001 異世界召喚は突発的に
皆さんお久しぶりです。今回の物語はちょっとしたゲーム的な要素の混じった異世界系ファンタジーです。
現状分析。夜白三月は目の前で起こっている出来事を冷静に分析していた。そこには見知らぬ者達が多数存在している。
白いローブのような物に身を包み頭には背の高い帽子を被った男が複数。それらと似たようなローブに金刺繍が施され、円盤のような物が吊り下げられた錫杖を持った不健康に痩せた神官風の男が1人。そして日本ではまずお目に掛かれない、お目に掛かれても秋葉のコスプレでしか見る事の出来ない白いドレスに身を包んだ女性が1人。
そして三月は視線だけを動かして現在自分が居る場所を確認する。
白磁のような石灰のような真っ白な柱に囲まれ、天井には何やら壁画のような物が描かれている。そして床には淡い光を放っている幾何学模様、所謂魔法陣と言う奴がある。
まるでRPGの神殿みたいだなと思いつつ、この中でも唯一見覚えのある学生服に身を包んだクラスメイト&女教師に視線を向ける。
何人かポツポツと三月と同じように目を覚まし始め、現状を把握出来ずに目を白黒させている。
見知らぬ場所、見知らぬ者達、そして不思議な光を放つ魔法陣。現況から推測出来る答えはただ1つ。
大よその状況は予想出来る。そしてその予想は白いドレスを着た女性の次の言葉で確信へと変わった。
「よ、ようこそいらして下さいました勇者様」
ああ、ここは異世界なのだな、と。
成るほど確かに覚えはある。先ほどまでは確かに自分達は学校の教室でいつも通り生活をしていた。が、いつも通りの日常にいつもとは違う出来事が起きた。教室全体が突如謎の光に包まれ、謎の浮遊感と共に意識を失ったのだ。あれが異世界に召喚される前兆だったのだとしたら今のこの状況も頷けるというものだ。
周りのローブの男達が「やった!」「成功だ!」「これで我々は救われる!」などと身勝手にこちらの状況などお構いなしにはしゃいでいる。正直その態度には嫌悪感しか抱く事が出来ない三月だったが、こんな有象無象の輩に興味を持つ事自体が無駄と言うものだ。
三月はその場で胡坐を掻きながら目の前の女性と神官風の男に説明を求めるように視線を向けた。
女性は角度によっては幼さが垣間見える愛くるしい表情を緊張に強張らせているが、その美貌は衰える事は無く、腰に掛かるまでに伸びた金色の髪は金糸を思わせる。文字通り次元も世界も違う美女である事は一目で分かる。
そして神官風の男だが、こちらは女性とは裏腹にこちらの機嫌などお構い無しにニコニコと笑みを浮かべている。三月は何故かその笑みに生理的な嫌悪感を覚えた。こいつはこの場に居る全員の中でも何か逸脱した存在だ。はっきり言って浮いている。
しばらくしてクラスメイト全員が目を覚ますと、その中の1人が口を開いた。
「あの……勇者とは、何ですか? それにここは……」
名を龍崎四郎と言い、少しツンとした生来の明るい茶髪に優しげな顔つきを持った所謂イケメンだ。背も高く頼り甲斐もありスポーツも万能なクラスで彼氏にしたい男子ナンバー1である。そして付け加えるならば三月が唯一心を許せる親友であり、幼馴染でもある。
四郎に話しかけられた女性は無駄にキリッと表情を引き締める。
「申し訳ありません。それについては後ほど私が説明させて頂きます。このような場所で説明するのも何ですので城へ参りましょう。どうか私についてきて頂けませんか?」
「え? あ、はぁ……」
四郎は戸惑うように視線を逡巡させ、やがて三月の方を見て視線で「どうする?」と訴える。三月は「別に良いんじゃね?」と肩を軽く竦めて応じた。
「分かりました。説明して頂けるのであれば是非もないです」
そしてクラスメイト全員に視線を配り、全員が了承するように頷いた。この混乱した状況を早く整理したいのだろう。文句を言う者は居らず、三月達は女性の先導の下、城へと歩き出した。
◆◇◆◇◆
城までの道中、三月は周りを観察する事を忘れなかった。自分達が召喚された神殿、建物の造り、自分達を守るように歩く兵士らしき人物、道行く者達の髪の色や瞳の色。その全てがやはりここは日本ではなく異世界なのだという事を実感させる。
城へと到着した三月達が連れて来られたのは所謂《玉座の間》と呼ばれる場所だった。
豪奢で広い部屋に見惚れるクラスメイト達を尻目に女性はスタスタと玉座へと歩み寄り、そして座った。それを見た瞬間、三月はこの女性が女王なのだろうと悟った。
「大変長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。私はこのステラ王国を統治する女王、シアティス・ルィ・ステラと申します。以後、お見知りおきを」
この国は女王政なのかと多少驚く三月。
「皆様をこの世界《エタニティ》へ召喚したのは他でもありません。我々人間を救って頂きたいのです」
何ともテンプレな展開だなと若干ズレた感想を抱きながらも三月はシアティスの説明に耳を傾ける。
「現在我が国は《魔人族》との緊張状態にあります。強大な魔力に圧倒的な戦闘能力を秘めた《魔人族》。ですが我々人間、具体的には《人間族》は他種族に比べて非力。このままではいずれ《魔人族》にこの国は滅ぼされてしまいます。そこで我々人間は力を貸していただくべく、強力な力を持つ人間を召喚する儀式、《勇者召喚》を行ったのです。それにより呼び出されたのがあなた方なのです」
ますますテンプレっぽい展開に感心すら抱く三月。しかしシアティスは至って真面目だ。流石に笑うのは失礼だと思い自重する。
シアティスの話を聞いた四郎はどこか納得したようであり、困ったような表情を浮かべ、シアティスに訊ねた。
「成るほど、確かに話の内容は理解出来ました。ですが、俺達は元の世界では何の力も無いただの学生だった。それなのに突然異世界に呼び出されて人間を救って欲しいと言われても、正直どうしようもありません。それに俺達にだって帰る場所がある。家族を向こうの世界に残してきている。出来れば元の世界に帰してもらいたい。出来ますか?」
四郎の言葉を聞き、シアティスは困ったような表情を浮かべ、いつの間にか隣に控えていた神官風の男に視線を向けた。
神官風な男は1歩前に出ると大仰に一礼をして話し始めた。
「どーうも勇者様方! ワタシはレイトム! 聖女神教会教皇の座に就かせて頂いております! 以後お見知りおきをぉ!
それで先ほどの質問で御座いますがぁ〜……結論としては皆様は元の世界へは現状では戻る事は出来ません! 元の世界に戻るには、皆様に女神様より与えられた《人間族》を救うという使命! それを全うしなければ元の世界の家族に会う事は叶わないでしょう!」
レイトムの言葉を聞き、クラスメイトの中で「ふざけるな!」や「無責任だ!」などの罵声が飛び交い始める。
そして三月も例外ではなく不機嫌になっていた。この男の言葉には信用出来る部分は全くと言って良いほどない。それ以前に女神とやらを信仰している事が妙に腹立たしかった。自分達はその女神とやらの所為で現在このような状況になっているのに、目の前のレイトムには全くと言って良いほど悪びれた様子が無いからだ。
「家族が心配でしょうねぇ〜? ええ心配でしょうとも! 家族の方々も皆さんの安否が気になって気になってぇ〜、仕方ないでしょう! でぇ〜すが! ご安心ください! この世界に召喚されたと同時に女神様のお力により、元の世界での皆様の存在は一時的に消去されるのです! なので家族の方々の心配をされる必要は御座いません! ああ、女神様がこのような配慮をしてくださるとは、皆様はなんて幸運でのでしょう!」
それは果たして幸運なのだろうか? 家族から自分達の存在が消えるという事は、こちらで自分達が死んだとしても家族は自分達の存在すら覚えていてくれないのだ。はっきり言ってこの世界で死んだ場合、家族の中から永遠に存在が抹消された事になるのと同じである。それにこの男の言葉には一切の信憑性が無い。女神を口実に適当に誤魔化しているだけである。
このレイトムと言う男は女神とやらが絶対であり全ての中心であると考えているように見える。正直信用が置ける相手ではない。
しかし、今だ混乱しているためか、それとも異世界召喚と言う非現実的な出来事に気分がハイになっているかは定かでは無いが、レイトムの言葉を信じてそれなら安心だと思い始めた者達が現れ始める。
確かにシアティスの話では魔力があるみたいな事を言っていた。つまりそれは魔法が存在している可能性があるという事だ。それについては三月も心が躍らないとは言えない。
しかし、自分達は単なる高校生に過ぎない。異世界で生き抜く事など出来るのだろうか?
「皆様この世界で生き抜く力が自分達には無いとお思いですか? そんな事はありません! 皆様はこの世界に召喚されると同時に女神様より強力な力、【スキル】を授かっているのです! さぁ! 心の中で【パラメータ表示】と念じなさい!」
まるでゲームみたいだなと思いながら仕方なく心の中で【パラメータ表示】と念じる三月。すると目の前に自分のパラメータと思われる表示板が現れた。
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《夜白三月:[16歳][男]》
種族:人間族
筋力:[D]
耐久:[D]
敏捷:[B−]
魔力:[F]
魔抗:[D]
スキル:【識】[解析・蒐集]
属性:無
魔法:【 】
称号:【 】[異世界人・識者・従者]
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