代わりではなく
大丈夫かな、エッチな子だって思われなかったかな?
自分からパンツ見せた上に、寝込み襲う女って、……う~、ちょっとやり過ぎたかなぁ?
あーもーどーしよ、思い出したら、汗かいてきちゃったよ~。
「……しま……ちゃん」
でも、こんな気持ちになっちゃったんだから、しょうがないもん。
「……いいよ」
だって、もっと傍にいたいんだもん。私の事、見てて欲しいんだもん。
「……っ!」
しまちゃんの為なら、……何だって出来るもん。
――――。
しまちゃんに告白されてからというもの、友達みんなで集まる度に、少しずつ、色々と気になるようになっていた。
あの時は全然気にもしてなかったから、ちゃっちゃと断っちゃったけど、こうやって気にして見ていると、何か、良い人なんだなって思えるようになっていたのだ。
見た目がアレじゃ無ければ、悪くはないんだよね~。もーちょっと気を遣えばいいのに。
そんなだから、オタクが偏見で見られるんだよぅっ。
「しまちゃんさー、たまにはこういう服とか着てみたら?」
「えー、別にこれで大丈夫だって」
いやいやいやいや、大丈夫じゃないって。そんなヨレヨレダボダボの柄シャツにジーンズなんて、今時どこに売ってたの?
「そっかなぁ? 似合うと思うけどな~」
「それよりさ、こういう服とかカッコよくない?」
あー、あのアニメの主人公ですね、わかります。
「でもでも、そしたらこっちのがカッコよくない?」
……ゴメンナサイ、乗らない訳にはいかなかったのです。
こうやって色々と話すようになってから、何だか一緒に遊ぶ事が楽しみになっていた。あの時に断ったのは、ちょーっと勿体なかったかな~、なんて思ったりするぐらいに。
でもこの時は、その程度の気持ちでしかなかった。
楽しいお友達の一人、しまちゃん。
――さっちゃんと高橋君が別れてから暫くして、みんなでカラオケに行こうという話が持ち上がった。暗くなりがちなさっちゃんの為に、ぱーっと騒いで忘れさせてあげようって、みんなで考えて。
「さー、次もテンション上げて行くよーっ!」
「おーっ!」
……でも、さっちゃんは何かを思い出したのか、突然、顔を両手で隠し、声を殺して泣き始めてしまった。
アップテンポなリズムを刻む曲とは裏腹に、暗く切ない空気に満たされた部屋。
そんな雰囲気の中、さっちゃんは一生懸命謝りながら、声だけは明るく楽しそうに、
「あはは、ごめんごめん、ほんっとごめん。さー、次、いってみよーっ!」
そう、鼻をすすりながら叫んでいた。
でも、だからと言って、そんな重い雰囲気を変えられる人はいなかった。
こういう時、いつもなら、さっちゃんが明るくしてくれるのにな……。
「大丈夫だから」
そんな時、今までずっと黙っていたしまちゃんが、突然さっちゃんに声をかけた。
いきなりの事でびっくりするみんなを差し置いて、しまちゃんはそっとさっちゃんの隣に座り、優しく背中を撫で始める。
「大丈夫」
一言一言、触れる回数が増える度、ゆっくりと身体を預けていくさっちゃん。
「……うん」
正直、しまちゃんがそんな事をするなんて、って思った。
だって、あんなに人付き合いが下手で、女の子と話すのにも苦労してたしまちゃんが、いきなりそんな事するなんて。
「大丈夫だよ、みんないるから」
そんな見た目で、そんな優しい顔をするなんて。
「……ありがと、……しまちゃん」
……なんだろ? なんか苦しい。
二人は昔から仲良かったから、もしそうなるのなら、それはそれで良い事なんだけど……。
でも、だって、しまちゃんは私を好きだったのに。
どうして……。
あれから暫くして、いつの間にか、二人は付き合い始めていた。
今までとは又違う、仲の良い二人。
みんなが二人を微笑ましく見守り、そして私も、……そう思った。
……それとも、そう、思い込もうとしていたのかな。
しまちゃんのさりげない優しさ、アニメや車にのめり込んでいく子供っぽい所、好きな事を楽しそうに話す、可愛らしい顔。
月日が経てば経つ程、その気持ちは大きくなっていったけど、それは、友達としてなんだって、一人、言い聞かせて。
――――。
大学生活にも大分慣れた頃、人生始めての彼氏が出来た。
サッカーとかスポーツ観戦が好きな、優しくて明るい人。しまちゃんみたいなオタク趣味はなかったけど、私の知らない世界を色々見せてくれた。スタジアムで応援したり、好きなチームのサポーターの集まりに出てみたり、みんなでフットサルしてみたり。
でも、一通り経験してしまえば、やっぱり目新しさっていう物は無くなっちゃうんだよね。結局、私があんまり興味を持てなかったせいもあるんだけど、あんまり気が乗らなくなって、その人とは別れちゃった。何となく、自然消滅的な感じで。
――――。
「しまちゃーん、これ貸してっ」
「って、それ、今日買ってきたばっかの奴じゃん。まだ読んでないからダメ~。ここで読むならいいけど」
それからというもの、暇さえあれば、しまちゃんのアパートに入り浸る事が多くなった。
「むー、ケチなんだから~」
ここへ来る度、こうやって、しまちゃんの匂いのするベッドに横たわり、しまちゃんが大好きなマンガを読んでいると、何だか不思議な気持ちになってくる。
一緒に添い寝しているような、両腕に包まれているような、……そんな気持ち。
「あゆちゃーん、ごはん出来たよ~」
「ほいほーい」
「あゆみ、たまには料理手伝ったら?」
「私、あんまり料理得意じゃないもーん」
「開き直ってどうする。結婚したら大変なんじゃないの?」
「大丈夫、最近のスーパーは色々便利だから」
「……将来の旦那さん、可哀想~」
「ふんっだ、しまちゃんには手料理食べさせてあげないもんねー」
「いやいやいや、料理作れないんだから、食べるも何も……」
「いーっっだ!」
でも、やっぱり、残り香だけじゃ寂しいかな。
だから、いつか二人だけで、ずっと抱き合って過ごしたいなって思ってた。
肌や髪に、しまちゃんの匂いが染み込むぐらいに……。
――――。
そして今日、その日が訪れた。
しまちゃんを独り占め出来る、二人だけの時間。
「……ん~、……はぁっ、しまちゃんの匂いだ」
しまちゃんの胸の中で深呼吸すると、信じられないくらい、目の前がクラクラした。
全身に伝わってくる温もりで、のぼせちゃったみたいに。
――ゴメンね、さっちゃん。
悪いなって思ったけど、やっぱり我慢できなかった。
でも、やっぱり、……私も好きなの。
……だから、……今だけは許して。……ね?




