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識~叡智の賢者~  作者: ニコカメン
第Ⅱ章 聖なる闇の蠢き
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015 精霊との出会い

第Ⅱ章開幕!

 《フリード広原》の末端に位置する森。その一番外に生えている木にもたれ掛かるように気を失っている1人の人間がいた。

 全身を黒衣で包み込み、指は女性のように細く、整い過ぎていると言っても良い精巧な顔立ちは絶世の美女にも匹敵する美貌を備えている。

 そんな絶世の美男子、夜白三月は前日の《契約ゲーム》による連戦、さらには親友であり人知を超える力を持つ勇者、龍崎四郎との戦いで体力を使い果たし、この森へと辿り着いて意識を失った。

 無防備に寝息を立てる三月。そこへ何者かの気配が近付いてきていた。


 ――プー、プー。


 風船から空気が抜けるようなマヌケな音が聴こえ、三月は鬱陶しそうに身動ぎする。


 ――プーッ、プーッ、プーッ!


「ん……ぅ」

 さらに大きくなるその音に、一体何事かと思いながらゆっくりと目を開く。そして三月が目の当たりにしたものは、

「……ん、水饅頭みずまんじゅう?」

 元の世界で言う水饅頭のような拳大の透明な物体が、三月の目の前にぷかぷかと浮いていた。しかもその水饅頭には目と口のような物が付いており、三月と目が合った途端に「プー」と声を発した。

 先ほどから三月の耳に届いていた謎の音はこの水饅頭が発していた声だったのだろう。

 半透明で内側がほんのりとピンク色になっている謎の水饅頭。よく見ると某有名RPGに出てくるスライムのようにも見える。

 三月は何でこんなものが目の前に浮いているのだろうと不思議に思い首を傾げた。

「何だ、お前?」

「プー?」

 三月がそう訊ねると、謎の水饅頭はよく分からないと言いたげに体を傾けた。

 しばらくの間ボーッとその水饅頭を見つめていた三月だったが、やがて寝起きの頭が覚めてきたのか、ありとあらゆる知識を我が物とするスキル、【識】を発動して水饅頭を解析した。そして、解析の結果を見た三月はギョッとしたように目を見開いて驚きを露わにする。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△


《    :[0歳][?]》 


種族:精霊族


筋力:[F]

耐久:[F]

敏捷:[B]

魔力:[AA]

魔抗:[A+]


スキル:【吸収】

    【憑依】


属性:無

魔法:【無魔法】[ブラスト(攻撃)]

        [ニードル(攻撃)]


称号:【無の精霊】[無の精霊・水饅頭]



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


(せ、《精霊族》……だと?)

 三月は心の中でそう呟きつつ、再確認するようにもう一度水饅頭のパラメータを見た。

 《精霊族》とは伝承の中などでは語られる事が多いが、情報が限りなく少なく、その身に秘めた魔力は《魔人族》にも匹敵すると信じられている。小さな人型に虫のような羽の生えた《妖精》や、姿がおぼろげな《幽霊》のような姿をしていると伝えられているのだが、

(この水饅頭がねぇ……?)

 三月はどこか胡散臭そうに目の前の水饅頭に視線を向ける。しかし水饅頭は「プープー」とどこか嬉しそうにに三月の頭の上をクルクルと飛び回り始めた。

(しかし、何故こんな所に《精霊族》が? 滅多に姿を見せる事は無いんじゃなかったのか?)

 何故こんな所に精霊がいるのかと思考を巡らせるが答えは一向に出て来ない。仕方なく直接この精霊に訊ねてみる事にした。

「おい、お前は本当に精霊なのか? 精霊なら何故こんな所にいる?」

「プー?」

 水饅頭はよく分からないと言った感じに体を傾ける。

「分から……ないのか? ……理解出来ないのか? いや違う。年齢は0歳で名前は空白になってたな……つまり生まれたばかりで何も知らない、って事なのか?」

 んー、と首を傾げつつ考え込む三月だったが、今はこの精霊が何者なのかはどうだって良い事だ何故この精霊が自分の前に現れたのか。それが重要なのだ。

(称号は【無の精霊】。つまりは無属性の魔力を持つ《精霊族》。そして俺の魔力属性も無属性。精霊は魔法と強く密接した関係だと本にも書いてあったな。じゃあ、俺の魔力に引き寄せられたって事か?)

 そこまで考えて三月は再び水饅頭を見る。そしてもしかすると自分の魔力に反応を示すかもしれないと考え、体内の魔力を指先から僅かに放出して、水饅頭へと向ける。すると、どこか嬉しげに声を上げると、パクと三月の指を口でくわえてしまった。

 すると水饅頭の口からチューチューと何かを吸い取っているような音が聴こえてくる。

「お? おぉ、吸われてるな。そういやスキルに【吸収】って持ってたな。へぇ、魔力を吸収して自分のモノにできるのか。便利なスキルだな」

 しばらくチューチューと指をくわえて魔力を吸収していると、どうやら指先に集めた魔力が無くなったのか、やがて水饅頭は指先から口を離した。

「やっぱり、俺の魔力に釣られて来たみたいだな。まあ、無属性なんて珍しい属性だし、精霊も変わり者が多いんだろ」

 そんな事を思っていると、水饅頭は三月の事が気に入ったのか、胸に飛び込んで擦り寄るように顔を押し付けてきた。

 近所の小犬がこんな感じで擦り寄ってきてたな、などと元の世界での事を思い出しつつ、薄っすらと笑みを浮かべて水饅頭の頭(?)を撫でてやる。

「お、そうだっ。折角だし名前を付けてみるか」

 そんな事を思いついた三月は早速この水饅頭の名前を考え始める。

「率直に水饅頭……いや、水っぽくて、【無の精霊】だから……ミム(水無)なんて良いんじゃないか?」

「プ? ププー!」

 どうやら気に入ったらしく、水饅頭改めミムは三月の周りをクルクルと喜びを表すかのように回り始めた。

 するとその瞬間、突如としてミムが内側から輝き始めた。

「はっ? 突然何だ?」

 しばらくキラキラと銀色の輝きを発したミムから何やら糸のような物が伸び始め、三月の右手の小指に巻きついた。そして数秒ほど経過するとその糸は徐々に透明になって消滅し、ミムの輝きも治まった。

 何が起こったのかと首を傾げる三月は何か呪いの類でも掛けられたのではないかと警戒しつつ、自らのパラメータを確認する。すると、そこに書かれていた事実に思わず驚愕する。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△


《夜白三月:[16歳][男]》 


種族:人間族


筋力:[D+]

耐久:[D]

敏捷:[B+]

魔力:[E+]

魔抗:[C−]


スキル:【識】[解析・蒐集・目録・再現・表示]

    【瞬】[縮地]


目録:【抜刀】[居合・魔斬り・燕返し・弧月斬・山茶花・月桂樹]

   【魔力収束】[放出・圧縮・固定]


属性:無

魔法:【  】


称号:【識者】[異世界人・識者・勇者を越えし者・蒐集者・抜刀士・電光石火・箱庭使い・魔断剣士・知識を刻む者・決意する者・精霊の契約者・精霊使い]


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


「魔力と魔抗のパラメータが、増えてる……」

 以前確認した時は確かに魔力が[F]で魔抗が[D]だったはずだ。しかし、明らかにそれよりも増えている。何が起こったのか混乱する三月だったが、称号を見てある可能性に気が付いた。

「【精霊の契約者】、【精霊使い】……もしかして、契約してパラメータが底上げされたのか?」

 夜白三月。旅に出て、意図せず即行で精霊と契約を交わす。


    ◆◇◆◇◆


「何という超展開……」

 意図せず契約を交わしてしまった精霊ミムを頭の上に乗せながら森の中を進む三月は、思わずそう呟いた。

 この異世界《エタニティ》において超稀少種族と言われている《精霊族》。《森人族》以外の種族の前にはほとんど姿を現さないと言われているその《精霊族》の1体と旅に出て早々に契約してしまうなど、超展開以外の何物でもない。

「多分、契約者が魔力を精霊に吸収させ、同意を得る事が契約の条件なんだろうな。さらに俺は名前まで付けてしまったわけだから、相当懐かれているんだろう」

 ただ、三月自身意図せず契約してしまった事は後悔していない。パラメータは底上げされたし、何よりこの世界で精霊と契約しているというのは物凄いメリットがある。通常、魔導師はそれぞれの属性を司る精霊が発した力の一端を魔力によって発現させている。だが【精霊使い】は精霊の力を直接借りる事ができるため、通常の魔法よりもを遥かに強力な魔法を放つ事ができるのだ。まあ、それなりの対価は必要なのだが。

「でもこいつは対価も何も要求してこなかったな。魔力さえ与えていれば良いのか?」

 適当に【魔力収束】で集めた魔力を与えながら三月はそう呟いた。

「ふむ、どうやら俺の魔力を直接与えなくても良いみたいだな。【魔力収束】は一時的に周囲の魔素を体に取り込んで自分の魔力と同じ性質を持った魔力に変換するスキル。魔素を直接吸収できないが、魔力に変換さえすれば吸収できるのか。理解した」

 そう1人で納得しながらミムを撫でてやる。すると嬉しそうにプルプルと体を震わせた。

「ふっ、中々可愛い奴だな。気に入った。これからよろしく頼んだぞ。ミム」

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