第3章 金の幻想曲(ファンタジア)
今回は少し変わっている恋物語です。(もはや、恋物語でなくなったという感じです。)
「こんなところにいたのか、お前。」
綺麗な栗色の髪、整った顔立ち…わたくしの召使として、使えているレイスがそこにいた。
「えぇ、踊りは苦手で……」
わたくしは、妹のように洗練された動作をすることが出来ないうえに、ステップを踏み間違えて相手の足を踏んでしまう。好きで壁の花になっている訳ではない。…憂鬱だ。
「お前が本当に舞踏の才が無いか俺が確かめる。」
「えっ!?」
頭の中が真っ白になって、憂鬱な気分なんて忘れてしまった。気がついたときには彼の腕の中。引き寄せられたんだということを理解するまでには少々、時間がかかった。
「お前、踊れるんだな。俺が見込んだだけある。」
気付いたときには踊れていた。あんなに苦手で、上手に踊ることはこの夜空に瞬く手を伸ばしても届かない星のようだと思っていたのに。
「お前は…俺の名を知りたいか?」
踊りが終わると彼は唐突に言った。
「名を…ですか?」
『レイス』というのは愛称で、本当の名ではない。実を言うと、わたくしの名も同じく本当の名では無い。
「好きだ…俺はお前のことが好きだ。月を傍で見ていたい。」
名を教え合うことは神族にとって口付けと同じ、婚姻の証だ。わたくしは求婚を受けることにした。
「呪樹の誓いから逃れられなくなっても、わたくし、レナを愛して下さいますか?」
「誓う、お前を永遠に愛すると誓う。…お前は人間界での務めを終えたら俺、シルヴィオスと永遠に神界で暮らすことを誓うか?」
彼の森神族特有の瞳がわたくしを見つめる。
「誓います。」
踊れるようになった上に、好きな人と添い遂げることが出来るとは幸せ過ぎではないだろうか?
……あぁ、徐々に綺麗な星空が霞んできたわ。
「お、おい。泣くなよ。」
頬に雫が静かに流れて止まらない。
「シルヴィオス、ありがとう。わたくし…嬉しいっ!」
「嬉しいときにも泣くものなのか?お前の涙に弱いからその……正直にいうと…困惑している。」
妖精は泣く習慣が無いことを思い出した。
「これは『嬉し泣き』って言うのです。」
「『嬉し泣き』というものか…初めて見た。…それに、初耳だ。」
彼は『お前の泣き顔も可愛いが、もっと笑っていたほうが良い』と意識を伝えてきた。
ーそして、彼の顔が近づいてきて唇に触れるか触れないかのところで止まる。わたくしの心臓は早鐘を打っていた。(焦らさないで……。でないと、わたくしはきっと、もっと泣いてしまうわ。)
「レナ、愛してる。」
囁く声が心地良い。嬉しくて、嬉しくて、もう、どうしようもない。
彼はついに、焦らすのを止めて、わたくしが求めた優しい口付けをしてくれた。初めての口付けは甘いような、辛いような、そんな味がした。
ーわたくしは彼の腕の中で眠りに落ちた。満天の星空には沢山の流れ星が流れていた。…本当に、本当に、幸せ…。