表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/45

お祭り

「しまちゃん、凄いねー。芹奈は何だかアイドルになった気分だよ」

「確かに」

 イベント会場に到着した俺達は、プチ痛車と化した俺の愛車と、それ以上に痛い五十嵐の愛車、それぞれを並べて展示した。すると、行く人来る人、俺達の車に興味津々で話しかけてきたのだ。

「あの、これ、何のキャラなんですか?」

「あ、オリジナルなんです。あの子がモデルなんですよ」

「おぉー、マジっすかー。あの、写真撮らせて貰ってもいいですか?」

「いいですよ。おーい、芹奈―、写真撮りたいってー」

「はーいっ。どうぞっ!」

「おおぅ、芹奈たん、かわゆすっ! こっち目線くださーい」

「にゃんっ! きらーんっ!」

 と、いう、やり取りを、既に何十回繰り返しただろうか。俺の痛痒くなってしまった愛車と、エロ可愛い芹奈目当てに、それはもう、尽きる事の無い人の波が押し寄せてきていたのだ。

 しかし、この炎天下の中で同じ説明を繰り返すというのは、以外と疲れるもんだなぁ。イベントコンパニオンとか、色々大変そうだ。

「しまちゃん、何か楽しいねーっ」

 ……当の本人は何やら喜んでますが。


 渡部との確執は、ここへ向かう前に解消した。俺と芹奈が謝って、美空に促された渡部も謝って、それで一件落着。

 気が付けば、二人はちょっとぎこちない笑顔を交わすまでに仲直りしていた。


 ……でも俺には、渡部の笑顔の奥に、何か暗い影が見えるような気もしていた。それが何なのか、何とも言えないのだが。


「芹奈たーんっ! もー最高―っ! もーちょっと胸寄せてーっ!」

「出たな、変態五十嵐。っつーか、楽しそうだな、おいコラ」

「えーと、こんな感じ?」

「……芹奈も言う事聞かなくていいから」


――――。


「しかし五十嵐、よくこんなエロい車に乗ってこれたよな~」

 俺の車のステッカーとは又違う、……というか、レベルの違うスケールのラッピングには、別バージョンの芹奈が描かれていた。

 それはもう、俺の方とは比較にならないエロさで。

「何言ってんだよ。俺の嫁なんだから、全然恥ずかしくないし。というか、見せたい?」

「誰の嫁だコラ。そういや、美空も渡部も、よくこれに乗る気になったよな~」

「平気平気。だって、後ろの席はスモークで見えないもん」

「まぁ、あたしはそんなの気にしないし」

「……渡部、顔赤いぞ」


 たまにはドライブでも、という事で、二人は五十嵐の車に、芹奈は俺の車に同乗し、このイベント会場までやってきていた。

 あまりこういうアニメやマンガとかに縁の無い二人だったが、お祭りのような雰囲気が気に入ったのか、そこそこ楽しそうに散策しているように見えた。

 興味が無いんじゃ可愛そうかな? とも思ったけど、少しでも楽しめたのなら、連れてきて良かったのかも。

「あれ? そういや篠原はまだ着いてないのか?」

 篠原は別の友達を連れてくるという事で、現地集合になっていた。待ち合わせの時間はとっくに過ぎているから、もうそろそろ着いてもいい頃なんだけど……。

「あ、篠原ちゃん来たみたいだよ?」

「ん? 来た? ……って、あれは一体……何?」

 それは、何と表現したら良いのだろう? 五十嵐の車に勝るとも劣らない、いや、別にどっちが勝ってもいいけど、とにかく激しく萌えた車がゆっくりと近づいてきていた。

 キラキラと輝く、満面の笑みに包まれた篠原君を乗せて。

「あははは~、ごめんごめん、遅くなっちゃって。途中でサービスエリアに寄ったら、何でか人だかりが出来ちゃってさ~」

「……そうだろうなぁ。っていうか、警察の人だかりが出来なくて良かったな」

「なんで?」

「公然猥褻」

「何おう!? この可愛い芹奈たんのどこが卑猥だというのだっ!」

「いや、もう、全般的に卑猥だと思うんですが」

「ふぅ、分かってないな~。島崎、これは芸術なんだぞ? そう、絵画とエロ本ぐらい違う物なんだ。それが公然猥褻だなんて、全くお前って奴は。……ぷっ」

「……そうですか。色々有り難うございました」

「そーだぞー、島崎の車だって立派にエロいんだから、人の事言えないぞー」

 突然、篠原の後ろから女の人が顔を出した。それは、見覚えのある――

「せ、先輩!? 何でここに?」

「篠原に誘われたから来てみた。まぁ、可愛い後輩の頼みだし~」

「……暇だったんですね」

「暇じゃないっ! ちゃんとわざわざスケジュール空けたんだからねっ!」

「はいはい」

「それに、他にも理由があるの。……じゃーんっ!」

 先輩は突然横に飛び退き、後ろにいた人へと手を差し伸べる。

 それは、やっぱり見覚えのある――

「……遠藤さん、……何で」

「ごめんなさい。二人に誘われて来てみたんだけど、島崎さんが居るなんて聞いてなくて……」

「いや、謝る必要なんてないけど……。あ、じゃなくて、来てくれて全然嬉しいしさ、折角なんだから、……そんな顔しないでよ」

「……うん」

 彼女はそう言って、又、そっと目線を地に落とした。

「……」

「……ちょいちょいっ」

 何故か俺に向かって、こそこそと手招きする篠原。

「おい、何だこれ? どういう事だ?」

「いやー、遠藤さんを誘ったんだけど、何かあんまり乗り気じゃなさそうだったから、先輩にも手伝って貰ったのさ。どうよ? このサプライズ」

「お前の行動力って凄かったんだな。ある意味、尊敬するよ。……そしてちょっと嬉しいかも」

「よし。そういう事で後は任せた。俺はこれから痛車ライフを凉子ちゃんとエンジョイするから、後は好きにするがいい」

「エンジョイって……」

「しーまーちゃん。ね? 知り合いの人? 紹介してよ」

「あ、あぁ。えーと、会社の先輩と、同僚の遠藤さん」

「遠藤さん? もしかして、前に話してた人?」

「あ、うん、まぁ、そんな感じ」

「ふーん……」

 う、ちょっと胸が痛い……。

「あー、で、こっちは俺の友達のですね――」

 気を反らそうとしている訳じゃないけど、先輩と遠藤さんにも紹介しないとね。そうそう、紹介紹介。

「はぃっ! しまちゃんの心の友、安藤 芹奈だよっ」

「しまちゃんの保護者の鈴木 美空ですっ」

「島崎の飼い主の渡部です」

「……お前ら、それって定番ネタなのか?」

「初めまして、遠藤 佳奈です」

「はい、よろしく~。先輩って言っても、そんなに歳は変わらないから、タメ口でいいよん」

 ……みんな、何で普通にスルーしてるの?

「ていうか、なぁ篠原、そういや先輩っていくつだったっけ?」

「いやぁ、実は俺も知らないんだよね。五十嵐は知ってる?」

「知らない」

「だよね。でも、『そんなに』ってレベルじゃ無かった気もしたんだけどなぁ……」

「はいはい、君達~、何の話をしてるのかなぁ?」

「あはは、何でもないですよ。ちょっと車の話をしてただけですって」

「そうだよね~? 何でもないよね~?」

「何でも無いですっ!(×3)」


――――。


 しかし、芹奈の気持ちを知ってしまった今、遠藤さんへの態度はどうすればいいんだろう?

 それに、芹奈の気持ちは「そういう気がする」ってだけで、実際に何かを言われた訳じゃ無い。

 そんな状態で、こっちから何か言う訳にもいかないし、もし何か口走って自意識過剰だなんて言われた日には、当分立ち直れないしなぁ……。


「……遠藤さんって、島崎の事、好きなんですか?」


 ……は?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ