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23 過去



 ざわざわとした人の波に乗りながら道を進んで行く。この道を歩くのはこれで何回目だろうか。もう大分ここの生活にも馴染んできた気がする。

 マルディヒエロに帰ってきてからある人物から連絡が入った。今日はその人に会うために街に繰り出したのだ。

 ちょっと間が空いてしまったが、会わない間どうしていただろうか。久しぶりの友人との再会のようで少しドキドキする。

 待ち合わせの場所に指定された小さな公園に着く。見知った姿はまだ無いようだったので公園のベンチに大人しく座る。

 時間的にはちょうどいい時間なはずだが、早く着きすぎただろうか? そんなことを考えていると久しぶりに聞く声がかかる。


「おうアユム。久しぶりだな」

「ルフィノ、久しぶりー」


 今回の待ち人はそう、ルフィノだ。あのラヘンテミーレでの邂逅からちょいちょい連絡を取り合っていたのだ。セレーブロとの事もあり最初は随分心配されていたのだが、ジェスラとの運び屋仕事を終えたら一度会おうということになり、今に至る。


「ルフィノ、家の方は大丈夫? また家出するようなこと無かった?」

「流石に前みたいな事早々起きねえよ。起きたら困るわ」


 前回の家出理由が理由だけにルフィノは少し恥ずかしそうだ。気持ちは分かるし、確かにあんな事が何回も起こったら家出だけでなく首でもつりそうだ。


「どっか店でも入って喋ろうぜ」

「うん、いいよ。ここら辺でいいお店知ってる?」

「いやあ、ここら辺は俺もそんなに来ないからな。適当に入ろう」


 ルフィノと二人、喋りながら公園を後にする。公園周りは穏やかというか、それほど人の流れは忙しくない。見た所空いている店も多いだろう。一つの喫茶店を見つけそこに入ることにした。


「いらっしゃいませ~」


 店に入ると女性の声の挨拶。カウンターに目を向ければそこには虎のファーリィ(獣人)がいた。ジェスラと違いすらっとした細身で、着ている洋服から女性なのだと分かる。


「虎だな」

「虎だね。ジェスラ以外で初めて見た」


 食事時とはズレているため、店内には俺とルフィノ以外に数人の客しかいない。奥の方の空いている席に座りルフィノと話す。


「あら、お客さんジェスラさんの知り合い?」

「あれ、ご存知なんですか?」


 会話が聞こえていたのか、注文を取りに来たであろうその虎のファーリィの女性に聞かれる。


「ええ、知っているわ。同じ種族が縁で知ることは多いのよ」

「そうなの? ルフィノ」

「ああ、俺も同種族が縁で知り合った人はいるよ。同じ種族だと縁者だと思われたり、単純に似てるからって人違いで名前知ったりすることがあるんだよ。おれカフェオレで」

「あ、このケーキセットください」

「はいはい少々お待ちくださいね」


 女性が席を去り、バッグを隣の椅子に置く。するとバッグがもぞもぞと動き出したのでチャックを開けてやると金色の塊が出てくる。


「お、そいつが例のAIか。聞いてはいたが見事なもんだな」

「でしょー。自慢の毛艶なんだから」

「毛なのそれ」

「僕の名前はアルマ。よろしくね」

「俺はルフィノだ。よろしくな」


 バッグから出て来たアルマが机の上で伸びをしながら自己紹介をし合う。アルマは初めて会うルフィノに興味津々のようでキョロキョロと落ち着きがない。


「君がエクストリームエロ本隠しのルフィノか~。見た目によらず励んでますなあ」

「こいつひねり潰してもいいか」

「アルマやめて、マジやめろ」

「うわわ、冗談だよ冗談。本気にしないでよ~。男なら広い心を持つべきだよ。さあ、その拳を仕舞って」


 あわあわと焦りながらアルマが俺の肩にくちばしを使いながらよじ登ってくる。余計な事を言わなければいいものをアルマは結構口が緩い。ルフィノも本気にしたわけではなくすぐに拳を仕舞ったが、その目はまだアルマを睨みつけている。


「はい、カフェオレとケーキセットね。」

「あ、ありがとうございます」


 二人に割って入るように先ほどの女性が注文したものを持ってやって来た。


「ジェスラさん、今どうしてる? もうあの事件から十年近く経ってるけれど、お元気?」

「事件?」

「あれ?知らない?」

「俺この街に来てまだ数ヶ月なんで……」

「事件ってなんですか?」


 ルフィノが女性に聞き返す。事件とはなんだろう。若気のいたりで馬鹿をやったとかだろうか。女性は店内を見渡し、恐らく人も来ないからと判断し話に応えてくれるようだ。


「十年くらい前にね、ジェスラさん、奥さんと息子さん亡くしてるのよ。義理のお兄さんに二人殺されて、お義兄さん行方不明になっちゃってね。奥さん名家の出でね。それで話も大きくなっちゃって、当時大変だったんじゃないかしら」

「そんな事が……」


 予想外の重い話が出て来て少し腹の底が冷えていくような気がした。この話は、以前ジェスラが言っていた探している男がいるという事に繋がるのだろうか。


「すいません注文いいですかー」

「あーはいはいお待ちくださいね。じゃあね。ゆっくりして行って」

「はい、ありがとうございます」


 女性は他の客からの声がかかりこの場を後にする。女性を見送り、ルフィノを見るとなんだか考え込んでいるようであった。


「……俺あの話聞いた事あるかも知れない」

「え、そうなの?」

「俺もまだ小さかったから曖昧なところもあるけれど……。アセンシオって家だったかな。ここらでも有名な名家だよ」

「アセンシオ?」


 どこかで聞いた事がある。聞いた事があるというか、ガンリの姓がアセンシオではなかっただろうか。これは重要な話だ。聴き逃すまいとルフィノの話に耳を傾ける。


「確か犯人は妹と甥を殺して、甥の頭だけを持ち去って行方不明になったとかなんとか」

「頭だけ?」

「うん、えぐいよなあ。酷い死に方だったらしい。……そうか、あの話ジェスラさんのことだったのか」


 ジェスラが探しているという男は、この話に出て来た義兄なのだろうか。薬に溺れた男と言っていたが、一体どんな理由があって自分の妹と甥を殺したのだろう。

 目の前に置かれたガトーショコラを口に運ぶ。ほろ苦い甘みが口内に広がる。


「ジェスラって自分のことあんまり喋んないよね。まあ、こんな話益々喋んないだろうけど」

「そりゃあ出会って数ヶ月の俺にするわけ無いだろ」

「だよねー」


 肩から机に戻ったアルマがガトーショコラを見つめながらそう話す。お前は食えないよ。


「なんかさっきの話に関連する話聞いたことないのか?」

「……仇を探してるってのは聞いた。多分さっきの話の義兄のことなんだと思う」

「他には?」

「その義兄が薬に手を出してたって話。ヴァルレクサとか言ってたかな」

「ヴァルレクサ? ううん、俺は知らないな」


 裏で出回っている薬の事を知らないのは当然だろう。もしかしたら当時は名前が知れ渡ったかもしれないが、ルフィノは十代後半くらいだろうし歳を考えれば聞いていたとしても覚えてはいないだろう。

 ジェスラに直接聞くのは気がひける。だが、恐らく関係者であろうガンリにも聞きにくい。それ以外の人に聞こうにも、知り合いも居ないから聞くことも出来ない。事を探る前から詰んでは居ないだろうか。


「気になるけれど、こう言った話だと誰に聞いても聞きにくいよなあ」

「うん……」

「一体何が原因であんな事件になったんだろう。アユム誰か知ってる人心当たりないのか?」

「心当たりって言っても俺まだこの街来て数ヶ月だし、知ってる人って言っても……あ」

「なんだ?」


 居るではないか、知っていそうな人が。

 ルフィノは頭に? を浮かべていたが、ケーキを食べ終え、喫茶店を後にする。そうしてルフィノとアルマ、二人と一羽でその人を訪ねることにした。

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