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識~叡智の賢者~  作者: ニコカメン
第Ⅰ章 旅立ちの黎明
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005 スキル蒐集

 朱音が訓練場を飛び出したのと同時刻、書斎へと戻って来た三月はニヤニヤとした笑みを浮かべながらドスンと椅子に座った。

「ククク……流石は俺のスキルだ。どうやら勇者に負けず劣らないチートだったようだな」

 そう、召喚されて1ヶ月。三月の【識】は更なる進化を遂げていた。

 元々備わっていた[解析]と[蒐集]、これにより情報収集の効率は非常に跳ね上がったが直接的に三月に力を与えるような能力ではなかった。だが、三月に新たに目覚めた能力は想像を絶するようなチート能力だったのだ。その証拠に現在の三月のパラメータは、


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△


《夜白三月:[16歳][男]》 


種族:人間族


筋力:[D]

耐久:[D]

敏捷:[B−]

魔力:[F]

魔抗:[D]


スキル:【識】[解析・蒐集・目録・再現]


目録:【抜刀】(居合・魔斬り)

   【魔力収束】(放出)


属性:無

魔法:【  】


称号:【識者】[異世界人・識者・従者・蒐集者]


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 と、新たに【識】の2つの能力と、目録と言う項目が追加されていた。

 この[目録]と言う能力は今まで[蒐集]により集めた知識を文字通り本の目録のようにしてしまう能力だ。目録に記録された知識は失われる事は無く、忘れてしまったとしても見たい時に見る事が出来る。所謂知識の倉庫なのだ。

 だがしかし、[目録]の真の力はただ知識を記録するだけではない。

 先ほど三月は朱音と鈴子の試合を覗き見ていた。そしてある事を行っていた。

 三月はまず[解析]を発動する事で朱音と鈴子のスキルがどのようなスキルであるのかを探っていた。そして解析した情報を[蒐集]により[目録]へと刻み付けると、なんと、他人のスキルをコピーする事が出来るのだ!

 これこそが三月が【識】をチートと呼ぶ理由だ。これにより三月は勇者である四郎ですら越える事が出来る可能性を見出したのだ。

 だがしかし、[目録]に他人のスキルをコピーしたとしても通常それは単なる知識なので使用する事は出来ない。だが、【識】はそんな障害すら取り除く能力を発現させた。それがこの[再現]の能力だ。

 [再現]とは文字通り再び現す能力だ。これにより[蒐集]した能力を使用する事が出来るようになり、【識】と同じでスキルを成長させて行く事も出来る。まさにチートと言っても過言ではない。

 そして今回は鈴子の【抜刀】と朱音の【魔力収束】を[蒐集]した。鈴子の【抜刀】は腕力[D]の三月でも扱いやすく高い攻撃力を得る事が出来、朱音の【魔力収束】は魔力[F]の三月の魔力不足を補う事が出来る。それに何かと応用が利き易いスキルのため使えるに越した事はないだろう。

 日が暮れてからでもこっそり使ってみるかと思い、自らの所業に恍惚の笑みを浮かべていると、突然書斎の扉が乱暴に開け放たれた。

「ちょっと夜白居るんでしょ!? 出て来いやあ!」

 プロレスラーでも入場するのかと思いながら扉の方に視線を向けると、そこに立っていたのは先ほどまで三月がスキル蒐集のために観察していた五十嵐朱音だった。

 まさかスキル蒐集がバレたかと一瞬考えるが、自分の能力に関しては単なる解析能力だと言ってあるため【識】の本当の力については誰も知らないはずだ。ならば朱音がここにやって来た理由は……、

「あんたいつまでこんな陰気な所に引き籠ってる気よ!? いい加減出て来て訓練受けなさいよ!」

(ま、そうだろうな)

 別に三月は書斎に籠って何もしていないわけではないのだが、周りの人間からすれば三月は訓練をサボって読書に没頭しているようにしか見えないだろう。それが1ヶ月も続けばこうして我慢出来ずに言い掛かりをつけてくる輩が出て来てもおかしくはない。

 三月はふぅ〜と溜め息を吐くと、まあまあと手でジェスチャーを送る。

「んな興奮すんなよ、五十嵐。まずは落ち着いて話し合おうじゃあないか?」

 宥めるように落ち着いた口調でそう提案する三月だったが、むしろその態度が朱音の琴線に触れてしまったのか、更に怒気を膨らませる。

「あ・た・しは十分落ち着いてるわよ! 何でも良いからさっさと出て訓練しなさいよ! パラメータが1番低いあんたは尚更強くならなきゃいけないでしょ! それとも何? そんな事どうでも良いから自分は本を読んでたいって言うの!?」

「別に強くなりたくないわけじゃあ無いさ。俺には俺のやり方がある。そしてその方法がお前らとはちょっとズレているだけだ。現に成果は出てるんだ。文句を言われる筋合いは無い」

「だったら証明してみなさいよ! あんたの成果とやらをあたしに見せてみなさい!」

「どうやってだ?」

「あたしと試合しなさい! あんたが勝ったらあたしはもうあんたに文句は言わない。でもあたしが勝ったら訓練に出てもらうからね!」

 勝手に決めるなと言ってやりたい気持ちに駆られるが、ふと思い当たる事があったため俯いて思考を巡らす。

(待てよ? これは今の俺の実力を測る良い機会なんじゃないか? ちょうど蒐集したスキルを試してみたかった所だ。どうせなら実戦の方がスキルも上達するだろ)

 ニヤリと笑みを浮かべると朱音へと向き直る三月。

「良いだろう。どうせなら他にも何か賭けないか? その方が燃えるだろ?」

「ええ良いわよ。だったら負けた方は勝った方の言う事を何でも1つ聞くって言うのはどう?」

「ふむ、面白い。だが、口約束だけじゃ信用性が薄いな。折角だから【契約】を結ぼう」

「【契約】?」

 三月はおもむろに近くにあった白紙の羊皮紙を手に取ると、インクを染み込ませた羽ペンで何やら書き始める。そして事細かに試合のルールと対戦する2人の名前を書き込み、最後に景品である命令権について書き込み【契約書】を作り上げた。

「これは【契約書】と言って文字通り【契約】を結ぶための道具だ。試合はここに書かれているルールの通りに行ってもらうぞ。魔法的な細工をしてあるからお前が了承すればすぐに【契約】は完了するように出来ている」


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 《月下の決闘》

 対戦者:【夜白三月】・【五十嵐朱音】


 場所:城の訓練場


 勝利条件:対戦相手を気絶させるか、対戦相手の戦意が喪失



 契約要項 1:試合中は自らの持つ如何なるスキルの使用も許可する

      2:対戦相手の殺害は敗北と見なし永続的パラメータ低下のペナルティを負う

      3:勝利条件を満たしてさえいれば如何なる武器・工作・手段を用いても構わない

      4:試合から逃げ出した場合その者は自動的に敗北と見なされる

      5:試合以降1ヶ月間は両対戦者共に勝敗含む、試合内容を口外する事を一切禁ず。尚、これに反した場合、1ヶ月間のパラメータ低下のペナルティが発生する


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 【契約書】を一通り読み終えると朱音はふっと不敵な笑みを浮かべた。

「まるでゲームの説明書みたいね。題名まで付いてるし」

「その方が燃えるだろ? 時間は人気の無くなる時間帯……深夜で良いな? 日にちはいつでも構わない。どうせなら今夜でも良いぞ?」

「面白いじゃない。試合開始は今夜よ! 精々首を洗って待ってるが良いわ!」

「んじゃ、契約成立っと」

 そう三月が呟いた瞬間、【契約書】から眩い光が発せられると同時に【契約書】に印が刻まれる。これが【契約】が成立した証だ。

 その後、朱音が書斎から飛び出して行くのを確認すると、三月はやれやれと肩を竦めて椅子に深く腰掛けて溜め息を吐いた。

「チョロイ奴だな」

 そう呟き、さてどうやって朱音を泣かしてやろうかと戦略を練り始めた。


    ◆◇◆◇◆


「遥! 四郎! やったわよ! 夜白の奴を外に出す算段がついたわ!」

 書斎から帰ってきた朱音は何やら四郎と話し合っていた遥のもとへと駆け寄りながらそう叫んだ。

「あ、朱音ちゃん……算段がついたってどういう事?」

 そう遥が訊ねると、朱音は得意げに胸を張った。

「あいつと試合をする事になったのよ。勝った方が何でも1つ言う事を聞くの。何がなんでも絶対勝って外に引っ張り出してやるわ!」

 そう意気込む朱音だったが、その言葉を聞いた遥と四郎は微妙な表情を浮かべて顔を見合わせる。何か嫌な予感がする、と。

「ふっふっふ、見てなさい。あのヘラヘラした笑い顔を今に泣き顔に変えてみせるわ!」

「笑い顔? もしかして三月は笑ってたのか?」

「? ええ、笑ってたわね。ふてぶてしく、ムカつく位不敵にね!」

 朱音のその言葉を聞き、嫌な予感が確信に変わった事を2人は悟った。

 額に汗を浮かべながら遥は慌てたように視線を逡巡させて、心配そうな顔で四郎を見た。四郎も悩むように腕を組んでうーんと唸っている。

 そんな2人の様子を見て、朱音は怪訝そうに眉を顰めた。

「どうしたのよ2人とも? さっきから何か変よ?」

「あー……いや、何と言うかだなぁ」

「三月君が笑ってる時って……ねぇ?」

「何? あいつが笑ってたら何か都合の悪い事でもあるの?」

「ああ、確実に都合の悪い事になるぞ。朱音のな」

「はぁ〜?」

 訳が分からないといった感じに首を傾げる朱音。

 それもそのはずである。朱音にとって、三月はパラメータが低く、大したスキルも持っていない読書ばかりしている軟弱者程度の認識だ。それなのに何故2人がこれほどまで自分に心配そうな表情を向けてくるのかが理解出来ないのだ。

 しかし、遥と四郎は自動養護施設時代から、つまり10年近く三月との付き合いがある。それ故に三月が良からぬ悪巧みをしているのが何となく分かるのだ。

「なあ、朱音。今からでもその試合断る事は出来ないのか?」

「無理ね。あいつ命令を絶対遵守させるために【契約】までさせたのよ? それにこっちから挑んだ手前今更断れないわよ」

「そ、そうか。無理か」

「安心しなさいよ! あたしが負けると思ってるの? 鈴子や四郎には負けるけどあいつには負けないわ! 絶対にね!」

 自信満々に言い放つ朱音だったが、2人は昔まだ三月が施設で生活していた時の事を思い出して微妙な顔を浮かべる。

 かつて施設内で決められていた暗黙の了解があった。その暗黙を破る事は誰であろうと許されない。例え施設の職員であっても破ってはいけない絶対的ルール。

 それは……《夜白三月を必要以上に刺激してはいけない》というものだった。

 そう、夜白三月は誰よりも賢く頭も回る。勤勉で幅広い知識を身に付けているし、それを状況に応じて実践する事が出来る対応力もある。しかしそのスペックの高さを主に悪巧みや悪戯などにしか発揮しないため性質の悪い問題児でもある。

 だからこそ、施設内では三月は皮肉を込めてこう呼ばれた。


 良くも悪くも天変地異を巻き起こす《大天災》……と。


朱音が噛ませに見えるって? まあ、三月君の事情を知らないから仕方ないです。

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