表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
識~叡智の賢者~  作者: ニコカメン
第Ⅱ章 聖なる闇の蠢き
43/54

042 三月の確信

 《アウェ村》へと到着した三月一行は宿を確保した後、それぞれ村へとやって来た目的を果たすために行動を開始した。

 宿の前にて、村長に挨拶しに行くというミスティとスイに、三月は念のためにロムを護衛として連れて行くようにと言った。残された男性陣2人は早速行方不明事件解決のために調査を開始する。

「よし、早速調査開始だ。行くぞ、ルシル」

「行くって……一体どこに行くんだよ? 聞き込み調査をするんじゃないのか?」

「それも後でする。だが、今は事実がどうかも分からない村人の噂話よりも、確固たる信憑性の持てる情報が欲しい」

「で、その情報ってのはどうやって手に入れるんだよ?」

 三月はチラとルシルに目配せすると、50メートルほど離れた所を歩いているミスティ達、もといスイへと視線を向けた。そんな三月の様子にルシルはハッと何かに気が付いたかのように目を見開いた。

「ま、まさか……スイを囮にして犯人を誘き出すのか?」

「はっきり言えばそうなるな」

「そ、そんなのオレは反対だぜ! 何でスイを……!」

「ルシル、勘違いするなよ。俺達の本来の目的はスイを護衛する事じゃない。この行方不明事件を早々に解決する事だ。スイにはその足掛かりとして協力してもらう」

「で、でもっ!」

「ルシル」

 三月は冷ややかな視線をルシルへと向けると、淡々と無機質な声音でこう説明し出した。

「この村に来た時点で、既にスイは《獣人族》として何者かにマークされていることは確実だ。もしこの事件の犯人が、スイの周りをうろちょろしているのならこれほど好都合な事は無い。そいつの尻尾を掴んで早々に事件を解決できる。これ以上の被害拡大を防ぐ事にも繋がるんだ。

 それに、スイは元々マークされることは承知でついて来ているはずだ。そしてその後押しをしたのはルシル、他ならぬお前だ。お前は渋るミスティに大丈夫だと言って納得させた。そしてこの現状を作り出した」

「……」

「事件を解決するには獣人であるスイを離れた所から尾行して、周囲に怪しい人間が居ないかを探すのが1番手っ取り早いと俺は考えている。早期に事件を解決する事が、スイの身の安全にも繋がるだろう。それはお前も分かっているな? だから、利用できるものは利用してとっとと事件を解決。それが俺のやり方であり、恐らく最も効率的なやり方だ」

 ルシルは真剣な眼差しでじっと三月を見つめ、やがて眉を少しだけ顰めて悔しそうに奥歯を噛み締めた。

「……分かったよ。これはスイを連れてきたオレの責任だ。あいつを利用するっていうのはちょっと気に食わねぇけど、ロム姉を同行させたってことは、ミツキ兄だってスイを危険に晒したいわけじゃないんだろ? だったら、オレはミツキ兄の言葉に従う。何よりもスイの身の安全のためにも」

「ふっ、それで良い。なぁに、心配する事は無い。もし、スイやミスティに犯人の魔の手が伸びるようなことがあれば…………俺がそいつをズタズタに引き裂いて魔物の餌にしてやる。死ぬよりも辛い、絶望という名のスパイスも添えて、な?」

 三月がニタァと絶対零度の冷笑を浮かべると、突如として極寒の地に放り出され、血液が一瞬で凍りついたかのような寒気がルシルの全身を包み込んだ。その瞬間、彼は理解した。目の前に居る夜白三月という男は、この世の誰よりも(ルシルにとって)恐ろしい存在であるという事を。

 もし、三月が大切だと思っている存在に危険が及ぼうものなら、その圧倒的な剣技の前に脅威は排除されるだろう。

 ルシルは三月のことを頼もしく思う反面、これほど恐ろしい存在が敵ではなく本当に良かったと心より安堵する。

(……ホント、ご愁傷様)

 もしこの事件を引き起こした犯人が居るというのなら、ご愁傷様としか言いようが無い。

 2人は距離を取りながらスイの尾行を開始するのだった。


    ◆◇◆◇◆


 三月とルシルがスイの尾行、もとい周囲の警戒を開始したのと同じ時、ミスティ達女性陣は何てことのない世間話をしつつ村長宅へと向かって歩みを進めていた。

 護衛として付き添うように言われたロムは周囲の様子を警戒しながらも、2人との会話に当たり障りの無い相槌を打ちながら歩いていた。しかし、先ほどから、何やら不穏な視線が向けられているのを感じ、怪訝そうに密かに眉を顰めた。

(この視線……どう考えてもミツキやルシルじゃないよね。敵意とかは感じないけど、明らかにロム達のことを監視してる。村の外から来た人間だから……って訳じゃないみたい。特にスイに向けられる視線が多い。スイもそれに気付いてるみたいだし、あんまり良い気分じゃないだろうなぁ……)

 スイは五感や身体能力が人間よりも遥かに優れている《獣人族》である。普通の人間では感じ取れないような視線にも敏感であり、不穏な視線が自分に向けられている事にも気が付いている。どう考えても不安なはずなのにそれを表に出さないところを見ると、スイは相当肝が据わっている子のようだ。

(これもルシルの影響なのかな? ルシルはルシルで無鉄砲に見えるけど、本当は明確な目標を持っている子だし、昔から一緒に生活しているスイが影響されていてもおかしくはないよね。子供とは思えないくらいしっかりしているのも、ちょっと抜けてるルシルの支えになりたいから、とか? 『少し頼りないけど、いつも頑張ってる君の支えになりたいの!』って感じ? う〜ん、最近の若者は健気な恋愛をしてるんだねぇ……)

 などとスイとの年齢は1つしか違わないにもかかわらず、人生の先輩のような目線で考える。そしてスイをにまにまとした笑顔で見つめ出した。

 スイは何故ロムがそんな笑みを浮かべているのか見当も付かなかったのか、不思議そうな顔をしながら首を傾げた。

(ま、とりあえずスイのことは置いといて。今、ロムに出来る事は2人を護衛する事のみ。犯人探しは任せたよ、ミツキ)


    ◆◇◆◇◆


 一方、三月達男性陣は女性陣より50メートルほど離れた位置から周囲の様子を警戒していた。もちろん、三月は【識】の能力を全開にして、スキルの有効範囲ギリギリまでスキャンして情報を取り入れていた。現在の三月の[解析]の有効範囲は半径300メートル四方。《アウェ村》のような小さな農村ならば、全体的に解析の目を向けることも可能である。

 三月の視界には主にスイへと向けられる青いラインが表示(ガイド)されている。この青いラインは視線を示すもので、じっと見ることでその視線が誰のものであるのかまで調べることが可能である。

 [表示]の能力はそれだけでは終わらず、その視線に込められた思念を読み取る事も出来る。と言っても、読み取れる思念はシンプルであり、『興味』や『警戒』などといった短い言葉でしか伝わってこない。

 スイへ向けられる多くの視線は獣人の行方不明事件などというものが起きているにもかかわらず、村へと訪れた獣人の子供への興味などがほとんどだ。

 しかし、そんな思念の中に『金』、『誘拐』という異質で物騒なものが混じっているのを見つけた。

 それを見た三月は一連の行方不明事件が誘拐事件であったことを理解する。そしてその思念を読み取った視線から、相手が何者であるのか解析していく。すると、その視線の主の称号には【盗賊】があったため、三月は最初に立てた自分の仮説がほぼ間違いのないものであったことを確信した。

 この村の近くには盗賊団が潜んでおり、行方不明事件はその盗賊団が引き起こしているという仮説。噂を元に立てた仮説ではあったが、どうやらほぼ当たりだったらしい。

 三月は隣を歩くルシルに視線を向けずに小さな声で話し掛けた。

「(ルシル。スイに不審な視線を向けている輩を発見した。解析した限りだと現在地は俺達の右斜め前方に100メートル。どうやら【盗賊】らしい。俺の予想ではこいつは犯人の一味だ)」

「(っ!? それはマジなのかよ? だったらすぐに捕まえようぜ!)」

 そう言って急かすルシルだったが、三月は無言で首を横に振った。

「(駄目だ。盗賊は村人に紛れて複数潜んでいる。俺達のことも後方から監視されている。少しでも不審な動きをすればすぐにでも逃げ出すだろう。全部で2……いや、3人居るな。俺の敏捷値ならば奴らに追いつくことは可能だろうが……)」

 そこまで言って三月はさてどうするかと眉を顰めて作戦を練る。

「(ふむ……今スイのことを見ている盗賊を捕まえて情報を吐かせるのも良いが、もし死んでも口を割らなければ収穫はゼロ。割ってもその情報が真実だとは限らない。ならばいっその事、利用してアジトの場所を割り出すのが得策だと言える)」

「(つまり一度ワザと逃がして、アジトの場所を見つけた後に一網打尽にするってことか?)」

「(その通りだ)」

「(おしっ! だったら話は早ぇな!)」

「(ああ。この盗賊共にはより大きな魚を獲るための餌になってもらうとしよう)」

 そう言葉を交わし、2人はくるりと身を翻して方向転換すると、後方からこちらを監視している盗賊へと向けて一直線に駆け出して行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ