女神召喚
「まてまてまてまてぃっ!」
「えへへー、かわゆいでしょ~」
「可愛い、確かに萌える、いや、超どストライクだ。……しかし、なんじゃこりゃ?」
「大丈夫だよ。これはね、芹奈ちゃんからのプレゼントだから、お金なんていらないのっ」
「あ、そうなの? さんきゅーっ。……って、そこじゃないっ、突っ込んでるのはこのサイズっ!」
畳のような大きいシートを広げ、満面の笑みを浮かべる芹奈。何やら作って貰った自分のキャラクターがお気に入りだったらしく、俺の車に貼れる限界サイズのステッカーを早速注文したらしい。
「だって、しまちゃん、ステッカーならいいって言ったじゃん」
「……、『小さい』って付けてたような気がしたんだけど」
「まぁまぁ、そーんな小さい事は気にしないのっ」
「上手い事言ったとか思ったな?」
「えへへ~」
しかし、ホントにどうすんだこれ? マジで貼るのか?
「あ、そうだ、五十嵐ちゃんがね、『来週末はイベントだから』って言ってた」
「……、だから?」
「それまでに貼っといてって」
「……」
あんの野郎、会社じゃ何にも言ってなかったじゃんかよっ。
「んでね、五十嵐ちゃん、あたしの衣装も作ってくれたんだよ~」
「は? 衣装?」
そう言って別の紙袋を漁り始める芹奈。
ま……、まさか。
「じゃーんっ、これとお揃いっ」
「ぶふぉっ!」
ステッカーに描かれている異様に露出度の高い服を、無駄に精巧な技術で再現してあるその服は、もう、プロの犯行としか思えなかった。
「あんの野郎、こっちが真の目的だったか」
人畜無害な顔しくさって、とんでもない策士だったという事か。……後で殴る。激しく。
「……ね? ……着てみよっか?」
「あー、うん。ちょっと見てみたいー……かなぁ」
……やっぱり、殴るのは少し控え目にしよう。
「あー、しまちゃん、芹奈のえっちい格好、ちょっと想像しちゃったでしょ~?」
「そりゃ~、やっぱり、ねぇ?」
「えへへ~、芹奈ちゃんのエロ可愛さに負けちゃったんだ~。もー、しょーがないなぁ~」
「しょうがないって……」
「でもいいよ、しまちゃんに一番を見せてあげる。はい、あっち向いててっ!」
「あ、あぁ、うん」
慌てて後ろを振り向くと、一瞬間を置いて、芹奈の服の音が聞こえてきた。
何だか、興奮し過ぎて頭がクラクラする。
「んー、これ、どうやって着るんだろ? こっちが……こっちかな?」
「試着したりとかしなかったの?」
「うん。だって、さっき貰って、そのままここに来たんだもん。あ、これがこっちか」
「あれ? それなら五十嵐はどうしたの?」
「五十嵐ちゃん? これ貰ってそのままバイバイしてきたから、もうお家に着いたんじゃないかな?」
「あー、そーなんだ……」
五十嵐、お前って結構、残念な奴だったんだな。でもさ、今度のイベントで見られるからさ。だから、……泣くなよ、な?
「あわわ、こんなに出てたんだ。もー、これじゃダメじゃん」
?
「しょーがない。……んしょ、と、これで大丈夫……かな?」
?
「はいっ、もーいーよーっ! どーだぁっ!」
振り返ると、床へ広げられていたステッカーに描かれていた女の子が、まるで魔法によって召喚されたかのような光景が広がっていた。
「お、おぉぅ、……これは、女神降臨キタコレか?」
「ほんとっ? 芹奈可愛い?」
「あぁ、可愛い。……いや、ほんとに」
「やったっ! しまちゃん大好きっ!」
くるくると飛び跳ねながら喜びを表現する姿は、本当に女神か妖精のように見える。
まぁ、そんな表現は大袈裟過ぎると思うけど、でも、こんなに嬉しそうな芹奈は初めて見たかも。
「おいおい、あんまり飛び跳ねると転ぶから……」
キラキラと輝く周りの空気、ふわりと翻る短いスカート、……そして、何故かそのスカートの中に見える、想定外の何か。
「……芹奈?」
「はっ?!」
パッと太ももを押さえる仕草、一瞬で沸騰するピンクの顔色、そして、あわあわと泳ぐ口元、それは、もうこれ以上無い程可愛らしく。
芹奈は本当にアイドルとかになれるんじゃないのかな、と、本気でそう思った。
「……結構、薄いんだな」
「―っ!」
――――。
「あー、もー、恥ずかしーよー」
「大丈夫だよ、凄く可愛かったし」
「そーじゃなくって、心の準備ってものがあるのぉ」
しかし、何でこういうシチュエーションに縁があるんだろうねぇ。嬉しいけど。
「……ってか、穿いたら?」
「この格好で穿いたら、見えちゃって逆に格好悪いもん。だから、イベントの時とかはちゃんとしたの穿くのっ」
「そういうのがあるんだ」
「あるのっ」
「そっか」
「……」
「……」
輝く清々しい空気はいつの間にか一変し、気が付けば、蒸し暑い湿気の塊に包まれていた。もし、それを例えるのなら、秋の夕暮れから冬の部屋へと移ったように、とでも言うのだろうか。こたつとストーブと加湿器に囲まれた、あの懐かしい部屋のように。
「しまちゃんさ、……彼女、欲しくない?」
「まぁ、そりゃ……」
そっか、やっぱりそうなんだ。
「さっちゃん達の事だって、もう大丈夫なんでしょ?」
「まぁ、あれから随分経ったし、そっちはもう全然平気」
「……だったら、……さ。……ね? えへへ」
さっきの恥ずかしがる顔とは又違う、可愛らしく照れた笑顔。
本当にもう、可愛い奴だな。
「それに、ちゃんと言ってくれれば、……また、見てもいいよ?」
「へ?」
「……見たい?」
芹奈はゆっくりと立ち上がり、顔を真っ赤にしながら、そっと、スカートの裾を摘まむ。
「しまちゃんが、……見たいなら」
「っ……」
――ガチャ。
「っ!?」
「おーい、島崎ー、腹減っ……た……」
肌を露わにした服を纏い、男の前でスカートを捲ろうとしている彼女の姿は、それはもう。
「……芹奈、何してるの?」




