みんなの幸せ
「……で、凉子ちゃんは芹奈ちゃんと五十嵐君をくっつけたかったの？ それとも、芹奈ちゃんとしまちゃんを引き離したかったの？」
「別に引き離すとか、そんなんじゃ……」
そりゃ、そういう裏の気持ちがなかった訳じゃないけど、でも……。
「でも、酷いと思わない？ あたしが島崎の事を分かってないとか、相性悪いとかさ、芹奈こそ何にも分かってないのに、言うだけ言って帰ってったんだよ？ あたしは五十嵐君と上手くいくようにって、間を取り持ってあげようとしたのにさ。美空だってそう思うでしょ？」
何か思い出すだけでムカムカしてくる。芹奈はあたしの気持ちなんか何も考えてないんだ。
「……そうね、確かにそうかも」
「でしょー？」
「ううん、芹奈ちゃんの言う通り、何も分かってないんだねって事」
「は？」
「それに、しまちゃんも言ってたよ。『渡部が怖い』って」
「……何、言ってるの？ 美空、どうしたのよ？」
「そっか、本当に凉子ちゃんは分からなかったんだね。……まぁ、いっか。」
「え？ ちょ、ちょっと待ってよ。この前まで応援してくれてたのに、何でそんな……、突然そんな事言うの？ 訳分かんないよ」
「……」
「『凉子ちゃんなら大丈夫』とか、『きっと上手くいくよ』とか、ずっと言っててくれたじゃない。なのに、何でそんな酷い事言うの？ あたしは、美空の事ずっと親友だと思ってたのに」
高校から今まで、いつもあたしの味方でいてくれたじゃない？ 何かあったら、一番に話をしてくれたじゃない？ ……あたしの事、一番の親友だって言ってくれたじゃない。
「私さ、思ったんだ。しまちゃんが幸せならいいかなって。……でもさ、何かを歪めた幸せって、本当に幸せなのかな？ 歪んだままで、本当に上手くいくと思う？」
「別に歪んでなんかいないじゃん。そりゃ、まだちょっと両思いって訳じゃないかもけど、別に何の問題もないじゃん。むしろこれからじゃん。何言ってるのよ？」
「……それが歪んでるって言ってるの」
「は……？ 何が……？」
「さてと、私は明日早いから、そろそろ帰るね？」
「え？ ちょ、ちょっと」
「じゃ、おやすみー。また明日、しまちゃん家でね」
「あ……」
何これ？ 何なの？ あたしが一体、何したって言うの？
「あたしが怖いって何？ ……歪んでるって何？ ……ていうか、あたし達って、……親友じゃなかったの？」
二人で一生懸命考えて、一生懸命やってきたじゃん。みんなで仲良く、これからもずっと上手くやっていけるようにって、頑張ってきたじゃん。誰かが喧嘩したり嫌いになったりしないようにって、色々一緒に考えてくれたじゃん。
「なのに、何で突然そんな事言うの？」
芹奈はあたしの事を分かってくれないし、島崎はあたしを……、怖がってる？ そして、美空はあたしを……、見捨てた……の？
「……何これ？ あたしだけ……ひとりぼっち……なの？」
気が付けば、今まで感じた事の無かった感触が、胸にじわりと染み込んできていた。
「……何、これ？」
それが涙なのだと理解するのに、随分と時間がかかったような気がする。
今日は芹奈と五十嵐君を笑顔で見送って、幸せな気持ちで帰るハズだったのに。明日は島崎にその話をして、一緒に笑顔になろうと思ってただけなのに。
何でこんな事になってるんだろ？
何なのこれ？
何……
「―――ッ！」
ここがファミレスだった事なんて、その時はどうでも良かった。
