手の届かない世界
『ごめーん、今日もサークルの雑用で色々忙しいんだー。ほんとごめーん』
……なんか最近、ずーっとこんなんだな。
まぁ、俺もちょっと仕事が忙しかったから、あんまり人の事は言えないんだけど、でもなんか、やっぱり……。
『なんとか、夜、ちょこっとでも逢えないかな?』
結局、そのメールに対する返信は、二度と来なかった。
――――。
あれから数日後、しばらくぶりのあゆみからのメールは、こんな感じだった。
『あのね、私、彼氏出来ちゃったー。サークルの先輩なんだけどさー』
そのメールの後に何が書いてあったかなんて、記憶にない。
そのメールに何を返信したかなんて、覚えてない。
……ただ、覚えているのは、それ以来、どんなにメールを送っても、あゆみから返事が届かなくなった事。ただ、それだけ。
……フラれた? 俺は二回もフラれたのか?
そんな筈はない、こんなにも愛しているのに。こんなにも、君の為なら何でも出来ると伝えているのに。
……なのに、どうして何も言ってくれないんだ?
気が狂いそうだ。
あの甘い日々が、どうしてこんな風になったんだろう?
俺と君は、相思相愛だった筈なのに。ずっと何も疑わずに、ずっと二人だけの世界を、ずっと一緒に過ごしてきたのに。
なのに、どうして? 何で? どうして?
「……」
違うっ!
違うっ!
違うっ!
愛し合ってるんだっ!
あの時、二人で見つめ合ってたあの時っ!
間違ってないっ! 絶対に心は通じ合ってるっ!
……なのに、なんで……。
心では押さえられない気持ちを、頭では冷静に受け止めていた。
単純に、飽きられたんだと。俺よりも好きだという、憎むべき男が現れたんだと。
それでも、彼女を愛しているという想いは止まらなかった。
届かない、そう頭では分かっていても、次から次へと言葉が溢れた。
あの心地よい香り、あの心地よい温もり、あの心地よい声。その一つ一つを求めるように、その一つ一つを引き寄せるように、心の奥底から湧き上がる声を、身を引き裂く思いで言葉にした。
血だらけになってメールする姿を見せたら、彼女の心を引き留める事ができるだろうか?
病院に運び込まれるまでメールを打ち続けていたら、彼女の心は変わるだろうか?
本気でそう思い続け、何度もメールを送った。
……でも実際は、何も変わらなかった。
それどころか、彼女は俺と会う事すら拒むようになった。友達全員で集まる場にさえ、彼女が出てくる事は無くなっていた。
理由は『忙しいから』。
でも、俺が居ない集まりには、いつも出席していたようだった。だから、それが本当の理由で無かった事は、疑う余地もない。
……本当の理由は『俺に会いたくないから』。
――――。
それでも俺は、何度も彼女にアピールし続けた。
あの甘く輝いていた日々を取り戻す為、なりふり構わず、彼女へ気持ちを伝え続けた。
それが逆効果なんだと分かっていても、俺は、自分自身を止める事が出来なかった。
もう自分では、どうしようもなかったんだ。ストーカーと言われても、否定できない程に。
……そして辿り着いた、もう一つの結論。
「これ以上、さっちゃんを裏切れない……」




