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識~叡智の賢者~  作者: ニコカメン
第Ⅱ章 聖なる闇の蠢き
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039 行方不明者捜索依頼

「【ゴブリンの群れ討伐依頼】、完了を確認しました。更に群れが引き連れていたライトベアの討伐もされていますので通常の報酬50000ビットに加え、20000ビットを追加報酬とさせて頂きます。まだ13歳なのに凄いのね、ボーヤ。流石は期待の新人冒険者ミツキ・ヤシロ様のお弟子さんといった所かしら?」

 既にお馴染みとなった受付嬢から報酬を受け取ると、ルシルは依頼を完遂した事の達成感と、自分でお金を稼いだのだという感動に身を震わせた。

「や、やったぜミツキ兄! 初めての依頼達成だ!」

「良かったな」

「ああ! これでミスティの負担を少しでも減らしてやれる!」

 確かにミスティは近くの村の診療などに出掛けて、子供達の生活費を稼いでいる。あまり楽には見えないその仕事の負担を少しでも減らせれば良いのに、とルシルはずっと考えていたのだろう。

 がしかし、例えルシルが1人で子供達の生活費を稼ぐ事が出来るようになってもミスティが診療の仕事をやめることはないだろう。

(あいつは慈愛の塊みたいな奴だからな。ガキ共が居なかったら無償で診療をすることも厭わないだろう。ホント、どうしてあんな宗教団体でシスターをやっているのか理解に苦しむ)

 つくづく自分は聖女神教会が嫌いなのだなと実感する。ミスティにはもっと自由に生きてもらいたいという気持ちもあるが、教会のシスターはミスティが自分で選んだ道だ。三月が口を出すような話ではないだろう。

 などと考えていると、ルシルはまだ興奮が冷めやらないのか胸を張って誇らしげに報酬の入った袋を掲げていた。

「これでオレも本当の冒険者だ。ククッ、きっとみんな驚くぞ! オレのことをみんなが、凄い凄いと言いながら尊敬の眼差しを向けるに違いないぜ! なっ、ミツキ兄?」

「そのみんなとやらの中で、特にスイに褒められたいんだろ?」

「っ!?」

 にんまりと笑みを浮かべつつそう言うと、ルシルは絶句したように口をポカンと開けて固まり、やがて顔を真っ赤にして慌てたように言葉を発する。

「な、ななな! 何を言ってんだよミツキ兄!? なな、何でそこでスイの奴が出てくるんだよ!」

「ん〜? 俺はてっきり、お前はスイの事を好きなもんだとばかり思ってたんだが、違うのか?」

「ちちち違ぇよ! 別にあいつの事なんか何とも思ってねぇし! 勘違いすんなよな!」

「ほぉ? じゃあ、スイが別の男と仲良くしていても、構わないんだな?」

「そ、それはあいつが決める事だろ? オレがどうこう言うのはお節介だ……」

「ま、その通りだな。だが、本当に大切なモノは力尽くで奪い取る覚悟は持っていた方が良いぞ? この世界ではいつ何が起こるのか分からん。必ずしも女を手に入れるという言葉が、甘い恋愛沙汰という言葉に当てはまるわけじゃあない。力で無理矢理屈服させて奴隷のような扱いをする奴だっているだろう。そういう奴から女を守ってやるのは、俺達男の役目だ。覚えておけ」

 そんな三月の言葉に、ルシルは少しだけ驚いたような表情を浮かべていたが、すぐに真剣な顔を作り無言で首を縦に振った。

「あ、あの〜……」

 どこか遠慮がちにそう言ったのは、困り顔を浮かべている受付嬢だ。

「あー、悪い。カウンターの前で話し込んでしまったな」

「い、いえ、別に迷惑では無いです。確かに凄い話してるなー、とは思いましたが、迷惑と言うほどの事ではありません」

「ん? それじゃあ何なんだ?」

「実はヤシロ様に受けて頂きたい依頼があるのです」

「俺に?」

「はい、この依頼です」

 そう言って受付嬢が渡してきた依頼書を手に取り、内容に目を通す。


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 行方不明者の捜索 [A]

 町の北西に位置する《アウェ村》の行方不明者に関する捜索依頼。

 ここ数日の内に《アウェ村》にて《獣人族》の子供の行方が不明になる事件が続出。更にその調査に向かった冒険者も行方を眩ませるという事態に陥っている。至急その原因を探り、行方不明者の身柄を確保されたし。

 尚、この依頼の報酬は下記の条件を満たす度に追加されるものとする。

 

 報酬  1.現地調査による情報の提供 100000ビット

     2.行方不明者の発見、及び身柄の確保 300000ビット

     3.事件の原因の解明 500000ビット

     4.事件の解決 1000000ビット


 ※3・4の条件を満たした場合、1・2の条件も満たした事とする


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 最近《アウェ村》で起こっているという謎の行方不明事件。以前よりこの依頼が張り出されていたのは三月も知っていた。何人かの冒険者がこの依頼を受諾し、すぐにでも解決されるだろうと三月は考えていたのだが、まさか依頼を受けた冒険者まで行方不明になっているとは驚きだ。

 依頼書に目を通した三月は思案するように顎に手を当て、この行方不明事件について考えてみる。

(以前まではCランク程度の冒険者でも解決できるとされていたこの依頼。まさかAランクにまで上昇して俺に回ってくるとはな。しかし、《獣人族》の子供ばかりが姿を消しているということは気になるな。人攫い系の魔物という線もあるが……。いや、獣人ばかりが攫われている事を鑑みるに人間至上主義者の連中の仕業の方が有益かもしれん。子供ばかりが攫われているという事はお菓子やら何やらのモノで釣ることも出来るんだろうが、冒険者まで行方を眩ませているという事は相手は屈強でそれなりの手練れ。しかも冒険者は複数人のパーティーで行動していた事を考えると…………盗賊団の可能性があるな。あの辺りには盗賊団が潜んでいるっていう噂も流れていたし)

 そこまで考えた三月はさてどうするかと考える。

(報酬はそれなりに良い。しかも全ての条件を満たした時の総報酬額は1900000ビット。盗賊団が犯人だとしてもフェンリルより手強いという事は流石に無いだろう)

 だが、と三月は悩むような顔つきで再度依頼書に視線を落とす。

(もし犯人が盗賊団だとして、何故獣人を攫う? 確かに獣人を奴隷として売買すればそれなりの額にはなるだろう。だが、わざわざ自警団の居る村の中から攫っていくのはリスクが高い。隊商なんかを狙った方がまだ効率が良いだろう。それなのに人を攫っていくことを考えると……バックに組織がついてるな)

 あくまでこれは三月の仮説に過ぎない。だが、もしもこの仮説が当たっているとするのなら、辻褄が合うのだ。

 しかしこれは噂や自分の見解から立てた仮説に過ぎない。そのためには現地へと赴き細かい調査が必要となるだろう。しかも、三月のスキルに打って付けの依頼でもある。

 とりあえず三月は確認のために受付嬢にこう訊ねた。

「……この依頼、指名依頼ですら無いようだが、Dランクの俺が受けてしまっても良いのか?」

「はい。現在このギルドにはこの依頼を達成する事ができると思われる冒険者の方は居られません。ですがヤシロ様ならば解決できるだろうという、ノイマン教官の推薦により、特例としてヤシロ様はこの依頼を受諾することができます」

「あの教官が推薦したのかよ。まあ、別に構わないが」

「ちなみにヤシロ様はこの依頼を達成する事により、Cランクへの昇格試験が免除されます」

「試験の免除ねぇ……」

 三月はそう呟きどうするべきかを考える。確かにこの依頼には色々と不可解な点が多いため非常に真相が気になっている。報酬額もそれなりに高い上、Cランク昇格試験の免除のオマケ付きだ。はっきり言って受けておいても損は無いように思われる。

 三月は決意したように1度頷くと、依頼書と共にギルドカードを提示してこう言った。

「良いだろう。特別に教官の顔を立てて依頼を受諾してやる。ルシル、この依頼にはお前もついて来てもらうぞ」

「えっ? オレもやるのか? ってか、受けられんの?」

「依頼ランク以下のメンバーがパーティーに居る場合、パーティーリーダーが全ての責任を負う形でそのメンバーも依頼を受諾する事が可能となる。そうだったな?」

「はい。冒険者はギルドの財産と言っても過言ではありません。パーティーリーダーはランク以下のメンバーを依頼に同行させる場合、その全ての責任を負い、メンバーが殉死した場合にはギルドより損害請求が出されます」

「い、良いのかよミツキ兄? そんな責任負っちまって」

「別に構わないさ。お前は俺の弟子だ。たかがこんな依頼如きで死ぬとは思っちゃいない」

 この言葉は、ある意味では弟子であるルシルに対する三月の信頼の表れでもあるのかもしれない。

 ルシルはその言葉に「へへっ」と嬉しそうに笑みを浮かべると、照れ隠しのつもりか鼻を擦りつつこう言った。

「そこまで言われちゃ断れねぇぜ。全力でミツキ兄の役に立ってやるから覚悟しとけよな!」

 こうしてルシルも捜索に同行する事が決定した。


    ◆◇◆◇◆


 ドンッ!


 ギルドでの用事を済ませ教会へと帰ろうとしていた三月だったが、曲がり角で誰かとぶつかってしまった。

 お互いに転ぶ事はなかったがよろめいてしまい、三月は相手の男性を気遣うように声を掛けた。

「おい、おっさん、大丈夫か?」

「ホホホッ、お気遣いありがとう。ですが、心配には及びませぬ。それにこちらも急いでいたものでつい注意力が散漫となってしまいましてな。申し訳ありませぬ。では、急いでいるのでこれで失礼」

 そう言って去って行った法衣姿の中年の男性を見送ると、ふとルシルが言葉を発した。

「今の……もしかしてアイザック神父か?」

「知ってるのか?」

「ミスティから聞いてるだろ? 以前うちの教会を管理してた神父様だよ。ミスティの育ての親で喧嘩別れして出てった、アイザック・ローレンス神父」

「ああ、確かそんな話を聞いたな。だが、別れて以来会ってないんだろ? 何でこの町にいるんだ?」

「オレにも分からねぇけど、教会、もといミスティに用があったんじゃねぇの?」

「それもそうか」

「それにしてもあのおっさん、前までは神父だったけど、今じゃ司教に昇格したみたいだな。着てる法衣も新しくなってたし、手にも杖持ってた。聖都で出世したんかねぇ?」

 確かに彼が着ていたのは、聖女神教会の司教が着ている純白の法衣だった。手に持っていた銀色の錫杖は、司教の地位を持つ者に与えられる証でもある。

「ミスティのローレンスって姓はあのおっさんのものなのか?」

「ああ、そうらしいぜ」

 三月はアイザックが去って行った方向をじっと見つめる。以前聞いたミスティの話では、アイザックは生粋の人間至上主義の他種族排斥派だったという。普通の人間ならば、彼の礼儀正しい態度を見れば人の良さそうな男だと思い込むだろう。だが、三月は違う。三月はあの笑みを知っている。あの作って張り付けたような笑い顔は人間を人間として見ていない、家畜と同列に見下している者の目だ。

 まるで教皇であるレイトムと相対しているかのような、吐き気を催すほどの気味の悪さ。女神に心酔する狂的なまでの信仰心に囚われた人間。あれがミスティの育ての親などとは到底思えない。

 嫌な胸騒ぎを覚えながらも、三月は教会へと向けて再び歩き出すのだった。

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