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識~叡智の賢者~  作者: ニコカメン
第Ⅰ章 旅立ちの黎明
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003 知識の虫

 三月達が異世界に召喚されてから1週間が経過した。現在では騎士団による戦闘訓練などが行われるようになり、四郎達は参加しているのだが……三月はと言うと。

「ほぅ……こんな魔物を存在するのか。興味深いな」

 今だに書斎に籠って本を読み漁っていた。

 三月は端から人間の救済とやらのために協力する気など微塵にも無い。それに元の世界に戻ろうすら思っていない。まるで夢のようなこの《エタニティ》は三月の知識欲を刺激する物が非常に多かった。元より向こうの世界に家族が居ない三月には帰る理由が見当たらなかった。

 別に三月は両親に捨てられたわけでは無い。三月が小学校に丁度入学した頃に事故に遭い、生き残ったのは三月だけだったのだ。親権を受け継ぐ親戚もいなかったため、それ以降は児童養護施設に預けられ、最近では施設を出てアパートに1人暮らしをしていた。故に未練らしい未練は特に無いのである。

(ま、あの2人が本当に死んだかどうかは定かじゃないんだけどな……)

 殺しても死にそうにない両親の顔を思い出し僅かに頬を吊り上げて苦笑する。

 三月はまた1冊、読み終わった本を本の山に重ねると、次の1冊を手に取りながらこの1週間で得た情報を整理する。

 この世界にはまず魔法と呼ばれる力が存在しているのは間違いないらしい。魔法にはそれぞれ属性と言うものが存在しており、各個人に魔法属性と言う物が割り当てられている。魔法属性は魔力の性質によって異なる。つまり個人の魔力の性質によって扱える属性は異なるのだ。

 その魔法属性と同じ属性の魔法は扱いやすく、成長しやすくなるらしい。一般的に知られているのは【火】【水】【風】【土】【雷】【氷】【光】【闇】の8つである。しかし、属性にも例外と言う物が存在しておりこの8属性以外の特殊な属性が存在しているらしい。四郎の持つ【聖】属性もその特殊な属性の1つであり、ある種族以外では神より祝福を受けた上位の神官、そして【勇者】や【従者】の称号を持つ《一際強い存在》にのみに宿るといわれている。この【聖】属性の魔法は、《神聖力》という魔力とは異なった聖なる力も同時に使用して力を発現させる。なので別名《神聖術》と呼ばれる事もあるようだ。

 そして特殊な属性の中でも特殊中の特殊が【無】属性。ただ単純に魔法が使えないのかと思われるが、そうではない。どの属性からも逸脱しているこの属性は特殊な魔法、《ユニーク魔法》と呼ばれる魔法を扱う事が出来る。保有者がどの属性よりも少なく、非常に稀少な属性なのだ。

 三月はこの無属性なのだが如何せん魔力が低過ぎるのが原因なのかは不明だが、《ユニーク魔法》とやらは所有していない(単純に発現していないだけかもいしれないが)。しかし、魔法属性はスキルの特性にも関係してくるらしいので、【識】はこの無属性があったからこそ目覚めた、所謂《ユニークスキル》と言う奴なのかもしれない。

 そして次に種族について。この《エタニティ》にはいくつかの種族が存在している。身体に獣のような部位を持つ人間よりも強靭な肉体を持つ《獣人族》、生まれながらにして強大な魔力と秘められた力を持つ《魔人族》、強い魔力を持っているとされるがその情報のほとんどが謎に包まれている《精霊族》、長い耳を持ち森の奥深くに集落を築き生活する《森人族》、小柄な体躯で岩山を削り生活する《地人族》、そして全ての種族の中でも最弱と言われる《人間族》。他にも神の使いと言われる《天翼族》や《魔人族》と同等かそれ以上の能力を持つと言われている《吸血族》なども存在しており、全ての種族をあわせると10種族以上の存在が確認されているとの事。


 《獣人族》。自然をこよなく愛する種族であり、首都である《ウルス》も森と山に囲まれた自然の溢れた国となっている。非常に強靭な肉体と精神を持っている。過去に《人間族》との種族差別による諍いがあったため、《人間族》を憎悪している獣人は多い。


 《魔人族》。首都《ナガレ》を中心に、厳しい環境と強力な魔物が闊歩する大陸で生活をしているらしい。故に強力な魔力を生まれながらにして持っているのだと言う。《魔人族》の中でもいくつもの部族に分かれており、部族によってそれぞれ特色の違うスキルが発現する。その高い魔力に稀少なスキルをほとんどの個体が有しているためパラメータ上では最強種とされている。


 《精霊族》。伝承などで登場する事が多いがその存在はおぼろげで、ほとんど情報が残されていなかった。《妖精》や《幽霊》のような種族だと言われているが定かでは無い。


 《森人族》。魔法技術においてどの種族よりも優れていると言われ、精霊との意思疎通を行う術を持つと言われている。他の種族と違い魔法形態がやや異なり《多重詠唱》と呼ばれる複数の魔法を同時に発動させる特殊能力を持つ。


 《地人族》。小柄な割に強い力と類稀なる武具作成の技術を有しているため、数ある伝承の中でも《地人族》が作った武具はよく登場する。《森人族》とは仲が悪くよく争いになる事が多いらしい。


 《人間族》。首都《ステラ》を中心に世界第4位の領土の広さを持つが全ての種族の中でも最弱とされ、魔力及びスキルの力は遥かに他種族に劣る。しかし、最弱であるが故に豊富な知識と狡猾な知恵により他種族を出し抜いてきた。


 《吸血族》。これも《精霊族》と同じで情報は少ない。数少ない情報の中で分かったのは《吸血族》とは人間によく似た姿をしていて、顕著な違いとしては八重歯が尖っていて背中に黒い翼が生えているらしい。《真祖》と呼ばれる《吸血族》が誕生する大元となった個体が存在しており、他種族に対して吸血行為を行う事で《紋》と呼ばれる術式を刻み自らの《眷属》、つまり新たなる《吸血族》を誕生させる力を持つ。《魔人族》をも凌駕しかねない強力過ぎる力を有する事から魔物のような扱いを受け、度々伝承などでは《魔人族》と同列視され悪の象徴として描かれる事が多い。


 《天翼族》。背に真っ白い翼を生やし、光の円環が頭上に輝く神々しい容姿をしているらしい。本来なら【聖】属性を宿している唯一の種族。伝承では神の使い、平和の象徴と称される事が多いが、その反面で神々の尖兵、正義の大量殺戮兵器と畏怖の対象とされる事もある。天界と呼ばれる楽園に住んでいるとされ、遥か太古の大戦時代、聖剣である【天翼の剣】を《人間族》に託したらしい。


 そしてスキルについてだが、どうやらスキルは使い続ける事で成長する事が分かった。現在では他人のパラメータを覗き見る程度の能力しかない【識】だが、更に詳しい情報を探る事が出来るようになるのか、それとももっと多くの機能が備わるのかは定かでは無いが、毎日スキルを使い続けておいて損は無いようだ。

「ふぅ……」

 本を読み終えると同時に情報の整理も終え、パタンと本を閉じて窓の外に視線を向けた。

「太陽が高い……もう昼か。そろそろ四郎達も休憩を取っている時間だな。まあ俺には関係ないが」

 そう、四郎達は毎日のように戦闘訓練を行っている。異世界人補正と元より備わっている才能のお陰で見る見る内に成長している。ちなみに異世界人補正の効果は人によって違っており、三月は敏捷のみに補正が掛かっているが、四郎は全てのパラメータに補正が掛かっている。更に[全能力補正]の補正効果を持つ【勇者】をセット称号にしているためこれからの成長を考えるだけで恐ろしい。[全能力補正]とはパラメータだけでなくスキルの威力などにも反映される上に、セット称号を変えても成長した分の能力は維持される。

 三月も【識者】をセット称号にしているが、これは【識】の能力の成長促進と能力の精度を上昇させ、[解析]などを素早く行う事が出来るようになるだけの称号だ。その他には[敏捷値小上昇]の補正しか付いていない。だが、格上の相手などに[解析]を行う場合は全ての情報を引き出すまでの時間が長くなる事が確認されている。だからこそ、精度の上昇は三月にとっては大変重宝される補正なのだ。

「毎日毎日厳しい訓練。あいつらは肉体を酷使さえすれば強くなれるとでも思ってんのかねぇ?」

 三月には訓練に参加する気は一切無い。自分には自分のやり方があるし、何より肉体を鍛える事だけが強くなる方法では無い。こうして本を読み漁り知識を取り込み、実践する事が強くなる近道だと三月は考えている。

 肉体が鍛えられたから力を得られるのではない。経験を積み、知識を生かして自らの持つ能力を最大限に活用してこそ力となるのだ。少なくともただ訓練を行えば強くなるという事は無いと三月は考えている……例外を除けば、だが。

 四郎はここ1週間でありえない程成長している。元々平穏な世界で生活していたとは思えないほど四郎は強くなった。握った事も無かった剣を巧みに振るい、騎士と真っ向から切り結ぶ事が出来る程だ。常識外れと言っても過言ではない。しかもこの1週間で遂に四郎は【聖剣】を手にした。

 かつて《ステラ》に降臨した《天翼族》によって授けられ、前代の勇者達が使用したと言い伝えられている伝説の剣。【天翼の剣】と呼ばれるその聖剣は勇者の能力を最大限にまで引き出す事が出来る、存在自体がチートの塊な四郎にはお似合いの武器だった。

 そんなチートな四郎を除けばここ1週間で成長した人間など片手で数えられる程度しかいない。その数人も四郎と同じく元々のパラメータが高かった者ばかりだ。パラメータが誰よりも低い三月には到底及ばない領域だ。

 しかし、その差を埋めるために三月はこうして書斎に籠って本を読み漁っているのだ。実力の差を埋めるには膨大な知識を身に付けるしかない。そして【識】を進化させるしかないのである。三月が唯一頼れるのはこの【識】だけなのだから。

 【識】の[解析]を有効に使えば戦闘でも十分に役立つはずなのだ。相手の攻撃すら解析してしまえば対策などいくらでも練る事は出来る。【識】さえ使いこなせば三月に敵は無い。

 そして再び読書を再開しようとしたその瞬間、三月の視界に何やら文字が映し出される。それは、【識】が新たな境地に突入した証だった。

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