002 スキルとパラメータ
自分のパラメータを見て微妙な顔をして首を傾げる三月。書いてある事の意味は何となくだが理解出来る。筋力は文字通り力の強さ、耐久はどれだけの攻撃に耐えられるのか、敏捷は行動の素早さ、魔力はこの世界の魔法とやらの威力に関係していて、魔抗は耐久の魔法版、つまり魔法攻撃に耐える力だ。属性と言うのも魔法に関係しているのだろう。アルファベットによってそれぞれのパラメータの高さが決まっているのだと予想出来るが三月の場合はやたらと[D]の表示が多い。これは高いのか低いのかいまいち分からない。
しかし三月の属性は【無】。無属性なのか、果たして魔法を使う事が出来ないから【無】なのかは不明だ。
称号。これは何か条件をクリアする事で手に入れる事が出来る二つ名みたいなものだろう。試しに【異世界人】をタッチしてみると[敏捷値小上昇]という表示が現れた。どうやら異世界人補正というものらしい。称号にはそれぞれ補正効果があり獲得する事でその効果がパラメータへと反映されるのだろう。そして【 】になっているこれは獲得している称号をセットする事により、その称号の持つ追加補正を反映させる事が出来る。【異世界人】の称号ならば[敏捷値小上昇]の他にもう1つ[敏捷値中上昇]と付くようだ。
そしてスキル。これが先ほどレイトムが女神から授かった力と言っていた物だろう。だが、三月の保有している【識】というスキルが一体どのようなスキルなのか検討もつかない。横に[解析][蒐集]と書かれているから何かを解析したり情報を集めたりする能力なのだろうと予想する。
そこまでは大体分かったが、どうにも基準が分からないため本当に異世界人として強力な力が宿っているのかいまいち分かり難い。
仕方なく自分と同じでパラメータを確認している四郎に訊いてみる事にした。
「おい四郎。お前のパラメータはどんな感じだった?」
「え? ああ、何というか、[A]と[B]が沢山並んでる」
「スキルや属性、称号なんかはどうなってる?」
「えーっと、スキルはよく分からないけど戦闘に関係しているんだと思う。属性には聖・雷・水・風って書いてあるな。称号は……【異世界人】と……【勇者】だ」
「何つうか……無茶苦茶だな。俺なんかパラメータほとんど[D]で属性なんか無属性だぞ? スキルも解析能力だし称号も【異世界人】と【識者】、それに【従者】だしな」
「ん〜、でも基準が分からないな。自分が強いのか弱いのかよく分からない」
お前は【勇者】なんだから強いに決まってんだろこのイケメンが、と内心で毒づきながら再びレイトムが説明を始めたので視線を戻す。
「皆様ぁ! 確認は終わりましたかぁ? パラメータは最上位のSSS〜最下位のFまで御座います! 異世界人の皆様にはそれ相応の能力が備わっているとお思いですが? どうしたかぁ!?」
それを聞いて三月は自分のパラメータが低いのだと実感する。魔力が最下位の[F]だという事は魔法など使えないに等しいのでは無いだろうか? その他の能力も敏捷以外は全て[D]。逃げ足にだけ特化している気がしなくも無い。
「ではではぁ〜、お次にスキルの説明をさせて頂きます! スキルは皆様に女神様より授けられた力! 皆様のパラメータに見合ったスキルが備わっているはずです! スキルの使用方法は皆様の直感で探ってくださいませ!」
そう言われて三月は【識】と言うよく分からない能力の発動を試みる。とりあえず解析能力なのだから目の辺りに意識を集中させ、周囲の情報を探ってみようと考える。すると頭の中で何かスイッチが入るような感覚があったかと思うと、三月の頭の中に突然あらゆる情報が流れ込んできた。
成るほどこれがスキルかと感心しながら、とりあえず四郎の方を見る。すると、
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《龍崎四郎:[16歳][男]》
種族:人間族
筋力:[A+]
耐久:[B−]
敏捷:[A−]
魔力:[A]
魔抗:[A−]
スキル:【英霊憑依】
属性:聖・雷・水・風
魔法:【聖魔法】 [シャイニング(攻撃)]
【雷魔法】 [サンダーボール(攻撃)]
【水魔法】 [ウォーターボール(攻撃)]
[アクアヒール(治癒)]
【風魔法】 [エアカッター(攻撃)]
[ヒールウィンド(治癒)]
称号:【 】[異世界人・勇者]
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何ともチートスペックな能力を有した四郎のパラメータを覗く事が出来た。どうやら【識】とは他人の能力すら知る事が出来るスキルらしい。
大した能力では無いと思っていた三月だったが、【識】の有用性を何となく悟り始める。情報とは最大の武器と成り得るのだ。その情報を一瞬の内に探る事が出来るこの【識】は思った以上に使えるスキルのようだ。ヘタをすればパラメータの差すら埋める事が出来るかもしれない。
周りのクラスメイト達が自分のパラメータの高さやスキルにきゃいきゃいとはしゃぐ中、三月はにんまりと笑みを浮かべてこの【識】をどう使って行こうかと考える。
その時、先ほどまで様子を見ていたシアティスが玉座より立ち上がって突然頭を下げた。
「私達の勝手な都合に巻き込んで本当に申し訳ありません! ですが我々人間を救い、皆様が元の世界へ帰るためにも力をお貸しください! お願いします!」
深々と頭を下げるシアティスを皆が呆気に取られたように見詰める。
王族が頭を下げるというのは非常に珍しい。王族とは絶対に誰かに下に見られてはいけない。威厳を失うからだ。威厳を失うという事は民の信頼すら失うという事。それを分かって尚、頭を下げるという事は、それだけ人間を救いたいという覚悟があるのだろう。
そんなシアティスの覚悟を見た者達は仕方ないかと笑み浮かべる。だが、今だにゲーム感覚の面白半分。戦う覚悟など出来ていない。それでもシアティスは力を借りたいと言う。
それを理解しているからこそ、三月はシアティスに力を貸そうとは思えなかった。生き死にの掛かった戦いに身を投じる覚悟が出来ていないクラスメイト。それでも人間を救って欲しいと言う女王。
美しい冒険譚の始まりのようであり、歪みに歪んだ思惑同士が交じり合っている。そんな空間に対し、三月は1人嫌悪感に顔を顰めた。
◆◇◆◇◆
ある程度の説明が終わり、三月達異世界人に各々の部屋が与えられた。突然の召喚で疲れたのかほとんどのクラスメイトが自分の部屋に入って眠ってしまった。
三月はと言うと、精神的にも肉体的にもあまり疲れていないためまだ起きていた。そして訊ねたい事があったため女王の部屋を訪れていた。
異世界人という事もあり三月が女王に訊ねたい事があると兵士に言うと、すんなりと通してくれた。
女王は部屋の中で椅子に座り、紅茶のカップをテーブルに置き三月に視線を向ける。
「貴方は……異世界人の方の1人ですよね? 私に何か御用でしょうか?」
「ちょいと訊ねたい事、それとお願いしたい事があったんで来た」
「ふむ、立ち話もなんですしとりあえず御掛け下さい」
そう促され三月は反対側の椅子に腰掛け女王と対面する。
「それで、私に訊きたい事とは?」
「この城には書斎はあるか? あるのならば使わせてもらいたい。俺のスキルに必要だ」
「書斎ならば確かにありますが、貴方は一体どのようなスキルをお持ちなのですか?」
「ちょっとした解析能力だ。その能力を生かすにはやはり知識が必要だと思ってな。情報収集でもしようと思ったんだ」
飽くまで自分のスキルが【識】であるとはバラさずそう答える。他人のパラメータや情報を覗き見る事が出来ると知られては【識】のアドバンテージが低下する恐れがある。この世界において他人のパラメータを知る事が出来るというのは大変なメリットだと三月は考えている。相手のパラメータを知っていればあらかじめ対策を練る事も出来る。
「ふむ……それならば許可しても良いでしょう。書斎は部屋の外の兵士にお訊ねください。私が案内したいのは山々なのですが、私にもやらなければならない事があるので」
やる事があるのに紅茶を飲んでる暇があるのか? と疑問に思った三月だったが、あえて口にする事は無く「分かった」と言って部屋を出て行った。
◆◇◆◇◆
女王の部屋を後にした三月は近くの兵士に書斎の場所を訊ね、すぐさま書斎へと向かった。そして現在は書斎の大量な本に囲まれながら情報収集を行っていた。
「ほう……[解析]を使えばページを開くだけで頭の中に情報が入ってくるな。しかも正しい注釈まで加えて。成るほど【識】は単なる解析能力ではなく、あらゆる知識を我が物にするスキルと言った所か」
自らの能力に感心しながらペラペラと本のページを捲る。妙に情報を集めやすいのは【識】の能力にある[蒐集]が関連しているのだろうか。
「ほぅ……これは興味深いな」
そう呟くと次々に棚から本を持ち出して読み漁って行く。その後、三月は夜が明けるまで書斎に籠っていた。