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識~叡智の賢者~  作者: ニコカメン
第Ⅱ章 聖なる闇の蠢き
17/54

016 冒険者ギルド

 三月が旅に出発して3日目の事。いくつか気が付いた事があった。

 まず1つは、称号の欄に【従者】の替わりに【勇者を越えし者】という称号が出現していた。これは【勇者】である四郎を退けた事で獲得した称号なのではないかと予想される。【従者】である三月が、本来ならば【従者】以上の力を持っている【勇者】に打ち勝った証。

 四郎に打ち勝った瞬間、三月は【勇者】と【従者】というシステムから逸脱した存在となったのだろう。

「俺が自由になった証だな」

 そう呟き三月は口元を緩めて微笑を浮かべる。自らが自由を手にしたという実感がようやく湧き上がって来たのだ。

 そしてもう1つはミムと契約して魔力パラメータが増大した影響なのか、魔力を運用している【抜刀】スキルの威力が少し上昇した。以前よりも多くの魔力を断ち、より強力な一撃を繰り出せるようになった。並みの魔法程度ならば一瞬で蒸発させる事も可能だ。

 次にミムの【吸収】スキルに関してなのだが、どうやら魔法も吸収する事が可能であり、一瞬で自らの魔力に変換できるらしい。さらに吸収した魔力の性質と同じ性質の魔力をその身に宿す事ができるので、後々何かに使えるかもしれない。

 その他のミムが保有しているスキル、【憑依】に関しては後々試してみる事にした。以前、【英霊憑依】というかつての勇者の魂を自らに憑依させる事でパラメータを倍増させるスキルを四郎が使用していた。だが使用後は身動き一つ取る事もできない状態にまで消耗していた。もしそれと似たような効果があるのだとすれば、不用意に使用するのは禁物なのだ。

 そして最後に気付いた事なのだが、

「やっと町に到着だな」


    ◆◇◆◇◆


 三月が辿り着いたのは低級の魔物ならば退ける事ができる程度の外壁に囲まれた《トレイル》という名の町だった。その特徴としては立ち並ぶ建物は質素過ぎず、かと言って豪華過ぎず、言ってしまえば普通。交易が盛んとかそういう事もなく、治安も良くもなく悪くもない、いわゆる普通な事が特徴の町だった。

 だが、王都から旅立つ旅人にとっては《始まりの町》と呼ばれるほどに有名であり、ここに辿り着いてから本格的に旅の方針を決めたりする事が多いらしい。

 そして三月だが、王都を出る際には既に自らの身の振り方は決めていた。

「ここか」

 三月がやって来たのは全体が木造で造られていて、所々補修したような痕跡が残る建物だった。入り口に掛けられている看板には【トレイル冒険者ギルド】と書かれてある。

 そう、ここは剣と魔法の異世界ならあって当然とも言える施設《冒険者ギルド》なのだ。あらゆる場所や人物から送られてくる依頼を受け、遂行する事で報酬を貰い生計を立てている数々の《冒険者》がこの場に集まっている。そして、三月はここで《冒険者》となる事で、これからの旅の資金集めをするつもりなのだ。

 《冒険者》になるためにはギルドから《ギルドカード》、いわゆる《冒険者》のライセンスとなるカードを発行してもらう必要がある。

 早速《ギルドカード》を発行してもらおうと思い三月はギルドの扉を開けて中へと入って行った。

 突如ギルド内に入ってきた全身を黒衣で覆った謎の人物に、ギルド内にいた《冒険者》達の視線が集まる。現在三月はローブのフードで頭部を隠し、ミムも懐に隠れているので傍から見れば明らかに不審者、さらに悪く言えば暗殺者だった。

 三月は周囲の奇異なモノでも見るかのような視線を物ともせず、真っ直ぐにギルドの受付カウンターへと歩み寄る。

 カウンターに立っていた受付嬢は数秒ほどポカンとした表情を浮かべていたが、やがて思い出したように営業スマイルを浮かべて三月が話しかける前に口を開いた。

「いらっしゃいませ! 当ギルドをご利用するのは初めての方ですね? 今日はどのようなご用件で来られたのでしょうか?」

「《冒険者》になりたいんだが、《ギルドカード》はここで発行してもらえるのか?」

「はい! カードの発行には1000ビットが必要となります。もしお手持ちのビットが足りないようでしたら期間限定での借金もできますが如何なさいます?」

「いや、あるから大丈夫だ」

 そう言って三月は銀貨を一枚カウンターの上に置く。《ステラ王国》から【勇者】や【従者】として召喚された者には、ある程度の金銭を渡されている。ちなみにこのビットは人間族領内での通貨であり、決して情報量の単位などではない。

「はい、確かに1000ビット受け取りました。それでは《ギルドカード》を発行するに当たり、いくつかの説明をさせていただきます。まず《ギルドカード》を紛失した際には、再発行するために1000ビットが必要となるのでなるべく失くさないように心掛けてください。

 次に《冒険者》となる方はギルド専属の《冒険者》となるか、フリーの《冒険者》となるのかが選ぶ事ができます。ギルド専属の《冒険者》となった場合は一定以上の依頼達成によりギルドよりボーナスが出されます。ですが契約を破棄しない限り他のギルドで依頼を受ける事はできません。それが好ましくない場合はフリーの《冒険者》になるのがおすすめです。ボーナスは受けられませんが、ここ以外のギルドでも依頼を受ける事が可能です。どちらを希望しますか?」

「フリーで」

 三月がそう答えると受付嬢は手元の用紙にフリーと書き込んだ。

「はい、ではこちらがフリーの方のカードとなります。カードに一滴だけ血を垂らしてください。それでお客様の情報が浮かび上がり発行は完了となります」

 三月は真っ白なカードと共に渡された針を指先に刺して小さな傷を作り、滲み出てきた血を一滴だけカードに垂らした。

 すると血は瞬く間にカードに染み込むと、やがてカードを水色に染め始めた。色が染め上がったと同時に何やら文字のようなものがカードに浮かび上がってきた。


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 NAME:ミツキ・ヤシロ

 AGE:16

 SEX:男

 RACE:人間族

 RANK:F

 MONEY:9000

 QUEST:【  】 達成数【0】


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


(ほぅ……これが《ギルドカード》か。盛大に個人情報が書かれてるな……)

 貯蓄金額を書いて良いのかと首を傾げている三月の心中を察したのか、受付嬢は笑顔でこう説明してくれた。

「《ギルドカード》は依頼受諾の際などに提示していただきますが、【NAME】、【RANK】、【QUEST】以外の項目は任意で所有者以外の者に対する不可視設定が可能となっております」

「ふぅん。その理由は?」

「女性の中には年齢を知られたくないと言う方もおられますし、性別はその……見た目は男性でも心は女性の方は見られたくないと仰られるので」

「成る程。貯蓄金額はガラの悪い輩に襲われる危険もあるしな。でも、種族は大丈夫なのか?」

「はい。《冒険者》の中には人間と他種族との《混血》の方も時々いらっしゃいます。ですがそういう方は、他の《冒険者》の方々から避けられたりしてしまいますので、その防止のためですね。それに他種族の方は一目見れば大体見分けが付きますのでそこまで重要ではないのですよ」

「ふぅん。そうなのか」

 確かに《獣人族》や《魔人族》などは顕著な容姿をしている。獣の部位を持つ《獣人族》など一目見れば分かるだろう。

 とりあえず【MONEY】だけを不可視設定にしておけば良いだろうと考える。

「では最後に細かな説明を。《冒険者》にはF〜SSSまでのランクが存在しており、多くの依頼を達成する事でランクが上昇します。ですがただ数をこなせば良いというわけではなく、高いランクの依頼ほどランクは上昇します。あ、ですがFランクのお客様は2つ上のDランクまでの依頼しか受ける事ができませんのでご了承くださいませ。

 カードの色はランクが上がるごとに変化し、Fは【水色】、Eが【青色】、Dが【緑色】、Cが【黄色】、Bが【赤色】、Aが【紅色】、AAが【緋色】、AAAが【銀色】、Sが【金色】、SSが【白金色】、SSSが【黒色】となっております」

(SSで神々しい白金になるのに、SSSで黒になるのか。まあそこまで行くと一周回って禍々しいって事なのかね?)

 そう思いながら自分の《ギルドカード》を見る。色は水色なので最低のFランクという事だろう。

「最後にあまりにも問題行動が目立つような場合は、カードの停止及びギルドからの永久追放などもあり得ますので重々ご承知ください。

 では、改めまして……《冒険者ギルド》へようこそ! 依頼はそちらの掲示板に張られているものからお選びください。あっ、言いそびれていましたが、時々高額報酬の貰える緊急依頼などが張られる事もあるので小マメにチェックするようにしてください。後、緊急依頼で大きな成果を上げた《冒険者》の方には、直接依頼人から指名依頼が届く事もあるのでご承知ください」

 そこまで説明をして受付嬢はペコリと礼をした。

 早速依頼を受諾しようと、三月は掲示板を見て自分に向いている依頼がないかを探していく。


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 スモールゴブリン討伐 [E]

 指定討伐数【15】体以上

 町の近郊に位置する《オルハーブの森》に生息するスモールゴブリンの討伐依頼。

 報酬 30000ビット


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(ふむ、スモールゴブリンの討伐か。確かスモールゴブリンは元の地球で言う妖怪の餓鬼みたいな魔物だったか? スライムと同等でこの世界では最弱の小人のような人型の魔物。確か集団で行動する事が多い上に罠を張る程度の知能は持っているから迷惑で厄介。繁殖率は高いけどはっきり言って迷惑をかけるだけの雑魚。ゴキブリと一緒だな)

 依頼書を手に取ってどうするか迷う三月だったが、報酬もそれなりで魔物との戦闘はなるべく多く経験しておいた方が良いという結論に至りこの依頼を受諾する事にした。

 依頼書を持って先ほどの受付嬢の所へと行く。

「スモールゴブリン討伐の依頼の受諾ですね。ミツキ様のランクはFランクですが、よろしいでしょうか?」

「ああ、これで良い。戦闘には自信があるんでな」

「かしこまりました。では、《ギルドカード》をご提示くださいませ」

 《ギルドカード》を受付嬢は確認する。

「はい結構です。これで依頼は受諾は完了です。早速依頼遂行に向かってもらって構いません。あっ、言い忘れていました。もし依頼を破棄する場合は10000ビットの違約金が発生しますのでくれぐれも依頼の破棄は慎重にお考えください」

「あぁ、分かった」

 そう言って三月は受付嬢に背を向け、《ギルドカード》を確認する。


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 NAME:ミツキ・ヤシロ

 AGE:16

 SEX:男

 RACE:人間族

 RANK:F

 MONEY:9000

 QUEST:【スモールゴブリン討伐(0/15) [E]】 達成数【0】


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 成る程、確かに受諾されているなと確認を終え、カードを腰の小袋に入れてある《箱庭》の中に仕舞う。この《箱庭》は三月が独自に改良を加えたものであり、中には旅の道具など様々な物を入れてある。言うなれば《箱庭倉庫》である。

 さて早速依頼に出掛けようとギルドの出口へと向かったその瞬間、突如扉の前に立ち塞がる男がいた。

 怪訝そうな顔で自分の前に立ち塞がった男を三月は観察する。

 三月より頭一つ分ほど高い身長で頭部は禿頭。顔はお世辞にも美形とは言えず、口からはどうせロクでもない事で折れたであろう前歯が覗いている。革の鎧に身を包んで背には大剣を背負っているところを見るとどうやら《冒険者》らしい。

 そこまで観察して三月は何となくこの男が立ち塞がる理由が思いついた。どこの世界でも新人に対してはロクでもない事を仕掛けようとする奴が1人はいるという事である。

「よおよお兄ちゃん、そんな細っせぇ身なりで魔物を討伐できんのかぁ?」

「うるさいぞハゲ。邪魔だからとっととそこを退け」

 瞬間、ギルド内の空気が一瞬で凍りついた。ギルドホールの端にあるカフェで雑談をしていた者達は目を丸くし、カウンターの受付嬢は冷や汗を流して固まっている。

 冒険者の男は5秒ほど固まっていたが、やがて三月の言葉が癇に障ったのか、顔を茹でダコのように赤くして激情を露わにした。

「このガキ。俺様はBランクの冒険者だぜ? あまりこの俺様を怒らせない方が身のためだぜ」

「ふぅん。お前みたいな雑魚っぽい奴でもBランクになれるのか。冒険者って仕事は随分と楽なんだな」

「クソガキが! ぶっ殺されてぇか!?」

 そう叫ぶと、男は背の大剣へと手を伸ばした。だが三月は眉一つ動かす事なくその様子を見つめていた。

 そんな2人の険悪な雰囲気に流石に止めた方が良いと判断したのか、カウンターから制止の声が掛かる。しかし男は無視して大剣の柄を握り締めた。

「抜きたければご自由にどうぞ。俺は一向に構わんよ」

「じゃあ思い通りにしてやるよッ! 死ねええええええぇぇ!!」

 男は大剣を勢い良く抜き放つと、三月に向かって一直線に振り下ろした。三月はやれやれと溜め息を吐いて呆れると、腰の刀へと手を伸ばす。

 今更武器に手を伸ばしたところで既に遅い。男の大剣は振り下ろされている。故にこの場にいた誰もが無残にも三月が大剣の餌食となる光景を幻視しただろう。だが……


 ヒュゴゥッ!


 大検が振り下ろされた凄まじい風音が響き渡る。だが三月の姿は大剣が直撃するコンマ一秒の間に掻き消え、その凶刃を逃れていた。

「ど、どこに「ここだよ」っ!?」

 声が聴こえたのは男の真下。完全に懐に入り込んでいる。

 呆然とする男の首筋に、目にも留まらぬ早業で抜き放った刀身を突きつけ、笑みを浮かべる三月。

「さ、どうする?」

「お、おおお、おおおおおお女だとぉ……?」

「む?」

 どうやら先ほど大剣が振り下ろされた時の衝撃で、フードが脱げてしまったらしい。

 露わになった女性顔負けの美貌に誰もが息を呑み、思わず見惚れていた。

 三月は面倒くさそうに鼻を鳴らすと、刀を鞘に収め、そして言った。

「一応、男だよ。これに懲りたらもう俺に関わるなよ」

 そう言い残し、男の横を通り過ぎて扉を潜る。取り残された一同は、数秒ほど呆然とした表情を浮かべていたが、やがて正気に戻ったのか各々叫び声を上げていた。

 その日、彼彼女らの頭の中には新人のFランクがBランクを一瞬で制圧した事以上に、三月の美貌が焼き付いていたという。

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