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25 盗賊

 深夜2時、いつもと違う風景。荒れ野が広がるばかりだった今までと違い緑あふれる農作地。だがそんな風景に、四つだけ異様な影があった。


「うははははは! 銃だ! 俺に銃を撃たせろおお!」

「ちょっとオーダーさん! ダメですって! 弾代だって馬鹿にならないんですから!」

「ええい! 黙れジンシ! おいジェスラ! ここで会ったが百年目! 神妙にお縄につけえ!」

「お縄につくのはそっちだろ…」


 あー月が綺麗だなあなんて若干のデジャヴを感じながらこの光景になるまでに想いを馳せた。






 ジャーデンヴェルデ。マルディヒエロに近い農業街だ。広大な土地が広がり、マルディヒエロと同じくらいの大きな街だという。人が住む市街地の周りには他の街のように隔壁が設けられているが、農地が広がる外には簡易的な柵がある程度だ。酪農地には街と同じように隔壁が設けられている。

 なぜ農地には柵だけなのかとジェスラに問うと、カミエントはほぼ肉食なので農作物を食べるという種があまりいないのだそうだ。他の地には雑食のカミエントもいるようではあるが、ここら辺の土地にはあまり出ないらしい。


 緑のある地なんて久々に見た気がする。普段荒れ野ばかりを進んでいても、小さな地がぽつぽつとあるばかりで、ここまで大きな緑に溢れた土地はここに来て初めてだ。


「ここでは何の依頼?」

「物好き爺さんに壺をお届けだよ。なんでも戦前からある骨董品らしいが、俺が見たときはそんな感じしなかったがな」

「ふーん。まあ真偽はともかく、ジェスラに分かるかって言ったら微妙そう」

「お? 言うようになったな」

「いたたたた! ごめんて!」


 ジェスラにぐりぐりと痛いほど頭を撫でられる。撫でるというか押しつぶされそうだ。身長縮むわ。


「届け終わったら市場にでも行ってみるか?」

「いいの?」

「マルディヒエロじゃみないもんもあるだろうし、結構楽しいんじゃないか?」

「行ってみたいな!」

「よし、んじゃ、これ運べ。落とすなよ?」

「おす!」


 ジェスラに配達物を渡されて届け先へと向かう。大した距離も歩かずに届け先へ着けば、ドアベルを鳴らし暫くすれば若いヒューマの女性が出てきた。


「あら、ジェスラさん」

「こんにちは。シリノさんに頼まれていた荷物をお届けにあがったのですが」

「荷物? もう、おじいちゃんまた何か買ったのね」


 女性は困ったと言うように顔を歪め、家の中にいるであろうシリノを呼んだ。


「おじいちゃん! お届け物だって!」

「おお? ジェスラか。と言うことはあの壺が届いたのか! おお、待ちに待ったぞ!」


 出てきたのはスケイリーの男性だ。歳はわからないが、おじいちゃんと呼ばれるだけあってそこそこいっているのであろう。


「サイン頼めるか?」

「おう。……ほれ、これでいいか」

「はい、ありがとう。では」

「おお、ちょっと待てジェスラ。頼みごとがあるのだが」

「頼みごと?」


 抱えていた荷物をシリノに渡すと、シリノがジェスラを引き止めた。頼みごととはなんだろう。


「実はな……。最近畑荒しが出てな。困っているんだ。どうにかしてくれんか?」

「畑荒し? 自警団とかに任せればいいんじゃ……」

「それが自警団では歯が立たないとかゆうてきてな。配達業をやっている店も被害が出ている盗賊らしくてな。お前さん腕っ節強いんだろう? なんとかできんか?」

「うーん、盗賊が畑荒しねえ」


 ジェスラが珍しく考え込んでいる。自警団というからには街の民間の人間が組織している物なのだろうが、自警団では歯が立たないのでは運び屋のジェスラにできることはあるのだろうか。

 だいぶ前に個人での運び屋は腕っ節が強い人が多いとは言っていたが、ジェスラ個人でどうにかなるものなのだろうか。


「ちなみに特徴は?」

「男二人、女一人の盗賊らしい。武器は銃器、死者は出てはいないが、何人かは負傷している」

「あー……もしかしてあいつらかな……」

「なんだ? 知り合いか?」

「知り合いというか……元同業者というか。軍は動いてくれないのか?」

「こんな場末の農業街に軍が動いてくれると思うか?」

「まーそりゃそうか」

「金は弾むぞ」


 ジェスラはなにかを思案した後ため息をつき、引き受けると答えた。


「捕まえられるかはわからんが、まあ出来るだけやってみよう」

「おおそうか! ありがとうジェスラ」


 シリノはジェスラの答えに嬉しそうに目を細める。シリノから盗賊が犯行に及ぶのは何時ごろからなのかと話を聞けば、自警団によると深夜2時くらいだと言われる。

 畑の場所を聞いてから、シリノの家を後にし、盗賊のことを知っているのかとジェスラに問いかける。


「多分あいつらだろうなーって目星はついてる。俺相手に楯突くかどうかはわからんが、まあ元同業者の情けをかけるってわけにもいかんしな」

「運び屋だったの? その人たち」

「ああ、結構有名だったぞ。元軍人だったようで、結構評判もよかった」

「軍…軍なんてあるんだね」

「みたことなかったか? マルディヒエロも小さいが駐屯所があるぞ」

「ここも大きな街って聞いたけれど、この街には軍はないの?」

「ここは他んとこに比べて平和だからなあ。自警団だけでどうにかできるほど十分治安はいい」


 ここにおいての軍とは警察と同義と思っていいのだろうか。畑荒しごとときに軍は動いてくれないとは言っていたが、場末と言っていたし、違う場なら動いてくれるということなのだろう。


「これからどうするの?」

「まあ二日三日はここにいるつもりだし、今日から張ってみるか」

「俺も行っていい?」

「お前は宿にいろ。流石にお前がいちゃ、なんかあった時にかばいきれん」

「あーそうだね。流石に迷惑かけたくないし、黙って宿にいる」

「そうしてくれると助かる、市場は後でもいいか?」

「うん」


 正直盗賊に興味がないわけではないのだが、やはり自分の身が可愛いのでジェスラに素直に従う。

 昼時は過ぎていたが、遅い昼食ということで食事をし、ジェスラがいつも利用しているという宿に向かう。ジェスラは捕物に備えて夜まで寝るというので早々に床に入った。ジェスラが寝入ったのを確認してからアルマを出してやると卵型から鳥型へと展開して行く。いつも思うがその姿はとても美しい物だなと思う。


「行かないの?」


 アルマは伸びをしながらそう問いかけてきた。


「うーん、行きたいけど危険そうだし、危ない目には会いたくないな」

「これから運び屋続けるって言うんだったら行った方がいいと思うけどね。危険も場数を踏んだ方が成長するだろうし」

「でも相手銃持ってんだぞ。怖いって」

「ジェスラだって持ってるし、アユムだってそのうち教えられるでしょ。まあ、鈍臭いし向いてなさそうだけど」

「お前な……」


 アルマの歯に衣着せぬ物言いに若干イラつくが、自分にそう行ったセンスがないであろうことは自覚している。教えられるまではわからないが、ほぼ的に当たりそうになさそうだと想像できる。

 数打ちゃ当たるようなマシンガンのような銃ならともかく、一発命中が命のハンドガンやライフルは正直自信がない。縁日の射的など当たった試しがない。まあそれと同等に語るべきではないと思うが。


「行くべきだと思うよ。僕は」

「お前俺に死んで欲しいの?」

「そこまで思ってないよ。ただ、ジェスラを守れるのは君だけだよ」

「俺がジェスラを守る? 無理無理。なんもできないって」

「本当にそうだと思う?」

「……どう言うことだよ?」


 アルマは羽繕いをしながらなんでもない風でそんなことを言う。アルマの真意はわからないが、自分に出来ることなんて何もないと思う。でも、ジェスラ一人で行かせるのも少々忍びない気もしてきた。


「決めるのは君だ。せいぜい悩め」






 夜8時ごろになり、ジェスラを起こす。アルマをバッグにしまい、二人で夕食に出かけた。

 夕食をすませると、ジェスラはこれから畑に向かうらしく、銃を車から取り出す。


「アユム。朝には戻ると思うが、ちゃんと部屋にいるんだぞ」

「うん。ジェスラ、気をつけてね」


 ジェスラを見送り、宿に帰ろうとした。したのだがどうしても気にかかる。本当にジェスラ一人で行かせていいものなのか。


「どうするの」


 バッグの中から丸まったアルマの声がする。車に踵を返し、ジェスラから貰った車のスペアキーで鍵を開ける。中に入り、いつも銃が保管してあるケースを開ける。ジェスラは銃を何種か持って行ったらしく、残っていたのはハンドガンだ。無いよりはいいとそれを持ち出す。

 鍵を閉め、ジェスラが歩いて行った方向に走り出す。道がまっすぐだったのもあり、人混みの中にジェスラの目立つ頭を見つけ一定の距離を保ちながらついてゆく。


 しばらく歩けば人はまばらになって行き、隔壁の入り口にたどり着く。簡易的な身分証明を行いジェスラは外へ出てゆく。しばらく待って自分も外へ向かうために検問所で身分証明を行った。


「君今から出るのかい? 君みたいな子供が出るのはちょっと看過できないなあ」

「あの、さっきの人の忘れ物を届けたくて」

「あの虎のファーリィのひとかい? 盗賊退治に行くとか言ってたけど」

「すぐ戻ります。ダメでしょうか」

「うーん。仕方ないな。すぐ戻るんだよ?」

「はい! ありがとうございます!」


 実際はすぐに戻る気などないが、なんとか外に出ることができた。

 ジェスラはどこだろう。暗くて正直よくわからない。


「左だよ」

「えっ」

「ジェスラの足音がしたほう。早く行かないとわかんなくなっちゃうよ」

「ありがとう!」


 農作物が生い茂る農道を進んで行く。アルマは耳がいいのか度々指示を出してくれる。それに従い進んで行けば、ジェスラの姿が見えた。

 ポツポツと明かりが立ち並んでいるので農作物の陰にいるとはいえ、ジェスラにバレてはいないだろうかと不安になる。


「距離があるから大丈夫だと思うけど、ファーリィだから耳はいいだろうし、極力動かないことだね」


 ボソボソとアルマがそう言う。アルマの言う通りじっと時が過ぎるのを待つことにした。







「……ム、…アユム」

「んあ?」

「あー寝てたでしょ。緊張感無いなー」

「ごめんごめん」

「なんか来たよ」


 アルマの言う通りジェスラの居た方をみると見慣れない大きな軍用車両のような大きなトラックが止まっていた。

 ジェスラも隠れているのか姿は見えないが、車から人が降りるのを確認した。様子見をしていると三人の人影が光に照らされるところまで来た。シリノの言っていたように男二人と女一人のようだ。

 三人が目につけたのは平地になっているラグビーボール型の……なんなんだろう。かぼちゃとかメロンの類いのものだろうか、それを収穫し始める。

 もっと近くに行こうと丈のある農作物に隠れながら近づく。

 するとどこかに隠れていたジェスラが現れた。


「よう、オーダー。ジンシ。クランス。こんなとこで何やってんだよ」

「!!!」


 三人はジェスラの登場にあからさまに狼狽えた。目を見張り、ジェスラをまじまじと見つめた。


「お前、ジェスラか?」


 犬のようなファーリィの男はジェスラを見て信じられないとでも言うような顔をする。


「久々だなあ。何やってんだと思えば、軍人崩れが盗賊か? 随分落ちぶれたもんだな」

「……あなたには関係ないでしょう」

「俺の客の畑なんでね。畑荒しなんて感心しないねえ」


 ヒューマの女は顔を苦々と歪ませ、ジェスラから顔をそらした。


「ジェスラさん……なぜここに」


 眼鏡をかけたエイビーの男はジェスラにそんな問いを投げかけた。声に動揺が混じっているのがわかる。


「畑荒しをどうにかしてほしいって依頼があったんでね。来てみりゃやっぱりお前らだった。失望したよ。なんで畑荒しなんてやってんだ。運び屋相手の盗賊までやってるらしいじゃねえか」

「お前に話す義理はないな」

「まあ、そうだろうな」

「強いて言うなら、銃が自由に撃てる。俺はそれだけだぜ?」


 犬のファーリィがニヤつきながら背負っていた銃を手に持った。これ、やばいんじゃないか?


「ははははは!!! 前からお前のことは気に食わなかったんだよ! いい機会だ! お前を捕まえて、アセンシオを脅してやろうか!」

「俺はもうあの家とは関係ねえよ。やるだけ無駄無駄」

「無駄だろうが俺の気は済むぜ。うははははは! 銃だ! 俺に銃を撃たせろおお!」

「ちょっとオーダーさん! ダメですって! 弾代だって馬鹿にならないんですから!」

「ええい! 黙れジンシ! おいジェスラ! ここで会ったが百年目! 神妙にお縄につけえ!」

「お縄につくのはそっちだろ…」


 ファーリィのオーダーが空に向かってマシンガンを撃ちまくっている。なんちゅうトリガーハッピー野郎……。

 ジェスラも銃を構えていたが、相手をこれ以上興奮させないためにか銃を下ろした。

 だがオーダーの興奮は治らないようで銃を撃つのをやめ、ジェスラに突っ込んでいった。


 ジェスラが危ないかもしれないともっと近くに近づく。オーダーとジェスラは取っ組み合いになりジェスラは銃を落としてしまった。だがジェスラはオーダーを組み敷き動きを止めた。


「ジェスラァ! お前さえいなけりゃ、俺は盗賊なんぞに落ちぶれることもなかったんだぜ! ヴァルレクサにさえ近づかなかったらな!」

「!」


 一瞬の動揺をついてかジェスラとオーダーの形勢が逆転してしまう。組み敷かれるジェスラと銃口を向けジェスラにまたがるオーダー。

 このままではジェスラが! 考える暇なんてなく、咄嗟に体が動く。この距離なら、まだ間に合う!


「動くな!」

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