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神話物語 金のオリーブと銀の蜜  作者: 寵嬢 優樺
情熱の幻想曲(ファンタジア)
9/23

[love story2] 森のセレナ-デ~記憶喪失

 「お帰りなさい、レイス。」

森の守護神エレイザべートは柔らかに微笑んだ。俺にとって母の微笑みは不思議と安堵をもたらすもの。いつも此処(ここ)に帰る度にそれを見て、帰ってきたと実感するのだった。

「妹が花嫁に毒を盛った。レナ=タラッサは此処に帰る時でない。……解毒を頼みたい。毒は俺がもらう。」

彼女も、俺も運が悪い。一番解毒が難しい毒、神殺しの毒薬(ベルスティアス)を盛られてしまったのだから。何とか普通に話せるのは森の力であろう。

「あの()が…また悪戯(いたずら)を?この前、あなたの花嫁の妹に手を出したばかりなのに。」

「手を出したって?あの完璧な姫(テタルゥラ)に?」

「宝石と殿方を虜にして離さない香水を交換して、舞踏会に乗り込んだとか…。」

「…………!」

恐ろしい利害の一致。そんな事が頭の中に浮かぶ。だが、策略家の二人なら十分あり得ることだ。

「レイス、重い代償を払ってまで彼女を救いたいかしら?」

「彼女と同じ時に死にたいんだ。」

俺は、レナを毒殺されたくない。彼女が救うことが出来るなら、不死身の体を捨てようと思った。

「もう此処に帰れなくなっても?」

「そうだ。」

本当は良くなんかない。レナに格好をつけたくて…精一杯の強がりだ。

「…嘘はだめよ。覚悟がないのに」

母はやはり、全てお見通しだった。

「痛みには……慣れている。でも、愛する人の命が消える痛みは、毒の痛みより………。」

「そうね。私たち(エレイザベート)神族は命が消えていく……ただそれだけで気が狂いそうになる。」

俺の中には葛藤がある。高い代償を払ってレナの命を救うか、このままレナを見捨てるか。後者は、よろしくない判断だと思う。

「……決めなさい。貴方が彼女に仕えると決めた証は嘘?」

(違う。嘘なんかじゃない。)

「貴方が彼女に囁いた愛は嘘?」

(これも嘘じゃない。)

「彼女を救いたいと思ったのは嘘かしら?」

「……すべて誠のこと。代償は払う。だから、レナを、頼む。」

代償……それは一番大切な記憶。愛する者との記憶を差し出すこと。

「麗しいタラッサの娘レナは、麗しいエレイザベートの息子シルヴィオスを忘れ、人間の男と結ばれる。」

母がシナリオを紡ぎ始める。

「シルヴィオスは最愛の妻レナを忘れ、荒野をさまよった後に結ばれる。」

俺もシナリオを作った。レナと離れたくなかったから。

『レナ=タラッサとシルヴィオス=エレイザベートはこれによって救われる!』

こうして、意識が、記憶が、豊穣の森が、遠くなって行く。その刹那、

「……お前を見つけてみせるよ、必ず」

俺はレナに囁く。きっとまた彼女に会えると信じて。

さようなら、母さん。さようなら……豊穣の森。さようなら、さようなら、永遠にさようなら。

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