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識~叡智の賢者~  作者: ニコカメン
第Ⅱ章 聖なる闇の蠢き
19/54

018 教会の子供達

「ここが教会です。敷地はあまり広いとは言えませんが、寝泊りする分には不自由はしないと思います」

 ミスティがそう説明してくれた教会だが、別に狭くはない。むしろ教会の敷地にしては広い方だと思われる。

 まず建物は塀に囲まれており、聖堂と宿舎の2つに分かれている。宿舎の前には走り回れるくらいの広場もあり、小さな町の教会にしては設備は整っている。

 そんな感じで教会を観察していると、中から数人の子供が現れてミスティへと駆け寄ってきた。

「「「「「ミスティおかえり!」」」」」

「はい、ただいま。皆良い子にしていましたか?」

「「「「「うん!」」」」」

 その返事にミスティは満足したように微笑みを浮かべた。

 子供達の中には《獣人族》の子供も混じっており、猫耳やら犬耳やらがちらほらと見られる。

「この子達は?」

「実はこの教会は孤児院もやっておりまして、成人するまで私が面倒を見ているんです。ヤシロさんは子供はお好きですか?」

「好きでも嫌いでもないが、扱いに慣れてはいる。俺も孤児院の出身だからそれなりに子供と接する機会はあったんだ」

「まあ、そうだったんですか」

「ああ」

 昔は四郎や遥と一緒になって子供達の世話をしていた。あの2人は面倒見が良いし子供からの評判も良かったため、職員の人からよく面倒を任されていた。もちろん三月も面倒を見る事があったが、何故か必要以上に懐いてしまう子供もいたため、非常に面倒くさかったのを覚えている。

 子供達は「この人だぁれ?」と言いたげに三月を見つめていたので、ミスティが説明してくれた。

「この人はミツキ・ヤシロさんといって、冒険者をしている方です。でもどこの宿も満室だったため、我が教会にしばらく泊まる事になりました。皆さん、失礼の無いように気をつけなさい。分かりましたか?」

「「「「「は〜いっ」」」」」

「では、ヤシロさん。こちらへ」

 三月はコクリと頷きミスティの後を付いて行く。そして宿舎の中へと入るとさらに多くの子供達が2人を出迎えてくれた。

(全部で30人くらいか? ひとクラス分くらいの子供をミスティ1人で世話しているのか。凄いな)

「こちらがヤシロさんの部屋になります。鍵はお渡ししておきますね」

 ミスティから鍵を手渡され、改めて部屋の中を一望する。王都の自室はまさに客室と言った感じの小奇麗な部屋だったが、ここは空き部屋で使用していなかったのか少し埃が溜まっている。後で掃除しなくてはならない。

「汚い部屋で申し訳ありません。あまり使う事がないので掃除が行き届いてなくて。あ、ベッドだけはちゃんとシーツを取り替えてあるので安心してください」

「ベッドが使えれば十分だ。感謝する」

「ふふっ。どういたしまして」

 ミスティがクスリと笑みを浮かべたのを見て、三月も釣られたように微笑を浮かべる。そしてふと窓の外に視線を向けると、大勢の孤児達が各々広場に出て遊んでいた。

「なぁ、お前以外のシスターや司祭を見かけないんだが、孤児達の面倒はお前1人で見てるのか?」

「え? あぁ、はいそうです。以前は神父様がいたんですけど、聖都へ行ってしまって。それに神父様は他種族の子は、その……」

「成る程。人間至上主義、他種族排斥派だったのか」

 三月の言葉にミスティはコクリと首を縦に振って肯定する。

「私も神父様に拾われた孤児で、大人になったら自分と同じ境遇の子供達を助けたいってずっと思ってたんです。でも、神父様は人間の子供以外は認めてくださらず、それで私と対立してたんです。そんな矢先に聖都行きが決まってしまったのでそれっきりです。結局人間以外の子供も救われる権利はあるんだって、分かってもらえませんでした……」

「……そうか」

 ミスティの話を聞いた三月は彼女に対する認識を改める事にした。確かに聖女神教会の信徒である彼女を全面的に信用する事は出来ないが、ミスティはレイトムのような狂信的な考えに基づいて行動しているわけではない。三月と同じく、自らの信念に従って行動している。神を信仰しつつも神に囚われていない。その心意気だけは信頼に値するだろう。

「お前は、種族差別をしないんだな」

「はい。神父様は人間以外は生きていてはいけないのだと言っていましたが、私はそうは思いません。獣人も魔人も生きていて良いんです。私達人間は世界の支配者ではないんですから彼らを否定する事は間違っています」

「成る程、そういう考えの持ち主だったか。結構なお人好しだな。嫌いではないが」

「よく言われます」

「あんたになら見せても良いな。出て来い、ミム」

 三月はローブの懐を開いてそう呼び掛ける。すると中から空飛ぶ水饅頭ことミムが姿を現した。

 ミムの姿を目を留めた瞬間、ミスティは驚いたように目を見開き「まあ……」と口を開いて絶句している。

「プー?」

 ふよふよと浮かびながら、ミスティの顔を覗き込んだミムは、不思議に体を傾けた。

 我に返ったミスティはミムの体にちょんと指先で触れ、今度は感心したように声を漏らした。

「はぁ〜……驚きました。《精霊族》じゃないですか? これは珍しいですね。この子、一体どうしたんですか?」

「いきなり目の前に現れて、成り行きで契約した。凄いだろ?」

「凄いです。普通《精霊族》は、心の清らかな《森人族》以外とは滅多に契約を行わないんですよ。《人間族》が契約をしたなんて話は聞いた事がありません」

「ふぅん、そうなのか。ま、そんな事はどうでも良い。改めて、こいつ共々世話になる。よろしく」

「はい、こちらこそ」


    ◆◇◆◇◆


 翌日の朝、三月は宿舎前の広場の隅に佇む1本の木の幹に背を預け、宿舎の本棚に置いてあった1冊の本を読みながら昨晩の事を思い出していた。

(いや〜、まさか【スライムの肉】があそこまで美味いものだとは思ってもみなかったな。通常はジェル状の魔物であるスライムが時々残す食材。そこまで珍しいものではないはずだが、口の中で溶けて味が広がるのは興味深い。ちゃんと肉の味もしたし、依頼でスライムの討伐があったらやってみるのも良いかもしれん)

 肉の味を思い出して、思わず涎が垂れそうになるのを堪えると、本へと視線を戻す。

 【神聖術の手引き】という題の書かれたその本には、題名通り《神聖術》の事が載せられている。

 《神聖術》とは【聖魔法】の別名として広く知られているが、元は【聖魔法】と区別するために付けられた名前なので厳密には別物だ。細かいところを大雑把に説明するのなら《神聖術》は自らの《存在の力》より生み出される《神聖力》単体で起こす術の事であり、【聖魔法】は《神聖力》と《魔法力》を絶妙に混ぜ合わせる事で発生させる現象だ。通常反発しあう性質を持つ《神聖力》と《魔法力》を混ぜ合わせる事はできないのだが、聖属性は別だ。聖の属性を持つ《魔法力》は《神聖力》と反発を起こす事がないので、混ぜ合わせてより強力な現象を起こす事が可能となる。四郎が持つ【勝利導く白金の剣】も、その性質を利用する事で生み出されたスキルだ。

 ぶっちゃけて言うのなら、《神聖術》はあくまで人が編み出した術であり、【聖魔法】は2つの力を混ぜ合わせて発生する奇跡に等しい現象。なので、《神聖術》の使い手は100人に1人くらいの割合で存在するが、【聖魔法】は勇者などの《一際強い存在》しか扱えない。

(勇者が勇者たる所以の1つだな。まあ、有能な神聖術士は【聖魔法】に負けないくらいの奇跡を起こせるらしいがな。だからこそ情報が曖昧に広がっているんだろう)

 そう結論を出し、本をパタリと閉じると、ふとこちらを宿舎の陰から覗き込んでいる複数の視線を感じ、そちらを振り返った。するとそこには10人くらいの子供が、三月の事を興味深そうに見ていた。

「…………………………ふぅ」

 やれやれといった感じに肩を竦める三月の表情には、「どこの世界でも子供は好奇心旺盛か」という心情が浮かび上がっている。

(まあ、昨日は食事も部屋に持ってきてもらったし、ミスティ以外とは会話もしていないしな。素顔見せたのもミスティだけだし……)

 三月はもう一度子供達の方を一瞥すると、短い溜め息を吐いた後に被っていたフードを脱ぎ取った。

 一纏めに括られた手入れをしていないにもかかわらず濡れたように艶気のある黒髪が零れ落ち、どこか女性的で大和撫子を髣髴とさせる線の細い素顔がさらされる。

 突如として絶世の美女(のような男)が現れた事に子供達は「お? おぉ〜」と驚きを露わにして固まっている。

 そんな様子が面白かったのか、三月はクスリと微笑みを浮かべ、子供達を招き寄せるかのようにちょいちょいと指を動かし、「来い」と呼び掛けた。

 呼び出しを受けた子供達はきゃっきゃっと嬉しそうに走り寄ってくると、各々目を輝かせながら三月の周りに集合した。

「すっごい綺麗! 美人さんなんですね!」と鳶色の髪の狼のような獣耳を頭に生やした《獣人族》の少女が言った。

「ふふっ、そうだろうそうだろう。俺の美貌は宝石よりも価値があるからな」

 三月はうんうんと満足気に頷きながら、随分と偉そうにそう言う。

「てか、女だったのかよ!? てっきり男かと思ってたぜ」と灰色の髪の少年が言う。

「残念だったな、これでも一応男だ」

「えー? うっそだぁ?」

「じゃあ確認してみるか?」

 イマイチ信じていない少年にそう言って、三月はズボンに手を掛ける。

「い、いや! 脱がなくて良い! 脱がなくて良いって! 信じるよ! 信じるから脱ぐな!」

 灰色髪の少年は狼狽したように腕をブンブンと振りながら、必死で三月がズボンを下ろそうとするのを止める。

「そうか」

 そう言ってあっさりとズボンから手を放す三月。別に本気でズボンを下ろそうと考えていたわけではない。少年がうろたえる姿が面白かったのでちょっとからかってみただけだ。

 男女共に少し期待していたのか、ほんの少し残念そうな声が聞こえてきたが、面倒なのでそのまま話を進める。

「それで、俺に何か用か? 話があるなら聞いてやっても良いが、その前に自己紹介をしてくれると助かる」

「あ、そうだった。えと、あたしの名前はスイ。13歳です。教会ここにいる子供の中では1番年上です」

 先ほどの狼のような獣人の少女、スイはそう言ってペコと頭を下げた。確かに他の子供より身長が高いし雰囲気も大人びている。多分ミスティに代わって幼い子供の面倒を見たりしているのだろう。

 続けて自己紹介を始めたのは灰色髪の少年だ。

「オレはルシル。ルシル・ルージュだ。スイと同じで13歳だぜ」

 そう言ってニッと人懐っこい笑みを浮かべるルシル。

「それで、何の用だ?」

「ミツキって冒険者なんだろ? だったらオレに戦い方を教えてくれよ! オレ、将来は冒険者になりたいんだ!」

「こら、ルシル。もっとちゃんと頼まないとダメでしょ」

「何だよスイ。お前だってミツキがどんなスキルが使えるのか気になってんだろ? だったら見せてもらおうぜ!」

「そ、そうだけど……あの、お願いできますか?」

「俺のスキルを見たいのか? ……まあ、別に構わんが、派手なスキルは持ってないぞ?」

「でも剣を使えるんだろ? それなら技の1つでも持ってるだろ? お願いだ。見せてくれよ」

 頭を下げてそう頼み込むルシルを見て、三月はどうするか顎に手を当てて考えるが、子供になら見せても損にはならないだろうと思い、ルシルに言う。

「……分かったよ。薪にする丸太があったな? それを持って来い。試し斬りをする」

 その言葉を聞き、子供達はパァーっと顔を輝かせると、わぁーと宿舎の裏に置かれている丸太のところへと駆けて行き、しばらくして数本の丸太を運んできた。

 三月は1列に並べられていく丸太を一瞥すると、腰に佩いていた刀を手に取り、鞘から抜き放った。

 それを見ていたルシルは何かに気が付いたように「あれ?」と声を漏らす。

「なあ、ミツキ。その刀、欠けてっけど大丈夫なのか?」

「ん? あぁ……昨日のゴブリン討伐の時にでも刃毀れしたんだろ。やっぱり魔力コーティングをしていない安物は駄目だな。後で研ぎ直してコーティングしないと」

 そう言った三月は一度鞘の中に刀身を戻した。

(多分、刃毀れの理由はゴブリンを大量に狩ったからってだけじゃないだろう。俺の技量が、今の刀の強度では耐えられないくらいに成長しているんだ。近々俺の技術に耐えられる刀を探さないといけないな)

「ミツキ! 丸太の用意ができたぜ! 早速見せてくれよ!」

「ああ、分かった」

 用意された丸太の前に立った三月は後方から見ている子供達を振り返り、確認するようにこう訊ねた。

「地味だけど1番重要な基本的な技と、派手だけど扱いが難しい技。どっちが見たい?」

「「「「「どっちも!」」」」」

「じゃ、地味な方から」

 三月はそう言って柄に手を添えると、キッと目を鋭く細め刀を抜き放った。風が吹き抜けたようにしか感じられない、見えない斬撃は丸太の中心を何事も無かったかのように通り過ぎ、やがて縦一文字に裂け始めた。

 ゴトンと2つに割れた丸太を見た三月は、背後の子供達を振り返り「これで良いか?」と訊いた。

 子供達は一体何が起こったのか理解するのに時間が掛かっているのか数秒ほど硬直し、やがて氷が解けたかのように表情を綻ばせ顔を輝かせた。

「す、すっげぇ! 何だ今の! 全然見えなかった!」

「凄い! カッコイイですミツキさん!」

「い、今の何てスキルなんだ!?」

「【抜刀】のスキルにある最も基本的な剣技【居合】だ。鞘から刀身を抜き放った勢いのまま一撃で対象を斬り裂くか、相手の攻撃を弾き二の太刀を浴びせる剣技でもある。攻防自在だから1番応用が利く便利な技だ」

「すっげぇ! オレも使えるようになりてぇ!」

 誰よりも強く尊敬の眼差しを向けてくるルシルを見て、三月は微笑を浮かべながらこう告げた。

「興味があるなら暇な時に教えてやる。だが、泣き言を口にしたり途中で投げ出そうとした場合、問答無用で見捨てる。分かったか?」

「おう! 望むとこだぜ! ソッコーでマスターしてやる!」

 ルシルは自信満々に胸を張りながらニカッと悪戯っぽく笑みを浮かべた。

「もう、ルシルったら。嬉しいからって調子に乗っちゃ駄目だよ。それにあんな凄い技をすぐ使えるようになるわけないでしょ」

「いや、案外すぐに使えるようになるかもしれんぞ」

「えっ?」

 三月の呟きにスイはポカンとした表情を浮かべる。

 たった今興味本意でルシルのパラメータを[解析]したのだが、中々のものだった。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△


《ルシル・ルージュ:[13歳][男]》


種族:人間族


筋力:[B+]

耐久:[B+]

敏捷:[C]

魔力:[C]

魔抗:[C+]


スキル:【  】


属性:光・闇

魔法:【光魔法】 [フラッシュ(効果)]

   【闇魔法】 [ダークコート(隠密)]

         [ダークヒール(治癒)]


称号:【勇者に憧れる者】[勇者に憧れる者・奪われた者・スイの幼馴染・光と闇に魅入られし者・やんちゃ坊主・負けず嫌い]


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 敏捷以外の全てのパラメータが三月よりも上だ。筋力と耐久パラメータに関しては一般の成人男性よりも高い。しかも光と闇という相反する2つの属性を有している。無属性の保有者が1000万人に1人いるかいないかの割合で、相反する2つの属性の保有者が100万人に1人。無属性ほどではないにせよレアなケースである事には変わりない。はっきり言って今すぐにでも冒険者として活動を始めても良いくらいである。

(こりゃ、成長すればパラメータはまだまだ伸びるぞ。もしかすると四郎に並ぶ【勇者】になる可能性もある)

 【勇者】の称号とは、必ずしも《勇者召喚》で異世界から召喚された者の事を指すわけではない。勇気を以ってしてどんな困難をも跳ね除け、その身に秘められた圧倒的な力を振るい、自らの正義を為す者の事だ。その上で【勇者】の称号を授かり、【天翼の剣】に認められた者こそが真の勇者、【天翼の勇者】なのだ。

(まあ、四郎は【天翼の剣】を持ってはいるけど【天翼の勇者】にはなってないんだよな。まだまだ実力不足って事か。こいつも普通の【勇者】にならなれるかもしれないな。ホント、つくづく勇者って生き物は才能の塊で嫌になる)

 自分のパラメータがごく普通に生活していただけの子供に劣っている事に若干落ち込むが、改めてパラメータが全てではないと自分に言い聞かせて立ち直る。

「なぁなぁミツキ! そろそろ派手な方の技も見せてくれよ!」

 ルシルがそう言うと、他の子供達も目をキラキラさせて三月を見た。三月はやれやれと肩を竦めながら、丸太へと向き直った。

「次に見せるのは【燕返し】という技だ。一撃目はフェイントを掛けても良いし、わざと相手に防がせて隙を作っても良い。そして二撃目で真空波が発生するほどの速度で刀を振るう。ちなみに俺の場合は特別な歩法も組み合わせてアレンジを加えてあるから、普通に習得しようとしたら数年は掛かる」

 まあ俺は1ヶ月も掛からなかったが、とはあえて口にしなかった。時間さえ掛ければ誰でも使えるようになるのだから、わざわざ自慢するほどの事ではない。

 ヒュッ、と風を切るような音と共に、【縮地】で一瞬の内に丸太の目の前まで移動した三月は、一撃目を丸太に叩き込むと再び【縮地】で今度は丸太の後ろに回り込み、横一文字に刀を振るった。すると、刀身が空気の壁を突き破ったことにより真空波が発生し、対象の丸太の横にあった丸太も何本が斬り裂かれた。

 カチンと刀を鞘に戻した三月は子供達の方へと歩み寄り、「どうだ?」と訊ねた。

「す……すっげぇ! 何だ今の!? 何だ今の!?」

「斬ってない丸太も斬れてる……凄いっ」

「なぁなぁ! あの一瞬消えたのってのが特殊な歩法ってやつか?」

「そうだ。【縮地】と言って、瞬間的に自らを加速させ、一足で対象までの距離を詰める。相手の死角なんかに入り込む時に便利だな」

「すっげぇ! ミツキ! いや、ミツキ兄!」

 心底尊敬し切った瞳を三月に向け、ぴょんぴょんと跳ねながらはしゃぐルシル。

 三月は自慢げに鼻を鳴らすと、口の端を吊り上げて微笑する。目立つのはそこまで好きではないが、純粋な賞賛の声は心地良いらしい。

 ルシル以外の男子も三月の周りに集まってわいわいとはしゃいでいる。やはり派手な技というのは男なら誰しも憧れるものらしい。

 しかし一方で、女子は純粋に凄いと感じてはいるが男子ほどの感動はなかったようで、しんとしている。

 そんな女子の様子に気付いた三月は、スイに話しかける。

「やはり、女子には退屈だったか?」

「い、いえ。凄いですし憧れます。でも、男子ほど感動は……」

「そうか。んじゃ、女子にはちょっと面白いもんを見せてやろう」

「面白い、もの?」

「ミム、出て来い」

 トントンと人差し指で懐を軽く叩くと、中から水饅頭のような精霊、ミムが顔を出した。

 ミムはそのままふよふよと浮かび上がって三月の肩に乗ると、どこか眠たそうに欠伸をした。どうやら睡眠中だったらしい。

「こいつは俺の契約精霊のミムだ。戦闘時の補助、パラメータの強化なんかをやってくれる」

「プー」

「あ……可愛い」

 スイが頬を少し赤らめながら嬉しそうにそう言った。他の女子もミムに注目しており興味津々のようだ。

「ミム、女子と遊んでやれ。疲れたら戻って来い。魔力を補給してやる」

「プー!」

 ミムはそう嬉しそうに声を上げると、ピューと子供達の頭の上を通り過ぎて行った。それを追いかけるように女子も走り出す。

 女子がミムに触れたり、追いかけっこをして嬉しそうに笑っているのを確認した三月は、男子へと向き直る。

「さ、俺達も何かして遊ぶか? 何をやりたい?」

「チャンバラ! みんな! ミツキ兄に挑戦だぁ!」

『おぉー!』と男子は声を上げ、どこからともなく木の棒を手に三月の周りへ集まってきた。しかも建物の中にいた残りの男子も連れて。

 三月もルシルから木の棒を受け取ると、クククと咽喉の奥から搾り出すような笑いを漏らした。その顔はどこか猛禽類の動物を髣髴とさせる凶悪なもので、子供達を獲物として定めた目をしている。

「面白い。何人でも掛かって来な。手加減はしないぞ!」

「よっしゃー! やっちまえー!」

 ルシルの号令と共に三月へと飛び掛っていく男子達。

 今ここに、三月VSルシル率いる男子全員の戦いが勃発した。

 ちなみに結果は、宣言通り一切の手加減をしなかった三月の圧勝である。

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