


「静かにせい! 今アルマ様は不安定であられるはずじゃ!」


 闇王の儀により魂を強化したとき、魂に刻まれていた前世の記憶の断片が蘇り、錯乱することもあり得るといわれていた。

 もっとも800年を生きたその男でさえ、闇王の儀に参加したのは初めてのことであった。

 儀については古くからの魔導書に記されていたことと、初代魔王により口から聞かされたこと以外何も知らない。


 老いた男は切り株の上に仰向けに寝る子供の傍により、手にしていたマントを身体に覆わせる。

 と、そのとき子供が目を開いた。


「アルマ様! ワシがわかりますかな? 儀は終わりました。これからは、アルマ様が二代目魔王となるのでございます」


 アルマ様と呼ばれた子供は、上体を起こして周囲を見渡す。

 その瞳には儀式前よりも力が籠っており、赤々と輝いていた。


 アルマは自らの白い髪を手で梳かし、それから両手を凝視する。


「あ? 俺の手……小さくね? つつ……な、なぁ、ここって病院……じゃねぇよな? 俺確か、久々に外出たせいで信号機の見方忘れてて、トラックに撥ねられて……」


「ア、アルマ様? ワシのこと、わかりますかな?」


 アルマの様子がおかしいことに気付き、老いた男は必死に呼びかける。


 大丈夫だ。

 魂を強化した副作用により、一時的に前世の記憶が混濁しているに過ぎない。

 これはむしろ、正常に儀を終えたことを意味する。


 老いた男は必死に自らにそう呼びかけるが、嫌な予感を押し殺しきれないでいた。

 それは周囲の者も同じことであり、あれこれと口々に不安や憶測を零し合う。


「え……あ、そうだ……俺は、魔王になるために儀式を……」


 現世の記憶が息を吹き返した。

 老いた男は安堵し、息を漏らした。


「ではアルマ様、今日より……」

「い、嫌だぞ! 現世の記憶が戻って俺は気付いたんだ! 世界征服とか、んな怠そうなこと絶対しねぇぞ! 面倒臭いし、それに危なそうじゃん! 人殺すとか絶対嫌だからな!」


 大人しくて礼儀正しく、そして人族への怒りを静かに、されど誰よりも熱く燃やしていたはずのアルマが一変していた。


「俺はそんなもん協力しないからな! 俺は一族を抜けるぞ!」


 びしっとアルマに指を突き付けられ、老いた男は動揺しながらも、同胞を振り返る。


「……アルマ様を拘束するのじゃ」

「はっ!」

「放せっ! 放せぇっ!」


 ローブを着た者達はアルマを押さえつけた。


「長老様、どういたしますか?」


「……もしも一年の内にアルマ様が元に戻らなければ、記憶を奪い、その上で洗脳魔術を掛ける。他に方法があるまい」



 そして結局、アルマは元に戻らなかった。

 やれパソコンがしたい漫画が読みたい、料理の味が薄い等と喚き散らす日々のまま一年が過ぎた。


 そして予定通り記憶を奪う魔術が行われたのだが、その最中に勇者を名乗る四人組がダークエルフ達の前に現れた。

 勇者は魔王再来の預言に従い、この辺境の森にやってきたのだという。


 預言は神の言葉との体裁を取り繕ってはいるものも、実際には神官による不安定な魔力感知を過大解釈したものであることがほとんどだった。

 闇王の儀のときに発生した、膨大な魔力を嗅ぎ付けられたに違いなかった。


 最早言い訳は無意味と判断し、ダークエルフ達は勇者に襲いかかった。

 そして返り討ちにされ、滅んだ。

 もしも二代目魔王の準備に手間取らなければと、どのダークエルフもがそう口惜しがったことであろう。


 勇者は森を調べて生き残りがいないことを確認し、報告を待つ王の城へと帰還した。

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