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私と彼と

 しまちゃんの事を好きになったのは、いつ頃だったかなぁ?

 まさか、こうやって付き合う事になるなんて、大介と一緒にいた頃は想像もしなかったけど。

「ほら、しまちゃん、こっちもちゃんと食べて」

「あー、うん……、後で食べる」

 もー、ホントにこの子は好き嫌い激しいんだから。

「大丈夫だよ、しまちゃんの嫌いな物は入ってないから」

「……むぅ」

「そんな怖がらなくても大丈夫だってば~」


――――。


「……私、どうすれば良かったの?」

 ぐしゃぐしゃに泣き続けていた私の話を、しまちゃんは今まで見た事もない真剣な顔で、ずっと聞いていてくれた。

 悲しくて、寂しくて、……切なくて、どうしていいか分からなかった私の腕に、そっと手を添えながら、優しく励ましてくれた。

 人に触れたり、触れられたりする事を極端に嫌がるしまちゃんが、私の為に、一生懸命に頑張って。


 思えば、しまちゃんは昔から優しかった。


 でも、初めて会った時は、なんて無口で暗い人なんだろうって思ったっけ。

 いくら話しかけても会話は弾まないし、こっちの話にも全然興味を示さないし。ほんっと、最初はかなり引いちゃったっけな~。

 でも、何度も会っていたら、そうじゃないんだって、少しずつ分かってきた。

 喋らないからって言っても、人が嫌いって訳じゃないし、みんなと遊ばないからって、引きこもりって訳でもないし。

 落ち込んでる友達がそこに居れば、そっと言葉を投げかけられるような、優しくて、心の痛みが分かる人なんだって、少しずつ気付いた。

 ただ、すこーし、人付き合いが得意じゃなかっただけ。


 ……心の痛み、か。

 もしかして、しまちゃん、昔、何かあったのかな?

 しまちゃんはあまり昔の事を話したがらないけど、こうやって時々、遠い目でぼーっとしている姿を見ていると、少し不安になる。

 私の知らない深い傷があるから、人に優しくなれるのかな? とか。

 でも、それなら何で、私に色々話してくれないんだろう? もしかして、私じゃ信用出来ないのかな?


 それとも、……私と付き合った事を、……後悔してたり……するのかな。


――――。


 大介と別れてからは、しまちゃんと二人で遊ぶ事が多くなっていた。いつも三人で遊んでたから、何となくその流れでって感じで。

 ……っていうのは建前。

 実は、あの時以来、しまちゃんの事が気になって仕方なくなってた。

 んー、気になるっていうか、……好き?


「いやー、今日は久しぶりの良い天気だ。後で洗車しよーっと」

「そういえば、最近ずっと台風とかで天気悪かったもんね。……んーっ、久々の秋晴れって感じで気持ちいいね~」

 いつも通りに並んで歩いているだけなのに、触れてないはずの腕や手が、痺れるような刺激でいっぱいになる。

 触れそうなのに、触れられない、そんな微妙な距離感。三人でいた頃は、何も考えずに手を引っ張って歩いていたのに。

「そういえば、しまちゃん、……彼女作ったりとか考えないの?」

「ん~、今はあんまり。まぁ、そりゃ、居てくれた方がいいな~、とは思うけど」

 そういえば、あの時フラれて以来、いつもこんな感じだったね。

「彼女作ってデートしたりとか、一緒に遊んだりとかしたくないの?」

「そうだねー、実際に付き合った事無いから、あんまり想像は出来ないけど、そりゃ一緒に遊びたいかな~」

 今、こーやって一緒に遊んでるじゃんっ! デートしてるじゃんっ!

「他には?」

「他は……、やっぱりエッチもしたいかな~。あはは」

 きゃーっ! もーっ、ばかーっ! こんな明るい内から何言ってんのーっ!

「……それだけ?」

「それだけって言われるとアレだけど……。でも、そういうのも込みで、こうやって楽しく居られたらいいかな~って」

 あぁぁ、もう、そこまで言うのに、何でそんな、いつも通りの世間話的に喋ってるの? 少しぐらい気付いてよ~。

 

 でもやっぱり、しまちゃんに、そういう事を期待しちゃダメだよね。ちゃんと自分から言わなきゃ。

 でも、……うー、やっぱ恥ずかしいなー。


「……ね? じゃぁ折角だから、このまま付き合っちゃおうか?」

「……へ?」


――――。


 あの時のビックリした顔は、今でも覚えてる。

 その後しまちゃんは、きょとんとした瞳で一言、『あ、うん、いいよ』って頷いてくれた。

 ほんと、あの時は嬉しかったな~。

 でも、浮かれそうになるのを我慢して、いつも通りに会話するのに必死だったっけ。

 だって、しまちゃんはいつもとあんまり変わらないのに、私だけ喜んでるんだもん。なんかちょっと悔しいじゃん。


 ……でも、その後、思ったの。

 しまちゃんは『いいよ』って言ってくれたけど、『好き』とは言ってくれなかった。

 もしかしたら、別に私の事は好きじゃないけど、エッチ出来るならいいかな、ぐらいに思われてるのかな、とか。

 それとも、私が可哀想だから、ほっとけなかったのかな、とか。


 だから、遠い目をしているしまちゃんを見ると、その度に思い出す。

 私と付き合った事、後悔しているのかなって……。


「しまちゃんっ、しーまーちゃん、どした?」

 ……だから、引き戻したくなる。

「いやー、この麻婆豆腐、めっちゃ美味しいよねー」

 ……だから、変えたくなる。

 しまちゃんが、そんな気持ちにならないように、明るい気持ちになれるように。

「でしょー? ……って、何とかの素で作った物だけ褒めるなーっ! もー、そんな事ばっかり言ってると、明日はふりかけご飯だけにするからね」

「ごめんなさい、こっちの煮物も美味しいです」

 こうしていれば、しまちゃんは明るい気持ちでいられるから。

 こうやって、あゆちゃんやみんなが居てくれれば、自分の殻に閉じこもる事も無いから。

「あはは、しまちゃんとさっちゃんって、ほんと毎日、漫才ばっかしてるよね~」

「じゃ、コンビ組んでデビューしよっか?」

「しーまーせーんー」


 ……私は、しまちゃんの笑顔が好きなの。

 曇りのない、透き通るような、この笑顔が――


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