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烈火の如く

「芹奈、何してるの?」

「あ、凉子ちゃん、こ、これはね」

「ちょっと待って。島崎、あんたも何やってんの?」

「いや、これは……」

「やっていい事と悪い事があるって、分かってるよね? 何やってんの? 何で止めなかったの?」

 ……は?

「あんた達は、そんな事絶対しちゃいけないんだからねっ! ほらっ、芹奈、早く服着てっ!」

「ちょ、ちょっと待てよ。何だよそれ?」

 何で渡部にそんな事を言われなきゃならんのだ?

「別にイベント用の衣装を着てみてただけなのに、何でそんな言い方するんだよ?」

 芹奈は、あんなに嬉しそうに喜んでいたのに、これが悪い事だって言うのか? あの笑顔は、そんなにも悪い事だって言うのか?

「いきなり来て、何で勝手にそんな事言うんだよ」

 あんなに喜んでいた芹奈の笑顔を、お前は土足で踏みにじるのか? あの秘めた気持ちに唾を吐くのか?

 ……そんなの、俺は絶対に許さない。

「止めろよな、そういうの」

「しまちゃん……」

 真っ青な顔で立ちすくむ芹奈、怒りで顔を真っ赤にする渡部。もう、何でこんな事になっちまったんだか。


「……そんなの知らない。……あたしだって……」

「……何?」

「っ! うるさいっ! うるさいっ! うるさいっ! 駄目なものはダメなんだよっ! あたしがダメって言ったらダメなのっ!」

 な、何だ? いつもの渡部じゃない?

「お、おい、どうしたんだよ?」

 持っていたカバンを俺に向かって叩きつけ、彼女は叫び続ける。

「うるさいっ! バカっ! なんでそんな事言うんだよっ!」

「痛っ! 危ないからやめろって!」

 部屋の中へと散らばるカバンの中身。しかし、そんな事を気に留める事も無く、彼女は手当たり次第に物を投げ続けた。

「何でわかんないのっ! あたしの言う事ちゃんと聞いてよ!」

「き、聞いてるだろっ! 痛っ! な、だから、何が言いたいんだよ!」

「うるさいっ!」

 そう言って玄関扉を叩きつけ、彼女は信じられない勢いで出て行った。

「なんなんだ……」


 台風一過のように静まりかえった部屋、聞こえるのは、怒りと困惑に震える自分の心拍音。そして、ぽたぽたと落ちる、悲しみの音色。

「芹奈……」

「っ……、っ……」

 彼女は何に泣いているのだろう? 怒鳴られた事に対して? それとも、友情に亀裂が入ったから? それとも……。

「芹奈、お前は何も悪くないんだから、気にするな」

 考えたって仕方ない、彼女の気持ちは彼女だけの物だ。今の俺に出来る事は、優しく頭を撫でる事だけ。

「……っ」

 いつも感情を露わにしている彼女が、今日は何故か涙を声にする事をしなかった。

 ぎゅっと唇を噛みしめ、湧き上がる何かに、何を思って耐えているのか。

「大丈夫だから、……無理するな」

「――っ!」


――――。


「遅くなってごめーん、食材買って……きた……よー、って、どうしたの?」

 二人目が来たのなら、当然、三人目も来る訳で。

「うん、まぁ、ちょっと色々あってさ」

 心配そうに芹奈に寄り添う美空へ、今あった事を一通り説明した。

 コスプレしていた芹奈、それを見て突然怒りだした渡部、一つ一つ、誤解の無いように。

 

「そういう事かぁ。ああ見えて凉子ちゃんってば、奥手っていうか、純情っていうか、そういう事に免疫無いからなー」

 部屋に散らばった渡部の荷物を拾い集めながら、懐かしそうに微笑む。

「嘘だー。渡部の野郎、昔うちにあったエロ本、普通に見てたぞ」

「しまちゃんは知らないんだってば。あの後、その本の話で何時間ファミレスに監禁されたと思ってるの?『ああいうのって、やっぱり仕方ないの?』みたいな話で延々引っ張られたんだからね」

「へ? そうなの?」

「まぁ、結局最後は『しまちゃんは変態さんだからしょうがないよ』って事で落ち着いたけど」

「誰が変態だっ!」

 確かにあの時見てたのは、ちょっと濃かったかもだけど。

「もう、そんな変態話はどうでもいいから。芹奈ちゃんの方は大丈夫?」

「うん、大丈夫。ちょっとびっくりしちゃっただけだから」

「……」

「そんな事より、しまちゃんに初めて頭撫でられちゃった。えへへー」

 これは強がりなのだろうか? それとも、本当に喜んでいるのだろうか?

「……別に、そのぐらい、いくらでもするし」

「ほんと? 約束だよ?」

「はいはい」

 目を真っ赤にしたまま笑顔を作る彼女。彼女は今、何を思って俺を見ているのか……。


「さてと、凉子ちゃんの方はどうしようね?」

「どうするも何も」

「だよねー。ま、仕方ないから、お姉ちゃんが何とかするよ」

「何とかって?」

「何とかは何とかだよ。凉子ちゃんと一番仲がいいのは私だし、上手くやっとくから、大丈夫大丈夫。心配しないで」

「そうしてくれると、助かるけど……」

「うん、任せて。でも、とりあえず今日は、凉子ちゃん一人にさせてあげよっか」

「え? 何で?」

「女の子には色々気持ちの整理が必要なの。……と、二人とも、お腹空いてるよね?」

 美空はおもむろに立ち上がり、買い物袋を持って台所へと歩き出す。

「こういう時は美味しい物を食べて、さっさと切り替えるのが一番だよ」

 本当に放っておいていいのか? さっきの渡部は、ちょっと尋常じゃなかったと思うけど。

「美空、やっぱり一言連絡ぐらいは入れといた方がいいんじゃない……かな?」

「……、そうだね。じゃ、ちょっと待っててくれる? すぐにメール入れちゃうから」


 どうしてだろう? どうして俺がいると上手くいかないんだろう? やっぱり俺が男だからなのか?

 俺は、彼女達の仲を壊してばかりいて、彼女達に何もしてあげられない。

 昔も、今も、そして、……この先も?

 あの時、この命で誰かを助けると誓った想い、それが叶うのは、いつの事なのだろう。


「んー、やっぱり返事返ってこないね」

「そっか」

「私、凉子ちゃんに何て言えばいいんだろ?」

「そうだよなぁ……」

「あんまり難しく考えないで、さらっと『この間はごめんね』って言っちゃえば大丈夫じゃない? 多分、凉子ちゃんも今頃は気まずくなってると思うし」

「そっか、それが良いかもな」

「それに、来週はイベントあるんでしょ? ちゃんとその日は凉子ちゃん連れてきてあげるから、それこそ、その場のノリで謝っちゃいなよ」

「……あれ? 美空にイベントの話したっけ?」

「してないよ? 篠原ちゃんが誘ってくれた。強引に」

「あいつら、俺を差し置いて何を勝手に……」

「それはいいから。ね、芹奈? 芹奈が悪い訳じゃないけど、とりあえず謝っとこ?」

「……うん、そうする。それに、折角五十嵐ちゃんが作ってくれたんだから、ちゃんとこれ着て参加したいし」

「着るの?」

「うん、ちゃんと説明すれば、……分かってくれると思うから」

「そうだな」

「それに、しまちゃんもステッカー貼って参加してくれるって言ってくれたし」

「そうだな。……って、そんな事、言ったっけ?」

「うん、しまちゃんの心の声は、全部芹奈に届いてるの」

「……芹奈は新しい能力を身につけたんだな」

「大事な所を見せ合った仲だしねっ」

「見せ合ってないっ! 一方的だっ!」

「ん? 何の話?」


「……内緒(×2)」


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