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18 歓楽街の歌姫


 あれから二週間ほどの休みを経て、再びラヘンテミーレへとやって来た。請け負った仕事がラヘンテミーレにあったというのもあるが、彼女の行方を知りたかったからだ。


 ラヘンテミーレへ来て聞き込みをし、三日間探しはしたがどうやらこの街にはいないようだった。聞き込みをした一人が違う街に出る乗り合いの車に彼女が乗り込んだのを見たと証言していた。アルマもあまり一つの街に長く滞在する事はなかったと言っていたのでそれは当然だったのかもしれない。


「居なかったね」

「元々期待していたわけじゃあなかったからな。仕方がないだろう」


 周りに見えるのは鬱蒼と生い茂る森。荒い道を車はどんどん突き進んで行く。荒廃した地を多く見ていたがクナの森以外にもこんな場所もあるのだなと思う。ラヘンテミーレを出てからはこんな地をよく見るようになった。以前辿ったルートとは大分違うらしい。


「今度は何処に行くの?」

「ここら辺で一番の歓楽街だ。あと少しってとこかな」

「へーそんなとこあるんだ」


 歓楽街と言うからにはそれは賑やかな所なのだろう。仕事の合間に何か楽しめそうなものはあるのだろうか。


 手持ち無沙汰で膝で丸く卵型になっているアルマを撫でる。アルマはといえば数時間前から音沙汰が無い。大方飽きて寝ているのだろう。軽く叩いてみるがいつも聞く指紋が付くからやめろという愚痴も飛ばない。

 これは本格的に寝ているようだ。AIならスリープ状態というのかも知れないが起きる様子がない。


「寝てんのか?」

「そうみたい」

「こいつがもっと情報吐いてりゃ探すなんて手間省けたんだがな」


 ジェスラの言う通りアルマは何か知っているようではあったのだがあれからものらりくらりと交わすだけで情報を喋ろうとはしなかった。単純にあの持ち主とは契約関係であったただけと言っていたのであまり深く踏み込んだ関係ではなかったのかも知れない。


「まあ、理由はあの女を捕まえて知ればいい。あんまり深く考え込むなよ」

「うん……」


 答えを知りたい。そうすれば自身に何が起こったのか。カケラでもわかればいい。


 舗装されない道を進んでいくと森が拓けてきた。道も先ほどよりは揺れが少なくなり、うっすらと轍後が見える。拓けた森の先には大きな隔壁に囲まれた街。マルディヒエロよりも大きな街のようだ。奥に高い建物などチラチラと見える。


「着いた着いた。アレグノーチアだ。ここでも何件か依頼来るかもわからんからしばらく滞在するぞ」

「なに~着いたの? やっと羽を伸ばせるよ~」

「寝てただけだろお前」


 ジェスラの声に気がついたのかアルマが起き出してくる。丸い卵型から展開していく様はいつ見ても綺麗だと思う。

 検問所に並びながら門から中の様子を伺うと見ただけでマルディヒエロとは様子が違うなあとわかる。昼間の今でわかるほど煌びやかなネオンが点灯している。夜になれば光の海が見る事ができるだろう。


 通行証を掲示すると軽い荷物の検査が入ったが特に引き止められることもなく街へと入る事が出来た。舗装された道を進めば進むほど様々な娯楽施設が見て取れた。

 劇場のようなところだったり、カジノだったり居酒屋やスナックなどが入ったビルだったり、歓楽街と言うし夜のお仕事をする場もあるのかも知れない。子供の体では歩きにくい場所もあるだろう。自分に楽しめるところはあるだろうか。


「何日か滞在するってことは遊んでもいいってこと?」

「まあそうだな。危ないところもあるから俺と一緒に行動するってんなら行きたいところに行ってもいい」

「ホント!?」


 今から様々なところに行けるのだと思うとワクワクとしてくる。ジェスラと一緒なのは仕方ないが、土地勘もないし危ない目には会いたくないのでおとなしく従うに限る。


「僕も遊べる?」

「お前は目立つからな。盗まれるのが嫌ならバッグで丸まってな」

「ちぇー。アユムだけずるいなあ」

「いいとこでは出してやるから大人しくしてなよ」

「いいもん。いいもん。また寝ちゃうもんね」


 アルマはそういうとまた丸い形に丸まりはじめた。移動するときはボディバッグにアルマを入れて移動する。正直重いが一緒に連れて行けと駄々をこねるので仕方なくそうしている。



 数件の依頼の配達を済ませ、大きめの駐車場に入り車を停める。これからは遊ぶ時間だと思いながら置いてあったアルマをボディバッグに詰め外に出る準備をする。

「まずはギルドだな」

「ギルド?」

「大きめの集会所っていうか、そこで依頼を募集してもらうんだ」

「ギルドなんてあるんだ」


マルディヒエロでも規模は小さいがギルドと名乗る機関はあるらしい。普段はマルディヒエロに帰ってくる度ギルドで募集をかけてもらっているのだとか。あまり知らなかったが新規での依頼が入ってくるのはそういう理由だったらしい。


 ギルドなんてファンタジーものの定番という感じだがここにもあるのだな。車を出てジェスラに付いて行くと十分と経たないで大きな建物に着いた。どうやらここがギルドらしいが。

 中に入ればまず見えたのは受付だ。ヒューマ(人間)だったりファーリィ(獣人)だったり様々だが皆一様に女性のようだった。


「ギルドへようこそ。会員証をご掲示ください」

「お願いします」

「はい。……バートンさんですね。今回はどんな御用でしょうか」

「募集をかけたいのですが」

「募集ですね? ではこちらの端末に募集要項をお書きください」


 ジェスラが受付の女性に話しかけカードを機械へ通す。すぐに認証され要件を言えば薄いタブレットのようなものを渡される。


 端末に必要な項目を入力している間、ギルドの中を見渡してみる。様々な人種がいるが割合をみるとヒューマ以外の他の人種が多いように感じる。仕事内容は様々だろうが、荒っぽい仕事がある分そういう人種の方が向いているのかもしれない。


 ふと、ギルドのなかを見ていると後ろから視線を感じる。

 どうやらワニのスケイリー(爬虫類人)のようだが、ジェスラに視線を投げかけているようだった。注目されるようなことをしたでもないが、何か用だろうか?

 受付での用を済ませたのを見るとそのワニのスケイリーがこちらへと近づいてきた。


「よう、ジェスラじゃねえか。久しぶりだな」

「久しぶりだなゴヨ、変わりないか」


 どうやら知り合いだったようで、軽い抱擁を交わす。一つ二つ会話を交わしながら大きな口を広げ豪快に笑っている。


「おん? その子供は?」


 こちらに気づいたようで、俺の方を見る。爬虫類の目は瞳孔が切れ長で正直慣れるまで怖い。


「親戚の子供だよ。今は運び屋見習いだ」

「ははは、そうかそうか見習いね! 俺は同業者のゴヨだ。よろしくな!」

「よろしくお願いします。アユムと申します」

「おお、礼儀正しくていいね。大切なことだぞ、礼儀は。こういう仕事は荒くれもんが多い、礼儀作法出来るだけでも客受けがいいから」


 握手を求められ素直に応じる。大きな手だ。スケイリーの手はスベスベとしていて案外気持ちがいい。


「細っこいが、まあこれからどれだけでも成長するだろうしな。頑張んなよ」

「はい、ありがとうございます!」


 変に子供扱いをするでもなく、激励の言葉をかけて貰えた。初対面だがゴヨに対する株があがる。


「何日か滞在する予定だ。飲みに行かないか?」

「いいねえ。じゃあ夜にカデリアの酒場で待ってるよ」

「アユムも連れて行くがいいか?」

「おうおう連れてこい連れてこい。いくらでも歓迎だ!」


 再び二、三言葉を交わした後ギルドを後にする。

 酒を飲みに行くらしいが、自分はジュースなんだろうなあ。元の年齢から酒など飲んだことはないが、つい大人に憧れを抱く。いい酔い方をしてみたいものだ。


「さてどうする? まず宿でも探すか」

「そうだねーちょっと横になりたいかも」

「僕も外に出たいよ~」


 ずっとバッグにいたままだからか、若干の講義を含んだ言葉がアルマから聞こえてくる。自分も正直休みたかったのでジェスラの言葉に従う。


 宿は割と早く見つかった。いつも使っている宿とのことなのでそれで決めたのだろう。


 その後は宿でしばらく休んでいたら結構な時間寝てしまったらしく、起きた時にはもう夕方になっていた。まあ数日滞在するということなので散策するにしても時間はたっぷりとあるし、ジェスラも特に用があるというわけでもなかったらしく特に起こされるようなこともなかった。


 そろそろ酒場に行くかという声を受け、部屋を飛び回っていたアルマをバッグに再びしまい込む。

 バッグに入れるたびケチをつけるが、置いて行かれるのは嫌らしく毎回最後には大人しくバッグの中へとしまい込まれる。


 宿を出て、しばらく歩き歓楽街の中心へと向かえば昼とは違う様相を見せていた。ピカピカと溢れるネオンの海に眩しいなど思っていれば道を一つ外れ比較的人の波が薄い通りへとやってくる。

 目的の店、カデリアと書かれた看板が目に入った。どうやらついたようだ。


 店の扉を開ければ人の声の波が溢れてくる。内装は暖色でまとめらた、イングリッシュ・パブのような店だ。


「おーいジェスラ。こっちだこっち」

「おお、ゴヨ。先に飲んでたか」


 店の奥に近い席で丸いバーテーブルを前にゴヨが酒を飲んでいる。つまみも既に頼んでいるようで、美味しそうなローストビーフや肉の煮物などの皿が並んでいた。


「アユム食え食え。食わんとでかくなれないぞ!」

「あはは、頂きます」


 背中を叩かれ皿を前に置かれる。腹も減っていたしと口に運べば肉がとろけてとても美味しい。いつの間にか頼まれていたジュースを受け取り、他の料理にも手を伸ばす。

 ジェスラも酒を頼み、ゴヨとの会話に華を咲かす。自分も巻き込まれゴヨの話に腹をよじらせていた。


 ふと耳に届いた歌声に意識を向ける。店内に響く歌声は清廉で美しい。他の客も聞き入っているらしく、会話は少ない。

 設けられた小さなステージには一人の獣の耳をつけたヒューマの女性がピアノを背に歌っている。曲が終わると店内からは波のような拍手が鳴り響く。


「アユム、チップやるから渡してこいよ」

「俺?」

「ああ、ルーナちゃんいいだろ? 結構有名なんだぜ。可愛いし歌上手いし、最高だよなあ」


 ゴヨは既に出来上がっているらしく、熱を含んだトロンとした目付きで歌姫、ルーナのことを見つめている。

 ジェスラとゴヨからチップを貰い渡しに行く。


「あの、歌とても素敵でした」

「ありがとう。……あれ? アユムくん?」

「え?」


 どうして自分の名前を知っているのだろう。頭に?を浮かべているとルーナが微笑む。


「ほら、ルービアプラタで会ったじゃない。忘れちゃったの?」


 ルービアプラタ? ルービアプラタは確か初めての運び屋仕事の時に行った街の名前だ。カーブロレとかいう変態アライグマにジェスラがいちゃもんをつけられていた時にいた街だ。そこで出会った女性といえば……。


「あ」

「思い出した?」


 一人いる。そこで出会った女性が。

 目の前にいる彼女、ルーナは自分ができれば二度と会いたくないと思っていた女性。カーブロレに渡すために汗を頂いた女性だ。


「あ、ああ、どどど、どうも」


 気が動転して不審者みたいな口調になる。会いたくなかったー!!! 正直二度と会うこともなくいい思い出としていつか昇華されることを望んでいた手前、どうしても後ろめたさが湧いて出る。

 ルーナは一目見て美しいとわかる顔立ちをしている。黒の瞳に黒々とした艶のある髪。赤いルージュがひかれた唇は艶かしい。頭上に付いた猫の耳も彼女の可愛らしさを助長させる。

 あの時は正直薄暗くわかりにくかったが、光の中で出会う彼女にドギマギとしてしまう。

 どうして自分だとわかったのだろうか。あの時の部屋は薄暗かったし、たった少し言葉を交わした程度だ。そう聞くと、


「んー匂いかな。アユムくんの匂いがしたから」

「そ、そうですか」


 匂いなんか俺には分からん! 彼女だけにしか分からないであろう答えを受け、そう心の中で叫ぶ。


「それじゃあ」

「あ」


 これ以上関わりたくないとすごすごと退散する。この際不審に見られてもいい。この場を離れたかった。


「何話して来たんだ?」

「いや、歌素敵だったって。それだけ」

「ふーん、まあいいや。でさあ、カルガスの野郎ってば」


 特に問い詰められることもなく、会話の本筋に戻っていく。

 歌が終わり、ピアノの伴奏だけが聞こえ始める。周りにも喧騒が戻り始め、ジェスラ達も会話を再開する。

 彼女がいると正直例の件を思い出してしょうがないが気にしないことにしよう。



「何の話をしてるの? 私も入れてくれないかしら?」


 この声は……。


いつも閲覧ありがとうございます。

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