表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/45

手の届かない世界

『ごめーん、今日もサークルの雑用で色々忙しいんだー。ほんとごめーん』

 

 ……なんか最近、ずーっとこんなんだな。

 まぁ、俺もちょっと仕事が忙しかったから、あんまり人の事は言えないんだけど、でもなんか、やっぱり……。

『なんとか、夜、ちょこっとでも逢えないかな?』

 

 結局、そのメールに対する返信は、二度と来なかった。


――――。


 あれから数日後、しばらくぶりのあゆみからのメールは、こんな感じだった。

『あのね、私、彼氏出来ちゃったー。サークルの先輩なんだけどさー』

 そのメールの後に何が書いてあったかなんて、記憶にない。

 そのメールに何を返信したかなんて、覚えてない。

 ……ただ、覚えているのは、それ以来、どんなにメールを送っても、あゆみから返事が届かなくなった事。ただ、それだけ。


 ……フラれた? 俺は二回もフラれたのか?

 そんな筈はない、こんなにも愛しているのに。こんなにも、君の為なら何でも出来ると伝えているのに。


 ……なのに、どうして何も言ってくれないんだ?


 気が狂いそうだ。

 あの甘い日々が、どうしてこんな風になったんだろう?

 俺と君は、相思相愛だった筈なのに。ずっと何も疑わずに、ずっと二人だけの世界を、ずっと一緒に過ごしてきたのに。

 なのに、どうして? 何で? どうして?


「……」


 違うっ!

 違うっ!

 違うっ!


 愛し合ってるんだっ!

 あの時、二人で見つめ合ってたあの時っ!

 間違ってないっ! 絶対に心は通じ合ってるっ!


 ……なのに、なんで……。


 心では押さえられない気持ちを、頭では冷静に受け止めていた。

 単純に、飽きられたんだと。俺よりも好きだという、憎むべき男が現れたんだと。


 それでも、彼女を愛しているという想いは止まらなかった。

 届かない、そう頭では分かっていても、次から次へと言葉が溢れた。

 あの心地よい香り、あの心地よい温もり、あの心地よい声。その一つ一つを求めるように、その一つ一つを引き寄せるように、心の奥底から湧き上がる声を、身を引き裂く思いで言葉にした。


 血だらけになってメールする姿を見せたら、彼女の心を引き留める事ができるだろうか?

 病院に運び込まれるまでメールを打ち続けていたら、彼女の心は変わるだろうか?

 本気でそう思い続け、何度もメールを送った。


 ……でも実際は、何も変わらなかった。


 それどころか、彼女は俺と会う事すら拒むようになった。友達全員で集まる場にさえ、彼女が出てくる事は無くなっていた。

 理由は『忙しいから』。

 でも、俺が居ない集まりには、いつも出席していたようだった。だから、それが本当の理由で無かった事は、疑う余地もない。

 

 ……本当の理由は『俺に会いたくないから』。


――――。


 それでも俺は、何度も彼女にアピールし続けた。

 あの甘く輝いていた日々を取り戻す為、なりふり構わず、彼女へ気持ちを伝え続けた。

 それが逆効果なんだと分かっていても、俺は、自分自身を止める事が出来なかった。

 もう自分では、どうしようもなかったんだ。ストーカーと言われても、否定できない程に。


 ……そして辿り着いた、もう一つの結論。


「これ以上、さっちゃんを裏切れない……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ