優しさと、優しさで
「あーもーっ、早くしまちゃんに逢いたいーっ!」
今頃はさっちゃんとデート中だろーなー。ってか、何でこんな日にサークルの雑用なんてやってんのっ? 私っ!?
バカなのっ!? 私バカなのっ!?
……はぁ、って言っても、しょうがないよねー。
ホントの彼女はさっちゃんなんだもん。いくら私が大好きだからって、さっちゃんの事、押しのけたり出来ないよ。
……だって、大事な友達だもん。
「……はぁ」
山のように積まれた備品を数時間に渡って片付け続け、もう少しで帰れる、そんな時に浮かんだ愛しい顔。思わず、メールせずにはいられなかった。
「でも、やっぱり、しまちゃんにしてみたら、いい迷惑だよね」
もし、しまちゃんが結婚していたら、不倫って事になるのかな? でもまぁ、今はその手前だから、二股させてるって事になるんだよね。
……しまちゃんに、彼女が居なければ良かったのに。
「っ! ……んっ、……はぁ」
なんか切ないなぁ。すっごい好きなんだけど、絶対好きになっちゃイケナイなんて。
でも、やっぱり、あの時の気持ちが忘れられない。
あんなにどうしようもなく切なかった心を、一瞬で埋めてくれた、あの一時。あんな事、他の誰にも出来ない。
……しまちゃんだけ。私には、しまちゃんしか居ないの。
しまちゃん……、大好きだよぅ。
――――。
「おー、大分片付いたじゃん。佐々波さん、お疲れ~」
「あ、先輩、お疲れ様です。後もうちょっとで終わりますから」
「そっか、じゃー、みんなで一気に片付けて、この後、ちょっと飲みいっちゃう?」
「さんせーっ! 私もいくー」
「私も私もーっ!」
片付けに疲れ切っていたサークルメンバーに、ぱっと明るい光が差す。この人は、ほんっといつも明るいよねー。
「佐々波さんも行くでしょ? 彼氏と抜け駆けなんて許さないからね~」
「あはは、彼氏なんていませんって」
……しまちゃん。
「ほんとー? そんな事言ってると、俺が立候補しちゃうぞ」
「はいはい、誰かに推薦状貰ってからにしてくださいね~」
……逢いたいよぅ。
「せんぱーい。片付け完了でーす」
「おっ? よし、良くやった。じゃ、みんな、行くぞーっ!」
「おーっ!」
……しまちゃん、……なんで私と一緒に居てくれないの?
――――。
「あー、美味しかった。でも、暫くロールケーキは食べたくないかも」
「そりゃー、丸ごと一本食べたら、そうなるよね。てゆか、良く入ったね。そのちっちゃなお腹に」
これは別腹とかじゃなくて、別次元の腹だな。
「むー、『ちっちゃな』とか言うな」
身長もさる事ながら、それ以上に何かを気にするさっちゃん。何故かそういう単語に過剰反応する。
「ちゃんと『お腹』って言ったじゃん」
「だから、わざわざ『ちっちゃな』って付けなくてもいーでしょ」
今日はお腹いっぱいで幸せなのか、笑顔でふざけ合う。
……この話題になると、たまーに拗ねるんだよねぇ。なんでだろ? 他意なんか無いのに。
「さてと、今日はもう遅いし、明日も朝早くから仕事だから、もう帰るね?」
「そっか、帰り道、気を付けてね?」
「……うん、大丈夫」
名残惜しそうな彼女を見えなくなるまで見送り、そっと深呼吸をする。
……? 何で俺はホッとしているんだろう?
でも、そんな考えは最初から無かったかのように過ぎ去り、俺はメールを打ち始める。
『あゆみ。今、どこ?』
――――。
「――しまちゃん」
……ダメ。しまちゃんに頼っちゃダメ。私のせいで、しまちゃんとさっちゃんがダメになる。
だから私は、……私の恋をしなくちゃ。
『今日はねー、サークルのみんなで飲みに行く事になったのー』
これ以上、しまちゃんに迷惑はかけらんない。だって、しまちゃんには、さっちゃんがいるんだもん。
……それに、今はこうやって、ちゃんと私の事、見てくれる人がいるんだもん。
「彼氏から?」
「ううん、ただの友達ですよ」
「そうなの? それなら、もし良かったら今度、……二人で遊びに行かない?」
――――。
「そっか。サークルかー、そういうのも色々楽しいんだろうなー」
部活にすらまともに入った事の無い俺には、全然想像も付かない世界だけど、やっぱりそういう人付き合いも大切なんだろうなって思う。
でも、ま、それなら俺は、久しぶりにゆっくりとネットでも眺めるかな。
『あんまり飲み過ぎて、お持ち帰りされるなよ~?』
……その日、不思議とあゆみからの返事は無かった。
でも俺は、何も気にならなかった。あゆみとは相思相愛だから、そうでない事を気にする必要なんて無かったから。
俺は、ゆっくりと自分の趣味に興じ、彼女が帰ってくるのを待つだけで良い。今日は無理でも、明日には、あの甘美な時が訪れる。
俺は大人なんだから、少しぐらいは我慢しないと。
「あゆみ、……愛してるよ」




